49 / 474
第二章~学園にて王子は夢を見る~
27.躍動
しおりを挟む
月明かりの下。二人の男がいた。
一人は恐怖を感じるほどの真っ青な髪を持つみすぼらしい服装をした男。
もう一人は装飾品などは一切つけていないが、妙に服装や身だしなみを整えた平均的な体型の男。
「計画は失敗、か。」
妙に小綺麗な男がそう言う。
そこはとある建物の屋上。そこにある大きいテーブルに二人は座っていた。
「まあ惜しいところまでいったが、元々期待してはいなかった。大して金もかかっていない。組織としては問題ないな。」
そう言いながら小綺麗な男は皿に乗せられたステーキを優雅な作法で食う。
それをもう一人の男は黙って見ている。
「それよりも、あの少年達が気になる。計画を破綻させたアルス・ウァクラートと、一瞬であったが君と切りあったフラン・アルクス。少し警戒するべきかもしれない。」
「ああ、分かるぜ。お前が慎重なのは分かる。それで組織をここまで発展させたのも分かってる。だけどよ、気にし過ぎじゃねえか?」
「いや、正当な評価だとも。油断が我々の野望を遠ざけ、私のこういった平穏な時が奪われる。それは何よりも許し難い事だ。」
グラスに入った真っ赤なワインを飲み干す。そして残りの肉も口の中に全て入れ、噛み、飲み込む。
「何より、総帥様は研究の邪魔をされるのを酷く嫌う。私もまだ、死にたくないからね。」
「……ああ、分かるぜ。死ぬのは嫌だな。」
使用人が横から出てきて、食器を片付け始める。
「計画の成就は最速でも数年は先。今はまだ、奥底に沈んでおこうじゃないか。」
その口を大きく歪める。
その心にあるのは野心か、欲望か、憎悪か。
どちらにせよ、マシなものではない事だけは確かだった。
「そうだな……五年。五年も経てば、君も毎日のように人を殺せる。私も趣味を楽しむ余裕が出る。」
「……そうか。」
「そうだとも。全ては総帥のために、だ。この世を地獄に作り替えてみせようじゃないか。」
『悪意』は、動き出す。
勉強に魔法。
やらなくちゃいけない事は沢山あるが、目を背けてはいけない事がある。
いや、今まで目を背けていたことだ。
即ち、何故俺が転生したか。
魔力を持っていたからというなら、何故俺は魔力を持っていたのか。
あの白い腕は何か。ツクモとは一体どういう存在なのか。そして、俺とは一体どういうものなのか。
考えれば文字通りキリがない。
しかし恐らくこれは、俺が考えなければならない話だ。
またあのツクモの世界に入りたいのだが、うんともすんとも言わない。
「……俺って、なんなんだろうな。」
自分自身がよく分からない。
前世で俺は捨てられていた。もしかしたら、親は俺が何なのか知っていたんだろうか。
そうだとしたら、俺を何故捨てたんだろう。
「まあ、考えても仕方ないか。」
前世の事が含まれてきたら、もはやこの世界で調べ切れる内容ではない。
一応どうにかして知ろうとはしてみるけど、生涯知ることができない可能性は高い。
「今から魔法の練習するつもりも出ないしなあ。」
俺はベッドで寝転がりながら、そう呟く。
ガレウは休日だとよくいなくなる。一回聞いたことがあるが、適当にはぐらかされた。だけどまあ、嫌な事でも悲しいことでもなく単純な用事だと言ってたし大丈夫だとは思うが。
「あ、そういやこれがあったな。」
俺は枕元に置いてあった本を手に取る。
その表紙には『平凡な英雄記』と書かれている。物語としての側面も強いが、これは偉人伝という感じの書き方がされた本だ。
まあ中身もチラッとしか読んでないし、折角だから今読んでしまおう。
「さーて、今日中に読破するか!」
俺はそう意気込んで本を開いた。
一人は恐怖を感じるほどの真っ青な髪を持つみすぼらしい服装をした男。
もう一人は装飾品などは一切つけていないが、妙に服装や身だしなみを整えた平均的な体型の男。
「計画は失敗、か。」
妙に小綺麗な男がそう言う。
そこはとある建物の屋上。そこにある大きいテーブルに二人は座っていた。
「まあ惜しいところまでいったが、元々期待してはいなかった。大して金もかかっていない。組織としては問題ないな。」
そう言いながら小綺麗な男は皿に乗せられたステーキを優雅な作法で食う。
それをもう一人の男は黙って見ている。
「それよりも、あの少年達が気になる。計画を破綻させたアルス・ウァクラートと、一瞬であったが君と切りあったフラン・アルクス。少し警戒するべきかもしれない。」
「ああ、分かるぜ。お前が慎重なのは分かる。それで組織をここまで発展させたのも分かってる。だけどよ、気にし過ぎじゃねえか?」
「いや、正当な評価だとも。油断が我々の野望を遠ざけ、私のこういった平穏な時が奪われる。それは何よりも許し難い事だ。」
グラスに入った真っ赤なワインを飲み干す。そして残りの肉も口の中に全て入れ、噛み、飲み込む。
「何より、総帥様は研究の邪魔をされるのを酷く嫌う。私もまだ、死にたくないからね。」
「……ああ、分かるぜ。死ぬのは嫌だな。」
使用人が横から出てきて、食器を片付け始める。
「計画の成就は最速でも数年は先。今はまだ、奥底に沈んでおこうじゃないか。」
その口を大きく歪める。
その心にあるのは野心か、欲望か、憎悪か。
どちらにせよ、マシなものではない事だけは確かだった。
「そうだな……五年。五年も経てば、君も毎日のように人を殺せる。私も趣味を楽しむ余裕が出る。」
「……そうか。」
「そうだとも。全ては総帥のために、だ。この世を地獄に作り替えてみせようじゃないか。」
『悪意』は、動き出す。
勉強に魔法。
やらなくちゃいけない事は沢山あるが、目を背けてはいけない事がある。
いや、今まで目を背けていたことだ。
即ち、何故俺が転生したか。
魔力を持っていたからというなら、何故俺は魔力を持っていたのか。
あの白い腕は何か。ツクモとは一体どういう存在なのか。そして、俺とは一体どういうものなのか。
考えれば文字通りキリがない。
しかし恐らくこれは、俺が考えなければならない話だ。
またあのツクモの世界に入りたいのだが、うんともすんとも言わない。
「……俺って、なんなんだろうな。」
自分自身がよく分からない。
前世で俺は捨てられていた。もしかしたら、親は俺が何なのか知っていたんだろうか。
そうだとしたら、俺を何故捨てたんだろう。
「まあ、考えても仕方ないか。」
前世の事が含まれてきたら、もはやこの世界で調べ切れる内容ではない。
一応どうにかして知ろうとはしてみるけど、生涯知ることができない可能性は高い。
「今から魔法の練習するつもりも出ないしなあ。」
俺はベッドで寝転がりながら、そう呟く。
ガレウは休日だとよくいなくなる。一回聞いたことがあるが、適当にはぐらかされた。だけどまあ、嫌な事でも悲しいことでもなく単純な用事だと言ってたし大丈夫だとは思うが。
「あ、そういやこれがあったな。」
俺は枕元に置いてあった本を手に取る。
その表紙には『平凡な英雄記』と書かれている。物語としての側面も強いが、これは偉人伝という感じの書き方がされた本だ。
まあ中身もチラッとしか読んでないし、折角だから今読んでしまおう。
「さーて、今日中に読破するか!」
俺はそう意気込んで本を開いた。
15
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・


これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる