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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
13.精霊
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火炎が辺りを包み込み、エルディナ様の周辺には赤、青、緑、黄と様々な色の光が飛び回っている。
あんなもの、俺は見たことがないし知りもしない。それにこの大規模な魔法はさっきまでの魔力を節約している様子とは大きくかけ離れる。
炎となってその火炎に紛れながら常に移動しているが、全くと言っていいほどエルディナ様の眼の正体が分からない。
「私にここまで出させたのは貴方が初めてよ! やっぱり貴方は他とは違うわ!」
嬉しそうに無邪気な子供のように、いや、子供なのだ。相手は十歳の子供。
自分の全力が出せるのが楽しい、全力で戦えるのが楽しいのだろう。俺には分からない感情ではあるが。
「だからこそ、全力で戦って、私が勝つ。」
辺りに舞う火炎が揺れ、その全てがエルディナ様の頭上へと集まっていく。
集まる炎は高密度の炎の球へとなっていき、そしてまるで一つの太陽のようになっていく。
「一発目、いくわよ。」
直視できないほどの光を発する炎は、大体一メートルほどの直径の球に落ち着いた。
俺は既に体を元に戻し、魔力を集中させている。
アレは、ヤバい。まともに受けたら結界があっても死にかねない。
「『天炎』」
「『三叉槍』ッ!!」
第八階位クラス。まるで小さな太陽が如き炎の球が、放たれた。
俺が手にするのは水で構成した三叉の槍。迫り来る炎を前に右手で槍を勢いよく差し込む。
炎を一瞬は抑え込んだが、少しずつ地面を踏みしめる俺の足が下がっていく。
これは当然の事だ。どれだけ良く見積もっても俺の魔法は第六階位に届くか届かないか。第八階位相当の魔法を抑え切れるはずがない。
まだ耐えれているのは属性相性で勝っているからだ。
「吹き飛べっ!」
「ぐっ!」
炎が俺を押し込んで飲み込む。そして即座に大きく爆発した。
その爆風で俺も大きさ吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「ァッ、カッ!!」
空気が肺から無理矢理這い出るような感覚。直ぐには立ち上がれない。
クソ、こんなん勝てるわけないだろ。チートだ、チート。実は異世界転生をしている、なんて言われても納得がいく。
「大いなる大気の象徴よ、今、我が契約に従い偉大なる御身の力を私へと授け給え。」
俺が立ち上がれない間にもエルディナ様は次の攻撃に移っている。
緑と白が混ざったような光が、エルディナ様の周辺に集まっていく。
「エルディナ・フォン・ヴェルザードの名において顕現せよ!風の大精霊よ!」
その光は人の形を成し、次第にその姿がハッキリとしていく。それは風だ。風が人の形をしたもの。人間の女性の形をした風そのものだった。
「六大精霊が一つ、キャルメロン!」
六大精霊、六つの最高位の精霊の事を指す。火、水、風、土、雷、木の属性をそれぞれが司り、その強大な力から考えても普通なら人とは契約なんてしない。
「私の眼は、精霊と仲良くなれる眼なの。普通の人間には見れない精霊が見えるだけじゃなくて、精霊達は無条件で私に力を貸してくれる。」
つまりは、精霊の使役がその眼の力、正確に言うなら精霊に愛される眼。
あんだけの大魔法を連発できたのも、小さい精霊から魔力を借りていたからか。そしてこの大精霊とも契約が可能だったと。
精霊との契約は精霊が見えない人間にとっては珍しいが、ないわけでもない。そもそも普通は精霊と契約しないと精霊は力を貸してくれないのだ。
契約精霊ですらない精霊から力を借りていたというだけで、この眼の強さが十二分に分かる。
「さあ、終わらせましょう。」
暴風が巻き荒れる。
風はまるで台風の如く力強く吹き荒れ、恐らくは闘技場の外にもその風は影響を与えている。
「『大精霊の息吹』」
暴風が撒き荒れる。辺り一帯を吹き飛ばす事ができる暴風が、たった一人を倒すために暴れ狂う。
触れたもの全てを飲み込み、切り刻み、滅ぼす風の塊。
勝てない、脳裏にそうよぎる。
これは賢神クラスの魔法使いが持つ切り札。魔法使いの限界とも言われる極地。
「第十、階位……」
即ち、零から十の階位の最高。上位0.1%ほどの魔法使いでしかそもそも使うことすらできない魔法の極地。
それをよりにもよって、学生の、十歳の子供が使う?
「ふざ、けんなァッ!」
おかしいだろ。理不尽だろ。こんな格差があっていいのか。俺は未だに、第六階位ですら満足に使えないというのに。
反射的に全ての魔力を放出させる。無限とも言われる、俺の魔力量の全て。
俺はこれを操作し切れない。むしろ操作できれば第十階位を上回る魔法だって使える。それほどの濃醇な魔力の塊を放出する。
全ての魔力に属性を与える暇なんてない。ただ目の前の魔法を喰らい尽くし、滅ぼす事だけをイメージする。
制御し切れないのだから暴走するのは当たり前。だが、それでいい。
今はこのクソッタレな魔法に一矢報いることさえできれば。この世の理不尽に対抗できれば。
荒れ狂う魔力の塊と、全てを飲み込む風の奔流。その二つがぶつかり――
砂埃が大きく舞う中、未だに二つの人影が立つ。無論俺と、エルディナ様だ。
俺の体はボロボロだ。魔力を暴走させて攻撃を防ぐなんて馬鹿やったんだ。無事で済むはずがない。
逆に、よく見えないけどエルディナ様は無事だろう。
「まだ、立ってるなんて、ね。驚きよ。」
エルディナ様は妙に疲れている。恐らくは眼を使えば使うほどエネルギーを消費するのだろう。
だけど俺は立っているだけだ。無事なんて言い難い。魔力を暴走させたせいで体もズタボロだし、魔力もほぼゼロ。
しかしこの大会の勝利条件は相手を気絶させることだ。
普通なら結界の魔道具が壊れた時点で自動的に気絶してしまうのでそこで終わりなのだが、魔力量が多いせいか弾いてしまった。
やられそこねたわけだ。
「それじゃあ最後の――」
「降参です。」
「――は?」
随分と呆けた顔をしている。
俺が降参するのがそんなに意外だったのか? 当然の事だと思うがな。
というか本来ならもっと早めに降参するつもりだったんだ。こんなに疲れるまでやるつもりじゃなかった。
『決着! 勝者エルディナ・フォン・ヴェルザード!』
実況は直ぐにそう言った。反応が早い。
実際降参自体はよくあるのだろう。特に魔法使いなら、大体は途中で魔力切れした奴が負けるんだ。判定は早い方がいい。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ決着は済んでないでしょ! まだ魔力も残ってるじゃない!」
「流石に大精霊相手にこんな魔力じゃ勝てませんよ。」
というかさっさと戻してくれないか。
なんか大精霊が無機質な目でこっち見てるんだけど。怖いったらありゃしない。
「最後まで戦いなさいよ! 本気で戦いなさい! 悔しくないの!?」
俺は何も言わずに会場を後にする。
自分の実力不足で一々騒ぐような歳の重ね方はしてないんだよ。
それに本気は出した。フランもそうだが、何でたかが試合のために命賭けるレベルで頑張らなくてはならないのだ。
意味が分からん。
『以上を持って学内大会一年の部は終了です。表彰は明日の五年の部の終了後にまとめて行います。』
「待ちなさい、アルス・ウァクラート!」
その一言と同時に風が伸びる。
無数の風の手が俺を束縛しようと迫るが、その寸前で見えない何かに弾かれる。
俺は足を止め、観客席の中でも優待席。そこに座る俺の曽祖母、オーディン・ウァクラートを見た。
気怠げにため息を吐いている。恐らくはあの距離から結界を張ったのだろう。十分化け物だ。
「エルディナ様、何が気に喰わないので?」
「あなたが、本気で戦わなかったからよ!」
「本気は出しましたよ。」
「ふざけないで! まだ十分戦えるでしょ! それにまだ私は……!」
子供だな。いくら魔法の技術が優れていても、精神は未だ未熟と言わざるをえない。
要は彼女は限界までの戦いをしたかったのだ。相手も自分も全てをかけるような戦いをしたかったのだ。
そんなコスパの悪いこと誰がするか。
「エルディナ様のご期待に添えなくて申し訳ございません。ただし、正真正銘これが限界ですので。」
では、と略式の礼をとって俺はこの場を後にする。
体がボロボロだ。回復させないと体もキツいな。
「ああ、疲れた。」
こうして、俺の大会は終わった。
あんなもの、俺は見たことがないし知りもしない。それにこの大規模な魔法はさっきまでの魔力を節約している様子とは大きくかけ離れる。
炎となってその火炎に紛れながら常に移動しているが、全くと言っていいほどエルディナ様の眼の正体が分からない。
「私にここまで出させたのは貴方が初めてよ! やっぱり貴方は他とは違うわ!」
嬉しそうに無邪気な子供のように、いや、子供なのだ。相手は十歳の子供。
自分の全力が出せるのが楽しい、全力で戦えるのが楽しいのだろう。俺には分からない感情ではあるが。
「だからこそ、全力で戦って、私が勝つ。」
辺りに舞う火炎が揺れ、その全てがエルディナ様の頭上へと集まっていく。
集まる炎は高密度の炎の球へとなっていき、そしてまるで一つの太陽のようになっていく。
「一発目、いくわよ。」
直視できないほどの光を発する炎は、大体一メートルほどの直径の球に落ち着いた。
俺は既に体を元に戻し、魔力を集中させている。
アレは、ヤバい。まともに受けたら結界があっても死にかねない。
「『天炎』」
「『三叉槍』ッ!!」
第八階位クラス。まるで小さな太陽が如き炎の球が、放たれた。
俺が手にするのは水で構成した三叉の槍。迫り来る炎を前に右手で槍を勢いよく差し込む。
炎を一瞬は抑え込んだが、少しずつ地面を踏みしめる俺の足が下がっていく。
これは当然の事だ。どれだけ良く見積もっても俺の魔法は第六階位に届くか届かないか。第八階位相当の魔法を抑え切れるはずがない。
まだ耐えれているのは属性相性で勝っているからだ。
「吹き飛べっ!」
「ぐっ!」
炎が俺を押し込んで飲み込む。そして即座に大きく爆発した。
その爆風で俺も大きさ吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「ァッ、カッ!!」
空気が肺から無理矢理這い出るような感覚。直ぐには立ち上がれない。
クソ、こんなん勝てるわけないだろ。チートだ、チート。実は異世界転生をしている、なんて言われても納得がいく。
「大いなる大気の象徴よ、今、我が契約に従い偉大なる御身の力を私へと授け給え。」
俺が立ち上がれない間にもエルディナ様は次の攻撃に移っている。
緑と白が混ざったような光が、エルディナ様の周辺に集まっていく。
「エルディナ・フォン・ヴェルザードの名において顕現せよ!風の大精霊よ!」
その光は人の形を成し、次第にその姿がハッキリとしていく。それは風だ。風が人の形をしたもの。人間の女性の形をした風そのものだった。
「六大精霊が一つ、キャルメロン!」
六大精霊、六つの最高位の精霊の事を指す。火、水、風、土、雷、木の属性をそれぞれが司り、その強大な力から考えても普通なら人とは契約なんてしない。
「私の眼は、精霊と仲良くなれる眼なの。普通の人間には見れない精霊が見えるだけじゃなくて、精霊達は無条件で私に力を貸してくれる。」
つまりは、精霊の使役がその眼の力、正確に言うなら精霊に愛される眼。
あんだけの大魔法を連発できたのも、小さい精霊から魔力を借りていたからか。そしてこの大精霊とも契約が可能だったと。
精霊との契約は精霊が見えない人間にとっては珍しいが、ないわけでもない。そもそも普通は精霊と契約しないと精霊は力を貸してくれないのだ。
契約精霊ですらない精霊から力を借りていたというだけで、この眼の強さが十二分に分かる。
「さあ、終わらせましょう。」
暴風が巻き荒れる。
風はまるで台風の如く力強く吹き荒れ、恐らくは闘技場の外にもその風は影響を与えている。
「『大精霊の息吹』」
暴風が撒き荒れる。辺り一帯を吹き飛ばす事ができる暴風が、たった一人を倒すために暴れ狂う。
触れたもの全てを飲み込み、切り刻み、滅ぼす風の塊。
勝てない、脳裏にそうよぎる。
これは賢神クラスの魔法使いが持つ切り札。魔法使いの限界とも言われる極地。
「第十、階位……」
即ち、零から十の階位の最高。上位0.1%ほどの魔法使いでしかそもそも使うことすらできない魔法の極地。
それをよりにもよって、学生の、十歳の子供が使う?
「ふざ、けんなァッ!」
おかしいだろ。理不尽だろ。こんな格差があっていいのか。俺は未だに、第六階位ですら満足に使えないというのに。
反射的に全ての魔力を放出させる。無限とも言われる、俺の魔力量の全て。
俺はこれを操作し切れない。むしろ操作できれば第十階位を上回る魔法だって使える。それほどの濃醇な魔力の塊を放出する。
全ての魔力に属性を与える暇なんてない。ただ目の前の魔法を喰らい尽くし、滅ぼす事だけをイメージする。
制御し切れないのだから暴走するのは当たり前。だが、それでいい。
今はこのクソッタレな魔法に一矢報いることさえできれば。この世の理不尽に対抗できれば。
荒れ狂う魔力の塊と、全てを飲み込む風の奔流。その二つがぶつかり――
砂埃が大きく舞う中、未だに二つの人影が立つ。無論俺と、エルディナ様だ。
俺の体はボロボロだ。魔力を暴走させて攻撃を防ぐなんて馬鹿やったんだ。無事で済むはずがない。
逆に、よく見えないけどエルディナ様は無事だろう。
「まだ、立ってるなんて、ね。驚きよ。」
エルディナ様は妙に疲れている。恐らくは眼を使えば使うほどエネルギーを消費するのだろう。
だけど俺は立っているだけだ。無事なんて言い難い。魔力を暴走させたせいで体もズタボロだし、魔力もほぼゼロ。
しかしこの大会の勝利条件は相手を気絶させることだ。
普通なら結界の魔道具が壊れた時点で自動的に気絶してしまうのでそこで終わりなのだが、魔力量が多いせいか弾いてしまった。
やられそこねたわけだ。
「それじゃあ最後の――」
「降参です。」
「――は?」
随分と呆けた顔をしている。
俺が降参するのがそんなに意外だったのか? 当然の事だと思うがな。
というか本来ならもっと早めに降参するつもりだったんだ。こんなに疲れるまでやるつもりじゃなかった。
『決着! 勝者エルディナ・フォン・ヴェルザード!』
実況は直ぐにそう言った。反応が早い。
実際降参自体はよくあるのだろう。特に魔法使いなら、大体は途中で魔力切れした奴が負けるんだ。判定は早い方がいい。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ決着は済んでないでしょ! まだ魔力も残ってるじゃない!」
「流石に大精霊相手にこんな魔力じゃ勝てませんよ。」
というかさっさと戻してくれないか。
なんか大精霊が無機質な目でこっち見てるんだけど。怖いったらありゃしない。
「最後まで戦いなさいよ! 本気で戦いなさい! 悔しくないの!?」
俺は何も言わずに会場を後にする。
自分の実力不足で一々騒ぐような歳の重ね方はしてないんだよ。
それに本気は出した。フランもそうだが、何でたかが試合のために命賭けるレベルで頑張らなくてはならないのだ。
意味が分からん。
『以上を持って学内大会一年の部は終了です。表彰は明日の五年の部の終了後にまとめて行います。』
「待ちなさい、アルス・ウァクラート!」
その一言と同時に風が伸びる。
無数の風の手が俺を束縛しようと迫るが、その寸前で見えない何かに弾かれる。
俺は足を止め、観客席の中でも優待席。そこに座る俺の曽祖母、オーディン・ウァクラートを見た。
気怠げにため息を吐いている。恐らくはあの距離から結界を張ったのだろう。十分化け物だ。
「エルディナ様、何が気に喰わないので?」
「あなたが、本気で戦わなかったからよ!」
「本気は出しましたよ。」
「ふざけないで! まだ十分戦えるでしょ! それにまだ私は……!」
子供だな。いくら魔法の技術が優れていても、精神は未だ未熟と言わざるをえない。
要は彼女は限界までの戦いをしたかったのだ。相手も自分も全てをかけるような戦いをしたかったのだ。
そんなコスパの悪いこと誰がするか。
「エルディナ様のご期待に添えなくて申し訳ございません。ただし、正真正銘これが限界ですので。」
では、と略式の礼をとって俺はこの場を後にする。
体がボロボロだ。回復させないと体もキツいな。
「ああ、疲れた。」
こうして、俺の大会は終わった。
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