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第一章~魔法使い見習いは夢想する~
11.命を賭けてでも
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グリフォンがその気になれば、あの男もフィルラーナ様も生きているはずがない。つまり舐めているのだ。そして遊んでいるのだ。
それはこの状況における、最大の幸運である。
俺のどんな魔法でも、きっと真正面からグリフォンは受けてくれる。あからさまな詠唱を無視して。
「――全身全霊をこの一撃に。」
一発目はただの鉛玉を電気の力で超高速で射出しただけのもの。
だが、二発目は違う。前世から今まで、魔法を追い求めてきた俺が作り出した最高の魔法をここに。
「それは夢。それは理想。それは幻想。されど我が永遠はそこにあり。」
どうせ長引いても俺の勝機などない。ならば最初から最強の一撃を放つのみ。
それこそが二発目の鉄球。魔法により加工されたこの鉄球はありえない強度と、本来俺が出しえない威力の魔法を使用することができる。
「右手は炎、左手は雷、右足は風、左足は土、胴は水、頭は木、心臓は無を生み出す。」
七つの属性がこの鉄球に集まる。それは俺の体すらも魔力に変換させた一撃。俺自身の体を魔法にし、俺の命をも犠牲にする魔法。
この場で全員死ぬぐらいなら俺一人で死んだほうがいい。
「それは進むべき道となり、辿り着くべき道となり、終わりの道となる。混ざれ、狂え、壊れろ、滅べ、潰れろ。我が命の断末魔を永遠にその身に焼き付けるがいい。」
これこそが文字通り全身全霊の一撃。一度切りの最強の一撃。
「『最後の一撃』」
その鉄球は俺の全てを込めて俺の手から放たれる。
それは風を切り、音の壁を超えグリフォンに当たった瞬間大きく弾けた。大きな光を起こし魔力の奔流がグリフォンを流し込む。
そこに込められた属性が多重に折り重なった魔法を瞬時に発現させた。
「本当に、馬鹿げてるぜ。」
俺は未だに土煙がグリフォンを包み込む中、俺はその場に倒れ込む。
体から魔力がなくなっただけでなく、体そのものを媒体にして魔法を使ったのだ。立ち続けるなんてできるはずがない。
「本当に、ふざけてるよなあ、オイ。」
だが、それでもグリフォンは倒れない。俺の命を賭けた魔法でさえも。
しかし、いい。知っていた。
俺如きの魔法じゃグリフォンが倒せないことぐらい。だがそれでも、中途半端な魔法じゃ駄目だった。
俺が何かするという事でグリフォンの気を大きく引く必要があった。
そして何よりこの魔法が発した光で、呼ばなけばならない人物がいた。
「グリフォン、お前を殺すのは俺じゃない。」
天から一つの光が降り注ぐ。それは遥か高き上空から落ちてくる矢。
グリフォンがその矢に気付き、回避行動を取るより早くその矢はグリフォンの魔石を貫いた。
「……一撃、かよ。流石は『天弓』のアルテミスだな。」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
エルフとは弓や魔法などといった遠距離からの攻撃を好む種族である。
しかし決して身体能力が弱いわけではない。むしろ木々を移りながら弓で正確に動く魔物を射抜くなど、相当な身体能力と動体視力があってできることだ。
だからこそアルテミスという女性は『天弓』と呼ばれた。
ありとあらゆるものを天から射抜き、天を駆けるかのように戦場を舞うのだと。そんな彼女からすれば数キロの距離など大した距離のうちに入らない。
「……重症だな。だが死ぬ範囲でもない。」
そう言ってアルテミスは横たわるフィルラーナとよく知らぬ男性に、懐から出した瓶を開けて勢いよく振りかける。体全体にかかるように満遍なく。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。ありがとうございます。」
フィルラーナはまだ気を失ってはいなかった。ただ疲れし辛いから喋らなかったし、動かなかっただけだ。
「いや、いい。依頼だからな。それでそこの男はなんだ?」
「逃げていた一般市民ですよ。この人も一度避難所に連れていきましょう。それよりも前線は、大丈夫なのですか?」
「ああ、粗方片付けた。元々ああいうのはヘルメスが得意とすることだ。残りは全部あいつ一人でやってくれる。」
「流石、『|万能者(オール・イン・ワン)』と言われるだけはありますのね。」
一番最初に一番の問題点の話をして、それからアルスの方に目を移す。
「あれは、大丈夫なのですか?」
「……普通なら、大丈夫ではないだろう。体を触媒にした魔法を使えば、治療も困難だ。それを体全体に施したのだろうな、常人なら死ぬ。」
「……普通なら、ですか。」
「ああ、普通ならだ。」
アルテミスはため息を吐きながらアルスの元へと歩いていく。
「自分でも気付いていないようだが、こいつには特異な体質があるみたいだ。詳しい説明は省くが取り敢えず死にはしない。」
「なら、良かった。」
ボロボロになり、だというのにどこか満ち足りた顔をして眠るアルスをアルテミスが見た。
「謝罪しよう、アルス・ウァクラート。あの時の私の言葉は間違いであった。お前なら必ず、辿り着ける。その先にいくつの困難が待ち構えているか、私には想像すらできんがな。」
アルスの勇姿は、命懸けの行動は、間違いなくグリフォンの気を大きく引いて時間稼ぎをさせた。
そしてここにアルテミスが実際にいること自体が、その功労の証明である。
「神の悪戯に数奇な体質。普通の人生を送れる事はまずないか。」
そうアルテミスは断言する。しかしそれすらも、冒険者として生きるものなら大歓迎であろう。
冒険者という生物は危険の中に快楽を覚え、困難な人生を歓迎する。
「そこの依頼主、お前はこいつについていくのか?」
「……少し違いますね。私に、ついてくるんですよ。」
「ふん、大した違いなどありはしない。なら気をつけておけ。良くも悪くも退屈しない人生を送ることになりそうだぞ。」
アルテミスは忠告するかのようにフィルラーナに言う。
しかしフィルラーナはそれを聞いても別にどうともせず、ただ笑みを浮かべた。
「知っています。幸運なことに私も、普通の人生など求めていないもので。」
一言、そう返した。
アルテミスはそれを聞き、なら良いと言って男とアルスを担いでその場を去った。
フィルラーナはその後ろ姿を楽しげに見守っていただけだった。
それはこの状況における、最大の幸運である。
俺のどんな魔法でも、きっと真正面からグリフォンは受けてくれる。あからさまな詠唱を無視して。
「――全身全霊をこの一撃に。」
一発目はただの鉛玉を電気の力で超高速で射出しただけのもの。
だが、二発目は違う。前世から今まで、魔法を追い求めてきた俺が作り出した最高の魔法をここに。
「それは夢。それは理想。それは幻想。されど我が永遠はそこにあり。」
どうせ長引いても俺の勝機などない。ならば最初から最強の一撃を放つのみ。
それこそが二発目の鉄球。魔法により加工されたこの鉄球はありえない強度と、本来俺が出しえない威力の魔法を使用することができる。
「右手は炎、左手は雷、右足は風、左足は土、胴は水、頭は木、心臓は無を生み出す。」
七つの属性がこの鉄球に集まる。それは俺の体すらも魔力に変換させた一撃。俺自身の体を魔法にし、俺の命をも犠牲にする魔法。
この場で全員死ぬぐらいなら俺一人で死んだほうがいい。
「それは進むべき道となり、辿り着くべき道となり、終わりの道となる。混ざれ、狂え、壊れろ、滅べ、潰れろ。我が命の断末魔を永遠にその身に焼き付けるがいい。」
これこそが文字通り全身全霊の一撃。一度切りの最強の一撃。
「『最後の一撃』」
その鉄球は俺の全てを込めて俺の手から放たれる。
それは風を切り、音の壁を超えグリフォンに当たった瞬間大きく弾けた。大きな光を起こし魔力の奔流がグリフォンを流し込む。
そこに込められた属性が多重に折り重なった魔法を瞬時に発現させた。
「本当に、馬鹿げてるぜ。」
俺は未だに土煙がグリフォンを包み込む中、俺はその場に倒れ込む。
体から魔力がなくなっただけでなく、体そのものを媒体にして魔法を使ったのだ。立ち続けるなんてできるはずがない。
「本当に、ふざけてるよなあ、オイ。」
だが、それでもグリフォンは倒れない。俺の命を賭けた魔法でさえも。
しかし、いい。知っていた。
俺如きの魔法じゃグリフォンが倒せないことぐらい。だがそれでも、中途半端な魔法じゃ駄目だった。
俺が何かするという事でグリフォンの気を大きく引く必要があった。
そして何よりこの魔法が発した光で、呼ばなけばならない人物がいた。
「グリフォン、お前を殺すのは俺じゃない。」
天から一つの光が降り注ぐ。それは遥か高き上空から落ちてくる矢。
グリフォンがその矢に気付き、回避行動を取るより早くその矢はグリフォンの魔石を貫いた。
「……一撃、かよ。流石は『天弓』のアルテミスだな。」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
エルフとは弓や魔法などといった遠距離からの攻撃を好む種族である。
しかし決して身体能力が弱いわけではない。むしろ木々を移りながら弓で正確に動く魔物を射抜くなど、相当な身体能力と動体視力があってできることだ。
だからこそアルテミスという女性は『天弓』と呼ばれた。
ありとあらゆるものを天から射抜き、天を駆けるかのように戦場を舞うのだと。そんな彼女からすれば数キロの距離など大した距離のうちに入らない。
「……重症だな。だが死ぬ範囲でもない。」
そう言ってアルテミスは横たわるフィルラーナとよく知らぬ男性に、懐から出した瓶を開けて勢いよく振りかける。体全体にかかるように満遍なく。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。ありがとうございます。」
フィルラーナはまだ気を失ってはいなかった。ただ疲れし辛いから喋らなかったし、動かなかっただけだ。
「いや、いい。依頼だからな。それでそこの男はなんだ?」
「逃げていた一般市民ですよ。この人も一度避難所に連れていきましょう。それよりも前線は、大丈夫なのですか?」
「ああ、粗方片付けた。元々ああいうのはヘルメスが得意とすることだ。残りは全部あいつ一人でやってくれる。」
「流石、『|万能者(オール・イン・ワン)』と言われるだけはありますのね。」
一番最初に一番の問題点の話をして、それからアルスの方に目を移す。
「あれは、大丈夫なのですか?」
「……普通なら、大丈夫ではないだろう。体を触媒にした魔法を使えば、治療も困難だ。それを体全体に施したのだろうな、常人なら死ぬ。」
「……普通なら、ですか。」
「ああ、普通ならだ。」
アルテミスはため息を吐きながらアルスの元へと歩いていく。
「自分でも気付いていないようだが、こいつには特異な体質があるみたいだ。詳しい説明は省くが取り敢えず死にはしない。」
「なら、良かった。」
ボロボロになり、だというのにどこか満ち足りた顔をして眠るアルスをアルテミスが見た。
「謝罪しよう、アルス・ウァクラート。あの時の私の言葉は間違いであった。お前なら必ず、辿り着ける。その先にいくつの困難が待ち構えているか、私には想像すらできんがな。」
アルスの勇姿は、命懸けの行動は、間違いなくグリフォンの気を大きく引いて時間稼ぎをさせた。
そしてここにアルテミスが実際にいること自体が、その功労の証明である。
「神の悪戯に数奇な体質。普通の人生を送れる事はまずないか。」
そうアルテミスは断言する。しかしそれすらも、冒険者として生きるものなら大歓迎であろう。
冒険者という生物は危険の中に快楽を覚え、困難な人生を歓迎する。
「そこの依頼主、お前はこいつについていくのか?」
「……少し違いますね。私に、ついてくるんですよ。」
「ふん、大した違いなどありはしない。なら気をつけておけ。良くも悪くも退屈しない人生を送ることになりそうだぞ。」
アルテミスは忠告するかのようにフィルラーナに言う。
しかしフィルラーナはそれを聞いても別にどうともせず、ただ笑みを浮かべた。
「知っています。幸運なことに私も、普通の人生など求めていないもので。」
一言、そう返した。
アルテミスはそれを聞き、なら良いと言って男とアルスを担いでその場を去った。
フィルラーナはその後ろ姿を楽しげに見守っていただけだった。
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