幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第五章〜魔法使いは真実の中で〜

24.神の正体②

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 俺は時々、思うことがある。
 全てを諦めた前世の俺、草薙真と、全てを挑んだ俺、アルス・ウァクラートは本当に同じ生物なのかということだ。
 だってそうだろう?
 名前も、思想も性格も、何もかもが違うのだ。
 だから不安になる。変われたのはアルス・ウァクラートだけで、草薙真は、置いていかれたのではないのかと。

「わしらが立てた仮説は、異界を繋がる狭間のような場所があり、偶然迷い込んでしまい、アルスの中に宿った、というものじゃ。」

 だから俺は本当の事を、言えない。
 俺が異世界転生をした事を踏まえ、心の中でツクモが言っていた事を言えば、きっと真実へ近付くだろう。
 しかし俺は言えない。特にこの人、学園長には。

「チキュウに存在する神性には、『八百万の神』と呼ばれる、万物に神性が宿る法則があるらしい。そこまで地上に神が充満しているのなら、一柱ほど迷い込むのもおかしくはないじゃろう。」

 お嬢様に言うのはいい。アースに言うのも、ヘルメスに言うのも別に構いはしない。
 しかし、学園長だけには、俺の曾祖母であるこの人にだけは、言いたくない。学園長は、親父は母さんは、アルス・ウァクラートを愛していた。
 だがその正体が、全く別の世界で育った別の生き物だったとしたら。
 俺なら、嫌だ。自分の子供の中に、誰かも分からない男がいるなんて、俺には耐えきれない。我儘かもしれないが、俺はこの人に、嫌われたくはなかった。

「まあ考察というには穴だらけじゃがな。取り敢えず直近で考えるべきはその対応じゃ。」
「あれ、何とかする方法はあんのか。学園長クラスでやっと抑えられる化け物だぜ?」
「ないわけではないぞ、アース。神とて万能の存在ではない。正確に言うなら全知全能を背負うのは、最高神ただ一人じゃ。」

 アースの疑問に学園長はそう返した。
 これは事実そうだろう。ツクモの目的は俺の体を奪うこと。それは逆に言うなら、体がなければツクモは本来の力を発揮できないという事だ。
 それが間違いなく、対策へのカギとなる。

「対策としてとれるのは二つじゃ。一つは変身魔法を使うことをやめることじゃ。」
「……それはどうしてですか?」

 俺がその理由を聞くより先に、お嬢様が先に質問した。
 俺にとって、変身魔法が使えなくなるというのは、入学してきてから今までの努力全てを投げ捨て、また一から始めろと言っているようなものだ。
 やめろと言われてはいそうですかと、引き下がるという事ができるはずがない。

「変身魔法は恐らく、その神が持つ特性だからじゃ。神の力を利用して魔法を使っている分、使うたびにその体はあの神に浸食されていく。」
「絶対に嫌だ。」

 少し食い気味に、俺は言い放つ。

「他に手段があるなら違うのにしてくれ。それだけは、勘弁してほしい。」

 こればかりは、俺だけの問題ではない。しかし、嫌なものは嫌だ。
 この神は俺達の内の誰かを殺す可能性がある。それでも、嫌だ。理性は納得できても、俺は納得できやしない。

「……とのことで。私としても自分の騎士が戦力ダウンするのはあまり嬉しくありません。2つ目をお願いします。」
「若いのう。わしはもう、人と争うことすら嫌だというのに。」
「それは仕方ありませんよ。学園長はもう、長く戦い過ぎましたから。」
「戦ってなどおらんよ。戦っておったら、わしは既に死んでいた。『騎士王』ディザスト、『戦神』グラド、『英雄王』ジン。様々な英雄と会いはしたが、共に戦いは、しなかった。」

 どこか寂しそうに、そう呟いた。
 オーディン・ウァクラートは生きる伝説である。数百年に渡る時を経ても未だ死なず、伝説の英雄と会い、場合によっては共に戦った。
 その人生はきっと、今生きる俺のものより遥かに濃いものであったに違いない。

「あー……わしの事は良い。早速、二つ目の策を話そう。」

 少し空気が重くなったのを察してか、手早く学園長は話を切り替えた。

「それはアルス、お主がその力を使いこなす事じゃ。」
「変身魔法のことか?」
「正確に言うなら、神がその身に宿るが故に使える、神の力を使いこなすこと。変身魔法はその力の一端に過ぎぬ。」

 この、更に先の力。それは俺には想像がつかなかった。
 何故なら、俺が使っているのはあくまで魔法であり、神の力でも何でもないからだ。

「今は分からんでも良い。だが意識はしておけ。今は自分の体を魔法に変えるだけかもしれん。しかしいずれ、もっと強力な力を使えるようになるはずじゃ。」
「……それは、名も無き組織と戦えるほどの、か?」
「お主次第ではるが、止まらなければいずれ辿り着ける。」

 俺は思い出す。『生存欲』のカリティ、『睡眠欲』のスエの力を。
 あれは普通の力ではない。超常的な力だ。魔法や闘気を鍛えただけでは、きっとああはならない。

「この世の強者が持つ不可能を可能にし、夢を幻のままとせず、現のものとする力。『スキル』へとな。」

 スキル。そうか、あの力はそう言うのか。
 つまり俺は、まだ戦いの舞台にすら辿り着けていないという事になる。
 話を引き継ぐようにして、アルドール先生が口を開く。

「……それに、だ。君が冠位を目指すのなら、どちらにせよ通らなくてはならない道だった。スキルとは自分の技術の結晶、存在の在り方から生まれ出るもの。私を含め、冠位は例外なく強力なスキルを所有している。」

 だが、これは逆に好機とも言える。普通の人なら、アルドール先生が言った通り、いつ手に入るか分からない力の為に努力を重ねねばならない。
 しかし俺は違う。明確な到達点が、存在する。
 他の人なら簡単に辿り着かないものでも、ツクモが体内に存在するが故に、届き得る。

「覚悟はあるかい、アルス君?」

 アルドール先生は俺にそう尋ねた。
 しかしそれに対する俺の答えは決まっていた。それはアルドール先生も知っている。
 故にこれは、覚悟の誓いだ。見方によっては、あいつへの宣戦布告とも見える。

「絶対にやってみせる。俺には、絶対に届かないといけない理由がある。」

 全てを利用してやる。環境も、才能も、時間も、自分の敵でさえも。

「全てを守り、救う人に、幸福の魔法使いになる為に。」

 夢とは、究極の欲望であるが故に。
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