幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
上 下
15 / 474
第一章~魔法使い見習いは夢想する~

6.公爵令嬢

しおりを挟む
 突然だが君はフラグというものを知っているだろうか。
 英語で旗を意味するflagを語源とするコンピュター用語であるはずだったのだが、何故かネット中に広まって、果てには割と認知度の高い言葉になったあのフラグだ。
 フラグというのは、自分の都合の良い方に想像したらその逆の方に進んでしまう事を指す。
 『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。』→《突然の死》みたいな感じで。
 だから自分にとって都合のいい話は口にしないに限る。口は災いの元と昔の人も言っているのだ。

「流石はリラーティナ家の令嬢様だね。本当にお美しい。」
「いえいえ、そんなことは。」

 そう、もう二度と会わないと言っていなければ、本当に会う事はなかったかもしれない。
 護衛依頼の日。意気揚々と集合場所である門隣の倉庫に来たら、そこにはあの少女がいたのだ。
 あの血を連想させるほどの暗い赤の髪と、異様に引き込まれる美しい相貌。間違いなくあの少女だ。見間違えるはずがない。

「本心だとも。僕はあなた以上に美しい人を見た事がない。」
「……出会った女性全員に言っている癖して何を言う。その顔面を穴だらけにして欲しいなら早く言え。」
「やだなあ、アルテミス。僕だって人は選ぶさ。明らかなデブとブスには言わない。」
「だからクズだと言っているのだ、痴れ者が。恥を知れ。」

 アルテミスさんとヘルメスがそう話している中、俺はずっと微妙な顔をしていた。笑うのも違う。無視するのも違う。というか見られてるから無視できない。
 なんで俺の方を見てくるんだよ。あっち見ろよ。見応え抜群だぞ。下手な道化師より道化師な男がそこにいるんだからな。

「そろそろ、自己紹介をしましょう。」

 二人の会話に割って入るようにして手を叩く音が響いた。
 ヘルメスは笑いながら指で令嬢を指して、アルテミスは大きくため息を吐いて令嬢に向き直る。

「それでは私から。私はフィルラーナ・フォン・リラーティナ。一応、家からも騎士が出るのですが基本的に進行はそちらに任せます。行き先はファルクラム領であり、報酬は到着時にお支払い致します。ここから数日の間、護衛を宜しく頼みますね。」

 令嬢、フィルラーナ様の後ろには二人の騎士がいた。鎧を着込んではいないが、何か紋章をつけられたしっかりとした服を着ている。魔力を感じることからそういうマジックアイテムと見ていいはずだ。
 二人とも女性なのは恐らく性別的に考慮したのだろう。

「そちらの騎士さんは名乗らないのかい?」
「ええ。失礼な話かもしれませんが、うちの騎士の名前は信用していない人間に教えられません。」
「そうかい。なら仕方がないね。次は僕が名乗ろう。オリュンポス所属のヘルメスというものだ。雑務は基本的に僕が引き受けよう。大得意だからね。」

 雑務が得意な冒険者って、それは誇れることなのだろうか。

「アルテミスだ。作法は知らんが、依頼は完遂するので安心しろ。」
「もっとなんか言うことないのかよ。薄っぺらいぜ、胸と一緒だ。」
「よし、貴様の頭をもぐこととしよう。」

 アルテミスはヘルメスの頭を掴み、引きずって行く。
 痛いと叫びながら引きずられていくヘルメスを尻目に、俺はフィルラーナ様に向き直る。

「それで、貴方の名前は?」
「……え、ああ。私はアルス・ウァクラートです。オリュンポスの一員ではありませんが、今回の護衛に同行させて頂きます。」
「どうしたの? 前会った時とは随分と口調が違うじゃない。」

 笑顔が引きつる。
 もうやだ、こいつ怖い。人の考えを全て見透かしていそうなこの感じが、物凄く怖い。

「……仕組んだので?」
「ええ、そうとも言えるわね。」

 何がそうとも言える、だ。
 公爵令嬢なんていう立場の人間がたまたま路地裏で襲われてて、それでたまたまそれを俺だけが見つけるなんて偶然があるものか。

「オリュンポスほどの大規模クランならまだしも、貴方を護衛として連れて行くのには少し懸念があった。だからわざわざ変態に襲われて一芝居打ったというわけよ。ああ、あの男は本当の変態だったけども。」
「随分と危険な事をしますね。俺がそのまま貴方を殺していたらどうするおつもりだったので?」
「その時は、運が悪かったと割り切るわ。貴方も魔法学園に通うそうじゃない。折角だから面白そうな玩具を連れて行けば楽しくなるというものでしょう。そのための必要な危険だったわ。」

 ……いくら可能性があったという話をしても、最終的には結果が全てだ。
 恐らくは目に自信があったのだろう。人の善悪を見抜く目に。事実俺は、この人に心の奥底を見抜かれているような感覚がある。

「まあ、今はそんな事はどうでもいいわ。」
「私にとっては結構大切なんですがね。」
「貴族としての当然の権利を行使したまでよ。貴方がどうとか関係ない。」
「酷い。」

 権力者は怖いな。武力とか関係なく社会的に殺させる権利があるからな、貴族は。
 特に貴族の最高位である公爵家クラスになれば逆らえば死も同然というもの。その娘であって、実権を握ってなくてもそれは変わりない。

「あなた、シルード大陸の出身よね?」
「そうですが。」
「なら、旅の途中で貴方の話を聞かせなさい。『無法の地』の事は興味があるわ。」
「……話したくないんですけど。」
「もちろん拒否権なんてないから。恨むなら護衛依頼に同行する事を選んだ自分を選びなさい。」

 何が嫌で母親をぶっ殺された話などせにゃならんのだ、クソが。
 ああ、だがいい。それも少しの辛抱だ。どちらにせよあっちに着いたら距離を取ればいい。同じ学園に通うことになったとしても、別に全員と関わる必要などないのだから。

「それじゃあ、そろそろ行くわよ。中々、楽しそうな旅になりそうじゃない。」
「……そっすか。」

 フィルラーナ様はそう言って笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...