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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
15.俺の幸せを
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決勝の後、俺は学園に戻っていた。
疲れ切って、ボロボロになった体を癒すために屋上の柵にもたれかかって、美しい星空を見ていた。
「明日、五年生の試合かあ。」
正直言ってアレを凌駕する奴が五年生にいるとは思えない。
今日来なかった人には申し訳ないが、アレが今回の最高峰であろう。
二週目のズルを使った俺とは違って、純正の天才。
紛い物の天才である俺とは違う、天才という名の化け物。
もちろん彼女も努力をしただろう。しかし彼女と同程度の努力を他人がしたとして、第十階位の魔法が使えるかという話だ。
はっきり言おう、無理だ。そんなのできるわけがない。
「もっと、いけると思ったんだけどなあ。」
まさか俺と同世代で第十階位を使える奴がいるなんて思いもしなかった。
「随分と、こっ酷く負けたじゃねーの。」
「……お前が言うか。」
隣に一人が座る。アースだ。
いつも通り胸を張って、俺を小馬鹿にする様に話している。
「トーナメントにさえいけなかったくせによ。」
「言ってるだろーが。俺様は前線で戦うタイプじゃねーの。」
それに今回は相手が悪かった。負けても仕方がないというものだ。
むしろ健闘した方だ。間違いなく賢神、それどころか世界のトップクラスの魔法使いになれるような逸材だ。
これから更に成長するだろうし、その成長スピードに間違いなく俺はついていけない。
「……で、どうすんの?」
「どうすんのって?」
「決まってんだろ。エルディナに勝ちにいくのか、それとも諦めるのか。五年生の時、もう一回大会はあるんだぜ?」
そう言いながらアースは懐から袋を出して、その中のクッキーを取り出して食べ始める。
なんだそれ。
「なにそのクッキー。」
「俺様の専属メイドが作ったやつ。闘技場で王都行った時に渡された。食べる?」
「……それじゃもらうわ。」
そのクッキーは普通に店とかに売ってそうなものだった。
手ごろなサイズで、どっちかっていうと小さいかも?まあ子供用だからか。
「で、どーすんの?」
「いやなあ、勝てる気しねえんだよ。化け物じゃん?」
「ま、そーだな。俺の幼馴染だけどおかしいと思う。」
エルディナ様に勝てるなんて考えてるやつ多分同学年にいないだろ。
地球で例えるなら将来の徒競走のオリンピック選手に50メートル走で負けたようなもんだ。
そんなに悔しくなくない?
「だから、俺は二番ぐらいで満足するよ。」
「ふーん。まあ妥当で効率的な判断だな。俺様だって敵わない敵からは逃げるし。」
そう言いながら袋を置いてアースは立ち上がる。
「だけどな、アルス。お前はそうなるな。」
「――は?」
思いがけない言葉に俺は固まる。
そのまま特に何もなく、この話は終わるのだと思っていたからだ。
「お前は妙に大人っぽいからよ、物事を複雑に考え過ぎなんだよ。」
「まさか、俺にあの化け物を越えろと?」
「ああ、そう言ってる。」
無理だ。アースは魔法が大して使えないから俺とエルディナ様の差が分からないのだ。
大人と子供ほどの差が俺とエルディナ様の間には存在するというのに。
「いいか、アルス。俺様はいつかこの国全ての命を背負う国王になる。俺様の失敗は民が苦しむこと全て。俺様の成功は民が幸せになれる全てのことだ。」
「それが、どうしたよ。」
「お前の成功は人を幸せにすることだ。なら、お前の失敗はなんだ。」
「そりゃ、人を幸せにできなかった時だろ。」
そう考えてみれば俺とアースの夢は同系統なのかもしれない。
人を幸せにするという一点において。
「ああ、そうだ。ただ俺様もだが、その夢には自棄のようなものがある。その幸せの中に己は入っていない。」
それも、分からなくはない。
多少ばかりの俺はどうなってもいい、そういう意思があるのには間違いはない。
「なら、アルス。お前の幸せってなんだ?」
「それはだから、俺が人を幸せにすることだろ。」
「じゃあ、なんでお前は学園にいる。ここにいて、確かに強くなれるかもしれない。だけどお前がここにいるのはそれだけじゃないはずだろ?」
その質問への答えは、俺の想像より遥かにスッと入ってきた。
元より自分も分かっていたのだ。ただ意識しなかっただけで。
「夢と、お前の幸せは別だ。お前の夢は夢で、お前の幸せは幸せでそれぞれ追い求めればいいんだよ。」
俺の幸せは、ここにいる友達やお嬢様と好きにやることだ。
それは前世では決して得られなかったもので、ずっと欲しかったものだったのだ。
「だから、もう一度聞くぜ。お前は何をしたい。お前の紛れもない本心が聞きたいんだ。」
それを求めていいなら、当然求めるに決まっている。
「実現できるかなんて考えるな! お前がどうありたいかだけで考えろ! それが間違いなく、お前の幸せだろーが!」
正直言って、今でも勝てる気はしない。だけど一度でもアレに勝てる自分を想像して、それができるのではないかと考えたなら。
思わずにはいられない。
だってそれが一番、かっこいいじゃねえか。
「勝ちたい……勝ちてえよ。俺だって、あの景色を見てみたいんだ。あんな魔法が使えたら、きっと楽しいに違えねえ。」
吐き出すように俺はそう言った。
ああ、俺は悔しかったのだ。だけど悔しくなるなんて事を、恥ずかしいなんて、心の奥底の何処かで思っていたんだ。
だからむごたらしく言い訳なんかして、夢を諦める理由になんかに使って。ダサいったらありゃしない。
「……すまねえな。アース。随分と難しく考えてたみたいだ。」
「だからそう言ったろうよ。俺様にあんなこと言ったんだ。お前が先に抜けるのは許さねえよ。」
「はは、そりゃそうだ。」
確かに遥かなる高みだ。俺は何度もくじけそうになるだろう。諦めたくなるだろう。
だけど、それを乗り越えて、その先に辿り着いた時。どれだけ楽しいかなんて想像できやしない。
「ちょっと闘技場行ってくる。多分、フランもまだそこにいんだろ。」
「……何しに行くんだ?」
「ちょっと、宣戦布告しに。」
俺は笑いながらそう言った。
疲れ切って、ボロボロになった体を癒すために屋上の柵にもたれかかって、美しい星空を見ていた。
「明日、五年生の試合かあ。」
正直言ってアレを凌駕する奴が五年生にいるとは思えない。
今日来なかった人には申し訳ないが、アレが今回の最高峰であろう。
二週目のズルを使った俺とは違って、純正の天才。
紛い物の天才である俺とは違う、天才という名の化け物。
もちろん彼女も努力をしただろう。しかし彼女と同程度の努力を他人がしたとして、第十階位の魔法が使えるかという話だ。
はっきり言おう、無理だ。そんなのできるわけがない。
「もっと、いけると思ったんだけどなあ。」
まさか俺と同世代で第十階位を使える奴がいるなんて思いもしなかった。
「随分と、こっ酷く負けたじゃねーの。」
「……お前が言うか。」
隣に一人が座る。アースだ。
いつも通り胸を張って、俺を小馬鹿にする様に話している。
「トーナメントにさえいけなかったくせによ。」
「言ってるだろーが。俺様は前線で戦うタイプじゃねーの。」
それに今回は相手が悪かった。負けても仕方がないというものだ。
むしろ健闘した方だ。間違いなく賢神、それどころか世界のトップクラスの魔法使いになれるような逸材だ。
これから更に成長するだろうし、その成長スピードに間違いなく俺はついていけない。
「……で、どうすんの?」
「どうすんのって?」
「決まってんだろ。エルディナに勝ちにいくのか、それとも諦めるのか。五年生の時、もう一回大会はあるんだぜ?」
そう言いながらアースは懐から袋を出して、その中のクッキーを取り出して食べ始める。
なんだそれ。
「なにそのクッキー。」
「俺様の専属メイドが作ったやつ。闘技場で王都行った時に渡された。食べる?」
「……それじゃもらうわ。」
そのクッキーは普通に店とかに売ってそうなものだった。
手ごろなサイズで、どっちかっていうと小さいかも?まあ子供用だからか。
「で、どーすんの?」
「いやなあ、勝てる気しねえんだよ。化け物じゃん?」
「ま、そーだな。俺の幼馴染だけどおかしいと思う。」
エルディナ様に勝てるなんて考えてるやつ多分同学年にいないだろ。
地球で例えるなら将来の徒競走のオリンピック選手に50メートル走で負けたようなもんだ。
そんなに悔しくなくない?
「だから、俺は二番ぐらいで満足するよ。」
「ふーん。まあ妥当で効率的な判断だな。俺様だって敵わない敵からは逃げるし。」
そう言いながら袋を置いてアースは立ち上がる。
「だけどな、アルス。お前はそうなるな。」
「――は?」
思いがけない言葉に俺は固まる。
そのまま特に何もなく、この話は終わるのだと思っていたからだ。
「お前は妙に大人っぽいからよ、物事を複雑に考え過ぎなんだよ。」
「まさか、俺にあの化け物を越えろと?」
「ああ、そう言ってる。」
無理だ。アースは魔法が大して使えないから俺とエルディナ様の差が分からないのだ。
大人と子供ほどの差が俺とエルディナ様の間には存在するというのに。
「いいか、アルス。俺様はいつかこの国全ての命を背負う国王になる。俺様の失敗は民が苦しむこと全て。俺様の成功は民が幸せになれる全てのことだ。」
「それが、どうしたよ。」
「お前の成功は人を幸せにすることだ。なら、お前の失敗はなんだ。」
「そりゃ、人を幸せにできなかった時だろ。」
そう考えてみれば俺とアースの夢は同系統なのかもしれない。
人を幸せにするという一点において。
「ああ、そうだ。ただ俺様もだが、その夢には自棄のようなものがある。その幸せの中に己は入っていない。」
それも、分からなくはない。
多少ばかりの俺はどうなってもいい、そういう意思があるのには間違いはない。
「なら、アルス。お前の幸せってなんだ?」
「それはだから、俺が人を幸せにすることだろ。」
「じゃあ、なんでお前は学園にいる。ここにいて、確かに強くなれるかもしれない。だけどお前がここにいるのはそれだけじゃないはずだろ?」
その質問への答えは、俺の想像より遥かにスッと入ってきた。
元より自分も分かっていたのだ。ただ意識しなかっただけで。
「夢と、お前の幸せは別だ。お前の夢は夢で、お前の幸せは幸せでそれぞれ追い求めればいいんだよ。」
俺の幸せは、ここにいる友達やお嬢様と好きにやることだ。
それは前世では決して得られなかったもので、ずっと欲しかったものだったのだ。
「だから、もう一度聞くぜ。お前は何をしたい。お前の紛れもない本心が聞きたいんだ。」
それを求めていいなら、当然求めるに決まっている。
「実現できるかなんて考えるな! お前がどうありたいかだけで考えろ! それが間違いなく、お前の幸せだろーが!」
正直言って、今でも勝てる気はしない。だけど一度でもアレに勝てる自分を想像して、それができるのではないかと考えたなら。
思わずにはいられない。
だってそれが一番、かっこいいじゃねえか。
「勝ちたい……勝ちてえよ。俺だって、あの景色を見てみたいんだ。あんな魔法が使えたら、きっと楽しいに違えねえ。」
吐き出すように俺はそう言った。
ああ、俺は悔しかったのだ。だけど悔しくなるなんて事を、恥ずかしいなんて、心の奥底の何処かで思っていたんだ。
だからむごたらしく言い訳なんかして、夢を諦める理由になんかに使って。ダサいったらありゃしない。
「……すまねえな。アース。随分と難しく考えてたみたいだ。」
「だからそう言ったろうよ。俺様にあんなこと言ったんだ。お前が先に抜けるのは許さねえよ。」
「はは、そりゃそうだ。」
確かに遥かなる高みだ。俺は何度もくじけそうになるだろう。諦めたくなるだろう。
だけど、それを乗り越えて、その先に辿り着いた時。どれだけ楽しいかなんて想像できやしない。
「ちょっと闘技場行ってくる。多分、フランもまだそこにいんだろ。」
「……何しに行くんだ?」
「ちょっと、宣戦布告しに。」
俺は笑いながらそう言った。
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