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第一章~魔法使い見習いは夢想する~
13.新生活
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俺は教会にて一日かけて治療を受け、そして再出発した。
目標地であるファルクラム領に着くのに少し遅れたが、元より余裕を持って出発していたから問題はなかったそうだ。
「世話になったな、ヘルメス。」
「遂に最後まで僕に尊敬の意を示す事はなかったね、君は。僕は悲しいよ。」
そう言って嘘臭く手を顔に置き、顔を俯かせる。泣き真似までし始めた。
俺はそんな奴を無視して、隣にいるアルテミスさんを見る。
「アルテミスさんも、ありがとうございました。」
「礼を言われる事は何もしていない。私は私のやりたい事をしただけだ。」
あの時、助けてくれたのは勿論。何かと世話になった。
実直で嘘がつけないような性格であるからこそ、俺は自分を見つめ直すことができた。
「できれば、その両手をなんとかしてあげたかったんだけどね。」
「そこまでは流石に気にすることじゃない。」
ヘルメスの言葉に、気を遣わせないように俺はそう言った。
俺は左腕にギプスをつけ、右腕を失っている。
満身創痍と言っても過言ではない。魔法が使えなければ食事もままならない所だった。
魔力腕っていう無属性魔法でなんとかなった。というか両腕を失ったおかげで魔力操作に磨きがかかった気がする。
「そうかい? なら、十分に学園生活を楽しむといい。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
俺はそう言ってお嬢様がいる所をチラッと見る。
護衛の騎士や、何かの使者のような人と喋っている。
本当にあいつ10歳か? ああいうのは騎士とかが代理で話すもんだと思うのだが。
「君が何を思っているかなんとなく想像できるけれども、それ、君が言うかい?」
「うるさい粗大ゴミが。」
「粗大ゴミッ!?」
「おい、もう行くぞ屑。」
「くずっ!!?」
ここはファルクラム領の入り口、門がある場所。アルテミスさんは一足早くその門からファルクラム領から出て行った。それを見てヘルメスも慌ててついて行く。
「それじゃあ、また会おうねアルス君! 今度会う時は立派な魔法使いになっているのを祈っているよ! いざとなれば渡したクランカードを使ってくれていいからね!」
捲し立てるようにしてヘルメスは言って去っていった。
俺は手に持つクランカードを見る。
ヘルメスに旅の途中で渡されたものだ。クランの関係者である事を証明するものらしく、色々と融通をきかせる事もできるらしい。
「……騒がしい奴だったな。」
本当に煩い男だった。だけどいなければいないで悲しいものだ。妙に静かというかね。
「話は終わったようね。」
「そちらこそ、お話はもういいので。」
「学園に通っている間のことだとか、お父様から頂いていた書簡を渡していただけよ。大した話ではないわ。」
「そうですか。」
そこで気付く。後ろにあの護衛がいない。
まさか、もう帰ったのか。未だにここにお嬢様がいるのに。
「……ん、ああ。護衛なら帰らせたわ。お前という護衛ができたのだから、いらないでしょう?」
「俺、そんなに強くないですよ。」
「いいのよ。私がいいと言ったのだからそれでね。」
俺達は二人で歩き始める。
10歳の子供が二人で街の中を歩くってだけでかなり危険な気もする。
無言で歩くのも気まずくて、俺は口を開いた。
「学園ってどんな場所なんですか?」
「……本当に何も知らずにここまで来たのね。」
「ええ、ですが知らないままでいる方が恥です。」
「ふむ、それには大賛成だわ。それに公爵家の騎士ともあろう人が無学では舐められてしまうというもの。教えてあげるわ。泣き叫びながら喜びなさい。」
「何でそんなに偉そうなんですか?」
「偉いからよ。」
うん、真理だ。偉そうではなく、偉いのだからと。いやだけども偉いからといって謙虚さを失うのは違うと思うのだが。
「グレゼリオン王国立の魔法及び武術の専門学校。『第二グレゼリオン学園』こと、『アルカッセル学園』。」
「第二?というか名前が二つあるのですか?」
「第一グレゼリオン学園は王都にあるのよ。だからこそ第一学園を『グレゼリオン学園』と呼び、第二学園を創設者の名前から捩って『アルカッセル学園』と呼ぶの。」
ややこしいな、ソレ。
つまりは俺達が通うのはそのアルカッセル学園ってわけだが。
「第一学園は一般教養だとか商業だとか、座学の方に重きを置くわ。だけど第二学園は違う。魔法や武術を学び、実戦能力を高めて強い騎士を作り出す場所なのよ。」
「それならお嬢様が行くべきなのは第一学園ではないのですか?」
「私はね、天才なのよ。」
唐突な自慢かよ。いや、知ってるけども。分かってるけどもそれを本人が言うのか。
「今から学びに行くような事は第一学園にはないわ。だから魔法の腕を磨くためにこの第二学園に来たのよ。」
「うわあ、すごい。」
10歳の頃にはもう学ぶことがないとか、俺も言ってみたかったわ。
「まあ、これから私の奴隷として長い間一緒にいることになるわ。嫌でも覚えるでしょう。」
「勝手に騎士から奴隷にランクダウンしないでください。」
「あ、着いたわよ奴隷。」
「奴隷じゃないです。」
俺達の目線の先には学園があった。校庭があり校舎がある、よく見る学園の形だ。
「来年から私達はここに通うのよ。」
「随分と立派ですね。」
「国が運営しているのだから当然ね。この学園の格式がそのまま国の威信に繋がるのだから。」
つい最近建てられたと思うほど異様に綺麗な校舎や、俺の知っている学校より二回りは大きい感じが立派だと思わせる。
俺はここに通うことになるのか。
「さて、入学試験はあと一月後よ。大丈夫かしら?」
「え?」
「え?」
入学、試験?
「え、あなた、まさか。」
「そんなの、あるんですか?」
前言撤回、通えるかすら分からなかったわ。
目標地であるファルクラム領に着くのに少し遅れたが、元より余裕を持って出発していたから問題はなかったそうだ。
「世話になったな、ヘルメス。」
「遂に最後まで僕に尊敬の意を示す事はなかったね、君は。僕は悲しいよ。」
そう言って嘘臭く手を顔に置き、顔を俯かせる。泣き真似までし始めた。
俺はそんな奴を無視して、隣にいるアルテミスさんを見る。
「アルテミスさんも、ありがとうございました。」
「礼を言われる事は何もしていない。私は私のやりたい事をしただけだ。」
あの時、助けてくれたのは勿論。何かと世話になった。
実直で嘘がつけないような性格であるからこそ、俺は自分を見つめ直すことができた。
「できれば、その両手をなんとかしてあげたかったんだけどね。」
「そこまでは流石に気にすることじゃない。」
ヘルメスの言葉に、気を遣わせないように俺はそう言った。
俺は左腕にギプスをつけ、右腕を失っている。
満身創痍と言っても過言ではない。魔法が使えなければ食事もままならない所だった。
魔力腕っていう無属性魔法でなんとかなった。というか両腕を失ったおかげで魔力操作に磨きがかかった気がする。
「そうかい? なら、十分に学園生活を楽しむといい。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
俺はそう言ってお嬢様がいる所をチラッと見る。
護衛の騎士や、何かの使者のような人と喋っている。
本当にあいつ10歳か? ああいうのは騎士とかが代理で話すもんだと思うのだが。
「君が何を思っているかなんとなく想像できるけれども、それ、君が言うかい?」
「うるさい粗大ゴミが。」
「粗大ゴミッ!?」
「おい、もう行くぞ屑。」
「くずっ!!?」
ここはファルクラム領の入り口、門がある場所。アルテミスさんは一足早くその門からファルクラム領から出て行った。それを見てヘルメスも慌ててついて行く。
「それじゃあ、また会おうねアルス君! 今度会う時は立派な魔法使いになっているのを祈っているよ! いざとなれば渡したクランカードを使ってくれていいからね!」
捲し立てるようにしてヘルメスは言って去っていった。
俺は手に持つクランカードを見る。
ヘルメスに旅の途中で渡されたものだ。クランの関係者である事を証明するものらしく、色々と融通をきかせる事もできるらしい。
「……騒がしい奴だったな。」
本当に煩い男だった。だけどいなければいないで悲しいものだ。妙に静かというかね。
「話は終わったようね。」
「そちらこそ、お話はもういいので。」
「学園に通っている間のことだとか、お父様から頂いていた書簡を渡していただけよ。大した話ではないわ。」
「そうですか。」
そこで気付く。後ろにあの護衛がいない。
まさか、もう帰ったのか。未だにここにお嬢様がいるのに。
「……ん、ああ。護衛なら帰らせたわ。お前という護衛ができたのだから、いらないでしょう?」
「俺、そんなに強くないですよ。」
「いいのよ。私がいいと言ったのだからそれでね。」
俺達は二人で歩き始める。
10歳の子供が二人で街の中を歩くってだけでかなり危険な気もする。
無言で歩くのも気まずくて、俺は口を開いた。
「学園ってどんな場所なんですか?」
「……本当に何も知らずにここまで来たのね。」
「ええ、ですが知らないままでいる方が恥です。」
「ふむ、それには大賛成だわ。それに公爵家の騎士ともあろう人が無学では舐められてしまうというもの。教えてあげるわ。泣き叫びながら喜びなさい。」
「何でそんなに偉そうなんですか?」
「偉いからよ。」
うん、真理だ。偉そうではなく、偉いのだからと。いやだけども偉いからといって謙虚さを失うのは違うと思うのだが。
「グレゼリオン王国立の魔法及び武術の専門学校。『第二グレゼリオン学園』こと、『アルカッセル学園』。」
「第二?というか名前が二つあるのですか?」
「第一グレゼリオン学園は王都にあるのよ。だからこそ第一学園を『グレゼリオン学園』と呼び、第二学園を創設者の名前から捩って『アルカッセル学園』と呼ぶの。」
ややこしいな、ソレ。
つまりは俺達が通うのはそのアルカッセル学園ってわけだが。
「第一学園は一般教養だとか商業だとか、座学の方に重きを置くわ。だけど第二学園は違う。魔法や武術を学び、実戦能力を高めて強い騎士を作り出す場所なのよ。」
「それならお嬢様が行くべきなのは第一学園ではないのですか?」
「私はね、天才なのよ。」
唐突な自慢かよ。いや、知ってるけども。分かってるけどもそれを本人が言うのか。
「今から学びに行くような事は第一学園にはないわ。だから魔法の腕を磨くためにこの第二学園に来たのよ。」
「うわあ、すごい。」
10歳の頃にはもう学ぶことがないとか、俺も言ってみたかったわ。
「まあ、これから私の奴隷として長い間一緒にいることになるわ。嫌でも覚えるでしょう。」
「勝手に騎士から奴隷にランクダウンしないでください。」
「あ、着いたわよ奴隷。」
「奴隷じゃないです。」
俺達の目線の先には学園があった。校庭があり校舎がある、よく見る学園の形だ。
「来年から私達はここに通うのよ。」
「随分と立派ですね。」
「国が運営しているのだから当然ね。この学園の格式がそのまま国の威信に繋がるのだから。」
つい最近建てられたと思うほど異様に綺麗な校舎や、俺の知っている学校より二回りは大きい感じが立派だと思わせる。
俺はここに通うことになるのか。
「さて、入学試験はあと一月後よ。大丈夫かしら?」
「え?」
「え?」
入学、試験?
「え、あなた、まさか。」
「そんなの、あるんですか?」
前言撤回、通えるかすら分からなかったわ。
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