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第一章~魔法使い見習いは夢想する~
3.行き方
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取り敢えず、だ。見知らぬ地に協力者ができたのは喜ばしい事だ。後は罠ではないと信じるだけだが、こればかりは俺が気にすることでもない。
ここからファルクラム領までは数日かかる。その移動の為には、どの方法を取るにせよ準備が必要だ。
それまでの間、折角だし助けてもらうとしよう。
「それじゃあアテナ、仕事に戻っていいよ。この子はしっかり責任持って僕が案内しよう。」
「はい、かしこまりました。」
そう言ってメイドは去っていく。
実物のメイドはやはり上品だな。歩き方一つでも只人とは差が出る。なんかオーラが出ているような気さえしてくる。
「アルス君、まだ宿は取ってないよね?」
「あ、うん。取ってないけど。」
「なら丁度いい、空き部屋があるからここに泊まるといい。宿はお金がかかる。移動費にしろ、食費にしろ節約できる部分はするべきだ。」
「それは、ありがたいが……申し訳ないな。何から何までよくしてもらって。」
「いいんだよ。僕の直感が君は将来大物になるって言ってるからね。さっきも言ったが、先行投資ってやつさ。」
正直言って俺はそんな大層なものにはなれる気はしないんだが、別に否定してもいいことないしいいか。
取り敢えず移動費とかその他もろもろは稼がないと。
「そういや、さっきこのクランには十三人が所属してるって聞いたが他のメンバーはどこにいるんだ?」
「このクランは自由だからね。この街にいない人もいるし、それぞれが好きなように活動している。クランマスターも今はいないしね。」
「じゃあ、今はこの街に何人いるんだ?」
「えーと、確か四人だね。僕とさっき会ったアテナとアルテミス。それとヘスティアが今は買い出しに行ってるかな。」
メイドさんもクランメンバー扱いという事は、非戦闘要員も含めての数ということだろう。
そもそもたった十三人で上位クランってのもおかしい気がするけどな。
「その中でも今はヘスティアとアテナがクランの運営だとか管理を担当してるね。だから実際の戦闘員は十一人ってわけさ。」
「……本当に上位クランなのか、ここ。」
「人の質がいいのさ。いくら一万の人を集めるクランがあっても、一人で一万人分の仕事をする人が十人集まればそれを余裕で超えられる。そこら辺の百凡のクランと一緒にしないでほしいね。」
という事は、恐らくは目の前のこのヘルメスも相当優秀なのだろう。あまり認めたくはないが。
なんかうざったいんだよな、こいつ。発言が一々キザったいというか。敬語を使おうとする度に背筋に嫌な感覚が走る。
漫画とか映画で見た詐欺師と同じような雰囲気を感じる。
「どう、オリュンポスに入りたくならない?」
「……何度も言うが、俺はそんなに強くない。俺に勧誘するほどの価値があるとは思えないんだけど。」
「いいや、君は強くなる。僕は目には自信があってね。僕の予想は一度も外れたことがないんだ。」
こういう所がうさんくさいのだろう。根拠に自分の能力を出してくる奴は信用できない。だから対等な立場の人間として、敬語は使いたくない。
そもそもこの世界において敬語というのは貴族とか目上の人間に使うものだし、別に俺が敬語を使う必要もないんだけどね。
それは、まあ、日本人の癖がまだ残っているのだろう。
「それはさておき。アルス君はファルクラム領に行きたいんだっけ?」
「うん。」
「それなら丁度いいね。一週間後ぐらいにオリュンポスに護衛依頼が出ててね。ここからファルクラム領までの依頼なんだけど、アルス君も着いて来ないかい?」
「護衛依頼に見知らぬ他人連れてきていいのかよ。」
「いやあ、そんなこと言わないでよアルス君。僕達はもう友達だろ?」
そう言ってヘルメスは無理矢理に肩を組んでくる。
近い、暑苦しい、気持ち悪い。
「二十歳にもなる大人が子供を友達にしようとしてんじゃねえよ。」
俺はそう言いながらヘルメスの腕から逃れる。
ヘルメスは兎に角一方的に距離感を詰めてくる。良く言えば親しみやすい奴で、悪く言えばウザい奴だ。
「まあ正直な話、君ごときが護衛対象を殺そうとしても十分対処できるし。なんなら元より馬車は二台。僕達冒険者と乗る馬車が違うからね。問題はない。依頼人にも僕達は信頼されてるから。」
「お前ちょくちょく口が悪くならない? わざわざ『ごとき』とかつける必要なくないか?」
「ああ、ごめんね。人を見下す癖がついてるんだ。」
「だから敬語使いたくならねえんだよ。最低だなこの野郎。」
薄々、というか会った時からなんとなく思っていたが性格が悪い。自分が悪いと思っていないタイプの悪人だわこいつ。
「で、どうする。一緒に来るかい? それとも自分で稼いで勝手に行く?」
「……試しに聞いてみたいんだが、もしも俺がファルクラム領まで行くための金を稼ぐとしたら何日かかる?」
「うーん、半年かな。」
半年かあ。
いや、駄目ってわけじゃないんだ。半年の間に魔法の練習はできるだろうし、別に時間が無駄っていうわけでもない。
ただ別にここに長居しても意味がないというものだろう。そもそも俺は何をしたいかを探しにここに来たのだから。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。俺も着いて行くよ。」
「よし、決まりだね。当日は僕とアルテミスで行く。基本は僕達で進めるから、補佐的な仕事を任せてもいいかな?」
「分かった。」
どうも、話が美味し過ぎる気はするが。
俺がたまたま冒険者ギルドに来て、たまたまヘルメスがいて、たまたまヘルメスが俺に価値を見出して、たまたま目的地への護衛依頼が出ていた。
もはや誘導を受けている気さえしてくる。
運がいいというべきか、それとも何かしらに仕組まれるんじゃないかと警戒するべきか。どうも怖いもんだ。
すると俺の考えている事を知ってから知らずか、ヘルメスもそれについて話し始める。
「君、本当に運がいいよね。」
「あー、うん。俺も丁度そう思ったところだ。」
「確かに君であれば冒険者になれずとも、何かしらの方法でファルクラム領へは行けただろう。だけど間違いなく時間はかかった。君は恐らくは存在しうる限りの最速ルートを偶然で手にしたわけだからね。」
「……お前が仕組んでんじゃないかって気がしてきたわ。」
「いやいや、流石の僕でも依頼が出るかどうかは分からないからね。君はきっと運命神に祝福されてるのさ。」
神か。そういやこの世界にはガチで神様がいるんだっけか。だから宗教戦争も起きないとかで。
俺が転生した理由に神が関わっててもおかしくはない。だから、祝福されていてもおかしくないわけだが、会うことができない以上、真実は闇の中だ。
「んで、誰の護衛をするんだ?」
「君と同い年ぐらいの女の子さ。正確にはその女の子とその侍従を護衛する。」
俺と同い年ぐらいか。
流石にそれぐらいの歳で侍従をつけるほどの経済力があるってのは想像できない。大商人の娘とかそういう感じか。何故か偉そうな女の子が俺の頭の中で浮かぶ。
「貴族の中でも最高位、公爵につく四つの家。四大公爵家が一つ、ここリラーティナ領を管轄するリラーティナ家の娘。それが今回の護衛対象だ。」
「え?」
俺の想像している五倍ぐらいヤバイ名前が出てきた。
この王国において王族と貴族が国を統治している。その中でも貴族の頂点に立つ公爵家の娘ってことは、もはや国家の要人と言っても過言ではないのだ。
「おいヘルメス、もう一回聞くけど俺は着いて行っていいのか?」
「うん、勿論だよ。」
ヘルメスはそう言って俺に笑いかけた。その笑顔がどことなく怖く感じるのは俺だけじゃないだろう。
ちょっと冷や汗かいてきた。というか吐くかも。
なんちゅう依頼に同行させようとしてるんだお前は。
ここからファルクラム領までは数日かかる。その移動の為には、どの方法を取るにせよ準備が必要だ。
それまでの間、折角だし助けてもらうとしよう。
「それじゃあアテナ、仕事に戻っていいよ。この子はしっかり責任持って僕が案内しよう。」
「はい、かしこまりました。」
そう言ってメイドは去っていく。
実物のメイドはやはり上品だな。歩き方一つでも只人とは差が出る。なんかオーラが出ているような気さえしてくる。
「アルス君、まだ宿は取ってないよね?」
「あ、うん。取ってないけど。」
「なら丁度いい、空き部屋があるからここに泊まるといい。宿はお金がかかる。移動費にしろ、食費にしろ節約できる部分はするべきだ。」
「それは、ありがたいが……申し訳ないな。何から何までよくしてもらって。」
「いいんだよ。僕の直感が君は将来大物になるって言ってるからね。さっきも言ったが、先行投資ってやつさ。」
正直言って俺はそんな大層なものにはなれる気はしないんだが、別に否定してもいいことないしいいか。
取り敢えず移動費とかその他もろもろは稼がないと。
「そういや、さっきこのクランには十三人が所属してるって聞いたが他のメンバーはどこにいるんだ?」
「このクランは自由だからね。この街にいない人もいるし、それぞれが好きなように活動している。クランマスターも今はいないしね。」
「じゃあ、今はこの街に何人いるんだ?」
「えーと、確か四人だね。僕とさっき会ったアテナとアルテミス。それとヘスティアが今は買い出しに行ってるかな。」
メイドさんもクランメンバー扱いという事は、非戦闘要員も含めての数ということだろう。
そもそもたった十三人で上位クランってのもおかしい気がするけどな。
「その中でも今はヘスティアとアテナがクランの運営だとか管理を担当してるね。だから実際の戦闘員は十一人ってわけさ。」
「……本当に上位クランなのか、ここ。」
「人の質がいいのさ。いくら一万の人を集めるクランがあっても、一人で一万人分の仕事をする人が十人集まればそれを余裕で超えられる。そこら辺の百凡のクランと一緒にしないでほしいね。」
という事は、恐らくは目の前のこのヘルメスも相当優秀なのだろう。あまり認めたくはないが。
なんかうざったいんだよな、こいつ。発言が一々キザったいというか。敬語を使おうとする度に背筋に嫌な感覚が走る。
漫画とか映画で見た詐欺師と同じような雰囲気を感じる。
「どう、オリュンポスに入りたくならない?」
「……何度も言うが、俺はそんなに強くない。俺に勧誘するほどの価値があるとは思えないんだけど。」
「いいや、君は強くなる。僕は目には自信があってね。僕の予想は一度も外れたことがないんだ。」
こういう所がうさんくさいのだろう。根拠に自分の能力を出してくる奴は信用できない。だから対等な立場の人間として、敬語は使いたくない。
そもそもこの世界において敬語というのは貴族とか目上の人間に使うものだし、別に俺が敬語を使う必要もないんだけどね。
それは、まあ、日本人の癖がまだ残っているのだろう。
「それはさておき。アルス君はファルクラム領に行きたいんだっけ?」
「うん。」
「それなら丁度いいね。一週間後ぐらいにオリュンポスに護衛依頼が出ててね。ここからファルクラム領までの依頼なんだけど、アルス君も着いて来ないかい?」
「護衛依頼に見知らぬ他人連れてきていいのかよ。」
「いやあ、そんなこと言わないでよアルス君。僕達はもう友達だろ?」
そう言ってヘルメスは無理矢理に肩を組んでくる。
近い、暑苦しい、気持ち悪い。
「二十歳にもなる大人が子供を友達にしようとしてんじゃねえよ。」
俺はそう言いながらヘルメスの腕から逃れる。
ヘルメスは兎に角一方的に距離感を詰めてくる。良く言えば親しみやすい奴で、悪く言えばウザい奴だ。
「まあ正直な話、君ごときが護衛対象を殺そうとしても十分対処できるし。なんなら元より馬車は二台。僕達冒険者と乗る馬車が違うからね。問題はない。依頼人にも僕達は信頼されてるから。」
「お前ちょくちょく口が悪くならない? わざわざ『ごとき』とかつける必要なくないか?」
「ああ、ごめんね。人を見下す癖がついてるんだ。」
「だから敬語使いたくならねえんだよ。最低だなこの野郎。」
薄々、というか会った時からなんとなく思っていたが性格が悪い。自分が悪いと思っていないタイプの悪人だわこいつ。
「で、どうする。一緒に来るかい? それとも自分で稼いで勝手に行く?」
「……試しに聞いてみたいんだが、もしも俺がファルクラム領まで行くための金を稼ぐとしたら何日かかる?」
「うーん、半年かな。」
半年かあ。
いや、駄目ってわけじゃないんだ。半年の間に魔法の練習はできるだろうし、別に時間が無駄っていうわけでもない。
ただ別にここに長居しても意味がないというものだろう。そもそも俺は何をしたいかを探しにここに来たのだから。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。俺も着いて行くよ。」
「よし、決まりだね。当日は僕とアルテミスで行く。基本は僕達で進めるから、補佐的な仕事を任せてもいいかな?」
「分かった。」
どうも、話が美味し過ぎる気はするが。
俺がたまたま冒険者ギルドに来て、たまたまヘルメスがいて、たまたまヘルメスが俺に価値を見出して、たまたま目的地への護衛依頼が出ていた。
もはや誘導を受けている気さえしてくる。
運がいいというべきか、それとも何かしらに仕組まれるんじゃないかと警戒するべきか。どうも怖いもんだ。
すると俺の考えている事を知ってから知らずか、ヘルメスもそれについて話し始める。
「君、本当に運がいいよね。」
「あー、うん。俺も丁度そう思ったところだ。」
「確かに君であれば冒険者になれずとも、何かしらの方法でファルクラム領へは行けただろう。だけど間違いなく時間はかかった。君は恐らくは存在しうる限りの最速ルートを偶然で手にしたわけだからね。」
「……お前が仕組んでんじゃないかって気がしてきたわ。」
「いやいや、流石の僕でも依頼が出るかどうかは分からないからね。君はきっと運命神に祝福されてるのさ。」
神か。そういやこの世界にはガチで神様がいるんだっけか。だから宗教戦争も起きないとかで。
俺が転生した理由に神が関わっててもおかしくはない。だから、祝福されていてもおかしくないわけだが、会うことができない以上、真実は闇の中だ。
「んで、誰の護衛をするんだ?」
「君と同い年ぐらいの女の子さ。正確にはその女の子とその侍従を護衛する。」
俺と同い年ぐらいか。
流石にそれぐらいの歳で侍従をつけるほどの経済力があるってのは想像できない。大商人の娘とかそういう感じか。何故か偉そうな女の子が俺の頭の中で浮かぶ。
「貴族の中でも最高位、公爵につく四つの家。四大公爵家が一つ、ここリラーティナ領を管轄するリラーティナ家の娘。それが今回の護衛対象だ。」
「え?」
俺の想像している五倍ぐらいヤバイ名前が出てきた。
この王国において王族と貴族が国を統治している。その中でも貴族の頂点に立つ公爵家の娘ってことは、もはや国家の要人と言っても過言ではないのだ。
「おいヘルメス、もう一回聞くけど俺は着いて行っていいのか?」
「うん、勿論だよ。」
ヘルメスはそう言って俺に笑いかけた。その笑顔がどことなく怖く感じるのは俺だけじゃないだろう。
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