幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
114 / 474
第五章〜魔法使いは真実の中で〜

9.箱庭の中で

しおりを挟む
 学校とは、箱庭である。
 遥かに広がる世界の中で、隔離されたもう一つの社会だ。

 学年という完全年功序列制が当然のように存在し、殆どの人間が社会に出ても使わないだろう知識を、ひたすらに叩き込まれ続ける。
 しかし勉学だけをやり続ける人間はあまり称賛されず、周りと溶け込む能力がなければ孤立する。
 そして社会に進出する生徒を育てるはずの教師の大多数が、社会を経験した事がない。

 無論、これらの問題は多くの人間には問題にはなりえない。
 しかし、その中でもいわゆる孤立した人間。人と関わる能力が著しく低い人間にとっては、社会人生活と同等、もしくはそれ以上の洗礼を受ける事となる。
 学校とは大多数側を是とし、少数派を下に置くというシステムが形作られるものだからだ。

 故に、学校とは箱庭だ。
 独自のルールにより外の世界とは隔離されているが故に、そこでしか味わえない地獄が広がっている。

「ああ……クソだな。」

 俺は頭をかきながら一人呟く。
 会社というのも割とゴミだが、学校はそれとはベクトルが異なる。自由過ぎるが故に不自由な会社と、不自由過ぎるが故に自由な学校。優劣を決めるのは難しい。
 そもそも学び舎と会社じゃ目的が違うのだから、比較する事自体が間違いなのだが。

「……」

 俺は何も言わずに自分の教室に入って、自分の席に座る。
 誰にも話しかけないし、誰にも話しかけられない。というか無口なよく分からない人間に、意味もなく話しかけるほど暇な人間はいないだろう。
 俺は取り敢えず教室にいる人間を見渡していく。
 教室の各所には数人で人が集まって話し込んでいる。それは男子と女子も一緒だ。そんな中で、俺は一つの女子が集まるグループを見た。

 そのグループでは一人の女子が椅子に座っていて、それを二人の女子が囲んでいた。二人の方の名前は覚えていないが、座ってる方なら分かる。
 不知火光。朝、神楽坂と話していた女の子だ。
 一方的に二人の女子は不知火に話しかけ、不知火はそれを黙って聞いているだけで、会話というには少し違和感が残る。

「ほら、お前らチャイム鳴るぞ。座れ。」

 騒々しいクラスの中、一人の男性教師が教室に入ってきて、ほどなくしてチャイムが鳴った。
 生徒達は急いで自分の席に座っていく。チャイムが鳴り終わる頃には、全員が自分の席に座り終えた。
 それを見て男性教師、即ちこのクラスの担任が何かを話し始める。
 恐らくは大したことのない連絡事項なので軽く聞き流しておき、違う事を考え始める。

 この悪夢が、不知火の自殺によるものだとするのなら、それを回避するのが脱出方法のはずだ。
 単純に虐めを報告するにも、虐めている女子の方は先生からの印象は良い。
 となれば、証拠が必要だ。どんな信用も意味を成さないぐらい決定的な証拠が。

「はい、それじゃあ朝のホームルームは終わります。各自一時間目の準備をしておいてください。」

 そう言って担任の先生は教室を出て行く。すると教室の中はまた騒がしくなっていった。
 不知火が虐められている証拠は、虐められている現場を映像として残すのが一番確実だ。言い訳のしようがないからな。
 しかし、相手もそれを分かっているから、人に見られないように徹底してやっている。

「だが、抜け穴がないわけじゃない。」

 完全犯罪なんていうのは、この情報社会において困難を極める。
 そして虐めなんていうのは、被害者が何もしないから成り立つものだ。もし虐められてる側、不知火が行動を起こしたら。それは成り立たなくなる。

「……よし。」

 覚悟は出来た。いや、覚悟なんて元よりあった。ただ、遥か昔のトラウマが、俺に理由のない恐怖を与えていただけだ。
 この世界から抜け出す為に、不知火を助けなければならない。元よりそれだけだ。





 昼休みの時間になった。
 俺は授業が終わるとすぐに立ち上がり、不知火の席へと向かう。

「不知火、ちょっといいか?」
「え?」

 当然のことだが、俺は今までこういう風に不知火へ話しかけたことはない。不知火が戸惑うことも無理はないだろう。
 だが、生憎と不知火へ配慮する余裕はない。
 いかに早く、これを終わらせられるか。それが最重要なのだから。

「ちょっと話があるんだ。数分で終わるから、ちょっとついてきてくれないか?」
「え、あ、はい。わかり、ました。」

 一瞬、いつも囲まれている女子の方を見て、その後に返事して立ち上がった。
 俺も不知火も目立たない人間だし、二人そろって教室から出ていくのは誰も気に留めなかった。
 人通りが少ない、つまり人に話を聞かれない場所で、アクセスが良い場所となれば俺は一つしか知らない。それは屋上の前の踊り場だ。
 前、神楽坂と話していた場所でもある。ここは俺らぐらいしか滅多に来ない。

「さて、それじゃあ話をしようか。」

 不知火は何も言わない。しかも若干下の方を見ていて目線も合わない。陰キャ、もとい暗い奴特有の立ち回り方だ。
 俺も社会人生活と異世界生活を経験せねば、これと似たようなものだった。
 こういうのは少なくない経験を積まねば外れるものじゃないからな。後に神楽坂によって矯正されるまでそうだったし。

「……まあ、まどろっこしい事は言わずにたん単刀直入に言うぜ。お前、虐められてるだろ?」
「っ!?」

 不知火はその言葉に驚いたのか、下げていた顔を上げて、俺を見た。しかし直ぐに顔を下げる。

「そんなこと、ないです。」

 そして、直ぐに否定した。
 ここまでは想定内だ。認めてくれれば楽だが、こういう状況でパッと言えるような性格なら虐められるはずもない。
 だから俺も迷いなく口を開く。

「ないならそれでいいから。俺の妄想をお前は聞けばいい。」
「……」
「俺は、とても個人的な事情でお前を助けなきゃいけない。それに、不知火が協力してくれれば効率が良い。ただそれだけの話だ。」

 自分自身で変な事を言っている自覚はある。ただ、全ての事情を話した方が余計によく分からないだろう。
 結果的にこういう話し方をする他ない。

「その映像証拠が欲しい。だから――」
「駄目、です。」
「あ?」

 今までずっと黙っていた不知火がいきなり口を開く。
 何も言わないなら兎も角、駄目と、しっかりと否定の言葉を言うなんて思わなかった。そこまで意志の強い人間とは捉えていなかったからだ。

「やめて、ください。私は何もされてません。大丈夫、です。」

 そう言ってその場を不知火は去って行った。
 俺は唖然としてしまって、不知火を追う事はできず、その場に立ち尽くしてしまった。

「真、何やらかしたんだ、お前。」

 くつくつと、笑いながら神楽坂が下の階段から登ってきた。
 死ぬほど見たような性格の悪い顔をしている。

「何だ、また悪行を積み重ねるつもりか?」
「……俺はまだ悪い事は何もしてない。」
「同級生が自殺する夢見る時点で、充分やべえ奴だし、悪行に近えよ。」
「黙れ犯罪者が。」

 神楽坂は適当な階段に座る。足を組んで、上から目線に偉そうに、だ。

「何を話してたなんかは興味ねえが、何か面白そうだ。俺も一枚噛ませろ。」
「嫌だ。お前が絡むと碌な事がねえ。」
「ジュース一本奢るぜ?」
「その程度で釣られるとお前が思っていることが、一番腹立たしいよ。」

 不知火の答えはあまりにも想像だにしないものであった。俺の考えていたプランが崩れ去ってしまう。
 どうする。俺が証拠を自分で用意するのは困難だ。そんなコンパクトにできるなら、当時の俺でも簡単にやっていた。
 それでも、無理矢理にでも証拠を掴まなくてはならない。

「……そうかよ。それじゃあ、いいぜ。」

 神楽坂は手に持つパンを食べ始めた。
 俺はその横で、ただこれから先を思い悩む事しかできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...