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第二章~学園にて王子は夢を見る~
5.雪
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学年の数はおよそ三百人。それを5クラスに分ける。だから一つのクラスで六十人ほどいて、その分教室も広い。
大学のように席は自由らしく、思い思いの席にみんなが座っていく。
「は、初めまして。ガレウ・クローバー、です。」
「そんなにかしこまらなくてもいいわ。敬語、苦手なのでしょう?」
「あ、うん、そう、ですが。」
ガレウはとても緊張した風に、おぼつかない敬語で話していた、
俺の目の前でガレウとお嬢様が話している。俺の友人となったからには会わないわけにはいかないというものだろう。
「安心しろよ、ガレウ。お嬢様はそんな狭量な人間じゃない。敬語使わなくたって構いはしないさ。」
「いや無理だってアルス! あのリラーティナ家の令嬢様だよ!」
あのってなんだ。こちとら無法の大陸から来てんだ。偉いってことしか知らん。
それに変に畏まっても疲れるだけだしな。
「そんな事言わずに仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「あ、いや、だけど。」
「まあ、直ぐに馴染む必要はないでしょうよ。どうせ長い間、一緒に過ごすことになるんですから。」
「え、僕はもう長い付き合いになることは確定なの?」
嫌だなあ、折角のルームメイトなんだ。仲良くするのが道理というものだ。それこそ末永くね。
前世の学生時代、友達ができなかった俺の思いは根深いぞ。
「全員席につきたまえ。」
そんな喧騒の中、声が響く。
教室に一人の教員が入ってきた。蒼い髪と目をした男だ。その顔つきと雰囲気はまるで軍人かのような規律深さを感じさせる。
それを見て生徒も次々と座っていき、それに合わせて俺達も座る。
「よし、それでは自己紹介から始めよう。私はこの一年一組の担任であるアルドールだ。これから一年間の間、このクラスにて一緒に過ごす事となる。」
俺はその顔に見覚えがある事に気付いた。あの試験の時に会った試験官だ。
まさか担任になるとは思わなかった。
「これから五年間をかけて君達には歴史と地理、算術、魔導の四つの教科を修めてもらう。」
算術と魔導はまだいい。前者は義務教育含めた学生期間で、後者は今世をかけて死に物狂いで覚えた。
だが歴史と地理はしっかりとこの機会に学んでおきたい。
それに魔導も俺はまだ半人前の身だし、更にもっと学べることがあるはずだ。
「既に教科書を配布しているはずだが、教科書を使う必要はない。授業に出席すること、テストで一定以上の点数取ること。この二つの条件さえ満たせば君達は卒業ができる。」
ここだけ聞くと簡単そうに感じるが、たかがこの程度の内容で卒業できるのは100人まで絞られるんだ。
教科書を見ないで学べる内容だけで、テストを乗り越えられるはずもない。
「例外なく全員が躓くのは魔導だ。知識も勿論、能力が足りなくて退学などよく見る。一学期を過ぎた頃に何人残っているか、というものだ。」
あまりにも十歳の子供に投げかけるにしては鋭く、そして容赦のない言葉だ。
しかしここは国の機関で、学費を免除されている。優秀な人材を育成するための場所であり、一から面倒を見てやるための機関ではないのだろう。
確かに合理的だ。この学園に来るための金なども全て免除されているのだから、誰も文句は言えない。
「早速、明日から授業を行う。授業では数人でグループを組んでもらう故、事前に決めておくことを推奨する。何か質問はあるか?」
その言葉に誰も手を挙げる人はいない。
あまり質問がないというのもそうだが、それ以上に威圧感からか手が挙げづらいのだろう。
その様子を見て先生は少し頷いた。
「ならば今日は学園初日だ。折角なのだから魔法の真理の一端を見せよう。」
そう言ってアルドール先生は右手の人差し指の指先に魔力を集め、一つの火を灯す。
「人が使える魔法のうち、一般的な属性魔法は九つ。無、火、水、風、木、雷、土、光、闇。その中から派生するいくつかの属性が君達が使えるであろう魔法の全てだ。」
それらを合わせると大体二十ぐらい。ここまで属性があれば魔法使いによって得意分野が変わったり戦い方が変わったりして当然だ。
だが、それだけではない。
「しかし、この世には希少属性と呼ばれる限られた一部しか使えない属性が存在する。いわゆる特別な力だ。そして君達のような年頃であれば、特にそれに憧れる人も多い筈だ。もしくはそれに優越感を覚えるような人もな。」
それは当然の事だ。
人ができない事ができる。この優越感は尋常じゃない気持ち良さがある。
自分が他の人間より優れているのだと、位が上なのだと。そのような傲慢な思考を無意識に生み出すぐらいには。
「だが、忘れてはならない。そもそも魔法自体が特別そのものであることを。希少属性とは希少なだけであって、それ以上でもそれ以下でもないのだ。」
そう言って指先の炎を握り潰すようにして消す。そして、急に肌寒い感覚が俺達を襲う。
さっきまで太陽がこの場を照らしていたにも関わらず、急速に空は陰りを見せる。
俺は思わず立ち上がり、窓の方へと駆けた。
「アルス、どうしたの?」
「嘘、だろ。」
空にあるのは学園の敷地を覆い尽くす雲。そしてそこから白い結晶が舞い落ちる。
間違いなくそこには魔力が篭っていた。つまりはそれは魔法だ。魔法によって雲を生成するだけでなく、雪を降らせたのだ。
「本日の日程はここまでだ。明日からの授業に備えて各自準備せよ。」
あの雪を、まさかアルドール先生たった一人で?
一体どれだけの魔力量と魔力操作の練度があればそんな事ができるんだ。天候を変えるなんて第七階位クラスだぞ。
「これが、学園か。」
教員一人でこの練度、そんな魔法使いから魔法を教われるのか。
あまりにも今更だが、感動せずにはいられない。この魔法の緻密さは既に芸術の域に達している。
俺はその降りゆく雪を、そのまま降らなくなるまでずっと眺めていた。
大学のように席は自由らしく、思い思いの席にみんなが座っていく。
「は、初めまして。ガレウ・クローバー、です。」
「そんなにかしこまらなくてもいいわ。敬語、苦手なのでしょう?」
「あ、うん、そう、ですが。」
ガレウはとても緊張した風に、おぼつかない敬語で話していた、
俺の目の前でガレウとお嬢様が話している。俺の友人となったからには会わないわけにはいかないというものだろう。
「安心しろよ、ガレウ。お嬢様はそんな狭量な人間じゃない。敬語使わなくたって構いはしないさ。」
「いや無理だってアルス! あのリラーティナ家の令嬢様だよ!」
あのってなんだ。こちとら無法の大陸から来てんだ。偉いってことしか知らん。
それに変に畏まっても疲れるだけだしな。
「そんな事言わずに仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「あ、いや、だけど。」
「まあ、直ぐに馴染む必要はないでしょうよ。どうせ長い間、一緒に過ごすことになるんですから。」
「え、僕はもう長い付き合いになることは確定なの?」
嫌だなあ、折角のルームメイトなんだ。仲良くするのが道理というものだ。それこそ末永くね。
前世の学生時代、友達ができなかった俺の思いは根深いぞ。
「全員席につきたまえ。」
そんな喧騒の中、声が響く。
教室に一人の教員が入ってきた。蒼い髪と目をした男だ。その顔つきと雰囲気はまるで軍人かのような規律深さを感じさせる。
それを見て生徒も次々と座っていき、それに合わせて俺達も座る。
「よし、それでは自己紹介から始めよう。私はこの一年一組の担任であるアルドールだ。これから一年間の間、このクラスにて一緒に過ごす事となる。」
俺はその顔に見覚えがある事に気付いた。あの試験の時に会った試験官だ。
まさか担任になるとは思わなかった。
「これから五年間をかけて君達には歴史と地理、算術、魔導の四つの教科を修めてもらう。」
算術と魔導はまだいい。前者は義務教育含めた学生期間で、後者は今世をかけて死に物狂いで覚えた。
だが歴史と地理はしっかりとこの機会に学んでおきたい。
それに魔導も俺はまだ半人前の身だし、更にもっと学べることがあるはずだ。
「既に教科書を配布しているはずだが、教科書を使う必要はない。授業に出席すること、テストで一定以上の点数取ること。この二つの条件さえ満たせば君達は卒業ができる。」
ここだけ聞くと簡単そうに感じるが、たかがこの程度の内容で卒業できるのは100人まで絞られるんだ。
教科書を見ないで学べる内容だけで、テストを乗り越えられるはずもない。
「例外なく全員が躓くのは魔導だ。知識も勿論、能力が足りなくて退学などよく見る。一学期を過ぎた頃に何人残っているか、というものだ。」
あまりにも十歳の子供に投げかけるにしては鋭く、そして容赦のない言葉だ。
しかしここは国の機関で、学費を免除されている。優秀な人材を育成するための場所であり、一から面倒を見てやるための機関ではないのだろう。
確かに合理的だ。この学園に来るための金なども全て免除されているのだから、誰も文句は言えない。
「早速、明日から授業を行う。授業では数人でグループを組んでもらう故、事前に決めておくことを推奨する。何か質問はあるか?」
その言葉に誰も手を挙げる人はいない。
あまり質問がないというのもそうだが、それ以上に威圧感からか手が挙げづらいのだろう。
その様子を見て先生は少し頷いた。
「ならば今日は学園初日だ。折角なのだから魔法の真理の一端を見せよう。」
そう言ってアルドール先生は右手の人差し指の指先に魔力を集め、一つの火を灯す。
「人が使える魔法のうち、一般的な属性魔法は九つ。無、火、水、風、木、雷、土、光、闇。その中から派生するいくつかの属性が君達が使えるであろう魔法の全てだ。」
それらを合わせると大体二十ぐらい。ここまで属性があれば魔法使いによって得意分野が変わったり戦い方が変わったりして当然だ。
だが、それだけではない。
「しかし、この世には希少属性と呼ばれる限られた一部しか使えない属性が存在する。いわゆる特別な力だ。そして君達のような年頃であれば、特にそれに憧れる人も多い筈だ。もしくはそれに優越感を覚えるような人もな。」
それは当然の事だ。
人ができない事ができる。この優越感は尋常じゃない気持ち良さがある。
自分が他の人間より優れているのだと、位が上なのだと。そのような傲慢な思考を無意識に生み出すぐらいには。
「だが、忘れてはならない。そもそも魔法自体が特別そのものであることを。希少属性とは希少なだけであって、それ以上でもそれ以下でもないのだ。」
そう言って指先の炎を握り潰すようにして消す。そして、急に肌寒い感覚が俺達を襲う。
さっきまで太陽がこの場を照らしていたにも関わらず、急速に空は陰りを見せる。
俺は思わず立ち上がり、窓の方へと駆けた。
「アルス、どうしたの?」
「嘘、だろ。」
空にあるのは学園の敷地を覆い尽くす雲。そしてそこから白い結晶が舞い落ちる。
間違いなくそこには魔力が篭っていた。つまりはそれは魔法だ。魔法によって雲を生成するだけでなく、雪を降らせたのだ。
「本日の日程はここまでだ。明日からの授業に備えて各自準備せよ。」
あの雪を、まさかアルドール先生たった一人で?
一体どれだけの魔力量と魔力操作の練度があればそんな事ができるんだ。天候を変えるなんて第七階位クラスだぞ。
「これが、学園か。」
教員一人でこの練度、そんな魔法使いから魔法を教われるのか。
あまりにも今更だが、感動せずにはいられない。この魔法の緻密さは既に芸術の域に達している。
俺はその降りゆく雪を、そのまま降らなくなるまでずっと眺めていた。
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