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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜

19.弟子入り

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 手紙は簡潔にとある場所に来るように指定していた。
 グレぜリオン王国内のとある山だ
 通称『英雄王の修練場』。『英雄王』ジン・アルカッセルが修練のために使った地。
 英雄王が修練のために使ったのと、それに倣い様々な人がこの山に集まった結果。山ごとダンジョン化してしまった奇特な場所だ。

 しかし最近は閉鎖されており、立ち入りが禁止されている。
 ギルドも立ち入り禁止に協力しており、山の周りには結界が張っているのもあって本来は入れないはずなのだが。

「……入れるなあ。」

 試しに触ってみたけど、普通に入れてしまった。
 結界が壊れているというより、俺の侵入を結界が許可しているような感じがする。
 識別する結界って作るの大変なんだけどなあ。やっぱり賢神ってすごい。

「というかなんでこんな場所に呼び出したんだよ。俺が変身魔法持ってて、夏休みじゃなけりゃ絶対いけなかったぞ。」

 王都の方にある山だし、体を風にしてきたんだけどそこそこかかるし。夏休みじゃなきゃあんまり来たくもない。
 というか手紙に場所指定がしてあるだけで、俺の師匠(予定)の情報が一切載っていない。
 賢神は数少ないが、絞るにしては数が多い。確か今は数千人ぐらいいるらしいし。

「ダンジョンの割には魔力が少ないな。これは魔物もそんなに多くないんじゃないか?」

 魔力が少ないダンジョンは大体魔物の数も少ないし、強い魔物がいない場合がほとんどだ。
 ダンジョンの中を進むってことでビビッてたけど、大丈夫そうだな。

「よし、そうとなれば変身魔法でさっさと……うん?」

 大地が揺れ始める。地震だ。
 この世界に来てからはあんまりなかったんだけど、これはかなり強いな。震度四ぐらい……いや、おかしくね?
 明らかになんか近付いているような感じがあるぞ。
 更に揺れが強くなって木々が折れるような音がする。
 どう考えても地震じゃないぞこれ。

「ワイバーンじゃねえか!」

 どっちかっていうと鳥に近いタイプの、二足と翼と一体化した腕を持つ爬虫類のような鱗をもつ魔物。
 魔物の中のドラゴンはやっぱり魔物の中でも強い部類だ。
 勿論、一般的な竜の形とは違うワイバーンであってもその例に漏れることはない。

「煉獄剣、は山火事になるから……『三叉槍』ッ!」

 三つに先が分かれた水の槍を俺は全力で投げつけワイバーンへと刺さる。
 そしてその場所を起点として槍から水が溢れ出し、翼を締め付ける。

「逃げるが勝ちってな!」

 そして手間取っているうちに俺は逃げだす。
 山の中歩いてたら適当に拾ってくれると思ってたのに全然来ねえじゃねえか。
 なんだ、遠回しに殺そうとしてたのかよこん畜生。
 もしかしてひいおばあちゃんへの敬意が足りなかったからか。
 だとしたらあの人容赦なさすぎだろ。

『助けて、ほしいかい』
「え、神様?」
『残念ながら違うね。ちょっと惜しいけれども』

 直接脳内に声が響く。
 少なくともそんな超越者的なことができるのは神様だけだと思ったんだけど。
 というかこの声聞いた事あるぞ。しかも最近に。

「助けるならさっさと助けてくれ! どう考えても死ぬ数分前だろうが!」
『いや、見てて面白いからもう少し粘ってみてもいいんじゃない?』
「お前はな!? 俺は楽しくねえよ!」

 くっそこいつ性格相当悪いぞ。
 人間としての人格を形成するうえで大切な部分をどぶ沼に捨ててやがる。

『しょうがないなあ。もしかしたら君も吹き飛ばすかもだけど、命に比べれば安いよね!』
「おーい、こいつ人間で遊ぶとかいう業が深いことしてるぞ!」
『それじゃ、普通に。』

 輝く閃光が、まるで流れ星が如くワイバーンを貫いた。その一撃でワイバーンは死亡し、チリとなって消えていく。
 俺は思わず空を見上げる。そこには黒い長髪の男とも女かも分からない中性的な人が浮かんでいた。

「さーて、数日ぶりだねアルス君。」
「お前は……闘技場の、占い師?」

 見た目の癖が強かったし、インパクトがあったからよく覚えている。
 占いの結果とかはその後の出来事が色々ありすぎて忘れちゃったけど。

「そうだよ。覚えてくれていて嬉しいねえ。」
「まさか、お前があの手紙の主か?」
「もちろん。君がどうしても強くなりたいなら、僕が弟子に取ってやってもいいかなってね。」

 占い師は空中からふわりと着地する。
 賢神なのだから相当に魔法に長けているのだろう。事実、あのワイバーンを簡単に一撃で倒していた。その実力は疑う余地もない。
 だが、どう考えても常識人には見えない。
 もうちょっと理性的で、常識がある大人を想像していたんだが。

「さーてさて、そろそろみんなも僕の正体が気になっている事だろう?もしかしたらもう勘付いている人もいるかもしれないけど。」
「みんなって、俺しかここにはいないぞ。」
「やだなあ、視野が狭い。僕はもうちょっと次元を越えた視点から考えているんだよ。」

 ……? 何を言っているんだこいつは。

「自己紹介といこうじゃないか。僕は君の事をなんとなく知っているが、こういうのは形式が大事だらかね。君も自己紹介をしてくれ。」
「あー、うん。アルス・ウァクラートだ。魔法を教えてもらいに来た。」

 色々とツッコミたくはなったが、取り敢えず教えてもらう身分だ。
 短く簡単に自己紹介をした。

「簡潔で素晴らしいね。ならば君が短い分、僕は長めに自己紹介をしようか。」
「いや別にその必要は……」
「僕の情報は大切だぜ。僕滅多に自分で自分のことを説明しない。だから大人しく聞いておきな。」

 薄く笑みを浮かべて、そして壮大げに腕を広げた。

「遥か昔。破壊神と人は大戦争を起こし、そして人が勝利した。その時に戦った七人の英雄は『七星』と呼ばれる。」

 それは俺も知っている。
 有名な英雄だし、流石にそれぐらいは全員覚えた。

「ただ、実は歴史の陰に隠れた八人目がいたんだよ。『英雄王』にして『十代目勇者』のジン・アルカッセルの双子の兄弟にして、最強の魔法使い。魔導の求道者、ミラ・ウォルリナの唯一の弟子。」

 芝居じみた言い方をして、そう言い切った後にその黒い目が俺を射抜く。

「名乗らせて頂こう。賢神十冠が一人、『冠位魔導化学科ロード・オブ・ケミストリー』にして賢神序列。」

 賢神の第一席。それはつまり全魔法使い最強である事の証明。
 俺は思わず唾を飲み込む。

「『天才』レイ・アルカッセル。どうぞ、よろしく。」

 そうやって出された右手を俺は震えながら握った。
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