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第四章〜狂いし令嬢と動き始める歯車〜
22.逃走と開戦
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数百年前、世界にはとある帝国が存在した。
他の追従を許さない圧倒的な軍事力と、それにより繰り返される幾度もの侵略戦争。世界最大の国家、グレゼリオン王国に並ぶとも言われた帝国が存在したのだ。
帝国は強き者を尊び、弱者を嫌う。帝国に存在せし数百万の戦士達が最強の座を奪い合う正に修羅の国。
その頂点に立つ事を許されたのが、たった七人の騎士。
それこそが、帝国が誇った七大騎士である。
「君があの七大騎士だって? そんな事あり得るはずがないだろう! 帝国は数百年も前に滅んだ! エルフでもないお前がそんなに若々しい姿を保っていられるはずがない!」
「……数百年前、か。」
ケラケルウスと名乗った男はどこか懐かしむかのようにそう言った。
「俺には、昨日のようだよ。」
ケラケルウスは右手を天に掲げる。
彼には声が聞こえていた。自分の帰還を祝福する声が。
彼には音が聞こえていた。地面を抉り、全てを破壊するような音が。
それは文字通り、ありとあらゆるものを砕き、破壊し、そして今、ここに降り立つ。
「神斧『ブリオン』。我らが皇帝から賜った破壊の斧。神々が作り出した、武器にして兵器。」
それは酷くチグハグであった。
太くはなく、どちらかと言うと細く、丸い柄が伸び、他の戦斧とは比べ物にならないぐらいに刃の部分は巨大だ。
しかしそれは一種の芸術品のようなまとまりを持っており、白を基調とした金と赤の装飾も相まって余計に見るものを魅了させる。
だが、だというのに、それは見るものを恐怖させた。
ケラケルウスの右手に握られたそれは、ティルーナにとっては美しい、それこそ美術館に飾ってあるような芸術品に見えた。しかしカリティには、死神の鎌あるいはもっと恐ろしいナニカに見えていた。
「――そして、お前の命を刈り取る鎌でもある。」
「ッ!!」
幼な子の背丈はあろうその斧を、片手で軽々しく持ち、そして勢いよく地面を蹴り抜いて飛び出る。
カリティは自分に絶対防御があるにも関わらず、恐怖した。恐怖せざるをえなかった。
「束縛しろっ!」
再びカリティの周辺から鎖が飛び出る。今度の鎖はケラケルウスの周辺に来ても壊れず、しっかりとケラケルウスの体を縛った。
「は、ハハ! 舐めるなよ! 俺が本気になれば――」
「脆い。」
だが、それはケラケルウスが少し体を捻っただけで砕かれ、そのまま手に持つ斧がカリティの眼前に迫る。
「やめっ!」
「ぶち壊せッ!」
カリティはその斧にぶつかると同時に大きく弾かれ、そして壁に叩きつけられた。
「……妙な感覚だな。」
ケラケルウスの持つ武器は破壊の斧、本来ならば触れたものが全て量子分解されて消え去る。
だというのに、カリティの肉体は弾かれた。それがケラケルウスの違和感の理由である。
「もう、嫌だ。最悪だよ。ゴミに馬鹿にされて、掘り出し物を見つけたと思ったら殺されかけて。俺以上に不幸な奴はいないんじゃないか?そもそも俺は何も悪いことはしてないのに、何でこんなに責められなくちゃいけないんだよ。後で絶対にあいつに文句を言ってやる……」
グチグチとそう言いながらカリティは立ち上がった。
不満を言いながらもその体には一切傷はなく、相変わらず服に汚れすらない。
「おい、そこのお前! その少女は、今は諦めるさ。今日は状況が悪い。だけどいつか必ず迎えに行って、俺の屋敷に連れて行く。お前も絶対に殺してやる。」
「逃がすと思ってるのか?」
「いや、もう逃げてるよ。俺みたいな弱いやつは逃走経路は常に確保しているからね。」
そう言った瞬間にカリティは姿を消した。ケラケルウスが気配を感知できる外へ、一瞬で。
ケラケルウスは少し落胆し、斧を地面に刺して呟く。
「……逃げられたか。」
ケラケルウスの感知能力はかなり広い。そこから出られるほどの移動能力を持つなら、それはもう追えないのだ。
故に諦めも早く、直ぐに次の行動に移る。
少し唖然とした様子のティルーナの元へ駆け寄り、その前で腰を下げて目線を合わせた。
「すまねえな、嬢ちゃん。大丈夫か?」
「大丈夫、です。それよりも、アルスが、ヘルメスさんがドラゴンと戦ってるんです!助けてください!」
「ほう……なるほど。」
ティルーナは助かったばかりだというのに、いや助かったからこそ、しがみつきながらケラケルウスにそう言った。
目の前の男が誰なのかなど、二人の命に比べればティルーナにとって重要な事ではなかったのだ。
「なら、安心しな嬢ちゃん。」
そう言ってケラケルウスはティルーナの髪を乱暴に撫でる。
そして安心させるようにニカッと笑った。
「そいつは、強いよ。嬢ちゃんのために、人のために限界を越えれるやつだ。」
目が開けられないほどの強い光。
それと引き換えにするような、何かを持っていかれた感覚。
しかしその程度では、俺を止める理由にはなりえない。
「四肢はある。鎖もなくなった。なら、十分だ。」
未だ俺の前にはドラゴンが健在であるものの、俺を縛る鎖はなくなり、あのブレスも消滅した。
原理も理由も分かりゃしねえが、そんな事の考察は後だ。
「『瞬身』『刹那』」
突然と俺の目の前にヘルメスが現れ、そしてドラゴンをその手に持つ短剣で切り裂く。
ドラゴンの体に一文字の傷をつけ、ドラゴンは少し後退するが、未だに無事そうだ。
「ヘルメス!」
「君は、先に行け。こいつは僕一人でやる。」
「馬鹿言えッ! そんな血だらけの体でまともに戦えるわけねえだろ!」
身体中には治りつつあるものの、傷は未だに開いたままであり、後ろ姿であるというのにその痛々しさは十分に伝わってくる。
ティルーナを追いたい気持ちもあるが、ここでヘルメスを置いていけば、ヘルメスも死ぬかもしれない。
「一瞬で片付けるぞ、ヘルメス。そしたらどっちも助けられる。」
「アルス君、それは――」
「俺にこれ以上、仲間を失わさせないでくれ。それに、どうせ俺一人じゃカリティには勝てやしない。」
目の前にいる全てを救いたい。助けたい。失いたくない。傲慢と思うかもしれない。身の丈に合わないと自分でも思う。
だけど、それはみんなが一度は思う事のはずだ。
全員が生き残った方がいいに決まっている。それを諦めないために、俺は今まで生きてきたんだ。
「……わかった。イヤリングや壊れてないかい? 魔力の余裕はどれぐらい?」
「大丈夫だ。魔力はもう半分ぐらいしかないけどよ。」
「十分だよ。あんなに魔力を無駄遣いしてまだ半分も残ってるんだったら、勝機は辛うじてある。」
そう言った瞬間に、ヘルメスの周辺に無数の武具が現れる。
地面に転がっている武具は、この世のありとあらゆる種類の武器と言われても違和感がないほど豊富であり、そして短剣を放って直剣を2本拾う。
「君が今出せる最高の一撃を用意しな。それまで僕が時間を稼ぐ。」
「……了解。信じるぜ、ヘルメス。」
それが勝機があると、ヘルメスが言ったのだ。ならば疑う必要などない。
俺が後ろに下がると同時にヘルメスは前に出た。
「目覚めろ!『神帝の白眼』」
俺は目を閉じた。
ヘルメスの事は見ない。俺の全てを、次の一撃に賭けるのだ。ヘルメスに気をかける余裕などない。
それともう一つ付け加えるなら、闘気は、こっちの方が見やすい。
他の追従を許さない圧倒的な軍事力と、それにより繰り返される幾度もの侵略戦争。世界最大の国家、グレゼリオン王国に並ぶとも言われた帝国が存在したのだ。
帝国は強き者を尊び、弱者を嫌う。帝国に存在せし数百万の戦士達が最強の座を奪い合う正に修羅の国。
その頂点に立つ事を許されたのが、たった七人の騎士。
それこそが、帝国が誇った七大騎士である。
「君があの七大騎士だって? そんな事あり得るはずがないだろう! 帝国は数百年も前に滅んだ! エルフでもないお前がそんなに若々しい姿を保っていられるはずがない!」
「……数百年前、か。」
ケラケルウスと名乗った男はどこか懐かしむかのようにそう言った。
「俺には、昨日のようだよ。」
ケラケルウスは右手を天に掲げる。
彼には声が聞こえていた。自分の帰還を祝福する声が。
彼には音が聞こえていた。地面を抉り、全てを破壊するような音が。
それは文字通り、ありとあらゆるものを砕き、破壊し、そして今、ここに降り立つ。
「神斧『ブリオン』。我らが皇帝から賜った破壊の斧。神々が作り出した、武器にして兵器。」
それは酷くチグハグであった。
太くはなく、どちらかと言うと細く、丸い柄が伸び、他の戦斧とは比べ物にならないぐらいに刃の部分は巨大だ。
しかしそれは一種の芸術品のようなまとまりを持っており、白を基調とした金と赤の装飾も相まって余計に見るものを魅了させる。
だが、だというのに、それは見るものを恐怖させた。
ケラケルウスの右手に握られたそれは、ティルーナにとっては美しい、それこそ美術館に飾ってあるような芸術品に見えた。しかしカリティには、死神の鎌あるいはもっと恐ろしいナニカに見えていた。
「――そして、お前の命を刈り取る鎌でもある。」
「ッ!!」
幼な子の背丈はあろうその斧を、片手で軽々しく持ち、そして勢いよく地面を蹴り抜いて飛び出る。
カリティは自分に絶対防御があるにも関わらず、恐怖した。恐怖せざるをえなかった。
「束縛しろっ!」
再びカリティの周辺から鎖が飛び出る。今度の鎖はケラケルウスの周辺に来ても壊れず、しっかりとケラケルウスの体を縛った。
「は、ハハ! 舐めるなよ! 俺が本気になれば――」
「脆い。」
だが、それはケラケルウスが少し体を捻っただけで砕かれ、そのまま手に持つ斧がカリティの眼前に迫る。
「やめっ!」
「ぶち壊せッ!」
カリティはその斧にぶつかると同時に大きく弾かれ、そして壁に叩きつけられた。
「……妙な感覚だな。」
ケラケルウスの持つ武器は破壊の斧、本来ならば触れたものが全て量子分解されて消え去る。
だというのに、カリティの肉体は弾かれた。それがケラケルウスの違和感の理由である。
「もう、嫌だ。最悪だよ。ゴミに馬鹿にされて、掘り出し物を見つけたと思ったら殺されかけて。俺以上に不幸な奴はいないんじゃないか?そもそも俺は何も悪いことはしてないのに、何でこんなに責められなくちゃいけないんだよ。後で絶対にあいつに文句を言ってやる……」
グチグチとそう言いながらカリティは立ち上がった。
不満を言いながらもその体には一切傷はなく、相変わらず服に汚れすらない。
「おい、そこのお前! その少女は、今は諦めるさ。今日は状況が悪い。だけどいつか必ず迎えに行って、俺の屋敷に連れて行く。お前も絶対に殺してやる。」
「逃がすと思ってるのか?」
「いや、もう逃げてるよ。俺みたいな弱いやつは逃走経路は常に確保しているからね。」
そう言った瞬間にカリティは姿を消した。ケラケルウスが気配を感知できる外へ、一瞬で。
ケラケルウスは少し落胆し、斧を地面に刺して呟く。
「……逃げられたか。」
ケラケルウスの感知能力はかなり広い。そこから出られるほどの移動能力を持つなら、それはもう追えないのだ。
故に諦めも早く、直ぐに次の行動に移る。
少し唖然とした様子のティルーナの元へ駆け寄り、その前で腰を下げて目線を合わせた。
「すまねえな、嬢ちゃん。大丈夫か?」
「大丈夫、です。それよりも、アルスが、ヘルメスさんがドラゴンと戦ってるんです!助けてください!」
「ほう……なるほど。」
ティルーナは助かったばかりだというのに、いや助かったからこそ、しがみつきながらケラケルウスにそう言った。
目の前の男が誰なのかなど、二人の命に比べればティルーナにとって重要な事ではなかったのだ。
「なら、安心しな嬢ちゃん。」
そう言ってケラケルウスはティルーナの髪を乱暴に撫でる。
そして安心させるようにニカッと笑った。
「そいつは、強いよ。嬢ちゃんのために、人のために限界を越えれるやつだ。」
目が開けられないほどの強い光。
それと引き換えにするような、何かを持っていかれた感覚。
しかしその程度では、俺を止める理由にはなりえない。
「四肢はある。鎖もなくなった。なら、十分だ。」
未だ俺の前にはドラゴンが健在であるものの、俺を縛る鎖はなくなり、あのブレスも消滅した。
原理も理由も分かりゃしねえが、そんな事の考察は後だ。
「『瞬身』『刹那』」
突然と俺の目の前にヘルメスが現れ、そしてドラゴンをその手に持つ短剣で切り裂く。
ドラゴンの体に一文字の傷をつけ、ドラゴンは少し後退するが、未だに無事そうだ。
「ヘルメス!」
「君は、先に行け。こいつは僕一人でやる。」
「馬鹿言えッ! そんな血だらけの体でまともに戦えるわけねえだろ!」
身体中には治りつつあるものの、傷は未だに開いたままであり、後ろ姿であるというのにその痛々しさは十分に伝わってくる。
ティルーナを追いたい気持ちもあるが、ここでヘルメスを置いていけば、ヘルメスも死ぬかもしれない。
「一瞬で片付けるぞ、ヘルメス。そしたらどっちも助けられる。」
「アルス君、それは――」
「俺にこれ以上、仲間を失わさせないでくれ。それに、どうせ俺一人じゃカリティには勝てやしない。」
目の前にいる全てを救いたい。助けたい。失いたくない。傲慢と思うかもしれない。身の丈に合わないと自分でも思う。
だけど、それはみんなが一度は思う事のはずだ。
全員が生き残った方がいいに決まっている。それを諦めないために、俺は今まで生きてきたんだ。
「……わかった。イヤリングや壊れてないかい? 魔力の余裕はどれぐらい?」
「大丈夫だ。魔力はもう半分ぐらいしかないけどよ。」
「十分だよ。あんなに魔力を無駄遣いしてまだ半分も残ってるんだったら、勝機は辛うじてある。」
そう言った瞬間に、ヘルメスの周辺に無数の武具が現れる。
地面に転がっている武具は、この世のありとあらゆる種類の武器と言われても違和感がないほど豊富であり、そして短剣を放って直剣を2本拾う。
「君が今出せる最高の一撃を用意しな。それまで僕が時間を稼ぐ。」
「……了解。信じるぜ、ヘルメス。」
それが勝機があると、ヘルメスが言ったのだ。ならば疑う必要などない。
俺が後ろに下がると同時にヘルメスは前に出た。
「目覚めろ!『神帝の白眼』」
俺は目を閉じた。
ヘルメスの事は見ない。俺の全てを、次の一撃に賭けるのだ。ヘルメスに気をかける余裕などない。
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