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第六章〜自分だけの道を〜
8.賢神議会 後編
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「賢神議会を始めようか。」
師匠のその言葉によって、何となしに議会が始まった。
俺を含めてたった六人であり、職員などもいる様子はない。人数にしてはこの円卓も部屋も広すぎるように感じるが、面子のせいか違和感はない。
「グラデリメロスにヴィリデニアも、アルスに質問してもいいぜ。なんせ悠久の魔女オーディンの子孫にして、天覇ラウロの息子であるアルス・ウァクラートだ。聞きたいことがあるはずだろう?」
俺の血族は何故か異様に二つ名が格好いい気がする。
学園長……オーディンは二つ名の由来が分からないわけではないが、天覇というのはどういうことなのだろう。親父がどんな魔法を使っていたのか、検討すらつかない。
というか俺もそんな感じの二つ名が一つぐらい欲しい。こういうのは男の浪漫だ。きっと親父もノリノリで二つ名を名乗っていたに違いない。
「元々、儂がクランマスターに聞いてこいと言われたことは三つだ。それだけ最初に聞かせてもらうぞ。」
「答えられる事なら何でも。」
オリュンポスのクランマスターが俺に聞くことだ。相当大事な要件なのだろう。
俺は気を引き締めて、ハデスの言葉を待つ。もし下手な事を言えば、印象が悪くなる可能性もある。できるだけ敵は作りたくない。
「一つ目の質問は目的だ。お前は賢神になって、何がしたい。」
「世界を旅したい。それで、世界中の困っている人を助けるのが俺の目的、というか夢だな。」
「はァ、御大層な夢を持ッてんだなあ。見習えよ第一席。」
「失敬な。僕の方がもっと強欲で壮大で、素晴らしい夢だとも。」
「だから言ッてんだよ。」
外野が煩いが、ハデスが気にする様子はない。多分、いつもここは煩いものなのだろう。
「なら、二つ目の質問だ。名も無き組織について、知っていることはあるか?」
「……それを何故俺に聞く。」
「三度も幹部と遭遇したと聞いた。我々オリュンポスにとっても、あいつらは厄介だ。得られる情報は得ておきたいのだろうよ。」
確かに俺は三度、名も無き組織の幹部と遭遇した。
一人は学園で、アースを殺しに来た青髪の男。未だにそいつの名前は分かっていない。もう一人は迷宮で、石像と化した七大騎士を殺しに来たカリティ。最後は王都で、街を襲ったスエ。
その全てに、俺は敗北している。
「何も情報はない。俺はただ戦って、負けただけだ。むしろ何が目的なのか、俺が気になるぐらいだよ。」
「……そうか。ならば仕方ないな。元よりあいつも、そんなに簡単に情報が手に入るとも思っていないだろう。」
「ま、どちらにせよ最近は活動が活発になッてるからなァ。情報は勝手に落ちてくんだろ。」
イストが言った言葉に少し驚く。あの秘密主義で徹底的に隠蔽を重ねてきた名も無き組織が、活発に活動していることを初めて知ったからだ。
「なんせ、国一つ滅ぼしたんだからな。」
「国をっ!?」
「何だテメエ、知らなかッたのか?」
まさかもう既に、そこまで大掛かりで動き始めているなんて、想像すらしていなかった。小国とはいえ、一つの国を滅ぼすなんて普通じゃない。
分かってはいたことだが、やはりあの組織はヤバい。
「あの組織は数か月前に一国を滅ぼし、今でも度々現れては何人もの人を殺していきます。我々教会も足取りを追っていますが、簡単に尻尾は見せてくれはしない。」
「魔導師ギルドとしても悩みの種なのよねえ。既にギルド所属の魔法使いが何人か殺されているし。」
厄介なのは七人の幹部であろう。アルドール先生でも、かの七大騎士の一人ケラケルウス、増してや師匠でさえ追い払えても倒す事は出来なかった。
間違いなく賢神の、しかも冠位クラスの力を全員が持っていると想像できる。
「確かに厄介だね。僕でさえも、殺し切るのには苦労しそうだ。」
「負けるなんていう考えが微塵もないだけで、レイさんの方が化け物よ。アタシだって油断したら負けちゃうかもしれないわ。」
「よく言うぜ、ヴィリデニア。実際負ける気なんてサラサラない癖に。」
「アタシだって衰えてきてるのよ。肌もハリがなくなってきたし、体もあんまり思ったように動いてくれないんだから。」
ヴィリデニアは謙遜した様子を見せるが、その顔の笑みは深まる。
実際負ける気なんてないのだろう。戦闘科の冠位に立っているぐらいなのだから、その強さは折り紙付きだ。
「……最後の質問をしていいか。」
「ああ、遮ってしまったか。どうぞ次の質問をしてくれ。」
ハデスは既に顔に疲労の様子が見える。ついでに言うならさっさと帰りたさそうだ。
俺も俺で、最後の質問は何だろうと耳を傾ける。わざわざオリュンポスのクランマスターが人伝にまで聞こうとした事だ。
正直言って俺はそれ程の価値が自分にあるなんて思っていないが、だからこそ、気になると言ってもいい。
「アルス、お前はどんな女が好きだ?」
「はい?」
「ハァハハハ!!! ゼウスの奴、そんな事聞いてやがッたのかよッ!!」
イストは大声で笑い、逆にハデスはうんざりしたように顔を手で抑える。
俺自身も、理解した。冠位を擁する程のクランであるが、それと同時にあのヘルメスが所属するクランであるのだと。
よく考えればそうだ。優秀な人間であればあるほど奇人変人が多い。
「あら、恋話? ならアタシはお暇しようかしら。こういうのは男のコ同士でやるものでしょう。」
「いやいや、ヴィリデニア。こういうのはみんなで聞いてあげるものだ。僕の弟子の醜態はより多くの人間に晒されるべきだよ。」
「レイさん、そういう所よ。」
「何が?」
俺の中での厳格なイメージが崩れ去り、お調子者というイメージが急激に膨らみ始める。
「男色であるのならばそう言え。何でもいいからさっさと答えろ。」
「そんな真面目なトーンで聞く話じゃねえだろうが……!」
「いいじャねえか! 好きな女を答えるだけだぜェ?」
元より俺に、明確な好みのタイプなどない。そもそも結婚したいとも、彼女が欲しいとも思わん。それよりやりたい事が多過ぎるのだ。
「いないって返しといてくれ! そんな余裕があるほど頭が良くないともな!」
「分かった。そう返しておく。すまんな、若人よ。」
謝るなら言うなと、そう思いはしたが、それを言うべきはハデスにではない。クランマスターその人にだ。
師匠はそれを聞いて明らかにつまらなそうになる。
あの人を殴っても俺は許されるんじゃないだろうか。弟子は笑いのタネにするものじゃない。
「それじゃあ、他に何か聞きたい奴はいないかい?いないなら、僕も退屈になってきたから終わりにするけど。」
「それなら私から一つ。」
グラデリメロスが師匠からの質問に手を挙げる。
「七つの大罪を、知っていますか?」
「大罪。欲望じゃなくてか?」
「正確に言うなら、七つの大罪を冠するスキルの事です。憤怒、怠惰、嫉妬、暴食、強欲、色欲、傲慢。この七つのスキルです。」
「いや、知らないけど。」
「そうですか。なら、見つけたらどうぞ教会にご連絡を。必ず殺すべき、怨敵であるので。」
スキルという特殊な力があるのを知ったのはここ一年での事だ。
その中でも、大罪と名のつくぐらいなのだから曰く付きのスキルである事に違いはないだろう。教会の敵、というのも、まあ違和感はない。
「それ以外は何もないかい? オッケー。ならここで賢神議会の終了を宣言する。それと同時に、新たな賢神アルス・ウァクラートを我々は歓迎しよう。」
奇妙な議会は終わりを告げ、あまりにも呆気なく、俺は焦がれ続けてきた賢神へと辿り着いた。
師匠のその言葉によって、何となしに議会が始まった。
俺を含めてたった六人であり、職員などもいる様子はない。人数にしてはこの円卓も部屋も広すぎるように感じるが、面子のせいか違和感はない。
「グラデリメロスにヴィリデニアも、アルスに質問してもいいぜ。なんせ悠久の魔女オーディンの子孫にして、天覇ラウロの息子であるアルス・ウァクラートだ。聞きたいことがあるはずだろう?」
俺の血族は何故か異様に二つ名が格好いい気がする。
学園長……オーディンは二つ名の由来が分からないわけではないが、天覇というのはどういうことなのだろう。親父がどんな魔法を使っていたのか、検討すらつかない。
というか俺もそんな感じの二つ名が一つぐらい欲しい。こういうのは男の浪漫だ。きっと親父もノリノリで二つ名を名乗っていたに違いない。
「元々、儂がクランマスターに聞いてこいと言われたことは三つだ。それだけ最初に聞かせてもらうぞ。」
「答えられる事なら何でも。」
オリュンポスのクランマスターが俺に聞くことだ。相当大事な要件なのだろう。
俺は気を引き締めて、ハデスの言葉を待つ。もし下手な事を言えば、印象が悪くなる可能性もある。できるだけ敵は作りたくない。
「一つ目の質問は目的だ。お前は賢神になって、何がしたい。」
「世界を旅したい。それで、世界中の困っている人を助けるのが俺の目的、というか夢だな。」
「はァ、御大層な夢を持ッてんだなあ。見習えよ第一席。」
「失敬な。僕の方がもっと強欲で壮大で、素晴らしい夢だとも。」
「だから言ッてんだよ。」
外野が煩いが、ハデスが気にする様子はない。多分、いつもここは煩いものなのだろう。
「なら、二つ目の質問だ。名も無き組織について、知っていることはあるか?」
「……それを何故俺に聞く。」
「三度も幹部と遭遇したと聞いた。我々オリュンポスにとっても、あいつらは厄介だ。得られる情報は得ておきたいのだろうよ。」
確かに俺は三度、名も無き組織の幹部と遭遇した。
一人は学園で、アースを殺しに来た青髪の男。未だにそいつの名前は分かっていない。もう一人は迷宮で、石像と化した七大騎士を殺しに来たカリティ。最後は王都で、街を襲ったスエ。
その全てに、俺は敗北している。
「何も情報はない。俺はただ戦って、負けただけだ。むしろ何が目的なのか、俺が気になるぐらいだよ。」
「……そうか。ならば仕方ないな。元よりあいつも、そんなに簡単に情報が手に入るとも思っていないだろう。」
「ま、どちらにせよ最近は活動が活発になッてるからなァ。情報は勝手に落ちてくんだろ。」
イストが言った言葉に少し驚く。あの秘密主義で徹底的に隠蔽を重ねてきた名も無き組織が、活発に活動していることを初めて知ったからだ。
「なんせ、国一つ滅ぼしたんだからな。」
「国をっ!?」
「何だテメエ、知らなかッたのか?」
まさかもう既に、そこまで大掛かりで動き始めているなんて、想像すらしていなかった。小国とはいえ、一つの国を滅ぼすなんて普通じゃない。
分かってはいたことだが、やはりあの組織はヤバい。
「あの組織は数か月前に一国を滅ぼし、今でも度々現れては何人もの人を殺していきます。我々教会も足取りを追っていますが、簡単に尻尾は見せてくれはしない。」
「魔導師ギルドとしても悩みの種なのよねえ。既にギルド所属の魔法使いが何人か殺されているし。」
厄介なのは七人の幹部であろう。アルドール先生でも、かの七大騎士の一人ケラケルウス、増してや師匠でさえ追い払えても倒す事は出来なかった。
間違いなく賢神の、しかも冠位クラスの力を全員が持っていると想像できる。
「確かに厄介だね。僕でさえも、殺し切るのには苦労しそうだ。」
「負けるなんていう考えが微塵もないだけで、レイさんの方が化け物よ。アタシだって油断したら負けちゃうかもしれないわ。」
「よく言うぜ、ヴィリデニア。実際負ける気なんてサラサラない癖に。」
「アタシだって衰えてきてるのよ。肌もハリがなくなってきたし、体もあんまり思ったように動いてくれないんだから。」
ヴィリデニアは謙遜した様子を見せるが、その顔の笑みは深まる。
実際負ける気なんてないのだろう。戦闘科の冠位に立っているぐらいなのだから、その強さは折り紙付きだ。
「……最後の質問をしていいか。」
「ああ、遮ってしまったか。どうぞ次の質問をしてくれ。」
ハデスは既に顔に疲労の様子が見える。ついでに言うならさっさと帰りたさそうだ。
俺も俺で、最後の質問は何だろうと耳を傾ける。わざわざオリュンポスのクランマスターが人伝にまで聞こうとした事だ。
正直言って俺はそれ程の価値が自分にあるなんて思っていないが、だからこそ、気になると言ってもいい。
「アルス、お前はどんな女が好きだ?」
「はい?」
「ハァハハハ!!! ゼウスの奴、そんな事聞いてやがッたのかよッ!!」
イストは大声で笑い、逆にハデスはうんざりしたように顔を手で抑える。
俺自身も、理解した。冠位を擁する程のクランであるが、それと同時にあのヘルメスが所属するクランであるのだと。
よく考えればそうだ。優秀な人間であればあるほど奇人変人が多い。
「あら、恋話? ならアタシはお暇しようかしら。こういうのは男のコ同士でやるものでしょう。」
「いやいや、ヴィリデニア。こういうのはみんなで聞いてあげるものだ。僕の弟子の醜態はより多くの人間に晒されるべきだよ。」
「レイさん、そういう所よ。」
「何が?」
俺の中での厳格なイメージが崩れ去り、お調子者というイメージが急激に膨らみ始める。
「男色であるのならばそう言え。何でもいいからさっさと答えろ。」
「そんな真面目なトーンで聞く話じゃねえだろうが……!」
「いいじャねえか! 好きな女を答えるだけだぜェ?」
元より俺に、明確な好みのタイプなどない。そもそも結婚したいとも、彼女が欲しいとも思わん。それよりやりたい事が多過ぎるのだ。
「いないって返しといてくれ! そんな余裕があるほど頭が良くないともな!」
「分かった。そう返しておく。すまんな、若人よ。」
謝るなら言うなと、そう思いはしたが、それを言うべきはハデスにではない。クランマスターその人にだ。
師匠はそれを聞いて明らかにつまらなそうになる。
あの人を殴っても俺は許されるんじゃないだろうか。弟子は笑いのタネにするものじゃない。
「それじゃあ、他に何か聞きたい奴はいないかい?いないなら、僕も退屈になってきたから終わりにするけど。」
「それなら私から一つ。」
グラデリメロスが師匠からの質問に手を挙げる。
「七つの大罪を、知っていますか?」
「大罪。欲望じゃなくてか?」
「正確に言うなら、七つの大罪を冠するスキルの事です。憤怒、怠惰、嫉妬、暴食、強欲、色欲、傲慢。この七つのスキルです。」
「いや、知らないけど。」
「そうですか。なら、見つけたらどうぞ教会にご連絡を。必ず殺すべき、怨敵であるので。」
スキルという特殊な力があるのを知ったのはここ一年での事だ。
その中でも、大罪と名のつくぐらいなのだから曰く付きのスキルである事に違いはないだろう。教会の敵、というのも、まあ違和感はない。
「それ以外は何もないかい? オッケー。ならここで賢神議会の終了を宣言する。それと同時に、新たな賢神アルス・ウァクラートを我々は歓迎しよう。」
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