幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第五章〜魔法使いは真実の中で〜

6.唯一の友達

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 突然と地球の、それも過去に飛んでしまった。正直に言って何も考えたくなかったが、時間が解決するような問題じゃない。
 だから俺は制服を着て、電車に乗って高校へ向かっていったわけだ。
 それで高校内で色々と探ってみたんだが――

「……何もおかしい所は見つからない、か。」

 もしかして、高校に行けば戻れる糸口が見つかるんじゃないか、と思ったがサッパリだ。
 なんせ数十年前だから記憶が朧げだが、大きな変化はないように感じた。何かおかしな奴がいたりだとか、事件が起きたりとかもない。
 結局そのまま昼休みまで、無為な時間を過ごしてしまった。

「わざわざこんな所まで来てぼっち飯かよ。救えねえな。」

 屋上へと通じる階段の踊り場でパンを食べていた所に、一人の男がやってきた。
 黒縁の眼鏡をかけた、目の細い飄々とした男だ。
 背丈は俺より少し低いが、何とも言えない圧を感じてしまう。

「それは、お前もだろうが。」
「俺とお前じゃ条件が違うのだよ。七つの大罪で言うなら俺が怠惰で、お前が嫉妬だ。ぜーんぜん違う。」

 そして、前世の内で俺が胸を張って友達と言える数少ない人間でもある。
 そいつは同じく手にパンを持って隣に座りこんだ。

「ま、同レベルの馬鹿なのは否定しねえが。」

 そう言って自嘲気味に笑った。
 こいつの名前は神楽坂(かぐらざか) 太陽(たいよう)。名前だけ見ると明るそうに見えるが、見ての通り全然そんな事はない。
 前世の、特に性格の悪かった俺と馬が合った男なのだ。碌な人間であるはずもない。

「久しぶりだな、神楽坂。」
「久しぶり? まあ土日を挟んだから久しぶりっちゃ久しぶりだが……なんか違くないか。」
「俺にとっちゃ久しぶりだよ。」

 神楽坂にとっては数日ぶりでも、俺にとっては15年ぶりだ。更に言えばこんな若い頃の面を拝むのも、本当に数十年ぶりだ。
 あまりの懐かしさに、今まで焦っていて、張り詰めていた心が一旦落ち着く。
 神楽坂は信用できる男だ。ちょっと怪しまれるかもしれないが、最悪バレても構わない。説明する手間が増えるだけ。
 ならば、この状況について相談してみるのも悪くない手のはずだ。一人で考え続けても仕方があるまい。

「……ちょっと聞きたい事がある、神楽坂。」
「お前が俺に聞きたい事?」
「そうだよ。くだらない例え話なんだけど。」

 俺は神楽坂という人間をよく知っている。
 こいつは絶対に嘘はつかない。故に人から嫌われるし、下手な人間よりも信用できるのだ。

「もし、もしも、だ。お前が突然、異世界転移に遭遇したとして、どうやれば戻れると思う。」
「ふむ……まあ、世界観にもよるだろ。だけど一番シンプルなのは、その原因を突き詰める事じゃないのか。」
「というと?」
「例えば、神様に転移させられたんなら神様に聞くのが一番早い。召喚主がいるなら召喚主に聞くのが一番早いだろ。」

 となるとやはり、原因究明が急務か。

「そうか、あんがと。」
「何だいきなり。小説でも書きたいのか。」
「書かねえよ。」

 俺をここに呼び寄せた奴。思い当たるものがないわけじゃない。
 第一候補はあの幹部だ。というか高確率でそれだろう。何の理由と意図があって、どういう力でやったのかは見当もつかないが、あそこには俺とあいつしかいなかった。疑うには十分な理由だ。
 そしてもう一つ、怪しい奴はいる。こっちは個人的に違う気もするけど。

「……早退したくなってきた。」

 そうすると俺はもう学校にいる意味がほとんどない。
 俺は絶対に戻る。そして絶対にエルディナとの決勝をやらなくちゃいけない。だからこそ、一分一秒が勿体ないのだ。

「なんだ、真。今日は用でもあるのか。妙にソワソワしてるしよ。」
「あると言えばある。。」

 だけど、先生とかにどう言うかだ。そのまま言ったって信じてくれよう筈もない。注目されて行動を制限される方が面倒だ。
 となると、放課後まで授業を受ける必要があるわけか。

「なるほど。用はあるけど、学校を休めるほどの用件ではないと。」
「端的に言えばそうだな。」
「それなら任せろ。早退させてやるとも。」
「……何言ってんだ、お前。」

 神楽坂はパンを食い切り、立ち上がって俺の前に立つ。

「他ならぬ友人が悩んでいるのなら、助けてやるのが役目だろう?」
「おい待て。嫌な予感がしてきた。」

 こいつが人の為に何かをする、なんてあり得るはずがない。
 絶対に苦労より自分の利益が勝っている場合しか、こいつは人を助けないのだ。それは友人であっても変わりない。
 絶対に自分が一番楽しい形に持っていくはず。

「はーはっはっ! 任せたまえ! この俺に、全てな!」
「待て神楽坂! せめて何をするか説明だけしやがれ!」

 俺の声は虚しく校舎に響くだけで、神楽坂の足を止めることはできなかった。
 瞬く間に階段を降りていき、直ぐに姿は見えなくなる。
 嫌な予感がする。何をやるかは全く分からないが、碌でもない事に違いない。

「……取り敢えず、教室に戻らねえと。」

 昼休みはもう少しで終わる。神楽坂の事は気掛かりだが、変に荒波も立てたくはない。
 俺は教室へと向かうため、階段を降りていく。

 階段を降りていると、突然と大きな音が響いた。周囲の窓は閉まっている。だというのに、煩いと感じるほどの音の大きさだった。
 その数秒後に、けたたましいベルの音が鳴り響いた。
 その頃にやっと、さっきの爆音が、文字通りの爆音であったという事に気がついた。

『化学室で火災が発生しました。生徒は直ちに避難を開始してください。』

 それまた少し経ってから、そう言った声が放送で流れた。教師も驚いているのか、声が焦っているように感じた。
 俺は何故か冷静に、適当な窓から身を乗り出し、化学室の方を見る。
 そこには、大火事とは言えないものの、間違いなく火災が発生しているようであり、俺は項垂れる。

「あいつ、マジかあ。」

 確かに、早退はできるかもしれないけど、おかしいだろそれは。
 頭がおかしいのは知っていたが、ここまで頭がおかしいとは思わなかった。

「次会ったら絶対にぶん殴ってやる。」

 俺はそう愚痴りながら駆け足で校庭の方へ向かって行った。
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