幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
65 / 474
第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜

15.俺の幸せを

しおりを挟む
 決勝の後、俺は学園に戻っていた。
 疲れ切って、ボロボロになった体を癒すために屋上の柵にもたれかかって、美しい星空を見ていた。

「明日、五年生の試合かあ。」

 正直言ってアレを凌駕する奴が五年生にいるとは思えない。
 今日来なかった人には申し訳ないが、アレが今回の最高峰であろう。
 二週目のズルを使った俺とは違って、純正の天才。
 紛い物の天才である俺とは違う、天才という名の化け物。
 もちろん彼女も努力をしただろう。しかし彼女と同程度の努力を他人がしたとして、第十階位の魔法が使えるかという話だ。
 はっきり言おう、無理だ。そんなのできるわけがない。

「もっと、いけると思ったんだけどなあ。」

 まさか俺と同世代で第十階位を使える奴がいるなんて思いもしなかった。

「随分と、こっ酷く負けたじゃねーの。」
「……お前が言うか。」

 隣に一人が座る。アースだ。
 いつも通り胸を張って、俺を小馬鹿にする様に話している。

「トーナメントにさえいけなかったくせによ。」
「言ってるだろーが。俺様は前線で戦うタイプじゃねーの。」

 それに今回は相手が悪かった。負けても仕方がないというものだ。
 むしろ健闘した方だ。間違いなく賢神、それどころか世界のトップクラスの魔法使いになれるような逸材だ。
 これから更に成長するだろうし、その成長スピードに間違いなく俺はついていけない。

「……で、どうすんの?」
「どうすんのって?」
「決まってんだろ。エルディナに勝ちにいくのか、それとも諦めるのか。五年生の時、もう一回大会はあるんだぜ?」

 そう言いながらアースは懐から袋を出して、その中のクッキーを取り出して食べ始める。
 なんだそれ。

「なにそのクッキー。」
「俺様の専属メイドが作ったやつ。闘技場で王都行った時に渡された。食べる?」
「……それじゃもらうわ。」

 そのクッキーは普通に店とかに売ってそうなものだった。
 手ごろなサイズで、どっちかっていうと小さいかも?まあ子供用だからか。

「で、どーすんの?」
「いやなあ、勝てる気しねえんだよ。化け物じゃん?」
「ま、そーだな。俺の幼馴染だけどおかしいと思う。」

 エルディナ様に勝てるなんて考えてるやつ多分同学年にいないだろ。
 地球で例えるなら将来の徒競走のオリンピック選手に50メートル走で負けたようなもんだ。
 そんなに悔しくなくない?

「だから、俺は二番ぐらいで満足するよ。」
「ふーん。まあ妥当で効率的な判断だな。俺様だって敵わない敵からは逃げるし。」

 そう言いながら袋を置いてアースは立ち上がる。

「だけどな、アルス。お前はそうなるな。」
「――は?」

 思いがけない言葉に俺は固まる。
 そのまま特に何もなく、この話は終わるのだと思っていたからだ。

「お前は妙に大人っぽいからよ、物事を複雑に考え過ぎなんだよ。」
「まさか、俺にあの化け物を越えろと?」
「ああ、そう言ってる。」

 無理だ。アースは魔法が大して使えないから俺とエルディナ様の差が分からないのだ。
 大人と子供ほどの差が俺とエルディナ様の間には存在するというのに。

「いいか、アルス。俺様はいつかこの国全ての命を背負う国王になる。俺様の失敗は民が苦しむこと全て。俺様の成功は民が幸せになれる全てのことだ。」
「それが、どうしたよ。」
「お前の成功は人を幸せにすることだ。なら、お前の失敗はなんだ。」
「そりゃ、人を幸せにできなかった時だろ。」

 そう考えてみれば俺とアースの夢は同系統なのかもしれない。
 人を幸せにするという一点において。

「ああ、そうだ。ただ俺様もだが、その夢には自棄のようなものがある。その幸せの中に己は入っていない。」

 それも、分からなくはない。
 多少ばかりの俺はどうなってもいい、そういう意思があるのには間違いはない。

「なら、アルス。お前の幸せってなんだ?」
「それはだから、俺が人を幸せにすることだろ。」
「じゃあ、なんでお前は学園にいる。ここにいて、確かに強くなれるかもしれない。だけどお前がここにいるのはそれだけじゃないはずだろ?」

 その質問への答えは、俺の想像より遥かにスッと入ってきた。
 元より自分も分かっていたのだ。ただ意識しなかっただけで。

「夢と、お前の幸せは別だ。お前の夢は夢で、お前の幸せは幸せでそれぞれ追い求めればいいんだよ。」

 俺の幸せは、ここにいる友達やお嬢様と好きにやることだ。
 それは前世では決して得られなかったもので、ずっと欲しかったものだったのだ。

「だから、もう一度聞くぜ。お前は何をしたい。お前の紛れもない本心が聞きたいんだ。」

 それを求めていいなら、当然求めるに決まっている。

「実現できるかなんて考えるな! お前がどうありたいかだけで考えろ! それが間違いなく、お前の幸せだろーが!」

 正直言って、今でも勝てる気はしない。だけど一度でもアレに勝てる自分を想像して、それができるのではないかと考えたなら。
 思わずにはいられない。
 だってそれが一番、

「勝ちたい……勝ちてえよ。俺だって、あの景色を見てみたいんだ。あんな魔法が使えたら、きっと楽しいに違えねえ。」

 吐き出すように俺はそう言った。
 ああ、俺は悔しかったのだ。だけど悔しくなるなんて事を、恥ずかしいなんて、心の奥底の何処かで思っていたんだ。
 だからむごたらしく言い訳なんかして、夢を諦める理由になんかに使って。ダサいったらありゃしない。

「……すまねえな。アース。随分と難しく考えてたみたいだ。」
「だからそう言ったろうよ。俺様にあんなこと言ったんだ。お前が先に抜けるのは許さねえよ。」
「はは、そりゃそうだ。」

 確かに遥かなる高みだ。俺は何度もくじけそうになるだろう。諦めたくなるだろう。
 だけど、それを乗り越えて、その先に辿り着いた時。どれだけ楽しいかなんて想像できやしない。

「ちょっと闘技場行ってくる。多分、フランもまだそこにいんだろ。」
「……何しに行くんだ?」
「ちょっと、宣戦布告しに。」

 俺は笑いながらそう言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく
ファンタジー
あらすじ 中世ヨーロッパによく似た国、エルテンシア国… かつてその国で、我が身を犠牲にしながらも国を救った 王女がいた…。 その後…100年、国は王女復活を信じて待ち続ける。 カクヨム、小説家になろうにも同時掲載してます。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...