幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
24 / 474
第二章~学園にて王子は夢を見る~

2.賢神十冠

しおりを挟む
 試験免除は駄目だった。だが、それとはまた別に話がある。

「俺の腕って、どうにかならないか? 今まで我慢してきたけどかなり不便なんだ。」
「治して欲しいという事か?」

 学園長の言葉に頷く。
 右腕はずっとないし、左腕は最近動かなくなった。どちらも決して後悔するものではない。
 しかし、母親から貰ったこの体がずっと欠けているのは嫌だ。

「一つ言っておくぞ、アルス。回復魔法とて全能の力ではない。もっと昔の時代、神の神秘が残っていた時代ならそうじゃったが、神の神秘が薄れた今は違うのじゃ。」
「という事は、何かデメリットがあるのか?」
「そうじゃ。回復魔法は魂を削る。ちょっとした傷ならば直ぐに治る程度しか魂を削らんが、流石にそのレベルの傷ならそこそこ魂を削る。」

 魂、か。
 現代日本にいた俺には信じがたいが、この世界では魂という存在は証明されたものなのだろう。
 だが俺の知っている魂が正しいならそれ、ヤバくないだろうか。

「普通にしておる分には構わん。お主の傷を治すぐらいなら半年で魂は元の形に戻るじゃろう。」
「普通にしている分には?」
「お主がもし、短期間で大怪我を何度もすれば魂が回復するより早く魂が削れて魂に致命的な欠陥が出る可能性が高い。それに何度も大怪我をすれば短期間でなくとも、魂は摩耗してそのうち体に不具合が出る可能性もある。」

 うげえ、リアリティのある話だ。
 要は精神がイカれたり体のどこかの動きがおかしくなり始めたりするって事だろ。
 そりゃあ魂なんてもの何度も削ったらそうなるだろうが。

「つまりは怪我などするもんじゃないという事じゃ。たまに回復魔法があるから怪我をしても良いなどと言う愚か者がおるが、お主はそのようになるのではないぞ?」
「分かったよ。母に誓う。」
「なら良い。」

 そう言うと何もないところから突如杖が現れ、学園長は俺にそのまま杖を向ける。
 杖の大きさは大体1.2メートルぐらいだろうか。人が魔法使いの杖と言って直ぐに思い浮かべるような古典的な杖だ。

「失いしその血肉を、魔力を対価とし蘇らせよ。沈みしその身は再び浮き上がり、失いし剛力はまたその身に宿る。天より与えられ、人が作り出したその肉体を寸分違わず再現せよ。血よ、肉よ、神経よ、骨よ、皮よ。再びあるべき所へ戻れ。」

 この部屋に魔力が満ちる。
 その魔力は学園長の言葉に従うようにきて俺の体の場所に集まっていく。正確に言うなら、俺の両腕に。

「『完全再生ゼロ・リクリエイト』」

 俺の肉体は魔力により補完され、そしてその魔力が形を成す。
 失われた右腕は再び戻り、完全に機能が停止したはずの左腕に力が張る。

「こんな、呆気なく。」
「魔法とはそういうものじゃ。過程を消し飛ばし、資源を必要とせずに莫大な結果を生み出す。それが魔法なのじゃ。」

 普通に手は動く。ギプスも外して俺の両腕が動くことをしっかりと確認した。
 どこか懐かしい気さえしてくる。俺の両腕とはこんなものだったか。

「最初は体に馴染まんじゃろう。過度な運動はやめておけ。できるなら一月は運動せんほうが良いな。」
「分かったよ。」

 俺は未だに蘇った実感がない両手を開け閉じしている。
 なんか、あったらあったで違和感がある。これは本当に俺の両腕なのだろうか。
 自分の腕が動くことにここまで違和感を感じることになろうとは思わなかった。

「ちなみに、さっきの魔法って何なんだ?」
「木属性第八階位回復魔法。部位欠損であろうと神経が壊れておっても治すことができる魔法じゃ。使い手はこの世に百人もおらん。しかもその大半が一日に一度しか使えんからの。」
「第八階位、か。」

 俺には想像できない領域だ。未だに第四階位が限界な俺からしたらな。
 五年かけて基礎の第三階位までがやっと終わって、そして第四階位が一部使える程度だし。

「そうか、ありがとよ。いつかこの恩は返すぜ。」
「いらぬわ。今更お主のような若造から貰うものなどないわい。」

 しかし恩義というのは助けた方は忘れても、助けられた方は忘れちゃいけないもんだ。
 今の俺じゃあ何もできないだろうが、いつか助けになれる時が来たらその時にその恩義は返したい。

「それじゃあ、またな学園長。絶対に入ってやるよこの学園に。」
「わしも楽しみにしておるよ。中々面白そうな奴じゃしな。」

 俺は立ち上がり、そして入った扉の前まで来た所でふと一つ聞きたいことを思い出す。というか気になることという方が正しいが。

「そういや、学園長。」
「なんじゃ。」
「親父ってどんな人だったんだ?」

 ラウロ・ウァクラートという男。その息子であるというのに、俺は何も知らない。
 どんな人物であったが、どんな事をしたのか、どんな魔法使いであったか。
 何も、知らないのだ。

「……この世には数多もの魔法使いがおる。その魔法使いの中でも一定のラインを超えた魔法使いを、人は『賢神』と呼ぶ。」

 賢神。賢き神。それは神が実在するこの世においてあまりにも不遜な言葉だ。
 自分達が神の領域に辿り着いたと言うのと同義であるから。

「その中でも更に上位、魔法使いのそれぞれの分野最強の十人。それを賢神十冠けんしんじゅっかんと呼ぶ。」

 ここまで話されるとなんとなく察しがついてきた。それはつまり――

「その中でもお主の前に立つ、冠位魔導属性科ロード・オブ・エレメントにして賢神第二席。それがわしじゃ。」

 その言葉にとてつもない重みが増す。
 俺はこの世界の魔法使いの十指に入る存在と相対しているのだと。

「そしてお主の父親、ラウロこそが賢神十冠の冠位魔導神秘科ロード・オブ・ミステリーであり、若くして賢神の第三席に至った男。世界でも有数の魔法使い。それがお主の父親じゃよ。」

 自然と俺の口角はあがっていた。
 やはり俺の親父は、最高の魔法使いだったのだ。それが何よりも、俺の背中を押してくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

安全第一異世界生活

笑田
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 異世界で出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて 婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の冒険生活目指します!!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...