幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
43 / 474
第二章~学園にて王子は夢を見る~

21.知っている

しおりを挟む
「終わった、か。」

 俺は一人そう呟く。
 裁判が一度終わり、俺は色々と事情を聞かれてそのまま開放となった。
 明日からまた普通の学園生活が始まるが、今日は取り敢えず休みだ。色々と疲れた。当分は頑張りたくない。

「ここに、いたか。」

 だが、話はせねばなるまい。
 俺は今、王都のとある高台から街を見下ろしていた。もちろん学園があったファルクラム領も発展していたが、ここも凄く発展している。
 もうそろそろ夜だからか街灯も点き始め、仄かに美しい夜の街が完成しつつあった。

「……もう、出歩いていいのかアース。」
「うるさい、黙れ。」

 酷く冷たいものだ。俺の後ろにアースが立っている。俺も振り向き、アースと目を合わせた。
 その顔は怒りのようであるが、よく分からない。色々な感情がごちゃ混ぜになったような、そんな妙な感じだ。

「何故、助けた。」

 その声も酷く不安定だった。
 怒りと悲しみと不安と苦しみと、全部ぶち込んでミキサーで混ぜたみたいな、そんな声だった。

「助けろなんて、一言も言ってないだろ。俺はあそこで退場する、それでよかったんだ。そうしたら全てが丸く収まる。」

 それは半ば妄信に近い。そう信じ切ることによって自分が諦める理由を作ろうとしている。
 そして、俺はこの顔を知っている。昔に一度、そして最近にも何度も見た顔だ。

「何故、俺の幸せを邪魔する。」

 それは俺なのだ。母親が殺されて全てを諦めて、投げ出したくなった俺の顔だったのだ。
 夢も目標も信念も、何も持たなかった愚かしい俺の姿が、全てを諦めて投げ捨てるアースの姿と重なった。

「……もし俺の幸せと、他者の幸せが食い違った時。何が正しいのか、ずっと考えてた。」

 だからこそベルセルクが、お嬢様が俺を助けたように。俺もアースを助けなくちゃならない。
 俺しかいないんだよ、こいつを助けられる奴は。

「ずっとずっと考えて、それでも答えは出なかった。」
「……」
「だから、やめたんだ。そんなつまらない事考えるの。」

 必要なのは、たった一つ。シンプルな答えだったのだ。
 俺は、自分みたいな人間を作りたくなかっただけなのだ。
 だから、俺は理不尽になる。人を問答無用で救う理不尽に。

「俺が考えるべきは、俺がどうしたいかだけだったんだよ。」
「例え、それが、俺が望んでいなくてもか。」
「ああ。俺はそれが嫌だったから、だから助けた。」
「そんな、稚拙な子供みたいな理由で、あんなにも大きな賭けをしたのか。失敗したら、お前は今頃殺されてるんだぞ。」

 信じられないようにしてそう言う。

「確かにそうだろうよ。だけど俺は、自分に嘘をつくぐらいなら死んだほうがマシなんだよ。死ぬより辛い事を、俺は知ってるからな。」

 実際に死んだ事があるからこそ、分かるのだ。大切な人を失うというのは、死ぬより辛い。
 どうしようもない無力感が、何より辛い。

「……ふざけるな。」

 怒気を込めて、アースはそう言った。
 その瞬間、正にタガが外れたようにアースは話し始める。

「ふざけるなよアルス! 俺は一度も助けてくれなんて言ってない! お前の欲望の道具として俺を使うな!」
「アース……」
「俺を憐れむな! 俺を気遣うな! 俺を助けるだなんて言うな! 俺はもうとっくに助かってんだよ! 俺はもう、これで良いんだよ! 勝手に外野がギャーギャー騒いでんじゃねえよ!」

 それは恐らく、心の底からの言葉なのだろう。
 憐れまれたくない。助けられたくない。自分の力で、自分の手で前に進みたい。それがアースの求める事だったのだ。

「だからもう、俺に関わらないでくれよ。もう、楽にさせてくれよ。もう嫌なんだよ。誰にも期待もされないのに生きるのは……!」

 これがただの平民であったら、もう少し父親が凡才の王だったら、ただの貴族であったなら。アースはここまで苦しまなかったかもしれない。
 アースへと、ありとあらゆる環境が牙を剥いていた。
 アースの目元に雫が見える。たった10歳の子供が、抱える悩みなのか。なぜここまでなるまで、周りは放っていたのだ。子供一人笑えさせる事ができなくて、何が賢王だというのだ。

「アース。」
「何だよ、また哀れみの言葉を向ける気か?それとも、俺に期待しているだとか薄っぺらい言葉を吐く気か?」
。」

 俺はハッキリと、そう言った。
 今はまだ、体は幼い。だが俺のこの魂には、五十年もの経験が刻まれている。だから分かる。この時にかける薄っぺらい同情の言葉ほど、クソみたいなものはないって。

「ッ!!」
「何を間違えてそんな薄っぺらい、酷い考え方になったのかはよくわからない。興味もない。ただ、俺はお前に期待なんかしてやらねえ。お前が何がどんな風になるなんて、お前の好きにすればいい。」

 そもそも、こいつは致命的に履き違えている。
 期待なんてかけられても、この世で何の意味もない。結局は事実のみが残り、勝手に期待した奴が勝手に文句を言い始めるなんてしょっちゅう見る。

「期待もしない。信じもしない。だが、それでもお前と俺は友達なんだよ。」
「とも、だち?」
「ああ、そうだ。お前は何もかも履き違えてやがる。友達だから信じる? 友達だから期待する? 違うね。少なくとも俺の知ってる友達なんてそんなんじゃなかった。」

 前世の、俺のたった一人の友達だった男。俺はあいつを信用しなかった。俺はあいつに期待もしなかった。
 だけど、友達だったのだ。間違いなく。

「友達ってのはよ、アース。知ってるって事なんだよ。」

 そいつがどういう人間なのか、なぜ自分と仲がいいのか、どんな事ができるやつなのか。
 それを知っているからそれは友達たりえる。

「だからこそアース。俺は知ってる。お前がいかに気高い人間かを。お前がいかに優しい人間かを。お前がいかに強い人間かを。期待でもなんでもねえ。俺が実際に見て、そう心の底から思ったから言ってるんだ。」

 友人を信じるというのは、信じられるような人間だというのを知っているからだ。

「それでも、お前が全てを投げ出したいというのなら! 俺は何度でもぶん殴って止めてやる! それがお前の幸せって言うなら何度でもぶち壊してやるよ! お前にどれだけ非難されようが、それを見過ごす奴が良い奴なはずがねえ!」

 俺は知っているのだ。この短い期間ではあるが、このアースという人間を。

「……俺は、そんなに凄い人間じゃ、ない。」
「そうかい。だけどよく言うだろ、案外他の人の方がその人のことをよく見てるってな。」

 俺はアースの横を通り、この場を後にする。
 話したいことは全部話した。もういい。十分だとも。結局はこれも全部、俺がやりたかっただけだ。

「またな、アース。学園で会おうぜ。」

 そう言って俺はその場を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...