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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜

12.眼

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 俺とエルディナ様は対峙する。
 先に飛び出たのは俺だ。魔法とは火力と火力のぶつかり合い。ミサイルを打ち合うなら先に打ったほうが有利なのは必然。

「『雷撃砲サンダーレーザー』」

 鋭い雷がエルディナ様を襲う。
 しかしそれを見ても眉一つ動かすことなく、水の壁が展開されて防がれた。
 しかしもうその頃には俺は右腕を魔法に変える。
 普段の俺なら制御しきれないレベルの魔法も、変身魔法で俺ごと魔法にしちまえば届く範囲。
 この世の中で最も恐ろしい物理法則。

「質量で沈め。」

 ゴーレムの時にもやった俺の定型パターン。土を操作して沈めるというだけの単純な質量攻撃。
 エルディナ様が相手なら妙な手加減は無用だろう。腕を変えて作った土がエルディナ様を中心として渦を巻くように集まっていく。
 エルディナ様を沈めようと土が大きく跳ねて、襲い掛かる。
 しかしエルディナ様は全く動じることなく、むしろ笑いながら自分の手のひらに魔力を集める。

「やっぱりいいわね! 私の思った通り最高だわ!」

 風が吹き荒れる。
 土がエルディナ様を襲うより早く風に乗って上に弾き出る。
 あれは、飛翔フライか?
 いや単純に上に体を飛ばしただけか。流石に第六階位の魔法は使えないみたいだ。

「『爆発エクスプロード』」
「ッ!?」

 空中で着地するより先に爆発の魔法が飛ぶ。
 魔法は威力によって階位分けがなされる。
 大体は威力と消費魔力は比例の関係にあるが、この魔法みたいに制御が難しい代わりに消費魔力を抑えて、なおかつ威力が馬鹿みたいに高いのも存在する!

「たたっきれ!『煉獄剣』ッ!」

 その爆発を起きる瞬間に刃を振るい、魔法の発生を防ぐ。
 空かさずエルディナ様は落下しながら魔力を練る。俺の右腕は土となっているから今ない。
 逆に言えばあの土はまだ俺の制御下にある!

「後方注意ってな!」
「気付いてるわよっ!」

 後ろからは大量の土、前からは煉獄剣を持った俺。
 一見完全に決まった挟み撃ち。
 しかしそれは相手がただの凡人であるならだ。相手は常識を超える天才、であればこそ。

「『爆発エクスプロード』『身体強化フィジカルレイズ』『土の束縛アースバインド』『火の束縛ファイアバインド』『可動の大地ムービングアース』」

 一瞬で制御が難しい魔法を展開して飛ばしてくる。
 まず爆発が俺の土を吹き飛ばし、その爆風を背に前に出る。
 普通ならエルディナ様であっても大きなダメージを喰らうだろうが、強化魔法で自分を強化しながらダメージを抑えた。
 しかも火と土が俺を縛りあげようと迫ってくる。
 更にその隙をついて動く土に乗ってそのまま俺へと接近してくる。
 ここまでの魔法を一瞬で考えて同時に発動するのは頭がおかしいとしか言いようがない。

「『雷化』」

 しかしこちらも一筋縄でやられるつもりはない。
 魔法の束縛から体を雷にして逃げる。変身魔法はこういう逃げる時には役立つが、俺の反射神経というか動体視力が足りないせいで攻撃には転用できないのが弱みだ。
 というか魔法に変わっただけでそれは俺の体の一部であり、その魔法の部分が攻撃を喰らえば戻った時に欠損して戻る。
 脳みその部分が攻撃されたりでもすれば即死は免れない。だからこの状態で接近戦なんてやりたくない。

「『轟雷杖ごうらいじょう』」

 よって俺が使うのは武器だ。
 煉獄剣の原理は俺の体を溶かして作りこんだ高出力の武器。ならそれを火ではなく、雷属性で扱うなら。こういう杖も出せる。

「落ちろ」

 その一言の瞬間に俺の手の杖からその名の如く、轟雷が走った。
 しかしエルディナ様の反応速度も高い。
 何か強力な魔法が飛んでくるのを察知して結界を張っていたようで、事実エルディナ様は無傷だ。

「こんな高出力の魔法を使ってもまだ魔力がなくならないのね!」
「それだけが取り柄ですから!」

 まだ俺の魔力は一パーセントぐらいしか消費されてない。
 魔力量だけなら俺はエルディナ様の上。勝機があるなら長期戦だ。

「仕切り直しよ、『濃霧ディープミスト』」

 エルディナ様は霧を出した。とても濃い霧で直ぐにその姿は見えなくなった。
 何故だ?俺は自分の体を霧に変えれる。そこに紛れることができる分、この状況は俺に有利だ。
 ということはそれを覆すほどのメリットがある?

「急いで見つけ出さないと……!」

 何かヤバいのを使おうとしている。それだけは間違いない。
 ならば時間を与えれば与えるほど俺が不利。

「ねえ、知ってる? この世には不思議な眼があるの。」

 拡声の魔法でエルディナ様の声が響く。声が辺りから聞こえるせいで場所を特定できない。

「一つは魔眼、後天的に目に手術を施して特殊な力を得る。もう一つは竜眼、竜の一族が代々受け継ぐ強力な眼。」

 三大眼さんだいがん。今ここで、こんな関係のない話をするはずがない。
 話の順序から考えるに、恐らくは最悪のパターン。
 英雄が持っていたとされるほどに強力な眼。

「最後に祝福眼、先天的に手に入るたった五種類しか存在しない上に、地上に二つとない最強の瞳。」

 霧を晴らしてその眼の輝きは俺まで届いた。
 青く輝く眼は、あまりにも冷徹に鋭く俺を射抜く。

「その内の一つを、私が持っている。」
「飲み込め!『大波ビッグウェイブ』ッ!」

 水が地面を走りエルディナ様を飲み込まんとするが、それよりも早くあっちが完成する。

「支配しろ! 『賢将けんしょう青眼せいがん』ッ!」

 俺が放った波はエルディナ様の直前で急停止し、そしてそのまま消えていった。
 祝福眼は有名だが、その能力は知られていない。所有者が現れること自体が稀であり、その情報があまり残っていないのだ。
 つまり俺はあの眼がどんな力を持っていて、何ができるのかが全く分からない。
 これはあまりにも大きな事だ。相手の手の内が分かるかどうかで戦況は大きく変わる。

「雷よ!」
「弾けっ!」

 俺の手の轟雷杖から再び鋭い雷が走るが、それすらもエルディナ様に当たる直前で逸らされる。
 攻撃の無力化か?
 いや、だけどそんな事ができてしまうのなら勝ちようがない。
 俺が倒せる範囲で一番の最悪を想定しろ。勝てない能力を持っているなら考えても無駄なのだ。

「来なさい! 『地獄の業火インフェルノ』」
「まずっ!」

 一瞬。世界が赤色に染まる。
 会場内全てを燃やし尽くす炎は、当然俺の逃げ場を完璧に奪った。
 俺は体を炎にしてダメージを抑えたが、それでも体が燃える感覚が微かにある。

「嘘だ、ろ。環境を変えるレベルの魔法って、第七階位だぞ!」

 俺は思わず叫んでしまう。
 第七階位となれば魔法使いによっては切り札になるレベルの大魔法だ。
 無論あの学園長、オーディン・ウァクラートなら様子見程度で使うかもしれない。
 しかしエルディナ様は学生だ。十歳の子供だ。異常なんていう次元じゃない。

「さて、ここからが本番よ!」

 エルディナ様の周りを小さな光が飛び回っている。
 アレがあの眼の力か?
 その光は赤、青、緑と多色であり、エルディナ様の幼いとはいえ美しい顔立ちから見ても幻想的な光景だろう。
 未だにあの眼がどんな力を持っているかは分からない。ただ、確かに分かる事が一つある。

 未だ彼女の、底が見えない。
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