幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜

10.運命

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「相変わらず大会は賑わっているね。」

 第二グレぜリオン学園学園長室。そこに二人がいた。
 一人は十歳ほどの幼い体に尖った耳、長い白髪の少女。最強の魔女とも言われる学園長、オーディン・ウァクラート。
 もう一人は黒い長髪に、中性的な顔をした背丈は170ぐらいの男。それは先程闘技場にてアルスを占った占い師であった。

「だけど、危うさを孕んでいる。」

 学園長は気怠げそうにため息を吐く。それを見て占い師は微かに笑った。

「まさか、理解してないわけじゃないだろう?」
「……分かっとるわい。アルスとフラン、どちらも厄介じゃ。しかしわしが介入した所で好転するわけでもない。」

 アルスの精神は不安定だ。
 そもそも、親が殺されて未だ一年も経っていない。なんとか持ち直してはいるが、その不安定さは未だ強い。
 どこか現実を見え過ぎている所がある。
 子供は無邪気に何も考えず暴れればよいのに、大人のように一歩引いて妥協する事を知ってしまっているのだ。

「うん、フランもかい?」
「なんじゃ、気付いとらんかったのか。」
「いやあ、いくら天才の僕でも見ていないことは知れないからね。」

 フランも難しく考え過ぎているのだ。もっと子供のように頭を空っぽにして楽しめばよいのに、それをしない。
 いや、できないのだろう。

「それに僕は教育者でもなんでもない。生徒を見る義務はない、けどアルスに関しては話が別だ。あれ、曾孫なんだろ?」
「そうじゃな。」
「気をつけなよ学園長。あいつ、ほっといたら死ぬぜ。」

 そう言われて更に大きく学園長はため息を吐く。

「流石に僕もお世話になった人の血縁が死ぬのを何度も見届けたいわけじゃない。ラウロで最後にしたいのさ。」

 ラウロ・ウァクラート。元賢神第三席だった男はオーディンにとっては孫であり、それを失った苦しみは想像できないものだろう。

「夫が死んで、子供が死んで、孫が死んで。毎回泣きはしないけど死ぬほど苦しそうな顔をするじゃないか。」
「……うるさいわい。分かっておるわ。じゃが、心の悩みに関してはわしにもどうしようもできん。お主の占いの結果はどうなのじゃ?」
「五分五分、ってところかな。二回に一回は精神が崩壊して死ぬんじゃないかって踏んでる。」
「なら、後はアルスの強さを信じるしかあるまいよ。」

 オーディンは大きく背もたれにもたれかかる。
 オーディン・ウァクラートが数百年の時を生きるのに対し、その子供達は短命だ。その息子は四十を過ぎるより早く死に、孫のラウロも若くして死んだ。
 ウァクラート家の呪いとも言われ、それはオーディンを恐怖させるのに十分なものであった。
 数百年を生きる悠久の魔女。
 しかしそれでも血縁を失うのは辛いものである事に変わりはないのだ。

「数奇な運命を辿ってるぜ。こんなに奇怪な運命はあいつ以来だ。もしも精神が成熟しても高確率で戦死するだろうね。」
「わしの曽孫で、息子の孫で、孫の息子じゃ。きっと強くなる。いずれわしよりもな。」
「それは楽しみだ。天才の僕に追いつけるぐらい強くなれるかな。そうでなくても、賢神の末席ぐらいには加わってくれなくちゃ災厄には立ち向かえないだろうね。」

 占い師は愉快げに笑う。
 そして空間の隙間から抜き取るように、どこからともなく一枚の手紙を取り出した。それを学園長へと投げる。
 学園長もそれを片手で受け取る。

「なんじゃ、これは。」
「もしも、もしもだ。この大会を終えた後、アルスがここに来たらそれを渡してくれ。僕が弟子にとってやらんこともない。」
「ほう、お主が弟子を取るか。相当入れ込んでおるんじゃのう。」
「そう見えるかい?」

 占い師は笑いながら立ち上がる。立てかけてあったローブを着て、虚空から杖を取り出す。

「まあ、あいつに似てるじゃん。運命の辿り方とか、夢だとか。」

 杖の先をコン、と下につけるとそこを起点として魔法陣が広がる。

「だけど、やる気のない腑抜けは要らないからね。二番でいいなんていう負け犬で弱者の発想が少しでもあるなら、弟子には取らないさ。」
「それは一理あるのう。お主も、あやつも、あの小僧も。全員が一番を目指しておったからな。」
「だからこそ、僕達は強くなれた。互いに競い合い、最強を奪い合える仲間がいるというのはそれだけ成長も速くなる。」

 魔法陣に魔力が宿っていき、中心から魔力が走っていく。
 これは転移の魔法陣だ。
 長距離転移は第八階位の高難易度の魔法。それをここまで気軽に使える人間となれば相当に数が限られる。

「英雄に妥協は許されない。妥協するからその人間は凡人となり、妥協しないからこそ英雄たりえる。」
「そこまでアルスに求めるのか?」
「英雄でなくては、あの運命は越えられない。」

 占い師は断言する。それは今までのヘラヘラしたような顔つきではなく、真剣に。

「あまりにも多過ぎる現実と後悔が彼を襲うだろう。それを全て踏みのけ、彼は答えを見つけなくてはいけない。自分を見つけなくてはならない。そうでなくては、彼は自分の運命に喰われてしまう。」

 その一言を最後に占い師は消え失せた。
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