60 / 474
第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
10.運命
しおりを挟む
「相変わらず大会は賑わっているね。」
第二グレぜリオン学園学園長室。そこに二人がいた。
一人は十歳ほどの幼い体に尖った耳、長い白髪の少女。最強の魔女とも言われる学園長、オーディン・ウァクラート。
もう一人は黒い長髪に、中性的な顔をした背丈は170ぐらいの男。それは先程闘技場にてアルスを占った占い師であった。
「だけど、危うさを孕んでいる。」
学園長は気怠げそうにため息を吐く。それを見て占い師は微かに笑った。
「まさか、理解してないわけじゃないだろう?」
「……分かっとるわい。アルスとフラン、どちらも厄介じゃ。しかしわしが介入した所で好転するわけでもない。」
アルスの精神は不安定だ。
そもそも、親が殺されて未だ一年も経っていない。なんとか持ち直してはいるが、その不安定さは未だ強い。
どこか現実を見え過ぎている所がある。
子供は無邪気に何も考えず暴れればよいのに、大人のように一歩引いて妥協する事を知ってしまっているのだ。
「うん、フランもかい?」
「なんじゃ、気付いとらんかったのか。」
「いやあ、いくら天才の僕でも見ていないことは知れないからね。」
フランも難しく考え過ぎているのだ。もっと子供のように頭を空っぽにして楽しめばよいのに、それをしない。
いや、できないのだろう。
「それに僕は教育者でもなんでもない。生徒を見る義務はない、けどアルスに関しては話が別だ。あれ、曾孫なんだろ?」
「そうじゃな。」
「気をつけなよ学園長。あいつ、ほっといたら死ぬぜ。」
そう言われて更に大きく学園長はため息を吐く。
「流石に僕もお世話になった人の血縁が死ぬのを何度も見届けたいわけじゃない。ラウロで最後にしたいのさ。」
ラウロ・ウァクラート。元賢神第三席だった男はオーディンにとっては孫であり、それを失った苦しみは想像できないものだろう。
「夫が死んで、子供が死んで、孫が死んで。毎回泣きはしないけど死ぬほど苦しそうな顔をするじゃないか。」
「……うるさいわい。分かっておるわ。じゃが、心の悩みに関してはわしにもどうしようもできん。お主の占いの結果はどうなのじゃ?」
「五分五分、ってところかな。二回に一回は精神が崩壊して死ぬんじゃないかって踏んでる。」
「なら、後はアルスの強さを信じるしかあるまいよ。」
オーディンは大きく背もたれにもたれかかる。
オーディン・ウァクラートが数百年の時を生きるのに対し、その子供達は短命だ。その息子は四十を過ぎるより早く死に、孫のラウロも若くして死んだ。
ウァクラート家の呪いとも言われ、それはオーディンを恐怖させるのに十分なものであった。
数百年を生きる悠久の魔女。
しかしそれでも血縁を失うのは辛いものである事に変わりはないのだ。
「数奇な運命を辿ってるぜ。こんなに奇怪な運命はあいつ以来だ。もしも精神が成熟しても高確率で戦死するだろうね。」
「わしの曽孫で、息子の孫で、孫の息子じゃ。きっと強くなる。いずれわしよりもな。」
「それは楽しみだ。天才の僕に追いつけるぐらい強くなれるかな。そうでなくても、賢神の末席ぐらいには加わってくれなくちゃ災厄には立ち向かえないだろうね。」
占い師は愉快げに笑う。
そして空間の隙間から抜き取るように、どこからともなく一枚の手紙を取り出した。それを学園長へと投げる。
学園長もそれを片手で受け取る。
「なんじゃ、これは。」
「もしも、もしもだ。この大会を終えた後、アルスがここに来たらそれを渡してくれ。僕が弟子にとってやらんこともない。」
「ほう、お主が弟子を取るか。相当入れ込んでおるんじゃのう。」
「そう見えるかい?」
占い師は笑いながら立ち上がる。立てかけてあったローブを着て、虚空から杖を取り出す。
「まあ、あいつに似てるじゃん。運命の辿り方とか、夢だとか。」
杖の先をコン、と下につけるとそこを起点として魔法陣が広がる。
「だけど、やる気のない腑抜けは要らないからね。二番でいいなんていう負け犬で弱者の発想が少しでもあるなら、弟子には取らないさ。」
「それは一理あるのう。お主も、あやつも、あの小僧も。全員が一番を目指しておったからな。」
「だからこそ、僕達は強くなれた。互いに競い合い、最強を奪い合える仲間がいるというのはそれだけ成長も速くなる。」
魔法陣に魔力が宿っていき、中心から魔力が走っていく。
これは転移の魔法陣だ。
長距離転移は第八階位の高難易度の魔法。それをここまで気軽に使える人間となれば相当に数が限られる。
「英雄に妥協は許されない。妥協するからその人間は凡人となり、妥協しないからこそ英雄たりえる。」
「そこまでアルスに求めるのか?」
「英雄でなくては、あの運命は越えられない。」
占い師は断言する。それは今までのヘラヘラしたような顔つきではなく、真剣に。
「あまりにも多過ぎる現実と後悔が彼を襲うだろう。それを全て踏みのけ、彼は答えを見つけなくてはいけない。自分を見つけなくてはならない。そうでなくては、彼は自分の運命に喰われてしまう。」
その一言を最後に占い師は消え失せた。
第二グレぜリオン学園学園長室。そこに二人がいた。
一人は十歳ほどの幼い体に尖った耳、長い白髪の少女。最強の魔女とも言われる学園長、オーディン・ウァクラート。
もう一人は黒い長髪に、中性的な顔をした背丈は170ぐらいの男。それは先程闘技場にてアルスを占った占い師であった。
「だけど、危うさを孕んでいる。」
学園長は気怠げそうにため息を吐く。それを見て占い師は微かに笑った。
「まさか、理解してないわけじゃないだろう?」
「……分かっとるわい。アルスとフラン、どちらも厄介じゃ。しかしわしが介入した所で好転するわけでもない。」
アルスの精神は不安定だ。
そもそも、親が殺されて未だ一年も経っていない。なんとか持ち直してはいるが、その不安定さは未だ強い。
どこか現実を見え過ぎている所がある。
子供は無邪気に何も考えず暴れればよいのに、大人のように一歩引いて妥協する事を知ってしまっているのだ。
「うん、フランもかい?」
「なんじゃ、気付いとらんかったのか。」
「いやあ、いくら天才の僕でも見ていないことは知れないからね。」
フランも難しく考え過ぎているのだ。もっと子供のように頭を空っぽにして楽しめばよいのに、それをしない。
いや、できないのだろう。
「それに僕は教育者でもなんでもない。生徒を見る義務はない、けどアルスに関しては話が別だ。あれ、曾孫なんだろ?」
「そうじゃな。」
「気をつけなよ学園長。あいつ、ほっといたら死ぬぜ。」
そう言われて更に大きく学園長はため息を吐く。
「流石に僕もお世話になった人の血縁が死ぬのを何度も見届けたいわけじゃない。ラウロで最後にしたいのさ。」
ラウロ・ウァクラート。元賢神第三席だった男はオーディンにとっては孫であり、それを失った苦しみは想像できないものだろう。
「夫が死んで、子供が死んで、孫が死んで。毎回泣きはしないけど死ぬほど苦しそうな顔をするじゃないか。」
「……うるさいわい。分かっておるわ。じゃが、心の悩みに関してはわしにもどうしようもできん。お主の占いの結果はどうなのじゃ?」
「五分五分、ってところかな。二回に一回は精神が崩壊して死ぬんじゃないかって踏んでる。」
「なら、後はアルスの強さを信じるしかあるまいよ。」
オーディンは大きく背もたれにもたれかかる。
オーディン・ウァクラートが数百年の時を生きるのに対し、その子供達は短命だ。その息子は四十を過ぎるより早く死に、孫のラウロも若くして死んだ。
ウァクラート家の呪いとも言われ、それはオーディンを恐怖させるのに十分なものであった。
数百年を生きる悠久の魔女。
しかしそれでも血縁を失うのは辛いものである事に変わりはないのだ。
「数奇な運命を辿ってるぜ。こんなに奇怪な運命はあいつ以来だ。もしも精神が成熟しても高確率で戦死するだろうね。」
「わしの曽孫で、息子の孫で、孫の息子じゃ。きっと強くなる。いずれわしよりもな。」
「それは楽しみだ。天才の僕に追いつけるぐらい強くなれるかな。そうでなくても、賢神の末席ぐらいには加わってくれなくちゃ災厄には立ち向かえないだろうね。」
占い師は愉快げに笑う。
そして空間の隙間から抜き取るように、どこからともなく一枚の手紙を取り出した。それを学園長へと投げる。
学園長もそれを片手で受け取る。
「なんじゃ、これは。」
「もしも、もしもだ。この大会を終えた後、アルスがここに来たらそれを渡してくれ。僕が弟子にとってやらんこともない。」
「ほう、お主が弟子を取るか。相当入れ込んでおるんじゃのう。」
「そう見えるかい?」
占い師は笑いながら立ち上がる。立てかけてあったローブを着て、虚空から杖を取り出す。
「まあ、あいつに似てるじゃん。運命の辿り方とか、夢だとか。」
杖の先をコン、と下につけるとそこを起点として魔法陣が広がる。
「だけど、やる気のない腑抜けは要らないからね。二番でいいなんていう負け犬で弱者の発想が少しでもあるなら、弟子には取らないさ。」
「それは一理あるのう。お主も、あやつも、あの小僧も。全員が一番を目指しておったからな。」
「だからこそ、僕達は強くなれた。互いに競い合い、最強を奪い合える仲間がいるというのはそれだけ成長も速くなる。」
魔法陣に魔力が宿っていき、中心から魔力が走っていく。
これは転移の魔法陣だ。
長距離転移は第八階位の高難易度の魔法。それをここまで気軽に使える人間となれば相当に数が限られる。
「英雄に妥協は許されない。妥協するからその人間は凡人となり、妥協しないからこそ英雄たりえる。」
「そこまでアルスに求めるのか?」
「英雄でなくては、あの運命は越えられない。」
占い師は断言する。それは今までのヘラヘラしたような顔つきではなく、真剣に。
「あまりにも多過ぎる現実と後悔が彼を襲うだろう。それを全て踏みのけ、彼は答えを見つけなくてはいけない。自分を見つけなくてはならない。そうでなくては、彼は自分の運命に喰われてしまう。」
その一言を最後に占い師は消え失せた。
15
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生少女と聖魔剣の物語
じゅんとく
ファンタジー
あらすじ
中世ヨーロッパによく似た国、エルテンシア国…
かつてその国で、我が身を犠牲にしながらも国を救った
王女がいた…。
その後…100年、国は王女復活を信じて待ち続ける。
カクヨム、小説家になろうにも同時掲載してます。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる