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第三章〜剣士は遥かなる頂の前に〜
3.頂点に
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その後の夜、俺は中々眠れなかった。
「アレが、学年主席か。」
とてつもなく個性が強かった。
しかしよくよく見てみれば魔法の強さの片鱗は見て透ける。
アースを連れ出した魔法をただの魔法ではないと感じとる観察眼、風が吹くほどに強力な身体強化、何よりあの圧倒的な自信。
「まあ、お嬢様よりは頭が悪そうだけどな。本当に学年主席か?」
「多分二人とも満点ってオチじゃないかい?」
「……多分そうだろな。」
とてもじゃないが、お嬢様やアースに並ぶほど頭がいいとは思えない。
多分それも、子供の頃からしっかり教育されているおかげなのだろうけど。
ベットの上から窓の外を見る。俺はあの人に勝てるのだろうか。
俺の魔法は半端だ。もちろん、頑張っていないとは言わない。
しかし知っているのだ。この世に俺と同じ歳で俺以上に頑張っている人間など数えきれないほどいる。
俺がなぜ他の人に比べて魔法が上手いというのなら、それは二度目の人生というアドバンテージと膨大な魔力を持っているからであろう。
決して俺が努力したからではないのだ。
「ちょっと、外行ってくる。」
俺はベットから出て、立ち上がる。
なんか眠れない。
惨めな気分がしたのだ。自己嫌悪が嵩むと死にたくなってくる。
そういう時は夜風に当たるのがいい。無理矢理寝ようとしても吐きたくなるだけだ。
「もう九時過ぎてるけど?」
「ちょっとだけだ。直ぐ帰ってくる。」
もう五月だ。
この世界は大体どこでも日本と同じような気候をしている。
どうやら惑星の持つ魔力がそうさせているらしいが、ともかく俺が言いたいのは、あったかくなってきたって事だ。薄い寝巻きでも大丈夫なぐらいにはね。
この世界は就寝時間が早い。
街灯はあるが、エネルギー資源が足りていない。灯りは大体八時から九時ぐらいには消える。
その代わりに一定量を無限に採取できているのが利点だろう。
「……誰もいないな。」
俺は火の魔法で灯りを確保する。
光魔法はちょっと明る過ぎるし、制御するのもかったるいし火でいい。
「もっと、人より頑張れたらいいんだけどな。」
俺は決して努力家ではない。
確かに暇さえあれば魔法書を見て魔法の練習はしている。しかし、それは俺ができるだけ。
寝る間も惜しんでってほどじゃないし、自分でもやる気がない時は雑に緩く練習している。
有り体に言えば量はあっても質が悪い。そんな俺が努力家など、本物に失礼というものだろう。
「あいつみたいな奴に、な。」
学生寮を出て、近くの校庭。そこにあいつはいた。黒い髪と目をした男が一心不乱に無骨な直剣を振っている。
果たして何時間練習をしていたのか。
素振りは基礎だ。だが、基礎にこそ技の全てが詰まっている。足運び、剣の振り方、力の入れ具合、何より打ちの鋭さ。
いくら分かっていても人というのは派手な応用技を好む。
アレだ。アレが努力家なのだ。
俺みたいに変身魔法みたいなズルにとっつくのではなく、ひたすらに原点を極めて、そこからその先を極める。
俺には絶対にできない事だ。
「何用だ、アルス。」
フランは剣を振るのをやめてこっちを見る。もの凄く汗をかいてる。
フランは同じ歳の中でも飛びぬけて強い。
しかし鍛錬を怠ることはない。
「いや、何でそんなに頑張れるんだろうって疑問でな。もう十分な強さはあると思うんだけどな。」
「……お前も強いが魔法の練習はするだろう?」
「お前ほどは頑張ってねえよ。ごめん、変な質問してよ。」
俺は頭をかく。
人というのは自分に足りないものを羨ましがるものだ。
前世からそうだ。俺は中途半端にしか頑張れない。
だから魔法も途中で投げ出したんだ。
「いや、気にしない。不安なのは、大会か?」
「……そうかもしれないな。」
俺はなんだかんだ自信があったのかもしれない。
俺が今まで負けてきたのは格上が相手だったからだ。自分は同世代の間だったら優秀なんだと、無意識に思っていたのだろう。
だからこそあのエルディナ様に負けるかもしれない。そう思うと少し怖かったのだ。
俺の自信が、夢が砕かれるような感覚があって。
「は、本当に愚かしい。」
母親が殺されてまでして、死ぬ気で頑張ることすらできやしないなんて。
だけど愚かしいこの身は無意識上にサボり始める。
あの時の光景は未だ脳裏に焼き付いているのに、理想と現実はほど遠いままだ。
「俺にはお前が何に悩んでるかは分からない。俺は負けるのが嫌なだけだからな。あのゴーレムに、王子を襲った男。両方に俺は負けている。」
「負けず嫌いなんだな。」
「当たり前だ。戦士とは負けず嫌いの集まりだと、師も言っていた。」
若い考え方だ。
一般人のサラリーマン、しかも四十代にもなればどこか負けてもいいかなとさえ思ってしまう。
結局人を守るのが俺の夢なのだから、ここで勝つ必要はないのだと。
そんな愚かしい自分が嫌いだ。
「だから、アルス。お前も来い。」
「お前、も?」
「俺は必ず武術部門の頂点に君臨してみせる。だからお前も、魔導部門の頂点に来い。友で優勝できれば嬉しいだろう?」
即答してしまいたかった。だけど、何故か言葉が詰まって。
「ああ、まあ、頑張るよ。」
濁すことしかできなかった。
俺は強くなりたい。その思いは間違いない。だから毎日勉強して、以前と比べて魔法の練習量は大きく増えている。
大きく増えているだけだ。決して多いわけじゃないのだ。
どこまでも自分に甘く、優しい。そんな自分が大嫌いだ。
「約束だぞ、アルス。」
「あんま期待すんなよ。」
「いや、お前は強い。お前ならいける。」
何故フランにこんなに信頼されているかは分からないが、取り敢えずできるだけ頑張ろうとだけ。
今はそうとだけ思った。
「アレが、学年主席か。」
とてつもなく個性が強かった。
しかしよくよく見てみれば魔法の強さの片鱗は見て透ける。
アースを連れ出した魔法をただの魔法ではないと感じとる観察眼、風が吹くほどに強力な身体強化、何よりあの圧倒的な自信。
「まあ、お嬢様よりは頭が悪そうだけどな。本当に学年主席か?」
「多分二人とも満点ってオチじゃないかい?」
「……多分そうだろな。」
とてもじゃないが、お嬢様やアースに並ぶほど頭がいいとは思えない。
多分それも、子供の頃からしっかり教育されているおかげなのだろうけど。
ベットの上から窓の外を見る。俺はあの人に勝てるのだろうか。
俺の魔法は半端だ。もちろん、頑張っていないとは言わない。
しかし知っているのだ。この世に俺と同じ歳で俺以上に頑張っている人間など数えきれないほどいる。
俺がなぜ他の人に比べて魔法が上手いというのなら、それは二度目の人生というアドバンテージと膨大な魔力を持っているからであろう。
決して俺が努力したからではないのだ。
「ちょっと、外行ってくる。」
俺はベットから出て、立ち上がる。
なんか眠れない。
惨めな気分がしたのだ。自己嫌悪が嵩むと死にたくなってくる。
そういう時は夜風に当たるのがいい。無理矢理寝ようとしても吐きたくなるだけだ。
「もう九時過ぎてるけど?」
「ちょっとだけだ。直ぐ帰ってくる。」
もう五月だ。
この世界は大体どこでも日本と同じような気候をしている。
どうやら惑星の持つ魔力がそうさせているらしいが、ともかく俺が言いたいのは、あったかくなってきたって事だ。薄い寝巻きでも大丈夫なぐらいにはね。
この世界は就寝時間が早い。
街灯はあるが、エネルギー資源が足りていない。灯りは大体八時から九時ぐらいには消える。
その代わりに一定量を無限に採取できているのが利点だろう。
「……誰もいないな。」
俺は火の魔法で灯りを確保する。
光魔法はちょっと明る過ぎるし、制御するのもかったるいし火でいい。
「もっと、人より頑張れたらいいんだけどな。」
俺は決して努力家ではない。
確かに暇さえあれば魔法書を見て魔法の練習はしている。しかし、それは俺ができるだけ。
寝る間も惜しんでってほどじゃないし、自分でもやる気がない時は雑に緩く練習している。
有り体に言えば量はあっても質が悪い。そんな俺が努力家など、本物に失礼というものだろう。
「あいつみたいな奴に、な。」
学生寮を出て、近くの校庭。そこにあいつはいた。黒い髪と目をした男が一心不乱に無骨な直剣を振っている。
果たして何時間練習をしていたのか。
素振りは基礎だ。だが、基礎にこそ技の全てが詰まっている。足運び、剣の振り方、力の入れ具合、何より打ちの鋭さ。
いくら分かっていても人というのは派手な応用技を好む。
アレだ。アレが努力家なのだ。
俺みたいに変身魔法みたいなズルにとっつくのではなく、ひたすらに原点を極めて、そこからその先を極める。
俺には絶対にできない事だ。
「何用だ、アルス。」
フランは剣を振るのをやめてこっちを見る。もの凄く汗をかいてる。
フランは同じ歳の中でも飛びぬけて強い。
しかし鍛錬を怠ることはない。
「いや、何でそんなに頑張れるんだろうって疑問でな。もう十分な強さはあると思うんだけどな。」
「……お前も強いが魔法の練習はするだろう?」
「お前ほどは頑張ってねえよ。ごめん、変な質問してよ。」
俺は頭をかく。
人というのは自分に足りないものを羨ましがるものだ。
前世からそうだ。俺は中途半端にしか頑張れない。
だから魔法も途中で投げ出したんだ。
「いや、気にしない。不安なのは、大会か?」
「……そうかもしれないな。」
俺はなんだかんだ自信があったのかもしれない。
俺が今まで負けてきたのは格上が相手だったからだ。自分は同世代の間だったら優秀なんだと、無意識に思っていたのだろう。
だからこそあのエルディナ様に負けるかもしれない。そう思うと少し怖かったのだ。
俺の自信が、夢が砕かれるような感覚があって。
「は、本当に愚かしい。」
母親が殺されてまでして、死ぬ気で頑張ることすらできやしないなんて。
だけど愚かしいこの身は無意識上にサボり始める。
あの時の光景は未だ脳裏に焼き付いているのに、理想と現実はほど遠いままだ。
「俺にはお前が何に悩んでるかは分からない。俺は負けるのが嫌なだけだからな。あのゴーレムに、王子を襲った男。両方に俺は負けている。」
「負けず嫌いなんだな。」
「当たり前だ。戦士とは負けず嫌いの集まりだと、師も言っていた。」
若い考え方だ。
一般人のサラリーマン、しかも四十代にもなればどこか負けてもいいかなとさえ思ってしまう。
結局人を守るのが俺の夢なのだから、ここで勝つ必要はないのだと。
そんな愚かしい自分が嫌いだ。
「だから、アルス。お前も来い。」
「お前、も?」
「俺は必ず武術部門の頂点に君臨してみせる。だからお前も、魔導部門の頂点に来い。友で優勝できれば嬉しいだろう?」
即答してしまいたかった。だけど、何故か言葉が詰まって。
「ああ、まあ、頑張るよ。」
濁すことしかできなかった。
俺は強くなりたい。その思いは間違いない。だから毎日勉強して、以前と比べて魔法の練習量は大きく増えている。
大きく増えているだけだ。決して多いわけじゃないのだ。
どこまでも自分に甘く、優しい。そんな自分が大嫌いだ。
「約束だぞ、アルス。」
「あんま期待すんなよ。」
「いや、お前は強い。お前ならいける。」
何故フランにこんなに信頼されているかは分からないが、取り敢えずできるだけ頑張ろうとだけ。
今はそうとだけ思った。
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