幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜

8.占い師

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 リーグ戦が終わり、直ぐにトーナメントへ移る。
 なんせ二日間で一年生と五年生の分の試合を全て終わらせる必要があるのだ。割とスケジュールはカツカツである。

「トーナメントの組み合わせ、出ましたね。」

 俺はお嬢様とトーナメント表を眺める。
 敗者は選手の控室に入れないからティルーナはここにはいない。
 トーナメントに挑むのは128人。七回ぐらい勝てば優勝だ。

「まさか、一回戦から貴方と当たるなんて思ってもなかったわ。」
「それはこっちのセリフですよ。」

 一回戦第十二試合に俺とフィルラーナ様が当たった。
 逆にガレウとエルディナ様は山が違うから会えるとしても決勝なんだけどな。

「やるからには全力でやるわよ。」
「当然。俺も全力で倒しますからね。」

 フィルラーナ様は強い。
 学年の総合得点で二位を取っていることから考えても、その魔法は同世代で群を抜いている。

「あ、じゃあ試合始まる前にちょっとお手洗い行ってきますね。」

 ちょうどトイレに行きたくなったし、俺は控室を出る。
 この闘技場マジで広いからトイレも結構数が多い。東京ドーム何個分ぐらいなんだろ。

「えーと、確かこっちの方に……」

 俺は迷いながら通路を進んでいき、トイレの案内表示を見て、確信を得て足を早めていく。
 通路には俺以外に人はいない。始まる直前も直前だ。全員第一試合を見るために会場にいるのだろう。

「やいそこの君。」
「へ?」

 トイレの直前で俺は男に呼び止められた。いや、こいつは男か?
 やけに声も顔立ちも中性的だ。黒い髪が腰まで伸びており、女性と言われればそうも見えなくはない。
 その男は木の椅子に座っていた。
 その前には木の机があり、対面にはもう一つの椅子がある。

「占い、していかないかい?」
「……ああ、いえ、ちょっと急いでるんで。」
「いやいや直ぐに済むさ。君、これからの大会に出るのだろう?勝負というのは実力も大切だけど、ツキというのは確かにある。ここで運勢をあげるのも一興だと思わないかい?」

 占い、というだけで胡散臭いのに更にこいつは胡散臭い。
 さっき机があると言ったが、本当に机しかないのだ。怪しげな水晶も、お札も、何か売りつけようという感じさえ一切ない。
 しかもトイレの隣、更に言えば闘技場の中でなんでこいつは占いなんかやっているんだ。
 見た目が妙に綺麗なのも違和感を加速させる。

「ほら、折角だから受けていきなよ。別に何かを取るわけでもない。」
「……じゃあ、やるよ。」

 俺は渋々と対面の椅子に座る。
 こういうのは無視する方がめんどくさい。どうせ大した害もないし、俺の番ももう少し後だ。
 それにちょっと気にならないわけでもない。

「占うって言っても何でやんだよ。水晶玉もお札もないみたいだが。」
「占い師への偏見が過ぎるね。大概の占い師は目で見るのさ。水晶や札に頼るのは実力がない二流だし、そんな二流の占いはどうせあてにならない。」
「へえ、じゃああんたは一流だと?」
「その通り、と言いたいところだけど僕のも師匠のを盗み見て覚えただけだからね。ただ、当たるだけの占いだよ。」

 色々とツッコミどころは他にもあるが、話が進まなそうだし考えない事にする。

「なら、さっさと占え。どうせ信じないし、あんたが言った通りこの後大会なんだ。」
「いやあ、君が優しくて助かったよ。僕も占い師の端くれとして、君は放っておけないからね。」

 そう言ってその占い師は指を弾く。
 すると俺と占い師の間に紙が生まれ出てくる。宙に浮いたまま数秒かけてその紙は完成し、それを占い師が掴み取る。


「君は数多の試練と遭遇する運命にある。覚えはないかい?」

 その一言で俺は過去を思い出す。あのクソ侯爵とゴーレム、街を襲ったグリフォン、そして、母親を殺した吸血鬼。

「おや、思い出したくない事を思い出させてしまったかな?それはすまないね。過去というのは占いにとって重要な事だから避けて通れないんだ。」

 嫌な顔を無意識上にしていたのか、占い師はそう言う。

「そして、これからも君は運命に翻弄されるだろう。障害となる凶星は……大きくは七だ。明確な形を持って君の行く道に立ち塞がるのは七つの敵だ。」

 そう言って手に持つ紙を机に置く。

「六つの凶星が汝に立ち塞がり、この世を狂わせ、七つ目の凶星が隠れし月から姿を表す時。それが汝の真実を語るだろう。夢を忘れるなかれ、常識を語るなかれ、愛を曲げるなかれ、決して止まるなかれ、理解を捨てるなかれ、形に囚われることなかれ、友を失うなかれ。さすれば汝の行く道は光にて示される。」

 最後の一言のタイミングで俺に占い師は俺に紙を手渡した。

「どうかな。役に立ったかい?」
「……何を言ってるのか全く分からなかった。」
「はは、だろうね。まあいつか分かる時が来るさ。」

 俺は紙を持ったまま立ち上がる。

「まあ、一応覚えとくよ。何かに使えるかもしれないし。」
「そう、なら結構。僕も占ったかいがあるというものだ。」

 俺は紙をポケットに突っ込んでそのままトイレに入っていく。
 トイレから出た頃には、既にその占い師はいなかった。
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