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第五章〜魔法使いは真実の中で〜

17.様子見

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 本当なら今直ぐにでも、そこへ行きたい。だけどその場所は遠く、時間と、自分自身をかけても辿り着けるかは分からなかった。
 そんな果てのない壁を、俺は登り続けた。
 いつかきっと、辿り着く。そう言い聞かせ続けた。だが、いくら登っても果ては見えない。
 俺がしたいのはこんな事じゃない。俺はそこに辿り着きたいだけだ。何でこんな壁を登りに来たわけじゃない。

 それでも、俺は登り続ける。

 いつか辿り着く。きっと辿り着く。だから全力で、嫌いな事をやり続けろ。
 頑張るのは嫌いだ。だけど、辿り着くには必要だ。
 筋トレや武術なんてしたくない。だけど、辿り着くには必要だ。
 地味な魔法なんて使いたくない。だけど、辿り着くには必要だ。
 戦いなんてしたくない。だけど、辿り着くには必要だ。
 やめたい。全てを投げ出して、そこそこの生活で、そこそこの人生を送ってもいいんじゃないかと、心の中の何かが囁く。

 だから全部、諦めてしまいたい。だけど――



 ――辿り着けたらきっと綺麗だ。



 遥かその先、そこに何があるのかなんて、分かりはしない。考えもしない。
 だけど、その場所に俺は憧れている。
 だからこそ、辿り着いて見せる。どれだけ時間がかかっても。

「やっと、1つ目だ。」

 俺の眼前にいるのは、青い目と緑の髪の少女。ヴェルザードが産み出した魔法界の異端児。
 今、この一時だけ、その先に目指す俺の全てを忘れる。
 それは意識的にではなく、無意識だ。気づけば忘れてしまうほど、俺はこいつに夢中だったわけだ。

「『爆発エクスプロード』」
「『水壁ウォーターウォール』」

 俺の声と共に放たれる爆発が、水の壁に遮られる。
 爆発は水に弱い。爆発が発する衝撃も、生まれ出る炎も、全て水を越えれないからだ。だが、それぐらいは想定内。
 未だに俺は変身魔法を使ってはおらず、エルディナも祝福眼を開いていない。まだ小競り合いの域だ。

「『水の砲撃ウォーターキャノン』」

 エルディナは壁に使った水をそのまま圧縮し、それを俺に向かって放った。
 だが、早くとも動きは直線的だ。わざわざ魔法を使うまでもない。
 俺は一度大きく体を横に飛び出させて、その魔法を避け、そのままエルディナへと接近する。

「じゃ、行くぞ。」

 もう準備はここまでで良いだろう。無駄な魔法戦を長引かせても仕方ない。
 俺の体が砂となり、不定形の形となってエルディナへ迫る。
 しかしこの魔法の事も、エルディナは当然よく知っている。同様せず、冷静に魔力を練り上げた。

「『暴風テンペスト』」

 エルディナを襲いかかる砂を、荒れ狂う暴風が吹き飛ばす。
 しかし飛ぶより早く、俺は姿を風へと変え、エルディナの暴風から抜け出し、エルディナへと向かう。

「『部分岩化』」
「『爆発エクスプロード』『二重結界ダブル・セイント』」

 右腕を岩へ変えた瞬間に、俺の目の前に爆発が現れ、エルディナ自身は結界を構築した。
 昔の俺ならこの時点で撤退をしていただろう。
 しかし今は違う。爆発エクスプロードは強力な火と風を活かした魔法。だからこそ、火と衝撃さえ逃せばダメージは受けない。

「『雷化』」

 爆発エクスプロード如きの炎じゃ、俺の雷は焦がせない。
 爆風を振り切り、エルディナの目の前へ俺は辿り着いた。その前には結界があるが、こんなもので俺は止まらない。

「『衝撃インパクト』」

 その言葉と同時に、俺の体は勝手に動き始めた。
 空中で右腕を引き、俺の右腕が強靭な岩そのものへと変化する。そして闘気をまとい、高速での回転を始めた。
 そして大砲を叩き込むように、雷を伴ってその拳がエルディナの結界へと打ち込まれる。

「う、ぐ……!」
「吹き飛べッ!」

 結界を破壊し、その中にいるエルディナをその拳が吹き飛ばした。
 予め動かす行程を決めておく事により、自身の知覚を越えた一撃を放つ事ができる。
 自分自身を魔法にできるが故に可能な自動魔法だ。

「――支配しろ、『賢将の青眼』」

 だが、この程度で倒せるなら、俺はここまで苦労していない。
 そもそも四年前でも、俺とエルディナの差はそこまで大きくなかった。長期戦に持ち込めれば、魔力量が多い俺の方が有利になれた。
 しかしそれでも俺が絶望した理由が、それだ。他ならぬあの眼だ。

「それじゃあ、本気で行くわよ。」
「さっさと来い。ずっとそれを待ってたんだ。」

 エルディナの周りに、精霊が集まってくる。
 精霊は下級であってもそこらの魔法使いより強い。それは精霊が、膨大な魔力量を保有しているからだ。
 だからこそいくら下級であっても、その精霊達の魔力を借り、精霊の協力を得るだけで文字通りのチートだ。

 だが、その眼を相手取る方法はずっと考えていた。そして、そこに一つの答えを出せたから、俺は今こうしてエルディナと戦っている。

「『天雷グランド・サンダー』」

 轟音と共に、空から一筋の光が走る。
 いや、一つではない。数十、下手をしたら百を越えるほどの落雷が、俺へと一斉に放たれた。
 いくら俺でも、このレベルの落雷なら体を雷に変えたところで、体をそのまま魔力に呑まれてやられるだろう。
 故に選択肢は逃げの一択。

「『幻歩ムーブ』」

 俺は一言そう呟く。
 その瞬間に俺の体は勝手に光へとなり、一瞬にして雷が振る地点からエルディナの前へ移動した。

「ッ!『暴風テンペスト』」
「『衝撃インパクト』」

 再び俺の体は自動的に動き、エルディナへと拳を振るうが、直前で自分を風で吹き飛ばして、エルディナはそれを回避した。
 だか、その代わりに降り注ぐ雷は消える。
 かなりの乱暴な回避だ。エルディナは受け身をとるものの、そこまで綺麗に着地はできなかった。

「速い。」

 ポツリとエルディナはそう言った。
 当然だ。俺の動きは事前に決められたもの。人間がコンピュータの演算速度に追いつけないのと同じで、エルディナが追いつけるはずがない。
 体を魔法に変えられる俺だからこそできる戦闘方法だ。

「だけど、対処は難しくないわ。」

 エルディナが俺へ向けて一歩踏み出した瞬間、その足の裏から火が溢れ出る。
 そして瞬く間に会場は火の海となった。
 俺の幻歩ムーブは決して瞬間移動しているわけじゃない。体を光に変えて、その地点へ直線的に進んでいるだけだ。
 高度な魔法は、多少の法則を適用はするが、魔力そのものにダメージを与えられる。
 光に変えた俺の体すらも燃やすだろう。

「しかも、持続性も高いか。」

 精霊達が常に炎を燃やすのを協力し、簡単な魔法をかけても直ぐに復活する。
 消せないこともないが、こっちの消耗の方が大きくなる。
 更にさっきまでの魔法と違って溶け込むにも、炎が強過ぎて俺の炎が異物となる。

「『風の機関銃エア・マシンガン』」

 そして炎の音の中から、微かに声が聞こえた。
 俺の変身魔法で避けれるような魔法を撃つはずがない。だからと言って回避はできない。

「『七重結界セプタプル・セイント』」

 俺は瞬時に7つの結界を俺の周辺に構築した。
 今の俺なら同時展開の数は10を優に超える。しかしこれは、全力を注ぐ程の攻撃ではない。余力を残すべきだ。
 風の弾丸は次々と結界へぶつかり、ヒビを入れ、結界を壊して行くが、2枚を残して攻撃は止まった。

「次だ。」

 明らかに余力を残した牽制の攻撃。ならば本命は別だ。隙を作らせて強力な攻撃を叩き込んでくるはず。
 位置は銃弾を打ち込んだ場所からそう離れていないだろう。大まかな方角は分かる。
 残っている二つの結界をそのまま展開させておいて、次の一撃へ魔力をためる。

「『天風グランド・エア』」

 炎を飲み込み、切り刻み、壊し、暴風が俺へと真っ直線で進んでくる。
 第8階位の魔法、しかも四年前より威力が上がっている。
 こんな魔法使えたら、魔法使いとしては既に一流も一流だ。この年齢で辿り着ける領域にいない。

 しかしそれでも、俺の勝利は揺るぎない。

「『焔鳥ほむらのとり』」

 俺は最初の手札を切った。
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