幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
134 / 474
第六章〜自分だけの道を〜

3.到着

しおりを挟む
 グレゼリオン王国において、エルディナが生まれ育ったヴェルザード領は最大の港町でもある。
 世界に存在する五大陸の内、グレゼリオンに一番近いのはグラスパーナ大陸という北の大陸であり、そこに最北の街であるヴェルザードが近い為の事である。
 様々な物品が流通したり、移住などもその間ではよくある事だ。
 グレゼリオン大陸内はグレゼリオン王国が統一しており、内乱なども起きないが、グラスパーナはそうではない。小国がいくつもあり、時々戦争も起きるのだから難民が逃げ込む事だってある。

 さて、長々と話をしたがこれはさして重要なことではない。
 大切なのはヴェルザード領から船を出しているのだから、着くのは当然グラスパーナ大陸であるという事だ。
 その中でも最も近い国、ロギア民主国家が今回の目的地であり、船旅は最小限となる。
 これは俺にとってはどうでも良い事ではあったが、船にめっぽう弱いエルディナにとっては都合が良かったのだと、今になって思う。

「修学旅行以来だな……」

 前に来たのは首都であるので、ここから更にもう少し移動する必要はあるが、ここにも魔導列車は通っていた。
 未だに、この国にしか魔導列車はない。だからそれを見ると、ロギアに来たのだと実感する。

「グレゼリオンも凄いけど、ロギアは別方面で凄いよね。」
「ロギアは魔導を使って、ひたすらに最新のものを取り入れてるからな。」

 流通やらだとグレゼリオンの方に軍配が上がるが、技術面で見るなら間違いなくロギアが世界最高だ。
 魔導の国、という二つ名は伊達じゃない。

「よく来たな、アルス、ガレウ。」

 船着き場で街の様相を見ている内に、見知った顔が現れた。アルドール先生、いや、卒業した以上先生と呼ぶのかは怪しいものだが、その人が現れた。

「……ヴェルザード嬢はどうした?」

 アルドール先生は俺達二人を見た後、そこにエルディナがいない事に気が付いたのか、そう尋ねた。
 そう言われて、俺は反射的にここまで乗ってきた船の方へと振り返る。

「船酔いを、しまして。ティルーナに見てもらっているのですが、もう少しかかるかと。」
「……なるほど。となれば、先にヴェルザード公爵に挨拶だけはしておくか。場所はわかるか?」
「その必要はありませんともぉ。御足労頂くのは、小心者の私の心にはよく響きますからぁ。」

 俺達の後ろからヴェルザード公爵が来た。そしてそのまま、アルドール先生に軽く頭を下げた。

「本当に久しぶりですねぇ、ファルクラム。」
「……ああ、久しぶりだなヴェルザード公爵。」

 目の前で言われた情報を処理できず、絶句してしまう。ファルクラムは学園があった都市の名前であり、そこの前公爵であったなど聞いた事もなかったからだ。
 今思えば、確かにアルドール先生は姓を名乗りはしなかった。生まれによってはない事もあるので、そこまで気にはしなかったが、そういう事だったのか。

「だが、前公爵と呼ぶのはやめてくれ。既に家督は譲ってある。今はただの魔法使いの一人に過ぎない。」
「冠位を得る魔法使いを、『ただの』と形容するのは難しいと思いますがねぇ。」
「ただの魔法使いだとも。私が冠位を得たのは隠居した後であるし、共に歩んできた友がいたからの事でもある。」

 アルドール先生は、そう言い切り、俺とガレウの方をちらりと見た。

「それより、私は今日中に首都へ行きたいのだが、大丈夫だろうか?」
「ええ、ええ、大丈夫ですともぉ。腕の良い癒し手が同行していましたからねぇ。」
「ならば時計が一つ回る前には出たい。駅で集まるようにと、ご息女には伝えておいてくれ。」
「伝えておきましょう、アルドール卿。娘を頼みますねぇ。」

 そう言った後にアルドール先生は振り向いて、歩き始めた。

「すみません、失礼します。」

 俺はそう言って、ヴェルザード公爵に一礼して付いていく。
 別にあの場に残ってエルディナと後で行っても良かったが、少し聞きたいことと気になることもあった。前公爵であったとかも気になるが、元より聞きたいことがあったのだ。
 アルドール先生は振り返る事もなく、街の通りへと進んでいった。どうやら止まる様子もないので、そのまま俺は話しかけた。

「アルドール先生。」
「……言っておくが、私はもう君の先生ではない。」
「それ以外に言いようもないので。」

 違和感はあるやもしれんが、間違いなく俺の恩師であり、先生であった事には違いない。
 それにつまらない理由ではあるが、先生以外の敬称があまり思いつかず、あったとしてもあまり頭の中で一致しないのだ。

「私が公爵家であるという事を聞きに来たのか?」
「まあ、それもあります。」
「さっきも言ったが、それについてはどうでも良い事だ。隠居した今、私はただのアルドールに過ぎない。」

 どうでも良い事ではない、という言葉が喉から出そうになるのを抑える、
 こういう事を追求したところで、きっと時間の無駄だ。アルドール先生は一度答えなかった事は絶対に教えてはくれないのだ。
 ただ何も聞かないわけではない。別方向からの質問であれば、答えてくれる時もある。

「なら、別の質問で。元々聞きたかったのはそれじゃないですし。」

 前々から、正確には冠位の魔法使いと知った時から、更に言えば、今回公爵家の一人と知って、より一層気になっている事があるのだ。
 どうしても聞きたいという程の事ではないが、聞いておきたかった事だ。

「何故、賢神の冠位が、しかも元公爵家の当主が教師なんてやっているんですか?」
「それは学園長も当て嵌まる事だろう。」
「学園長は……きっと、人を育てる事を喜びとする人です。」
「なら私も同種であると、そうは思わないのか?」
「いえ、アルドール先生は違います。」

 人が何かを教えたいと思う時には、自分の成功を教えたい時か、自分の失敗を教えたい時しかない。
 この言葉は受け売りだ。どこかの本で読んだのか、人から聞いたかは覚えてはいない。
 だけどその言葉は真理であると思う。
 それは異世界でも変わりなければ、アルドール先生にとっても例外ではない。

「私は先生を尊敬しています。常に生徒の立場に立ち、より生徒の将来の為になる事を教えてくれましたから。」

 だがそれとは別で、明らかに違和感も感じた。
 冠位ともなれば、別に教育の場所など第二学園だけではない。第二学園は賢者の称号を賜われる程度には、知識を与えてくれるが、逆に言えばそこまでだ。
 それから先で、多くの魔法使いが挫折し、道半ばにて諦める。
 教えるのなら別にそこでもいい。むしろこんな所より、遥かに需要もある。それを理解していないはずがない。

「先生は第二学園で、何を教えたいんですか?」
「……それは、難しい質問だな。」

 即ち、自分の成功か、自分の失敗か。どちらを教えようとしたのか。
 アルドール先生は足を止め、俺へと振り返った。

「言ってしまえば……そうだな。私は、自分の失敗を伝えたいのだよ。」

 半ば予想していた答えではあった。それでも驚く。
 アルドール先生がそこまで大きな失敗をする姿が、俺には想像できなかったのだ。

「私は第二学園を卒業した。二人の、たった二人だけの友と肩を並べてな。」

 その一人は知っている。ラウロ・ウァクラート、他ならぬ俺の父親だ。

「そして私は、いや、私達は間違えた。進むべき道を誤った。」

 それ以上を、深くは語らなかった。
 その顔には寂寥と、懐旧の思いが籠もっており、その思いを振り払うようにして、再び振り返って、歩き始めた。

「だから、道を間違えぬように導きたいと、思っただけだ。」

 何を間違えたのかとは、駅に着くその時まで終ぞ、聞くことはできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...