幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
113 / 474
第五章〜魔法使いは真実の中で〜

8.悪夢の正体

しおりを挟む
 俺は、アルス・ウァクラートとしての人生も普通ではなかったが、草薙 真としての人生も決して普通の人生ではなかった。
 というか山に捨てられていて、魔力が見えて、というだけで絶対に普通の人生であるはずがない。
 しかし所詮は魔力が見えるだけだ。大体は普通の人間と同じような人生を過ごしたとは思っている。死に方以外はな。

 そんな俺の人生の中で、最も苦しんだ出来事が、高校二年生の時にあったのだ。

 俺は朝起きて、駅へと向かい、電車を使って高校へと向かう。
 この感覚も久しぶりだろう。しかしそれよりも、俺はこの先の杞憂のほうが勝っていた。
 どんな強い敵と戦うより、気が滅入る。

「よう、真。電車で会うのは久しぶりだな。」
「……神楽坂か。」

 俺は一瞬、こいつをぶん殴ろうかと思ったが、その元気すらなく、それを止める。
 その様子を見て、神楽坂は不思議そうな顔をした。

「どうした、随分と元気がないな。いくら火事の翌日にも学校があるからって、気を落とし過ぎじゃないか。」
「うるせえ、犯人。」
「ははは、なーに言ってんだ。俺が高校なんて燃やすわけないだろ。」

 白々しいにも程がある。
 だが、この世界が夢だというのなら、こいつは俺の想像する神楽坂なのかもしれない。
 それなら本物より数段イかれてる可能性も……ないな。本物も大分ヤバかったわ。

「神楽坂、俺のクラスにいる不知火って奴を知ってるか?」
「急にどうした。まさか、惚れたのか? お前が?」
「んなわけねえだろ。いいから、知ってるか知ってないかだけで答えろ。」

 俺は頭に一人の少女の顔を思い浮かべる。これといった特徴のない、眼鏡をかけた大人しい女の子だ。
 名前は不知火しらぬい ひかりと言う。俺と同じクラスであり、加えて言うなら去年も同じクラスだった。

「まあ、知ってるよ。珍しい名字してるし、去年同じクラスだったし。」

 去年は俺と神楽坂は同じクラスで、その不知火も同じクラスだった。関わりは皆無であったが。

「ただ、何故か頭の悪そうな女に囲まれてるよな。」
「頭の悪そうなって……」
「事実だろ?」
「何とも言えねえよ。」

 不知火という人間は、見た目もそうだが、事実大人しい。基本は本を読んでいるし、本が好きだとかを自己紹介で言っていた気がする。
 しかし、そんな彼女の周りには何故か、真逆の性格と言える喋り好きの女子がいるのだ。
 ただし、この程度の違和感などさして気にするほどの事ではない。人の交友関係に首を突っ込む方が野暮ってもんだろう。

「喋るのが好きで、所構わず話す奴は頭が悪い。少なくとも俺はそう思ってる。お前も実際、そういう奴は好きじゃねえだろ。」
「……まあな。」

 クラスの端の端にいるような人間が、ああいう人間の感性を理解できるはずもない。
 理解できるというのなら、そいつは一人になっていないというものであろう。

「んで、結局これはどういう話だよ。最近変な話が多くないか。」
「そんな気にする話じゃねえよ。ほら、着いたぞ。」

 少し大きい振動が来た後に、電車は止まる。開いたドアから俺と神楽坂は降りて、改札の人混みを歩いて行った。

「気にするなって方が無理だろうが。異世界転生の話に、同い年の女子の話。お前がするような話じゃねえ。」
「……まあ、うん。夢で見ただけだよ。」

 追求されるのが面倒くさく、俺はそう咄嗟に嘘をつく。

「何だ? 不知火と一緒に異世界転移する夢か?」
「いいや、転生だ。車に轢かれて死んで異世界転生。」

 本当の事を言ってもいいのだが、あまりに話が長くなり過ぎる。説明する手間を考えるなら、夢という事にした方が楽であろう。

「それじゃ、何で不知火の事が気になってるんだ?」
「……その夢の中じゃ、俺はもう社会人でよ。それで異世界転生するわけなんだが、その時の高校生の記憶に不知火がいたんだ。」
「そんな仲良かったっけ?」
「いーや、全然。」

 話した事もなかったし、永遠に話すつもりもなかった。関わりが持てないのなら、それが一番良かったんだ。

「まあ、その夢の中で不知火は虐められてたわけだよ。」
「……有り得ない話じゃねえってのが、一番嫌な所だな。リアリティがあって気持ち悪い。」

 不知火の周りにいる女子は、一見ただの優しい人間に見えるし、少なくとも教師にとってはずっとそう見えている。
 しかし、両者の性格や趣味などを考えていくなら整合性が合わない。
 何故趣味も性格も合わない人間に、不知火は囲まれている。何故そんなに女子達は不知火へとつきまとう。
 そう考えてしまえば、有り得ない話ではない。

「それは悪夢なんだよ。俺だけがその事実を知ってて、だけど助ける勇気は俺にはなかった。」

 この話は勿論、夢などではない。実際に俺が経験した高校生活の間の話だ。
 俺は魔力が見える。故に、壁越しでもその先にいる生物が何をしているか、何がいるかはなんとなく分かる。
 だから本来なら見つからない完璧な虐めでも、俺には見えてしまった。

「そういう悪夢が、記憶にこびりついて離れないだけだ。」
「そうか。そりゃ、とんだ悪夢だな。」

 改札を出て、直ぐ近くにある高校へと足を進める。
 暗い話をしてしまったからか、少しの間、俺と神楽坂の会話が止まった。

「なあ、神楽坂。今日は何日だっけ。」
「十二日だ。十月十二日火曜日。まだまだ休みは先だぜ。」

 その言葉を反芻させながら、俺は歩く。
 今日は十月十二日。そしてあの時は確か、十月の二十日だ。時間はあまりない。

「そういや、結局夢の中の不知火はどうなったんだよ。お前がヒーローになって救う、なんて三流小説みたいな筋書きじゃないだろうな。」
「死んだ。」
「あ?」

 俺だけが、助けられた。なのに俺すらも、助けなかった。
 それこそが俺の罪であり、俺という人間が完成するに至った最大の理由。俺がこれから数十年囚われ続ける悪夢そのものだ。

「不知火 光は、自殺した。校舎の屋上から、飛び降りて。」

 そしてここが俺の想像する悪夢であるのなら、間違いなくそれは再び起こる。
 それこそが、俺の悪夢の正体なのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...