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第四章〜狂いし令嬢と動き始める歯車〜
4.予言
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夏休みとは、誰であれ甘美なものであろう。
人というのは不思議なもので、永遠に休み続けるのは苦痛に感じ、労働の後の休暇というのは格別に喜ぶもの。
人間とは働く事が存在意義と言ってもいい生物であり、休み続けると働きたくなってくるという人も少なくないはずだ。
斯く言う俺もその例に漏れず、あまりにも長い休暇をもらうと働きたくなるタイプであまり休む事なく仕事をしていた。まあ正確に言うなら、俺に関しては友人が一人しかいない上、家でやる事もなかったから仕事してただけなんだけど。
閑話休題
ともかく、俺が言いたいのは夏休みは素晴らしいという事だ。
夏休みの間にも軽い課題はあるが、それでもこの長期休暇の間、嫌なことから目を逸らせるのはいい事だ。心の余裕というのはそれほどまでに大事だとは思わないだろうか?
「そういうわけで、嫌です。」
「なにが『そういうわけで』、よ。私はあなたの心の中は読めないんだからしっかり言語化なさい。」
「その割にはやたら俺の心読んでません?」
俺の行動が短絡的だからか、それともお嬢様の頭がいいからか俺の行動はよく読まれる。多分両方だろう。
リラーティナの別荘でプールに入ったりして、夕食を食べで寝支度をしていざ寝ようとしたタイミング。そのタイミングで俺とティルーナがお嬢様に呼び出されたのだ。
「……私は、フィルラーナ様の命令なら絶対に従います。」
「命令でなくてお願いよ。というか私はあなたに命令をした事は一度もないのだけれど。」
ティルーナは分かりやすく不機嫌そうに椅子に座っていた。
この部屋にある椅子は少し高く、みんな身長のせいで足が浮いてるため、ティルーナの足は感情を表すようにぷらぷら揺れていた。
「あなた達がそんなに仲が悪いからやるのよ。アルスは私の騎士だし、ティルーナは私の友人。これから先無関係ではいられないでしょう?」
「いや、俺は仲良くなる気はありますよ?」
「こいつが、フィルラーナ様にその命の全てを捧げるというのなら私も仲良くします。」
だからそれは無理だって。
俺は確かにお嬢様に恩義を感じているし尊敬もしているけれども、ティルーナみたいに盲目的に従えってのには無理がある。
俺は俺でやりたい事があって、それを譲ることはお嬢様相手でもできはしない。
「……だからこそ、三人でダンジョンに潜ろうと言っているのよ。」
「そんな方法でティルーナと俺が仲良くなれるとは全く思わないんですけど。」
「いいから、やるわよ。あなたも実戦を積めるのは嬉しいでしょう?」
「いや、そうですけど……」
一応、俺はシルード大陸で実戦経験は積んでいた。というか半ば無理矢理積まされていた。
だけどあの時とは色々と戦い方が違う。師匠に今の戦い方が駄目って言われたというのもあって、色々と模索中だから実戦ができるのはありがたい。
ティルーナがいるということが嫌なのだ。俺の事を批判しかしないからな。
「それじゃあ決定ね。詳細は後で伝えるから今日は寝なさい。」
「はい、分かりました。」
俺は不承不承ながらも、お嬢様の言う事に頷いた。
「……できるだけ早くお願いしますよ。師匠と予定合わさなきゃならないんで。」
「はいはい分かったわ。」
俺とティルーナは部屋の外に出ていく。俺は直ぐに自分の寝る部屋へ戻ろうとしたが、肩を掴まれて俺は足を止めた。
無論、俺の肩を掴んだのはティルーナだ。
いつもの冷たい蔑んだような顔とは違い、真剣で冷静な目だ。
「私は、あなたが嫌いです。」
「知ってるよ。」
「ですが、お嬢様がそのような関係を望んでいない以上、私もあなたを認めなければなりません。」
俺は少し驚く。
改める気がティルーナにあるとは全く思っていなかったからだ。
ならば俺はティルーナへの評価を改める必要があるやもしれない。
変える気があるのに変えられないということは、大体二つのパターンだと思っている。
一つ目は理性が本能に負けているパターン。大体の人間がこっちだと思う。
しかし、俺の考えが正しければティルーナは二つ目。それは――
「私の話を、聞いてください。私がフィルラーナ様を守らなくてはならない、その理由を。」
自分の譲れない考えに、変えたいことがぶつかっている可能性だ。
夏の夜。涼しい風が暑さをほんの少しだけども和らげ、鈴虫の鳴き声が暗闇に響いている。美しい満月の光が輝いており、別荘の外の木々の近くにいる俺とティルーナを照らしていた。
「わざわざここまで連れてきたって事は、知られたくない話ってことか?」
「そうです、ね。これは私の両親も、フィルラーナ様の家族も、誰も知らない話ですから。」
「……今更だけど、それは俺が聞いてもいい話なのか?」
「ええ。元々、隠すような話ではありません。ですが、フィルラーナ様にとっては重要な話です。」
俺は太い木を背にもたれかかり、ティルーナと目を合わせる。
念のために防音の結界を張る。魔力も隠しおけば結界の痕跡も消せる。
ちょっと魔力消費は増えるが、俺の魔力量から考えるなら誤差だ。
「私のアラヴティナ家はリラーティナ家の分家です。同い年であることもあって、子供の頃からよく遊んでいました。あの頃のフィルラーナ様は元気で優しくて、今の才女としての姿はありませんでした。」
元気で、優しいお嬢様?
想像がつかない。産まれた瞬間からあんな性格だと思っていたんだけどな。
冷静で、完成されていて、理想なんかより現実に答えを求める。それが俺のお嬢様へのイメージなのだ。
「それが変わったのは私が四歳の時、私が死ぬはずだった時です。」
「死ぬ、それって一体どういう――」
「話はまだ続いています。さえぎらないでください。」
ティルーナは変わったと言った。つまりはゆっくり変わっていったんじゃなくて、四歳の頃にあの性格になったというわけだ。
どう考えても普通ではない。
何かしらの理由があると考えた方が自然だ。
「私は幼い頃、2型魔力制御障害にかかりました。」
「魔力制御障害って、確か魔力が暴走するやつだよな?」
「ええ。魔力を消耗してなくなる1型と違って、2型は無意識に魔法を発動して自分の体を壊す病気。私の場合は肺が気付かない間に大きく壊れていました。」
ありとあらゆる傷を癒せる回復魔法にも治せない場合が二つある。
1つ目が死んだ人を蘇らせる事はできないということ。2つ目は魔力制御障害のように、魔力の病気は治せないということだ。
「だけど、お前は死んでいない。」
「それが、フィルラーナ様のおかげなのです。」
1型には明確な対処方法が見つかっていないが、2型には対処方法が存在する。
なら何故、ここまで大きく話しているのか。それは発見の難しさがあるのだ。
簡単に言ってしまえば、2型は腹を開かなくてはかかっているか分からない。急死した後に内蔵を調べて初めて判明するのだ。
それを予知するのは普通は不可能。
そう、普通なら。
「フィルラーナ様は運命神の加護の力によって生涯に3度のみ、予言をする事ができます。」
「……ああ。」
「その力で私が死ぬのを予言し、反対を押し切って私を治しました。」
それが、一度目の予言か。
そして自分の騎士の予言で俺を見たのが二度目。
予言の力を知った時に一度目の予言かなんなのか気になってはいたが、まさかこんな事があったとは想像もしていなかった。
「ここまでが、みんなが知っていることです。」
ティルーナは一つの半透明な赤色の石を俺に手渡した。大きさは手でちょうど持てる、野球ボールほどの大きさの。
「そしてここからが、私だけが知っていることです。」
人というのは不思議なもので、永遠に休み続けるのは苦痛に感じ、労働の後の休暇というのは格別に喜ぶもの。
人間とは働く事が存在意義と言ってもいい生物であり、休み続けると働きたくなってくるという人も少なくないはずだ。
斯く言う俺もその例に漏れず、あまりにも長い休暇をもらうと働きたくなるタイプであまり休む事なく仕事をしていた。まあ正確に言うなら、俺に関しては友人が一人しかいない上、家でやる事もなかったから仕事してただけなんだけど。
閑話休題
ともかく、俺が言いたいのは夏休みは素晴らしいという事だ。
夏休みの間にも軽い課題はあるが、それでもこの長期休暇の間、嫌なことから目を逸らせるのはいい事だ。心の余裕というのはそれほどまでに大事だとは思わないだろうか?
「そういうわけで、嫌です。」
「なにが『そういうわけで』、よ。私はあなたの心の中は読めないんだからしっかり言語化なさい。」
「その割にはやたら俺の心読んでません?」
俺の行動が短絡的だからか、それともお嬢様の頭がいいからか俺の行動はよく読まれる。多分両方だろう。
リラーティナの別荘でプールに入ったりして、夕食を食べで寝支度をしていざ寝ようとしたタイミング。そのタイミングで俺とティルーナがお嬢様に呼び出されたのだ。
「……私は、フィルラーナ様の命令なら絶対に従います。」
「命令でなくてお願いよ。というか私はあなたに命令をした事は一度もないのだけれど。」
ティルーナは分かりやすく不機嫌そうに椅子に座っていた。
この部屋にある椅子は少し高く、みんな身長のせいで足が浮いてるため、ティルーナの足は感情を表すようにぷらぷら揺れていた。
「あなた達がそんなに仲が悪いからやるのよ。アルスは私の騎士だし、ティルーナは私の友人。これから先無関係ではいられないでしょう?」
「いや、俺は仲良くなる気はありますよ?」
「こいつが、フィルラーナ様にその命の全てを捧げるというのなら私も仲良くします。」
だからそれは無理だって。
俺は確かにお嬢様に恩義を感じているし尊敬もしているけれども、ティルーナみたいに盲目的に従えってのには無理がある。
俺は俺でやりたい事があって、それを譲ることはお嬢様相手でもできはしない。
「……だからこそ、三人でダンジョンに潜ろうと言っているのよ。」
「そんな方法でティルーナと俺が仲良くなれるとは全く思わないんですけど。」
「いいから、やるわよ。あなたも実戦を積めるのは嬉しいでしょう?」
「いや、そうですけど……」
一応、俺はシルード大陸で実戦経験は積んでいた。というか半ば無理矢理積まされていた。
だけどあの時とは色々と戦い方が違う。師匠に今の戦い方が駄目って言われたというのもあって、色々と模索中だから実戦ができるのはありがたい。
ティルーナがいるということが嫌なのだ。俺の事を批判しかしないからな。
「それじゃあ決定ね。詳細は後で伝えるから今日は寝なさい。」
「はい、分かりました。」
俺は不承不承ながらも、お嬢様の言う事に頷いた。
「……できるだけ早くお願いしますよ。師匠と予定合わさなきゃならないんで。」
「はいはい分かったわ。」
俺とティルーナは部屋の外に出ていく。俺は直ぐに自分の寝る部屋へ戻ろうとしたが、肩を掴まれて俺は足を止めた。
無論、俺の肩を掴んだのはティルーナだ。
いつもの冷たい蔑んだような顔とは違い、真剣で冷静な目だ。
「私は、あなたが嫌いです。」
「知ってるよ。」
「ですが、お嬢様がそのような関係を望んでいない以上、私もあなたを認めなければなりません。」
俺は少し驚く。
改める気がティルーナにあるとは全く思っていなかったからだ。
ならば俺はティルーナへの評価を改める必要があるやもしれない。
変える気があるのに変えられないということは、大体二つのパターンだと思っている。
一つ目は理性が本能に負けているパターン。大体の人間がこっちだと思う。
しかし、俺の考えが正しければティルーナは二つ目。それは――
「私の話を、聞いてください。私がフィルラーナ様を守らなくてはならない、その理由を。」
自分の譲れない考えに、変えたいことがぶつかっている可能性だ。
夏の夜。涼しい風が暑さをほんの少しだけども和らげ、鈴虫の鳴き声が暗闇に響いている。美しい満月の光が輝いており、別荘の外の木々の近くにいる俺とティルーナを照らしていた。
「わざわざここまで連れてきたって事は、知られたくない話ってことか?」
「そうです、ね。これは私の両親も、フィルラーナ様の家族も、誰も知らない話ですから。」
「……今更だけど、それは俺が聞いてもいい話なのか?」
「ええ。元々、隠すような話ではありません。ですが、フィルラーナ様にとっては重要な話です。」
俺は太い木を背にもたれかかり、ティルーナと目を合わせる。
念のために防音の結界を張る。魔力も隠しおけば結界の痕跡も消せる。
ちょっと魔力消費は増えるが、俺の魔力量から考えるなら誤差だ。
「私のアラヴティナ家はリラーティナ家の分家です。同い年であることもあって、子供の頃からよく遊んでいました。あの頃のフィルラーナ様は元気で優しくて、今の才女としての姿はありませんでした。」
元気で、優しいお嬢様?
想像がつかない。産まれた瞬間からあんな性格だと思っていたんだけどな。
冷静で、完成されていて、理想なんかより現実に答えを求める。それが俺のお嬢様へのイメージなのだ。
「それが変わったのは私が四歳の時、私が死ぬはずだった時です。」
「死ぬ、それって一体どういう――」
「話はまだ続いています。さえぎらないでください。」
ティルーナは変わったと言った。つまりはゆっくり変わっていったんじゃなくて、四歳の頃にあの性格になったというわけだ。
どう考えても普通ではない。
何かしらの理由があると考えた方が自然だ。
「私は幼い頃、2型魔力制御障害にかかりました。」
「魔力制御障害って、確か魔力が暴走するやつだよな?」
「ええ。魔力を消耗してなくなる1型と違って、2型は無意識に魔法を発動して自分の体を壊す病気。私の場合は肺が気付かない間に大きく壊れていました。」
ありとあらゆる傷を癒せる回復魔法にも治せない場合が二つある。
1つ目が死んだ人を蘇らせる事はできないということ。2つ目は魔力制御障害のように、魔力の病気は治せないということだ。
「だけど、お前は死んでいない。」
「それが、フィルラーナ様のおかげなのです。」
1型には明確な対処方法が見つかっていないが、2型には対処方法が存在する。
なら何故、ここまで大きく話しているのか。それは発見の難しさがあるのだ。
簡単に言ってしまえば、2型は腹を開かなくてはかかっているか分からない。急死した後に内蔵を調べて初めて判明するのだ。
それを予知するのは普通は不可能。
そう、普通なら。
「フィルラーナ様は運命神の加護の力によって生涯に3度のみ、予言をする事ができます。」
「……ああ。」
「その力で私が死ぬのを予言し、反対を押し切って私を治しました。」
それが、一度目の予言か。
そして自分の騎士の予言で俺を見たのが二度目。
予言の力を知った時に一度目の予言かなんなのか気になってはいたが、まさかこんな事があったとは想像もしていなかった。
「ここまでが、みんなが知っていることです。」
ティルーナは一つの半透明な赤色の石を俺に手渡した。大きさは手でちょうど持てる、野球ボールほどの大きさの。
「そしてここからが、私だけが知っていることです。」
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