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第五章〜魔法使いは真実の中で〜
25.狂気=真実
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あの会合を終えた後、アースは事後対応がまだあるらしく、直ぐに王城へ戻った。
俺はというと、学園長室を出た後、少し気になる事があってお嬢様に着いてきていた。
「お嬢様。精霊王召喚の札とか言ってましたけど、そんなものどこで手に入れたんですか?」
「あら、覚えてないのね。カリティと会った遭遇した時、私急用があるって言って、いなかったと思うのだけれど。」
「ああ、そういう……」
確かに夏休み、ダンジョンに潜った時に、お嬢様は途中で抜けていた。
その時は理由が気になったが、今となっては忘れていた。
あの時はまだ十歳かそこらだったと思うのだが、あの時から成長して容姿は大人びたが、性格に変化はない。
フランもティルーナもエルディナも、大体は正確が落ち着いたりしたものだが。
「あ、アルス。終わったんだね。」
そう思っていると、廊下の向かい側からガレウが歩いてきていた。
ガレウは四年もたったが、全く顔が変わらない。童顔と言うべきか、身長もあんまり伸びてないから、どうも子供っぽさが抜けきらない印象を受けた。
しかし魔法の腕は間違いなく上がっているし、性格も少し大人びていた。
「ああ、ほら、名も無き組織の一件についてちょっとな。」
「アルスは本当に色々な事に巻き込まれるよね。僕はちょっと心配だよ。」
「こいつはそういう星の下にいるのよ。永遠に巻き込まれ続けるでしょうね。」
「可能なら俺も戦いたくはありませんがね。」
しかし戦わなくてはならないなら戦うし、戦うなら絶対に勝ちたい。
それにこの世界は命の価値が軽い。戦う覚悟も力もない人間じゃ、大切な人すら守れやしないのだ。
「ああ、そうだガレウ。ちょっと頼まれてくれないか?」
「何?」
「ちょっとスキルっていうのを調べたくてな。図書館から関連の本を借りといて欲しいんだ。」
「スキルって、あれかい?エルディナの眼みたいな力のこと?」
「まあ、多分そう。」
「合ってるわよ。ディナの眼はスキルに分類されるわ。」
スキルという力があるのなら、それに対する理解は必要だろう。
あの時はノリで気にせずにおいておいたが、実は魔法とかの違いといまいちよく分かっていない。
「……それぐらい自分で借りなよ。」
「今日は用があって無理なんだよ。今度飯おごるから、頼む。」
「まあ、ならいいよ。約束だからね。」
そう言ってガレウは通り過ぎて行った。
「そんなに急ぐ事じゃないと思うわよ、アルス。確かに賢神クラスにもなればスキルはあるものだけど、言うほど強力なものではないわ。」
「そうなんですか?」
「スキルと言ってもピンキリよ。微妙なスキルから強力なスキルまで色々ある。」
全部が全部、あの幹部達みたいなスキルなのかと思っていたのだけど違うのか。
俺はてっきり、スキルと言えばチートみたいのを想像していたのだが。
「スキルには厳密に言うと区分があるのよ。普通のスキルは、魔法で再現できるわ。」
「それじゃあ、スキルって意味ないんですか?」
「普通のスキルは、ね。強力なスキルなら話は別よ。それこそ、ディナの賢将の青眼みたいなものとか。」
確かにそうだな。エルディナがその最たる例だ。
未契約の精霊を使役し、精霊王との契約も可能という時点で、あの眼の有用性は計り知れない。
あれぐらいのスキルがあれば、俺はもっと強くなれる。
「それで、アルス。アルドール先生に呼ばれていたのでしょう。行かなくていいのかしら?」
「……そうですね。じゃあ最後に一つだけ聞いていいですか?」
「聞くだけなら構わないわよ。」
俺は解散する時にアルドール先生に呼び出されていた。
早めに行って待機していても良いのだが、それよりもお嬢様に聞きたいことがあったのだ。
「予言ができるって言ってましたけど、それって本当に3回だけですか?」
ずっと気になっていた。あまりにもお嬢様は未来が見え過ぎている。
今回だってそうだ。まるでその事を事前に全て知っているとしか思えない行動ばかりする。
いや、何か悪い事をする気はないのだとは思う。
しかし以前にティルーナが言っていたように、何かを隠されている気がしていた。
「3回だけよ。これは嘘偽りないわ。運命神の加護の力は、3回しか使えない。」
表情は全く変えず、ただ事実を述べるかのようにお嬢様はそう言った。
そしてお嬢様の騎士である俺が、それ以上問い詰める事ができるはずもなく。
「ありがとうございます。変な質問をしてすみません。」
「その程度で気を悪くするほど、私は狭量ではないわ。早く行きなさい。」
「はい、それではまた。」
俺は少し心にひっかかるものを残しながらも、その場を離れて行った。
「ふむ、なるほど。失敗したか。」
妙に身なりが整っていることと、髪と目が黒いこと以外には特徴のない男だ。
そんな男が、黒い軍服に見を包む、百人以上の軍団の前で、足を組みながら椅子に座っている。
その軍団のうちの一人が前に出てきて、その報告を男が受けた所だった。
「……ん、ああ、報告ご苦労。下がりたまえ。」
思い出したようにそう言って、男は軍服の人を下がらせた。
男はその眼鏡越しに並び立つ己が部隊を見る。そして満足げに笑みを浮かべ、災いを呼び出すその口を開いた。
「やはり承認欲以外は信頼できぬな。作戦への準備が粗雑だし、何よりゴミを放るように任務を放棄する。」
男はその右手に持つ紙を適当に放り投げ、その紙は地面に落ちるよりも先に燃え尽きる。
男の魔法ではなく、部隊が使用した魔法であった。
「しかし守りが厚いな、グレぜリオン王国は。特にフィルラーナ・フォン・リラーティナ。あの娘は私の思考を読んでいるかのようだ。」
男が椅子から立ち上がるのを見て、部隊は一斉に敬礼をした。
「さて、それでは諸君。人の生ではなく、人の死にしか喜びを得られない異端者諸君。」
機械のように微動だにせず、部隊は男の声を聞く。
男が右手を上げると同時に敬礼を解き、背筋を正したまま男の声を聞き入る。
「もう何年も待った。我々は完全なる勝利を、完全なる成功を得るために待ち続けたのだ。」
まるで政治家の演説のように、言葉一つで人心を掴み込む独裁者のように、男は語りかける。
「賽は既に投げられた。此度の作戦は、成功した。狼煙は既に上がったのだ。」
はて、そう言えばここはどこなのだろう。
その答えはあまりにも分かりやすく、周囲に広がっていた。
「もう資金繰りの必要はない。ただの暗殺にただの強盗、ただの皆殺しなどしなくて良いのだよ。」
ここは小国だ。いや、小国だった。
小国とはいえ人口は数万を超え、その末路を語るかのように、地面にそれは落ちている。
たった一夜、たった一夜にして一つの国が滅びを迎えたのだ。
「諸君! 一騎当千にして天下無敵、万夫不当の精鋭諸君! 問いかけよう! その体躯に問いかけよう!」
屍を大理石とし、血を聖水とし、臓物を装飾として、不浄にして狂気の神殿が完成する。
無論、彼らが仕えるのは神ではない。
平凡な容姿をし、平均的な、いや普通より少しだらしない体型をしているこの男一人にである。
「諸君らが求めるものは何だ!? 金か! 女か! 地位か! 力か!」
「「「否! 否! 否!」」」
「そうだろうな! そうであろうとも! そんなくだらないものに価値などあるはずもない!」
ここにいるのは漏れなく全てが狂人。人の苦しみでしか喜びを得られなかった者たちの末路。
「――それでは、始めようか。」
七月の中頃、地図から一つの国が焼失した。犠牲者は王族を含む国民のほぼ全員。要注意団体に留まっていた名も無き組織が、初めて、国と同列に並べられた瞬間であった。
狂気の行進は、決して止むことを知らない。
俺はというと、学園長室を出た後、少し気になる事があってお嬢様に着いてきていた。
「お嬢様。精霊王召喚の札とか言ってましたけど、そんなものどこで手に入れたんですか?」
「あら、覚えてないのね。カリティと会った遭遇した時、私急用があるって言って、いなかったと思うのだけれど。」
「ああ、そういう……」
確かに夏休み、ダンジョンに潜った時に、お嬢様は途中で抜けていた。
その時は理由が気になったが、今となっては忘れていた。
あの時はまだ十歳かそこらだったと思うのだが、あの時から成長して容姿は大人びたが、性格に変化はない。
フランもティルーナもエルディナも、大体は正確が落ち着いたりしたものだが。
「あ、アルス。終わったんだね。」
そう思っていると、廊下の向かい側からガレウが歩いてきていた。
ガレウは四年もたったが、全く顔が変わらない。童顔と言うべきか、身長もあんまり伸びてないから、どうも子供っぽさが抜けきらない印象を受けた。
しかし魔法の腕は間違いなく上がっているし、性格も少し大人びていた。
「ああ、ほら、名も無き組織の一件についてちょっとな。」
「アルスは本当に色々な事に巻き込まれるよね。僕はちょっと心配だよ。」
「こいつはそういう星の下にいるのよ。永遠に巻き込まれ続けるでしょうね。」
「可能なら俺も戦いたくはありませんがね。」
しかし戦わなくてはならないなら戦うし、戦うなら絶対に勝ちたい。
それにこの世界は命の価値が軽い。戦う覚悟も力もない人間じゃ、大切な人すら守れやしないのだ。
「ああ、そうだガレウ。ちょっと頼まれてくれないか?」
「何?」
「ちょっとスキルっていうのを調べたくてな。図書館から関連の本を借りといて欲しいんだ。」
「スキルって、あれかい?エルディナの眼みたいな力のこと?」
「まあ、多分そう。」
「合ってるわよ。ディナの眼はスキルに分類されるわ。」
スキルという力があるのなら、それに対する理解は必要だろう。
あの時はノリで気にせずにおいておいたが、実は魔法とかの違いといまいちよく分かっていない。
「……それぐらい自分で借りなよ。」
「今日は用があって無理なんだよ。今度飯おごるから、頼む。」
「まあ、ならいいよ。約束だからね。」
そう言ってガレウは通り過ぎて行った。
「そんなに急ぐ事じゃないと思うわよ、アルス。確かに賢神クラスにもなればスキルはあるものだけど、言うほど強力なものではないわ。」
「そうなんですか?」
「スキルと言ってもピンキリよ。微妙なスキルから強力なスキルまで色々ある。」
全部が全部、あの幹部達みたいなスキルなのかと思っていたのだけど違うのか。
俺はてっきり、スキルと言えばチートみたいのを想像していたのだが。
「スキルには厳密に言うと区分があるのよ。普通のスキルは、魔法で再現できるわ。」
「それじゃあ、スキルって意味ないんですか?」
「普通のスキルは、ね。強力なスキルなら話は別よ。それこそ、ディナの賢将の青眼みたいなものとか。」
確かにそうだな。エルディナがその最たる例だ。
未契約の精霊を使役し、精霊王との契約も可能という時点で、あの眼の有用性は計り知れない。
あれぐらいのスキルがあれば、俺はもっと強くなれる。
「それで、アルス。アルドール先生に呼ばれていたのでしょう。行かなくていいのかしら?」
「……そうですね。じゃあ最後に一つだけ聞いていいですか?」
「聞くだけなら構わないわよ。」
俺は解散する時にアルドール先生に呼び出されていた。
早めに行って待機していても良いのだが、それよりもお嬢様に聞きたいことがあったのだ。
「予言ができるって言ってましたけど、それって本当に3回だけですか?」
ずっと気になっていた。あまりにもお嬢様は未来が見え過ぎている。
今回だってそうだ。まるでその事を事前に全て知っているとしか思えない行動ばかりする。
いや、何か悪い事をする気はないのだとは思う。
しかし以前にティルーナが言っていたように、何かを隠されている気がしていた。
「3回だけよ。これは嘘偽りないわ。運命神の加護の力は、3回しか使えない。」
表情は全く変えず、ただ事実を述べるかのようにお嬢様はそう言った。
そしてお嬢様の騎士である俺が、それ以上問い詰める事ができるはずもなく。
「ありがとうございます。変な質問をしてすみません。」
「その程度で気を悪くするほど、私は狭量ではないわ。早く行きなさい。」
「はい、それではまた。」
俺は少し心にひっかかるものを残しながらも、その場を離れて行った。
「ふむ、なるほど。失敗したか。」
妙に身なりが整っていることと、髪と目が黒いこと以外には特徴のない男だ。
そんな男が、黒い軍服に見を包む、百人以上の軍団の前で、足を組みながら椅子に座っている。
その軍団のうちの一人が前に出てきて、その報告を男が受けた所だった。
「……ん、ああ、報告ご苦労。下がりたまえ。」
思い出したようにそう言って、男は軍服の人を下がらせた。
男はその眼鏡越しに並び立つ己が部隊を見る。そして満足げに笑みを浮かべ、災いを呼び出すその口を開いた。
「やはり承認欲以外は信頼できぬな。作戦への準備が粗雑だし、何よりゴミを放るように任務を放棄する。」
男はその右手に持つ紙を適当に放り投げ、その紙は地面に落ちるよりも先に燃え尽きる。
男の魔法ではなく、部隊が使用した魔法であった。
「しかし守りが厚いな、グレぜリオン王国は。特にフィルラーナ・フォン・リラーティナ。あの娘は私の思考を読んでいるかのようだ。」
男が椅子から立ち上がるのを見て、部隊は一斉に敬礼をした。
「さて、それでは諸君。人の生ではなく、人の死にしか喜びを得られない異端者諸君。」
機械のように微動だにせず、部隊は男の声を聞く。
男が右手を上げると同時に敬礼を解き、背筋を正したまま男の声を聞き入る。
「もう何年も待った。我々は完全なる勝利を、完全なる成功を得るために待ち続けたのだ。」
まるで政治家の演説のように、言葉一つで人心を掴み込む独裁者のように、男は語りかける。
「賽は既に投げられた。此度の作戦は、成功した。狼煙は既に上がったのだ。」
はて、そう言えばここはどこなのだろう。
その答えはあまりにも分かりやすく、周囲に広がっていた。
「もう資金繰りの必要はない。ただの暗殺にただの強盗、ただの皆殺しなどしなくて良いのだよ。」
ここは小国だ。いや、小国だった。
小国とはいえ人口は数万を超え、その末路を語るかのように、地面にそれは落ちている。
たった一夜、たった一夜にして一つの国が滅びを迎えたのだ。
「諸君! 一騎当千にして天下無敵、万夫不当の精鋭諸君! 問いかけよう! その体躯に問いかけよう!」
屍を大理石とし、血を聖水とし、臓物を装飾として、不浄にして狂気の神殿が完成する。
無論、彼らが仕えるのは神ではない。
平凡な容姿をし、平均的な、いや普通より少しだらしない体型をしているこの男一人にである。
「諸君らが求めるものは何だ!? 金か! 女か! 地位か! 力か!」
「「「否! 否! 否!」」」
「そうだろうな! そうであろうとも! そんなくだらないものに価値などあるはずもない!」
ここにいるのは漏れなく全てが狂人。人の苦しみでしか喜びを得られなかった者たちの末路。
「――それでは、始めようか。」
七月の中頃、地図から一つの国が焼失した。犠牲者は王族を含む国民のほぼ全員。要注意団体に留まっていた名も無き組織が、初めて、国と同列に並べられた瞬間であった。
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