幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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幕間〜瞬きより短きその一瞬を〜

修行の一幕

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「いやあ、やっぱ君もう死ぬんじゃないの?」
「縁起でもねえ事を言うなよ。」

 師匠の家へ戻って、椅子に座ってお茶を啜りながら現状報告をしていたら、直ぐにこう言われた。
 自分でもそんな気がしているから否定もし切れない。

「凄い運命をしているとは思っていたけど、ここまでとはね。僕も想像してなかったから驚きだよ。」
「軽く言うな。マジでこのままだったら俺は死にかねないぞ。」

 今回だって普通に死ぬ一歩手前まで行ったんだ。全員無事だったのが奇跡なぐらいだろう。

「ま、確かにそれも困るね。もし君が死ななくても、こんな短いスパンで傷が増えていけば、魂が摩耗して壊れちゃう。」
「……そういや、回復魔法って魂を削るんだっけか。」
「正確に言うなら魂への負担が大きい、かな。回復魔法って体を無理矢理元の状態に戻しているわけだから。」

 魔法というのはやっぱり万能にみえて万能ではない。
 何でもできる代わりに、相応の代償を求めてくる。誰かを守れる回復魔法は特に、だ。
 どこの世の中でも壊すより戻す方が難しいのは変わりない。

「まあまあ、安心しな。ちょうど良くお守りを作ったんだ。これを君にあげよう。」

 そう言ってよく日本で見たようなお守りを渡される。
 これを見て、聞きたいことがあったのを思い出す。

「そういや、聞きたいことがあったんだ。」
「ん、なんだい?」
「この魔石って何か分かるか?」

 俺が目覚めた時には魔力共有のイヤリングは回収されていたのだが、最初の方に渡された魔石は未だにポケットの中にあったのだ。
 魔力を失っているからもう効果を果たしたんだろうが、一体何の魔道具だったかが分からない。

「うーん……多分治癒の魔石かな。」

 俺が渡した魔石を少し覗き込んで、悩みもせずそう言った。

「所有者が一定以上の負傷をしたら自動で回復魔法を発動する。そんな術式だね。」

 なるほど。気付きはしなかったが、自動で使われていたんだろう。
 あの時は必死だったからあんま覚えてないし。

「相当強い回復魔法が込められてたみたいだし、これを渡した人に感謝した方がいいよ。」
「……感謝ならしてるよ。ただあいつに直接は言いたくないだけでな。」

 だから恩は行動で返す。
 俺が強くなって逆にヘルメスを助けられれば、それでいい。ヘルメスも俺が馬鹿正直に謝るのは期待していないだろう。

「それで、話を戻すけどお守りね。割と強力な魔法を込めてるから、大切にしてくれ。それさえ持ってたら当分は大丈夫だよ。」
「何の魔法が込められてるんだ?」
「それは秘密さ。教えたらつまらない。自分で調べるといい。」
「これも修行って事かよ……」
「魔道具の作成は便利だから覚えておいた方がいいんだよ。学園でも四年生ぐらいには教えてくれるし、ちょっと先取りすると思ってやっておきな。」

 確かにそれは分からないわけでもない。
 他ならぬヘルメスがそれを極めたような奴だ。多種多様な道具で翻弄し、ありとあらゆる状況に対処する。
 あそこまでとは言わなくても、ある程度自分にあった魔道具を作成したりするのも悪くはないだろう。

「まあ、取り敢えず肌身離さず持っておくよ。世界最強の魔法使いが作ったなら信用できる。」
「うん、それ売ったら億とか軽く越えるから気をつけてね。」
「へ?」

 急に仕舞おうとしていたお守りが重くなったような感覚がする。
 手汗が滝のように流れ出て、心臓が破裂しそうなぐらい脈打つ。

「言わなかったら、気にしなかったのに……」
「国によっては国宝になってるんだよ、それ。」
「あーあー! 聞きたくない!」

 いくら命の為とはいえ、使いにくいにも程がある。
 今すぐに返したい気持ちはあるが、これがあればこの短期間の地獄のような生活が何とかなると思ったら手放せない。

「君はやけに貧乏性だね。むしろ持って行って売ろうとは思わないのかい?」
「本当に億を超えてるなら、俺は捌けねえよ。」

 億越えの物がそこらで売れるはずがないし、まず間違いなく大規模な組織と交渉をする必要があるだろう。
 そんな事は俺には無理だ。そんな度胸があるなら、もっと友人は沢山いたと思う。

「それに貰い物を売るほど落ちぶれちゃいない。」
「ま、そうだろうね。君は正しさを愛するタイプだ。それが他者に嫌われる結果を招いても、ね。」

 師匠の手元に急に杖が現れ、そして突然と視界が切り替わる。
 さっきまで家の中にいたのに、気付いたら家の外にいた。恐らくは短距離転移の魔法だろう。

「さて、そろそろ修行パートと行こうぜ。強敵を倒すためにはクソほど映えない鍛錬って相場が決まってる。」
「……まだお茶飲み終わってないんだけど。」
「僕は飲んだ。」
「いや、そういう話じゃねえよ。」

 師匠はとにかく自由奔放だ。ヘルメスとは違い、悪意はなく人を振り回す。
 良く言えば無邪気、悪く言えば空気が読めない。

「闘気の感覚を掴んだんだろう。なら、さっさと使いこなしてもらわないとね。」

 そう言って師匠は杖を俺に向ける。
 俺も反射的に構え、即座に体に闘気を流す。

「君は七大騎士セブンスナイツに会ったんだろう?」
「まあ、ケラケルウスにはな。」
「なら分かったはずだ。アレが世界最高峰の実力だよ。」

 戦う姿こそ、俺は見てはいなかった。
 だがその強さは十分に分かる。今の俺では遠く及ばない事も、だ。

「だけど、アレは頂点じゃない。まだ上がいる。『放浪の王』ゼウス、『無剣』のエーテルに、名も無き組織の幹部たち。そしてこの僕も、だ。」

 そこは俺には想像すらできない世界だ。
 まだ入り口にすら入れていない俺にとって、世界最強クラスの違いなど分かろうはずもない。

「君は最低でも、あのケラケルウスのレベルまでは来てもらわないと困る。」
「……」
「君が、本当に守りたいものがあるのなら。」

 この世界は良くも悪くも弱肉強食だ。魔法というものが世界を便利にした反面、命の価値は地球より遥かに軽い。
 地球とは違って、圧倒的な強さの個人がいるからだ。
 だからこそ俺が全てを、友を守りたいなら、その強者の側に回る他はない。

「……俺が俺である為に、ここに来たんだ。今更やめろなんて言う方が無理ってもんだよ。」
「そう言うと思ったよ。それじゃあ、闘気の使い方を教えてあげよう。」

 師匠は杖を放る。その杖は地面に落ちる事はなく、その寸前で消えて無くなった。
 そして師匠が指を弾き、土でできたゴーレムが現れる。

「君の闘気の練度はまだ低い。ドラゴンの頭を飛ばしたって聞いたけど、アレは色んな支援があって、君の命の危機という事もあって闘気と魔力が昂っていたからだ。」

 魔力は生命エネルギーであり、闘気は運動エネルギーだ。
 魔力は生きる為の力であり、闘気は体を動かす為の力である以上、生命の危機に陥ると急激に能力を増す。
 だからいつも通りの俺ならあの威力の一撃は撃てない。

「祝福眼の神帝の白眼に、強力な付与エンチャントに強化魔法。これだけあれば、たかが危険度8の魔物なら頭は吹き飛ばせる。」
「それを俺一人で出せるようになれ、と?」
「ああ。君は危険度8なんか余裕で倒して、危険度10、いやそれ以上の敵と戦わなくちゃならないんだから。」

 カリティは桁違いに強かった。きっと世界でも最強クラスの戦闘能力を持っている。
 なればこそ、最低でも危険度10は通過しなくてはならないラインだ。

「さーて、楽しい楽しい修行の時間だ! 始めようぜ!」

 その一声でゴーレムが動き始めた。
 まだ夏休みは終わらない。
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