幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
136 / 474
第六章〜自分だけの道を〜

5.果てのない旅へ

しおりを挟む
 魔導の国にして、世界でも数少ない民事主義を完全に実現させた国。それこそがロギアという国であり、世界で唯一、軍を保有しない国でもある。
 勿論の事だが、軍を保有しないのには理由がある。それは魔導の国、という二つ名からも分かる通り、この国は魔法使いの聖地に近い場所なのだ。故に数多もの研究者や強力な魔法使いがこの国へ集まる。
 そして、場合によっては単騎で国を滅ぼしうる魔法使いが集まる国に、喧嘩を売る馬鹿がいるだろうか。

 だが残念ながら、そういう常識的な考えにすら行き当たれない馬鹿がいたのだ。
 その国がどうなったかなど、もはや語るまでもないだろう。ただ、地図から消えたのだ。たった一夜、たった数時間にして。

 そんな賢神たちが、場所を移さず、ここにいるのには価値があるからだ。
 その最たる例がこの天を貫くように伸びる、、世界一高い建物にして世界一危険な建物。いわゆる『賢者の塔』と呼ばれる場所だ。
 国も支援するこの塔は正に魔法使いの為の塔であり、研究に必要な全てがここに揃っている。今やこの賢者の塔を越える研究施設はこの世に存在しないのである。

「それじゃあ、僕はここまでだね。」

 そして俺とエルディナが目指した場所でもあった。この首都に仕事を見つけたというガレウは、勿論だがこんな塔に入る必要も理由もありはしない。

「ああ、わざわざこんな所まで連れてきてすまんな。」
「ちょっと来るぐらいだし、構わないよ。むしろここで僕一人で離れるなんて、薄情者みたいだろう?」
「別にそんなことはないと思うけどな……」

 ガレウは皆が認める優しい人間だ。ふと困ったときに手伝ってくれたり、いつも公平に、それでいて悪を嫌う。意志が弱いわけでもなく、ただただ底抜けに人間ができている。
 アースやお嬢様みたいな皮肉家であったり、エルディナのように無意識に人を苦しめる天然タイプの人間でもない。
 言ってしまえば普通なのだが、この普通というものが如何に得難いものか、社会人であれば分かるはずだ。普通に良い人というのは中々巡り合えるものではない。

「私は先に手続きに向かっていよう。ゆっくりしておくといい。」

 アルドール先生はそう一言言って、賢者の塔へと向かう。ガレウはアルドール先生が行ってしまう前に、後ろから呼びかける。

「先生! ここまで連れてきてくれてありがとうございました!」
「……感謝するような事ではない。私は教師として、魔法使いとして当然の事をしていただけだ。」

 そう言ってアルドール先生は賢者の塔へと入っていった。

「それでは私も、先に行っていますね。きっとデメテル様がいるのなら賢者の塔の中ですので。」
「ああ、ティルーナ。元気でやれよ。」
「言われずとも。ここにいる全員が上手くいくことを願っていますよ。」

 俺とガレウ、エルディナの三人に手を振られてティルーナはアルドール先生の後を追う。
 多分だが、デメテルさんはこの塔にいる気がした。あれ以来一度も会ってはいないが、律儀な性格の人だと思う。約束の時になれば、一つの場所から離れるようなことはしない。

「それじゃあ、僕ももう行くよ。みんな元気でね。」
「ああ、そっちこそな。」

 ガレウも塔に背を向け、街の中へ歩いて行った。ガレウは強く、優しい人間だ。きっとどんな道を選ぼうとも上手くいくだろう。
 そこでふと、エルディナが異様に静かなのに気づく。
 エルディナの方を向くと、目元が赤くなり、その頬を雫で濡らしていた。

「どうした、大丈夫かエルディナ。」
「ああ、いえ、大丈夫よ。ちょっと寂しくなっただけ。分かってはいたのだけど、こうやって実際に体験すると、とても心が締め付けられるようなの。」
「……そうかい。なら、それはいいことだ。」

 確かに別れというものは怖い。それは俺がこの人生で、身に染みてよくわかっている。
 だが、いやだからこそ、別れは必要だ。その別れを遠ざけるために、その別れまでを全力で生きるために、人は真価を発揮できる。
 別れが無ければ、出会いすらもありはしない。

「別れを惜しむような仲間に、出会えたってのは、最高だろう?」
「……そうね、アルスの言うとおりだわ。」

 エルディナは袖で涙を拭い、賢者の塔へと視線を向ける。

「本当に、楽しかったわ。学園での五年間は。」
「それに並ぶほどの思い出ができるさ。なんたって人生は長い。」

 アルドール先生が賢者の塔から姿を現す。そして入るようにと、手の動きでそれを伝え、そして塔の中へ戻っていく。

「行こうぜ、エルディナ。」
「ええ、賢神になる為にね。」

 俺達は最果てまで続く賢者の塔へと、その足を踏み入れた。





 賢者の塔内部、ティルーナはとある部屋の前に辿り着いた。
 世界一の癒し手である証明、聖人の称号を賜っているデメテルも当然ながら賢神に属しているうえ、賢神内でもその力は大きい。
 それはこの魔窟である賢者の塔にて、一室が用意されるぐらいには。

「待っていましたよ、ティルーナ。」
「お待たせして申し訳ありません。」

 デメテルは部屋の中で白衣に身を包みながら、ティルーナの顔をよく見る。その目に映る覚悟と、その奥に宿る魔力を覗き見るために。

「……ふむ、なるほど。」

 デメテルはおもむろに立ち上がり、そしてティルーナの横を通り部屋を出る。

「私の夢は世界中の人間を治すことです。その為に私は、世界中を飛び回って、今日も私を求める患者を探し続けています。」

 デメテルほどの腕があるのなら、人は勝手に集まるし、それで莫大な利益を出すことさえもできるであろう。
 しかしそれでは、本当の弱者を救い出せない。本当に助けを求めている人間の声が届かない。だからこそ、彼女は教会ではなく冒険者に属しているのだ。
 誰の為でもなく、自分の為にデメテルは選択したのだ。

「命を落としてでも、より多くの人間を救い出す私の旅に、ついてこれる覚悟がありますか?」

 デメテルが欲しいのは財宝や名誉ではない。今ついてきている聖人の称号でさえ、勝手についてきただけのものだ。
 ただ人の命を救うために世界を駆けた結果、誰よりも強力な回復魔法を得ただけのこと。

「当然ですよ、デメテル様。私はそのために、ここまで来たんですから。」
「なら良し。ついてきなさい、ティルーナ。一年は休みなど与えるつもりはありませんよ。」
「はい、喜んで!」

 ティルーナは進む。己がだけの道へ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...