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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
7.リーグ戦
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俺の目の前には明らかに体格に見合わない杖を持つ少年がいる。その体に纏う装飾や高そうな魔道具を見るに恐らくは貴族であろう。
その少年は俺へと真っ直ぐ指を刺す。
「ハッキリ言おう、アルス・ウァクラート。俺はお前より強い。学園長の曾孫だからってちやほやされて、ちょっと高階位の魔法が使えるだけだ。」
「……そうか。」
「あまつさえコネであのフィルラーナ嬢の騎士になるなんて、あまりにも許し難き事だ。」
そういやこれでリーグ戦最後だな。これが終わったら後はトーナメントだし、休憩できるかな。
「ふん。いくらレベルの高い魔法を使えても、実戦魔法術を学んだ俺にとっては敵ではない事を教えてやる。」
「始め!」
痺れを切らしたのか、そもそも聞いていないのか。審判の先生が開始の合図をかける。
「さて、先ずは――」
「話が長い。」
俺は右手を魔法に変えて飛ばす。いわゆるロケットパンチの形で飛んでいく腕は、巨大な石となって少年を吹き飛ばした。
「勝者、アルス・ウァクラート。」
無感動に俺の勝利が宣言された。
少年には全く傷がない。
生徒にはとある魔道具が支給されているのだ。体の魔力を動力源として結界を展開し、結界は一定のダメージを喰らうと壊れて所有者を気絶させる。そんな魔道具。
「そういや、ガレウは大丈夫かな。まあお嬢様はリーグぐらいなら軽く抜けてくるだろうけど。」
アースは無理だ。それは分かってる。
ティルーナ様は……まあ回復魔法特化だしな。
「あ、アルス!」
噂をすればなんとやら。ちょうどガレウも試合が終わったのか、こっちへ走ってくる。
「無事勝てたみたいだね。」
「おうよ。そっちは?」
「ギリギリだったけど、なんとか抜けられたよ。」
ガレウはどちらかというと平均的に優秀、といった成績だ。
飛び抜けてどこかが強いというわけでもなく、魔法も座学も普通にできる。
「だけどトーナメントは勝ち残れる気がしないね。アルスは絶対一位だろうけど。」
「いや、そうとも限らねえよ。エルディナ様もいらっしゃる。」
なんとなくだけど、強いと本能的に感じている。
単純に魔法使いとしても強いのだろうが、その他にも何かがある気がするのだ。
「やれるだけやるけどな。」
「僕は君が優勝するのを楽しみに待っているよ。」
「やめろよ、普通に勝つ気しねえし。」
エルディナ様相手じゃ煉獄剣を抜かざるをえないだろうしな。そっちも練習しとくか。
「トーナメントまでもうちょっと時間あるし、俺は自主練するつもりだけど。お前はどうする?」
「僕は魔力も結構使っちゃったし、回復させるために休んでるよ。」
「そうか、じゃあまた後でな。」
俺はこの場を後にして通路の方へ進んでいく。
闘技場の内部には訓練施設のようなものが存在する。
観客席などなく、単純に腕を磨き、修練するための場所。そこで俺は魔法の練習をしていた。
並列起動の練習だ。俺の周りを五つの火の球が規則的に飛んでいる。
やっと単純な動きなら五つの並列起動ができるようになった。
しかしまだ足りない。一流ならば十は同時展開をするのが当たり前だ。
「精が出ますね。」
「ああ、ティルーナ様。」
「……前から思っていましたが様付けはやめてください。それに敬語もやめてください。虫唾が走ります。私も敬意など払うつもりはないので。」
「なら遠慮なく。」
「躊躇いがありませんね。」
「なんだかんだ言って、グループを組んで三ヶ月ぐらいは経つからな。」
お嬢様は立場的に敬語を使わなくちゃならないが、まあ正直言ってお嬢様以外に敬語を使う必要はないのだ。
気持ちの問題で敬語を使うようにしてるだけだからな。
「そっちは敬語を外さないのか?」
「これは癖です。言わなくても分かるでしょう?」
「分からねえよ。」
というかティルーナが俺に喋りかけてくるなど珍しい。
俺をとてつもなく敵視しているティルーナは俺に喋りかけてくる事は余程の事がない限りない。
「リーグは抜けられたか?」
「反射的に殴ってしまったので、反則負けですね。」
「ひっでえな、オイ。」
やっぱりここにいるべき人間じゃないだろ。
魔導部門で肉弾戦の方が強いのはどう考えてもおかしい。
「で、何の用だ?」
ティルーナがこんな雑談をしに来たとは思えない。
色々と推測はできるが、こういうのは率直に聞くのが一番だ。
「……あなたは、非常に認め難いですがフィルラーナ様の騎士です。」
「ああ、そうだな。」
「騎士ならば、恥ずかしい真似は決してしないでください。主君に迷惑をかけるなどもっての外です。」
「そんなに信用ないか?」
「ええ、もちろん。」
迷惑をかけているつもりがあるから、否定できないのが辛いところだな。
「今回の大会、優勝するつもりがないでしょう。」
「……どうして?」
俺は少し黙り込んで、それから答える。
「貴方が本気の時の目を、私は知っています。今のそれが貴方にはない。ただそれだけのこと。」
「アースの時のと比較してんじゃないだろうな。流石にあれほどには大会でマジにはなれねえよ。」
「いえ、それでは駄目です。許しません。」
ティルーナは言い切る。俺を悪と断じるように。
「フィルラーナ様のためなら命を賭けなさい。フィルラーナ様のために、貴方は全力を尽くしなさい。常に全力で戦いなさい。私はそれ以外を、決して許容しません。」
それは盲信であり、異常であった。
しかし俺はそれをただの異常として一蹴する事はできなかった。
「フィルラーナ様のために命を賭けれないのなら、貴方を騎士とは決して認めない。私が言いたかったのはそれだけです。」
そう言ってティルーナは去っていく。
俺はその後ろ姿を唖然としたまま、何も言わずに見ていることしかできなかった。
その少年は俺へと真っ直ぐ指を刺す。
「ハッキリ言おう、アルス・ウァクラート。俺はお前より強い。学園長の曾孫だからってちやほやされて、ちょっと高階位の魔法が使えるだけだ。」
「……そうか。」
「あまつさえコネであのフィルラーナ嬢の騎士になるなんて、あまりにも許し難き事だ。」
そういやこれでリーグ戦最後だな。これが終わったら後はトーナメントだし、休憩できるかな。
「ふん。いくらレベルの高い魔法を使えても、実戦魔法術を学んだ俺にとっては敵ではない事を教えてやる。」
「始め!」
痺れを切らしたのか、そもそも聞いていないのか。審判の先生が開始の合図をかける。
「さて、先ずは――」
「話が長い。」
俺は右手を魔法に変えて飛ばす。いわゆるロケットパンチの形で飛んでいく腕は、巨大な石となって少年を吹き飛ばした。
「勝者、アルス・ウァクラート。」
無感動に俺の勝利が宣言された。
少年には全く傷がない。
生徒にはとある魔道具が支給されているのだ。体の魔力を動力源として結界を展開し、結界は一定のダメージを喰らうと壊れて所有者を気絶させる。そんな魔道具。
「そういや、ガレウは大丈夫かな。まあお嬢様はリーグぐらいなら軽く抜けてくるだろうけど。」
アースは無理だ。それは分かってる。
ティルーナ様は……まあ回復魔法特化だしな。
「あ、アルス!」
噂をすればなんとやら。ちょうどガレウも試合が終わったのか、こっちへ走ってくる。
「無事勝てたみたいだね。」
「おうよ。そっちは?」
「ギリギリだったけど、なんとか抜けられたよ。」
ガレウはどちらかというと平均的に優秀、といった成績だ。
飛び抜けてどこかが強いというわけでもなく、魔法も座学も普通にできる。
「だけどトーナメントは勝ち残れる気がしないね。アルスは絶対一位だろうけど。」
「いや、そうとも限らねえよ。エルディナ様もいらっしゃる。」
なんとなくだけど、強いと本能的に感じている。
単純に魔法使いとしても強いのだろうが、その他にも何かがある気がするのだ。
「やれるだけやるけどな。」
「僕は君が優勝するのを楽しみに待っているよ。」
「やめろよ、普通に勝つ気しねえし。」
エルディナ様相手じゃ煉獄剣を抜かざるをえないだろうしな。そっちも練習しとくか。
「トーナメントまでもうちょっと時間あるし、俺は自主練するつもりだけど。お前はどうする?」
「僕は魔力も結構使っちゃったし、回復させるために休んでるよ。」
「そうか、じゃあまた後でな。」
俺はこの場を後にして通路の方へ進んでいく。
闘技場の内部には訓練施設のようなものが存在する。
観客席などなく、単純に腕を磨き、修練するための場所。そこで俺は魔法の練習をしていた。
並列起動の練習だ。俺の周りを五つの火の球が規則的に飛んでいる。
やっと単純な動きなら五つの並列起動ができるようになった。
しかしまだ足りない。一流ならば十は同時展開をするのが当たり前だ。
「精が出ますね。」
「ああ、ティルーナ様。」
「……前から思っていましたが様付けはやめてください。それに敬語もやめてください。虫唾が走ります。私も敬意など払うつもりはないので。」
「なら遠慮なく。」
「躊躇いがありませんね。」
「なんだかんだ言って、グループを組んで三ヶ月ぐらいは経つからな。」
お嬢様は立場的に敬語を使わなくちゃならないが、まあ正直言ってお嬢様以外に敬語を使う必要はないのだ。
気持ちの問題で敬語を使うようにしてるだけだからな。
「そっちは敬語を外さないのか?」
「これは癖です。言わなくても分かるでしょう?」
「分からねえよ。」
というかティルーナが俺に喋りかけてくるなど珍しい。
俺をとてつもなく敵視しているティルーナは俺に喋りかけてくる事は余程の事がない限りない。
「リーグは抜けられたか?」
「反射的に殴ってしまったので、反則負けですね。」
「ひっでえな、オイ。」
やっぱりここにいるべき人間じゃないだろ。
魔導部門で肉弾戦の方が強いのはどう考えてもおかしい。
「で、何の用だ?」
ティルーナがこんな雑談をしに来たとは思えない。
色々と推測はできるが、こういうのは率直に聞くのが一番だ。
「……あなたは、非常に認め難いですがフィルラーナ様の騎士です。」
「ああ、そうだな。」
「騎士ならば、恥ずかしい真似は決してしないでください。主君に迷惑をかけるなどもっての外です。」
「そんなに信用ないか?」
「ええ、もちろん。」
迷惑をかけているつもりがあるから、否定できないのが辛いところだな。
「今回の大会、優勝するつもりがないでしょう。」
「……どうして?」
俺は少し黙り込んで、それから答える。
「貴方が本気の時の目を、私は知っています。今のそれが貴方にはない。ただそれだけのこと。」
「アースの時のと比較してんじゃないだろうな。流石にあれほどには大会でマジにはなれねえよ。」
「いえ、それでは駄目です。許しません。」
ティルーナは言い切る。俺を悪と断じるように。
「フィルラーナ様のためなら命を賭けなさい。フィルラーナ様のために、貴方は全力を尽くしなさい。常に全力で戦いなさい。私はそれ以外を、決して許容しません。」
それは盲信であり、異常であった。
しかし俺はそれをただの異常として一蹴する事はできなかった。
「フィルラーナ様のために命を賭けれないのなら、貴方を騎士とは決して認めない。私が言いたかったのはそれだけです。」
そう言ってティルーナは去っていく。
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