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第二章~学園にて王子は夢を見る~
1.ウァクラート
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入学試験がある。その事実は一旦置いておく。というか忘れておく。
いや、よく考えろ。俺は今は亡き父親から推薦状を貰っているのだ。推薦状とかいうものがあるぐらいなら、きっと入学試験だってなんとかしてもらえるとも。
「だよ、なあ。」
校門前でお嬢様と別れて、入り口の門番に推薦状を見せた。そしたらあれよあれよという内に一つの部屋の前に案内されたわけだ。
そこには両開きのドアがあり、上の方に学園長室と書かれたプレートみたいのがあった。
「こういう時のノックって何回が良かったんだっけ……」
いや、異世界だから関係ない可能性が高いのだが、そもそも十歳の子供にそんなに厳しい奴はいないはずなのだが。
それでも気になってしまうのは俺の性格だろう。
「ま、取り敢えず四回で。」
俺は魔力で腕を作り、それを実体化させる。属性は与えない、魔力の無駄だ。その腕は四度扉を軽く叩く。
「入れ。」
「……はい。」
ノックをしたら直ぐに中から返事が返ってくる。
高い声だ。女性、いや女性にしても高過ぎる。まあ、考え事は後か。入れと言われたのだから直ぐに入るのが礼儀というもの。
「失礼します。」
俺は右の扉を開けて中に入り、腕に扉を閉めさせて振り返る事なく前を見る。
そこには俺と同じぐらいの背丈の女の子がいた。長く伸びた白い髪は少し暗いこの部屋では鮮やかに見えた。その少女は大きなデスクの向こうで椅子に座って俺を見ている。
違和感を覚えつつも、俺は背筋を正す。
「お初にお目にかかります。アルス・ウァクラートと申します。推薦状を渡したところここに案内されたのですが、よろしかったでしょうか?」
「うむ、間違いない。それにそこまで礼儀正しくある必要もない。そこのソファに適当に寛ぐと良い。」
「はい、失礼します。」
そう言って俺はソファに座る。
部屋の構造としては大きな学園長が使う椅子と机。そしてそれに直角になるようにしてソファが二つ向かい合わせで配置されていた。イメージとしては執務室が近い。
だから俺は少し斜めにソファに座り、リュックを下ろす。
「それじゃあ、推薦状を出すのじゃ。話はそれからじゃよ。」
そう言われて俺はリュックから推薦状を出した。
するとその推薦状は急に俺の手から離れて浮き上がり、女の子の元へと流れるように飛んでいく。
「ふむ、ラウロのもので間違いなさそうじゃな。」
そう言って少女は手紙を開け、中を確認する。そしてその推薦状は火を発し、即座に燃え尽きた。
「うむ、よし。分かったぞ。なら初対面じゃ。自己紹介でもするかの。」
少女は椅子から降り、そして机の前まで歩いてくる。
「わしの名はオーディン。オーディン・ウァクラートという。」
「ウァクラート?」
「うむ。お主の父であるラウロ・ウァクラートの祖母、それがわしじゃ。じゃからお主はわしのひ孫という事になるの。」
なるほど、という反面驚きを俺は隠すことができなかった。
確かに血縁であるのならこういう推薦状は書きやすいだろう。だが、あまりにも若すぎる。
この少女が言っていることが本当だとして、俺のひいおばあちゃんというには幼過ぎる。それは例えエルフだとしてもだ。
「わしの見た目か? なに、わしの体は高密度の魔力によって妙に若々し過ぎるだけよ。それと昔に成長が止まったというのもあるがの。」
「失礼ですが、おいくつで?」
「別に気を必要もないわ。お主はわしの血縁なのじゃ。敬語など使うでないむず痒い。」
「それじゃあ……あんた年いくつだよ。」
「大体千ぐらいかの。」
どう考えても異常だ。
よく見ればその耳の形からエルフであろうというのは分かる。いや、という事は俺にもエルフの血が……いやそれは今はいい。
エルフの平均寿命はおよそ250年。確かに長いが、どう考えても千歳生きれるとは思えない。
だってそれは人間が300歳生きていると言っているようなものなのだ。
「別に信じんでもよい。わしが血縁と言うにも証拠は何もないわけじゃしの。」
「いや、信じる。俺の父親が信用した人物が、そんな下らない嘘をつくようには思えない。」
「……子供にしては妙に頭が回るの。」
というか最近色々あり過ぎて急展開には慣れてきた。
俺はもういきなり誰かが『お父さん』とか呼んできても、ああ次はこういう類かと順応できそうだ。
「さて。まず、本来ならもう入学など受け付けてはいないのじゃが特別に許可しよう。入学試験は一月後にある。それまでは学生寮に住むとよい。」
「あの……」
「うむ、なんじゃ?」
一応、一応だ。ダメ元で頼んでみよう。血縁だからとかでなんとかいくかもしれない。
「俺はシルード大陸の出身で、知っての通り学がない。歴史も詳しくないし、地理も知らない。算術は多少できるけど、他はさっぱりだ。」
「うむ。」
「だから、入学試験を免除したり、なんかは……」
「ふむ、そうか。」
お、いける? もしかしたらいけるんじゃないの? 手応えはあるよ?
「駄目じゃ。」
「ですよね。」
うん、知ってた。
いや、よく考えろ。俺は今は亡き父親から推薦状を貰っているのだ。推薦状とかいうものがあるぐらいなら、きっと入学試験だってなんとかしてもらえるとも。
「だよ、なあ。」
校門前でお嬢様と別れて、入り口の門番に推薦状を見せた。そしたらあれよあれよという内に一つの部屋の前に案内されたわけだ。
そこには両開きのドアがあり、上の方に学園長室と書かれたプレートみたいのがあった。
「こういう時のノックって何回が良かったんだっけ……」
いや、異世界だから関係ない可能性が高いのだが、そもそも十歳の子供にそんなに厳しい奴はいないはずなのだが。
それでも気になってしまうのは俺の性格だろう。
「ま、取り敢えず四回で。」
俺は魔力で腕を作り、それを実体化させる。属性は与えない、魔力の無駄だ。その腕は四度扉を軽く叩く。
「入れ。」
「……はい。」
ノックをしたら直ぐに中から返事が返ってくる。
高い声だ。女性、いや女性にしても高過ぎる。まあ、考え事は後か。入れと言われたのだから直ぐに入るのが礼儀というもの。
「失礼します。」
俺は右の扉を開けて中に入り、腕に扉を閉めさせて振り返る事なく前を見る。
そこには俺と同じぐらいの背丈の女の子がいた。長く伸びた白い髪は少し暗いこの部屋では鮮やかに見えた。その少女は大きなデスクの向こうで椅子に座って俺を見ている。
違和感を覚えつつも、俺は背筋を正す。
「お初にお目にかかります。アルス・ウァクラートと申します。推薦状を渡したところここに案内されたのですが、よろしかったでしょうか?」
「うむ、間違いない。それにそこまで礼儀正しくある必要もない。そこのソファに適当に寛ぐと良い。」
「はい、失礼します。」
そう言って俺はソファに座る。
部屋の構造としては大きな学園長が使う椅子と机。そしてそれに直角になるようにしてソファが二つ向かい合わせで配置されていた。イメージとしては執務室が近い。
だから俺は少し斜めにソファに座り、リュックを下ろす。
「それじゃあ、推薦状を出すのじゃ。話はそれからじゃよ。」
そう言われて俺はリュックから推薦状を出した。
するとその推薦状は急に俺の手から離れて浮き上がり、女の子の元へと流れるように飛んでいく。
「ふむ、ラウロのもので間違いなさそうじゃな。」
そう言って少女は手紙を開け、中を確認する。そしてその推薦状は火を発し、即座に燃え尽きた。
「うむ、よし。分かったぞ。なら初対面じゃ。自己紹介でもするかの。」
少女は椅子から降り、そして机の前まで歩いてくる。
「わしの名はオーディン。オーディン・ウァクラートという。」
「ウァクラート?」
「うむ。お主の父であるラウロ・ウァクラートの祖母、それがわしじゃ。じゃからお主はわしのひ孫という事になるの。」
なるほど、という反面驚きを俺は隠すことができなかった。
確かに血縁であるのならこういう推薦状は書きやすいだろう。だが、あまりにも若すぎる。
この少女が言っていることが本当だとして、俺のひいおばあちゃんというには幼過ぎる。それは例えエルフだとしてもだ。
「わしの見た目か? なに、わしの体は高密度の魔力によって妙に若々し過ぎるだけよ。それと昔に成長が止まったというのもあるがの。」
「失礼ですが、おいくつで?」
「別に気を必要もないわ。お主はわしの血縁なのじゃ。敬語など使うでないむず痒い。」
「それじゃあ……あんた年いくつだよ。」
「大体千ぐらいかの。」
どう考えても異常だ。
よく見ればその耳の形からエルフであろうというのは分かる。いや、という事は俺にもエルフの血が……いやそれは今はいい。
エルフの平均寿命はおよそ250年。確かに長いが、どう考えても千歳生きれるとは思えない。
だってそれは人間が300歳生きていると言っているようなものなのだ。
「別に信じんでもよい。わしが血縁と言うにも証拠は何もないわけじゃしの。」
「いや、信じる。俺の父親が信用した人物が、そんな下らない嘘をつくようには思えない。」
「……子供にしては妙に頭が回るの。」
というか最近色々あり過ぎて急展開には慣れてきた。
俺はもういきなり誰かが『お父さん』とか呼んできても、ああ次はこういう類かと順応できそうだ。
「さて。まず、本来ならもう入学など受け付けてはいないのじゃが特別に許可しよう。入学試験は一月後にある。それまでは学生寮に住むとよい。」
「あの……」
「うむ、なんじゃ?」
一応、一応だ。ダメ元で頼んでみよう。血縁だからとかでなんとかいくかもしれない。
「俺はシルード大陸の出身で、知っての通り学がない。歴史も詳しくないし、地理も知らない。算術は多少できるけど、他はさっぱりだ。」
「うむ。」
「だから、入学試験を免除したり、なんかは……」
「ふむ、そうか。」
お、いける? もしかしたらいけるんじゃないの? 手応えはあるよ?
「駄目じゃ。」
「ですよね。」
うん、知ってた。
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