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第四章〜狂いし令嬢と動き始める歯車〜

25.旧代の騎士

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 俺は読み終えたヘルメスの手紙を雑にそこら辺に置く。
 書き方が異様に腹立つのと、信じられない内容だったからだ。

「数百年前の人物が復活して、そしてカリティを追い払ったって?」

 どんな小説のプロローグだよ、それ。
 転生者の俺が言えたことじゃねえが、ファンタジーにもほどがあるだろ。

「そんでそいつがダンジョンの床ぶち破って、そんで地上に帰ったって、無茶苦茶過ぎるわ。」

 ダンジョンの床って第十階位の魔法でも傷つくかどうかって代物だぜ。それを何十階層分も壊すなんて、とてもじゃないが人間技だとは思えねえ。
 というかそもそも本当にそいつは人間なのか。鬼とかそっちの可能性の方が高い気がするんだが。

「わりいな、無茶苦茶で。」
「ああいや、別……に?」

 手紙を読んで深く考え込んでいたせいか、病室に人が入ってきたのに気付かなかった。
 その男は乱暴にそこらの椅子を引っ張って座る。

「……どなたでしょうか?」
「俺はケラケルウスだ。あと、敬語は止めてくれ。商人でも貴族でもねえのに敬語なんざ使うもんじゃねえぜ。」

 ケラケルウス、確か手紙に書いてあった。数百年前の人物であり、俺達を助けた人物だ。
 俺は慌ててベッドの上で正座する。

「ありがとうございました。」

 そして頭を下げた。
 俺の命を、ティルーナとヘルメスの命を助けてくれた恩人だ。感謝してもし切れないほどの大きな恩が、俺はこの男にある。
 ならば何よりも先に頭を下げるのが道理というものだ。

「ティルーナを助けてくれて、本当にありがとうございました。」
「……おめえはまだ子供だ。俺に礼なんか言う必要はねえよ。むしろ命懸けで戦った自分を褒めてやれ。」

 俺がそのままの見た目通りの年齢なら、という話だがな。
 生憎と俺は人より少し長く生きている。体に引っ張られて精神年齢は少し下がったものの、それでも俺は十分に大人だ。
 それ以前に、男として女の一人も守れない方が問題ってのもあるがな。

「頭上げろ。俺は頼み事しにきただけだ。」
「頼み事?」
「そう。まあそれより先に、ちょっとばかし俺の事情を説明する必要があるな。」

 俺は頭をあげ、足を組み替えてあぐらをかいて座る。
 地球なら礼節に欠ける行いだが、平民ってのはこんなもんだ。みんな平等だからみんな態度がでけえ。
 だから一応、これでも礼儀正しい方なのだ。
 良心の塊であるガレウですら敬語が使えないのだから、そういうものと慣れるしかない。

「数百年前、三大国家の一つにも数えられた帝国があった。それこそが俺の祖国、オルゼイ帝国だ。」

 オルゼイ帝国は授業でもやったからよく覚えている。
 もう既に滅びた国であり、七つの騎士団を中心とした軍事国家だったと。

「だが、その後にあった破壊神との戦争でオルゼイ帝国は滅亡しちまった。そこの第一騎士団団長がケラケルウス、つまりは俺ってわけだ。」
「団長って事は、七大騎士セブンスナイツだったのか?」
「その通り。帝国が誇る最強の七人の騎士、それこそが七大騎士セブンスナイツであり、間違いなく俺の事だ。いや、だった、ってのが正しいか。もう帝国は滅んだんだからな。」

 そう言ったケラケルウスの顔は一瞬ではあるが陰るものの、直ぐに気を持ち直して俺の目を見た。

「……だが、帝国は滅んでもその意思はまだ生きている。俺と同じように、七大騎士は未だに生きている。」
「それはつまり、みんなケラケルウスみたいに石像になって、って事か?」
「それは人それぞれだ。互いのやり方で数百年先に来たる厄災に対抗する為に、俺達は眠りについた。」

 歴史上の伝説の存在である七大騎士、その全員が生きているなど信じられない。
 だがそれが本当だとするならば目の前の男の強さにも納得がいく。

「本来なら、その厄災を察知して俺達を起こして回る役割の奴がいたんだが、こうやって俺は起きちまったってわけよ。」
「……それって、かなり駄目なんじゃねえの?」
「当然駄目だな! だが、あのカリティって奴が妙に引っかかる。」

 確かにカリティはケラケルウスの石像を壊しに来ていた。
 無論、関係ない可能性もあるが、疑うには十分な要素であろう。

「何故俺たちが眠りについたのを知っているのか、何故壊そうとするのか、一体何が目的なのか。取り敢えずはそれを知らなきゃ始まらねえ。」

 厄災っていうのが、あのカリティが所属する組織の可能性もあるわけだ。
 それにケラケルウスが最初に襲われたって考えるより、同時に七大騎士(セブンスナイツ)を襲いにかかったと考えた方が妥当だろう。

「それで、ここからがお願いになる。」
「助けてもらったからできる限りの事は協力するつもりだけど、俺よりもティルーナの方が色々できると思うがな。」
「いや、お前にしか頼めない事だ。」

 ティルーナは貴族の令嬢だし、どれを取っても俺より役に立つだろう。
 こちとら金もなければ権力もないし、人に与えられるほどの余裕はないつもりなんだがな。

「やっぱり生きるんだったら、金はいるだろ。だが俺はあんまり目立ちたくない。なんせ命を狙われてるわけだからな。」
「……俺は金は持ってないぞ。」
「違う違う、お前のひいおばあちゃんに取り次いで欲しいって話なんだよ。」

 そこで漸く俺は合点がいった。
 オーディン・ウァクラート、この世界で最も高齢な人物であり、オルゼイ帝国があった時期でも生きていたはずだ。
 昔から有名な人だったろうし、知人である可能性も高いだろう。

「まあ別にいいけど、取り次げるかは分からないぞ。」
「お前はオーディンの曾孫なんだろ?」
「いや確かにそうだが、初対面からまだたった数ヶ月だし、ほとんど会ってない。だからそんなに融通は効かないと思うけどな。」
「んん……まあ、会えればどうとでもなる。忘れてる、なんて事はねえだろうし。」

 流石に会わせるぐらいはできると思う。
 だけど、あっちが俺のことをどう思っているか分からないから、そんなに信用はしていないのだ。
 事実、俺はあの人をひいおばあちゃんと呼んだ事は一度もない。

「それじゃ、すまんが頼むぜ。俺は学園に一番近い宿に泊まってるから、行けそうだったら呼んでくれ。」
「金はないんじゃないのか?」
「お前の仲間からちょっと貰ったよ。ヘルメスってやつにな。」

 そう言ってケラケルウスは病室から出ていった。

「……マジで、意味わかんねえ。」

 カリティが所属する『組織』、ケラケルウスを含む『七大騎士』。正直に言ってあまり現実味はない。
 だが、間違いなく存在するのだと理性は分かっている。ただ信じられないだけで。

「本当だとするなら、やっぱりもっと強くならないとな。」

 俺は重い体をベッドから出し、立ち上がる。そして大きく背伸びして、体をほぐしていく。

「師匠のところに行くか。」

 一通り用事を済ましたら師匠の元へ戻ろう。
 教わりたい事は山ほどあるし、色々と聞きたい事もできてきた。
 何にせよ、昨日みたいな事は二度と起こさせない。その為に俺は、もっと強くならなくちゃいけない。
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