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第二章~学園にて王子は夢を見る~
4.入学式
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試験が終わった。結果から言うと、ギリギリではあるが合格を果たした。
恐らくは実技の成績が良いから受かったようなもので、筆記は平均よりかなり低かったのだと思う。
逆にお嬢様は学年二位で合格だ。むしろ一位の奴が気になるぐらい当たり前にその順位をもぎ取った。
そんなわけで今日が入学式だ。試験から一月程度で直ぐにあった。
俺は新品の制服に腕を通す。
まさかまた制服を着ることになるとはな。前世の俺に言ったらさぞ驚く事だろう。
「アルス、もう準備はできたのかい?」
「ああ。一緒に行くか?」
「当然だよ。折角ルームメイトになったって言うのに別々に行くなんて寂しいじゃないか。」
この学園では学生寮に住む事を義務付けている。
しかし、部屋数は少し足りないのでどうしても二人部屋だとかができてくる。いわゆるルームメイトがいるわけだ。
俺の目の前にいるのは俺と同じ制服を着た、子供なのもあるかもしれないが中性的な顔をする男の子だ。灰色の短髪と目をしていて、そしてその童顔は美少年というに相応しい容姿であると言えよう。
名をガレウ・クローバー。俺と同じ平民だ。
ガレウはゆったりと俺を待っている。手には何も持っていない。持ち物は指示されていないからで、俺も持っていない。
「じゃあ、行こうぜガレウ。」
俺はガレウと一緒に部屋から出る。
学生寮は男子の寮と女子の寮の2軒に分かれており、そしてそれぞれ寮は5階まである。
そして各階に、その数と同じ学年の生徒が住んでいるのだ。1年生なら1階、2年生なら2階っていう風にね。
だから俺達は一階で、直ぐに寮から出れる。
「えーと、今日は何があるんだっけ?」
「入学式とクラスの顔合わせだね。そんな大した事はしないと思うけど。」
俺の疑問にガレウが答えてくれた。
体育館にまず集まるように指示されており、周りの生徒の動きに合わせてなんとなく移動していた。
それにしても入学式の後に教室へ行くのか。俺の知識ではその逆であったような気がするのだが。
「それにしても、本当にこの学園広いよなあ。校庭もだだっ広いし、体育館も三つか四つぐらいある。」
「本当に色々なものがあるよね。図書館とか魔法を練習する設備とかも凄いらしいよ。」
「へえ、それは確かに興味があるな。」
当分は学業が忙しいから行けないのだがな。
雑談をしながら数分歩いていると、大きな体育館の一つが視界に映った。
よく目を凝らせば、体育館からは魔力を感じる。ただの運動ができる施設でもないのだろう。
それに生徒が入っていくのを見て、間違いないだろうと思いそのまま入っていく。
「……お嬢様だ。」
その途中で俺は一人の赤髪の少女を見つける。言わずもがな、フィルラーナ様だ。
「すまんガレウ。ちょっと俺はお嬢様と合流してくる。」
「うん、大丈夫だよ。またね。」
「またな。」
俺は走ってその場を離れる。俺が走ってくるのにお嬢様も気付いたのか、俺へと振り向く。
「随分と遅かったわね。」
そして直ぐに辛辣な言葉がその口から零れ落ちる。
酷いものだ。侍従でもないのだから、ずっと近くにいるなんてできないだろ。
そもそも正式な騎士でもないのだし。
「はいはい、すいませんでしたよ。」
「……そのあやすような言い方はやめなさい。」
体育館の中では人がまばらに散っている。
並ぶとかそういうわけでもなく、それぞれ好きな所で喋ったり本を読んだりと、自由にやっている。
教員も既にいるが、別に注意するでもなくただそれを傍観していた。
「ステージを見ていなさい。直ぐに始まるわよ。」
「並ばせたりとかはしないんですね。」
「魔法使いに協調性を求めること自体が異な話だわ。魔導を探求する者は頭のネジが一本抜けているのだもの。」
散々な言われようだな魔法使い。
いや、確かに魔法使いの最高峰である学園長が、あんな奇っ怪な容姿をしているのだから、否定はできない。
そんな俺の思考をよそにして、ステージに一人の女性が現れる。白い髪と目、その低い身長と妙に落ち着いた雰囲気。
『悠久の魔女』とも呼ばれているらしい、学園長で違いなかった。
「よく聞け生徒諸君!」
一喝。
拡声の魔法を使っているのかその声はやたらと響き、それぞれ色々な事をしていた生徒の注目を一気に集める。
「わしこそが魔導の頂の一つに立ち、そしてこの学園の長を務めるオーディン・ウァクラートじゃ。」
一部では驚きの声があがったり、そもそも誰か知らないのか不思議そうな顔をする人もいる。
しかし有無を言わせるより早く、次の言葉を発する。
「まずは入学おめでとう、諸君。我々第二グレゼリオン学園はお主らを祝福する。」
全く心の篭らない祝福の言葉。
それもそのはず、あの顔は祝福をするような顔ではない。むしろこれから崖から突き落とすかのような顔だ。
「じゃが、例年通りであればこの中で学園を卒業できるのは両部門合わせて僅か百名ほど! 更に言うならそこから成功するのは僅か数名!」
この中にいるであろう武術部門、魔導部門。どちらもその言葉に驚くのが一定数いる。
「わしらはこの学園を卒業できるまでに一人前以上にする事を約束しよう! しかしその先成功できるかどうかまでは確約せん!」
あまりにも無責任であり、躊躇なき言葉。
だがこの程度で折れるような人間であれば、どの道上手くなどいくまい。
夢と目標と覚悟、その全てを揃えなければそもそも挑戦権すら得られない。
「死に物狂いで足掻け! 自分だけが抜き出た存在になれるのだと過信しろ! そうしてやっとお主らは魔法使いとしての一段目を登れる!」
魔法に溺れるほどの鍛錬と努力。その果てにやっと百凡の魔法使いから抜け出す権利を得る。
「これにて入学式を終わる! それぞれ教室に移動せよ!」
あまりにも簡潔な入学式。いや、式というのもおこがましい内容。しかしその言葉は確かに生徒を焦らせ、緊張感を持たせた。
「お嬢様、俺達は一組でしたよね?」
「そうね、行くわよ。時間を無駄にする理由はないわ。」
お嬢様は直ぐに歩き始め、俺もそれについて行く。
俺は夢想した。
これから先の未来を。この学園での五年間、そしてその道の中で生まれるいくつもの『縁』を。
恐らくは実技の成績が良いから受かったようなもので、筆記は平均よりかなり低かったのだと思う。
逆にお嬢様は学年二位で合格だ。むしろ一位の奴が気になるぐらい当たり前にその順位をもぎ取った。
そんなわけで今日が入学式だ。試験から一月程度で直ぐにあった。
俺は新品の制服に腕を通す。
まさかまた制服を着ることになるとはな。前世の俺に言ったらさぞ驚く事だろう。
「アルス、もう準備はできたのかい?」
「ああ。一緒に行くか?」
「当然だよ。折角ルームメイトになったって言うのに別々に行くなんて寂しいじゃないか。」
この学園では学生寮に住む事を義務付けている。
しかし、部屋数は少し足りないのでどうしても二人部屋だとかができてくる。いわゆるルームメイトがいるわけだ。
俺の目の前にいるのは俺と同じ制服を着た、子供なのもあるかもしれないが中性的な顔をする男の子だ。灰色の短髪と目をしていて、そしてその童顔は美少年というに相応しい容姿であると言えよう。
名をガレウ・クローバー。俺と同じ平民だ。
ガレウはゆったりと俺を待っている。手には何も持っていない。持ち物は指示されていないからで、俺も持っていない。
「じゃあ、行こうぜガレウ。」
俺はガレウと一緒に部屋から出る。
学生寮は男子の寮と女子の寮の2軒に分かれており、そしてそれぞれ寮は5階まである。
そして各階に、その数と同じ学年の生徒が住んでいるのだ。1年生なら1階、2年生なら2階っていう風にね。
だから俺達は一階で、直ぐに寮から出れる。
「えーと、今日は何があるんだっけ?」
「入学式とクラスの顔合わせだね。そんな大した事はしないと思うけど。」
俺の疑問にガレウが答えてくれた。
体育館にまず集まるように指示されており、周りの生徒の動きに合わせてなんとなく移動していた。
それにしても入学式の後に教室へ行くのか。俺の知識ではその逆であったような気がするのだが。
「それにしても、本当にこの学園広いよなあ。校庭もだだっ広いし、体育館も三つか四つぐらいある。」
「本当に色々なものがあるよね。図書館とか魔法を練習する設備とかも凄いらしいよ。」
「へえ、それは確かに興味があるな。」
当分は学業が忙しいから行けないのだがな。
雑談をしながら数分歩いていると、大きな体育館の一つが視界に映った。
よく目を凝らせば、体育館からは魔力を感じる。ただの運動ができる施設でもないのだろう。
それに生徒が入っていくのを見て、間違いないだろうと思いそのまま入っていく。
「……お嬢様だ。」
その途中で俺は一人の赤髪の少女を見つける。言わずもがな、フィルラーナ様だ。
「すまんガレウ。ちょっと俺はお嬢様と合流してくる。」
「うん、大丈夫だよ。またね。」
「またな。」
俺は走ってその場を離れる。俺が走ってくるのにお嬢様も気付いたのか、俺へと振り向く。
「随分と遅かったわね。」
そして直ぐに辛辣な言葉がその口から零れ落ちる。
酷いものだ。侍従でもないのだから、ずっと近くにいるなんてできないだろ。
そもそも正式な騎士でもないのだし。
「はいはい、すいませんでしたよ。」
「……そのあやすような言い方はやめなさい。」
体育館の中では人がまばらに散っている。
並ぶとかそういうわけでもなく、それぞれ好きな所で喋ったり本を読んだりと、自由にやっている。
教員も既にいるが、別に注意するでもなくただそれを傍観していた。
「ステージを見ていなさい。直ぐに始まるわよ。」
「並ばせたりとかはしないんですね。」
「魔法使いに協調性を求めること自体が異な話だわ。魔導を探求する者は頭のネジが一本抜けているのだもの。」
散々な言われようだな魔法使い。
いや、確かに魔法使いの最高峰である学園長が、あんな奇っ怪な容姿をしているのだから、否定はできない。
そんな俺の思考をよそにして、ステージに一人の女性が現れる。白い髪と目、その低い身長と妙に落ち着いた雰囲気。
『悠久の魔女』とも呼ばれているらしい、学園長で違いなかった。
「よく聞け生徒諸君!」
一喝。
拡声の魔法を使っているのかその声はやたらと響き、それぞれ色々な事をしていた生徒の注目を一気に集める。
「わしこそが魔導の頂の一つに立ち、そしてこの学園の長を務めるオーディン・ウァクラートじゃ。」
一部では驚きの声があがったり、そもそも誰か知らないのか不思議そうな顔をする人もいる。
しかし有無を言わせるより早く、次の言葉を発する。
「まずは入学おめでとう、諸君。我々第二グレゼリオン学園はお主らを祝福する。」
全く心の篭らない祝福の言葉。
それもそのはず、あの顔は祝福をするような顔ではない。むしろこれから崖から突き落とすかのような顔だ。
「じゃが、例年通りであればこの中で学園を卒業できるのは両部門合わせて僅か百名ほど! 更に言うならそこから成功するのは僅か数名!」
この中にいるであろう武術部門、魔導部門。どちらもその言葉に驚くのが一定数いる。
「わしらはこの学園を卒業できるまでに一人前以上にする事を約束しよう! しかしその先成功できるかどうかまでは確約せん!」
あまりにも無責任であり、躊躇なき言葉。
だがこの程度で折れるような人間であれば、どの道上手くなどいくまい。
夢と目標と覚悟、その全てを揃えなければそもそも挑戦権すら得られない。
「死に物狂いで足掻け! 自分だけが抜き出た存在になれるのだと過信しろ! そうしてやっとお主らは魔法使いとしての一段目を登れる!」
魔法に溺れるほどの鍛錬と努力。その果てにやっと百凡の魔法使いから抜け出す権利を得る。
「これにて入学式を終わる! それぞれ教室に移動せよ!」
あまりにも簡潔な入学式。いや、式というのもおこがましい内容。しかしその言葉は確かに生徒を焦らせ、緊張感を持たせた。
「お嬢様、俺達は一組でしたよね?」
「そうね、行くわよ。時間を無駄にする理由はないわ。」
お嬢様は直ぐに歩き始め、俺もそれについて行く。
俺は夢想した。
これから先の未来を。この学園での五年間、そしてその道の中で生まれるいくつもの『縁』を。
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