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第二章~学園にて王子は夢を見る~
2.賢神十冠
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試験免除は駄目だった。だが、それとはまた別に話がある。
「俺の腕って、どうにかならないか? 今まで我慢してきたけどかなり不便なんだ。」
「治して欲しいという事か?」
学園長の言葉に頷く。
右腕はずっとないし、左腕は最近動かなくなった。どちらも決して後悔するものではない。
しかし、母親から貰ったこの体がずっと欠けているのは嫌だ。
「一つ言っておくぞ、アルス。回復魔法とて全能の力ではない。もっと昔の時代、神の神秘が残っていた時代ならそうじゃったが、神の神秘が薄れた今は違うのじゃ。」
「という事は、何かデメリットがあるのか?」
「そうじゃ。回復魔法は魂を削る。ちょっとした傷ならば直ぐに治る程度しか魂を削らんが、流石にそのレベルの傷ならそこそこ魂を削る。」
魂、か。
現代日本にいた俺には信じがたいが、この世界では魂という存在は証明されたものなのだろう。
だが俺の知っている魂が正しいならそれ、ヤバくないだろうか。
「普通にしておる分には構わん。お主の傷を治すぐらいなら半年で魂は元の形に戻るじゃろう。」
「普通にしている分には?」
「お主がもし、短期間で大怪我を何度もすれば魂が回復するより早く魂が削れて魂に致命的な欠陥が出る可能性が高い。それに何度も大怪我をすれば短期間でなくとも、魂は摩耗してそのうち体に不具合が出る可能性もある。」
うげえ、リアリティのある話だ。
要は精神がイカれたり体のどこかの動きがおかしくなり始めたりするって事だろ。
そりゃあ魂なんてもの何度も削ったらそうなるだろうが。
「つまりは怪我などするもんじゃないという事じゃ。たまに回復魔法があるから怪我をしても良いなどと言う愚か者がおるが、お主はそのようになるのではないぞ?」
「分かったよ。母に誓う。」
「なら良い。」
そう言うと何もないところから突如杖が現れ、学園長は俺にそのまま杖を向ける。
杖の大きさは大体1.2メートルぐらいだろうか。人が魔法使いの杖と言って直ぐに思い浮かべるような古典的な杖だ。
「失いしその血肉を、魔力を対価とし蘇らせよ。沈みしその身は再び浮き上がり、失いし剛力はまたその身に宿る。天より与えられ、人が作り出したその肉体を寸分違わず再現せよ。血よ、肉よ、神経よ、骨よ、皮よ。再びあるべき所へ戻れ。」
この部屋に魔力が満ちる。
その魔力は学園長の言葉に従うようにきて俺の体の場所に集まっていく。正確に言うなら、俺の両腕に。
「『完全再生』」
俺の肉体は魔力により補完され、そしてその魔力が形を成す。
失われた右腕は再び戻り、完全に機能が停止したはずの左腕に力が張る。
「こんな、呆気なく。」
「魔法とはそういうものじゃ。過程を消し飛ばし、資源を必要とせずに莫大な結果を生み出す。それが魔法なのじゃ。」
普通に手は動く。ギプスも外して俺の両腕が動くことをしっかりと確認した。
どこか懐かしい気さえしてくる。俺の両腕とはこんなものだったか。
「最初は体に馴染まんじゃろう。過度な運動はやめておけ。できるなら一月は運動せんほうが良いな。」
「分かったよ。」
俺は未だに蘇った実感がない両手を開け閉じしている。
なんか、あったらあったで違和感がある。これは本当に俺の両腕なのだろうか。
自分の腕が動くことにここまで違和感を感じることになろうとは思わなかった。
「ちなみに、さっきの魔法って何なんだ?」
「木属性第八階位回復魔法。部位欠損であろうと神経が壊れておっても治すことができる魔法じゃ。使い手はこの世に百人もおらん。しかもその大半が一日に一度しか使えんからの。」
「第八階位、か。」
俺には想像できない領域だ。未だに第四階位が限界な俺からしたらな。
五年かけて基礎の第三階位までがやっと終わって、そして第四階位が一部使える程度だし。
「そうか、ありがとよ。いつかこの恩は返すぜ。」
「いらぬわ。今更お主のような若造から貰うものなどないわい。」
しかし恩義というのは助けた方は忘れても、助けられた方は忘れちゃいけないもんだ。
今の俺じゃあ何もできないだろうが、いつか助けになれる時が来たらその時にその恩義は返したい。
「それじゃあ、またな学園長。絶対に入ってやるよこの学園に。」
「わしも楽しみにしておるよ。中々面白そうな奴じゃしな。」
俺は立ち上がり、そして入った扉の前まで来た所でふと一つ聞きたいことを思い出す。というか気になることという方が正しいが。
「そういや、学園長。」
「なんじゃ。」
「親父ってどんな人だったんだ?」
ラウロ・ウァクラートという男。その息子であるというのに、俺は何も知らない。
どんな人物であったが、どんな事をしたのか、どんな魔法使いであったか。
何も、知らないのだ。
「……この世には数多もの魔法使いがおる。その魔法使いの中でも一定のラインを超えた魔法使いを、人は『賢神』と呼ぶ。」
賢神。賢き神。それは神が実在するこの世においてあまりにも不遜な言葉だ。
自分達が神の領域に辿り着いたと言うのと同義であるから。
「その中でも更に上位、魔法使いのそれぞれの分野最強の十人。それを賢神十冠と呼ぶ。」
ここまで話されるとなんとなく察しがついてきた。それはつまり――
「その中でもお主の前に立つ、冠位魔導属性科にして賢神第二席。それがわしじゃ。」
その言葉にとてつもない重みが増す。
俺はこの世界の魔法使いの十指に入る存在と相対しているのだと。
「そしてお主の父親、ラウロこそが賢神十冠の冠位魔導神秘科であり、若くして賢神の第三席に至った男。世界でも有数の魔法使い。それがお主の父親じゃよ。」
自然と俺の口角はあがっていた。
やはり俺の親父は、最高の魔法使いだったのだ。それが何よりも、俺の背中を押してくれた。
「俺の腕って、どうにかならないか? 今まで我慢してきたけどかなり不便なんだ。」
「治して欲しいという事か?」
学園長の言葉に頷く。
右腕はずっとないし、左腕は最近動かなくなった。どちらも決して後悔するものではない。
しかし、母親から貰ったこの体がずっと欠けているのは嫌だ。
「一つ言っておくぞ、アルス。回復魔法とて全能の力ではない。もっと昔の時代、神の神秘が残っていた時代ならそうじゃったが、神の神秘が薄れた今は違うのじゃ。」
「という事は、何かデメリットがあるのか?」
「そうじゃ。回復魔法は魂を削る。ちょっとした傷ならば直ぐに治る程度しか魂を削らんが、流石にそのレベルの傷ならそこそこ魂を削る。」
魂、か。
現代日本にいた俺には信じがたいが、この世界では魂という存在は証明されたものなのだろう。
だが俺の知っている魂が正しいならそれ、ヤバくないだろうか。
「普通にしておる分には構わん。お主の傷を治すぐらいなら半年で魂は元の形に戻るじゃろう。」
「普通にしている分には?」
「お主がもし、短期間で大怪我を何度もすれば魂が回復するより早く魂が削れて魂に致命的な欠陥が出る可能性が高い。それに何度も大怪我をすれば短期間でなくとも、魂は摩耗してそのうち体に不具合が出る可能性もある。」
うげえ、リアリティのある話だ。
要は精神がイカれたり体のどこかの動きがおかしくなり始めたりするって事だろ。
そりゃあ魂なんてもの何度も削ったらそうなるだろうが。
「つまりは怪我などするもんじゃないという事じゃ。たまに回復魔法があるから怪我をしても良いなどと言う愚か者がおるが、お主はそのようになるのではないぞ?」
「分かったよ。母に誓う。」
「なら良い。」
そう言うと何もないところから突如杖が現れ、学園長は俺にそのまま杖を向ける。
杖の大きさは大体1.2メートルぐらいだろうか。人が魔法使いの杖と言って直ぐに思い浮かべるような古典的な杖だ。
「失いしその血肉を、魔力を対価とし蘇らせよ。沈みしその身は再び浮き上がり、失いし剛力はまたその身に宿る。天より与えられ、人が作り出したその肉体を寸分違わず再現せよ。血よ、肉よ、神経よ、骨よ、皮よ。再びあるべき所へ戻れ。」
この部屋に魔力が満ちる。
その魔力は学園長の言葉に従うようにきて俺の体の場所に集まっていく。正確に言うなら、俺の両腕に。
「『完全再生』」
俺の肉体は魔力により補完され、そしてその魔力が形を成す。
失われた右腕は再び戻り、完全に機能が停止したはずの左腕に力が張る。
「こんな、呆気なく。」
「魔法とはそういうものじゃ。過程を消し飛ばし、資源を必要とせずに莫大な結果を生み出す。それが魔法なのじゃ。」
普通に手は動く。ギプスも外して俺の両腕が動くことをしっかりと確認した。
どこか懐かしい気さえしてくる。俺の両腕とはこんなものだったか。
「最初は体に馴染まんじゃろう。過度な運動はやめておけ。できるなら一月は運動せんほうが良いな。」
「分かったよ。」
俺は未だに蘇った実感がない両手を開け閉じしている。
なんか、あったらあったで違和感がある。これは本当に俺の両腕なのだろうか。
自分の腕が動くことにここまで違和感を感じることになろうとは思わなかった。
「ちなみに、さっきの魔法って何なんだ?」
「木属性第八階位回復魔法。部位欠損であろうと神経が壊れておっても治すことができる魔法じゃ。使い手はこの世に百人もおらん。しかもその大半が一日に一度しか使えんからの。」
「第八階位、か。」
俺には想像できない領域だ。未だに第四階位が限界な俺からしたらな。
五年かけて基礎の第三階位までがやっと終わって、そして第四階位が一部使える程度だし。
「そうか、ありがとよ。いつかこの恩は返すぜ。」
「いらぬわ。今更お主のような若造から貰うものなどないわい。」
しかし恩義というのは助けた方は忘れても、助けられた方は忘れちゃいけないもんだ。
今の俺じゃあ何もできないだろうが、いつか助けになれる時が来たらその時にその恩義は返したい。
「それじゃあ、またな学園長。絶対に入ってやるよこの学園に。」
「わしも楽しみにしておるよ。中々面白そうな奴じゃしな。」
俺は立ち上がり、そして入った扉の前まで来た所でふと一つ聞きたいことを思い出す。というか気になることという方が正しいが。
「そういや、学園長。」
「なんじゃ。」
「親父ってどんな人だったんだ?」
ラウロ・ウァクラートという男。その息子であるというのに、俺は何も知らない。
どんな人物であったが、どんな事をしたのか、どんな魔法使いであったか。
何も、知らないのだ。
「……この世には数多もの魔法使いがおる。その魔法使いの中でも一定のラインを超えた魔法使いを、人は『賢神』と呼ぶ。」
賢神。賢き神。それは神が実在するこの世においてあまりにも不遜な言葉だ。
自分達が神の領域に辿り着いたと言うのと同義であるから。
「その中でも更に上位、魔法使いのそれぞれの分野最強の十人。それを賢神十冠と呼ぶ。」
ここまで話されるとなんとなく察しがついてきた。それはつまり――
「その中でもお主の前に立つ、冠位魔導属性科にして賢神第二席。それがわしじゃ。」
その言葉にとてつもない重みが増す。
俺はこの世界の魔法使いの十指に入る存在と相対しているのだと。
「そしてお主の父親、ラウロこそが賢神十冠の冠位魔導神秘科であり、若くして賢神の第三席に至った男。世界でも有数の魔法使い。それがお主の父親じゃよ。」
自然と俺の口角はあがっていた。
やはり俺の親父は、最高の魔法使いだったのだ。それが何よりも、俺の背中を押してくれた。
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