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序章~魔法使いになるために~
5.夢
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魔力暴走の事件から数ヶ月。
魔法が少しは使えるようになってきた。というか動かし方に慣れてきた。毎日こねくり回していると自然と動くようにもなる。
「『点火』」
俺の指先に炎が灯る。本当に小さな炎だ。しかし最初はこれで十分だろう。これから少しずつ大きくしていけばいい。
これで前みたいな事件を起こしでもしたら最悪だからな。
「よしよし。」
俺は手元で簡単な魔法を次々と発動させていく。
この世界において適正属性というのは存在しない。全員が自分の好きな魔法を使える。
魔法はイメージに影響するから、想像しにくいものは習得が難しい。言ってしまえばそれが適正なのかもしれない。
「おっさん! 結構上手くなったでしょ!」
「はっ! その程度で自慢すんじゃねえよ。それぐらいの魔法なら誰だって使えるぜ。」
「魔族と一緒にしないでほしいね。人間にしてはよくできるって話だよ。」
「人間にしても低レベルだろうが。」
うん、知ってた。
まあショボいよなあ。そよ風を起こしたり、マッチ程度の火を起こしたり、少しだけ土を動かせる。
魔法と言えば魔法だけど簡単に再現できるものだからな
「じゃあさ、どれぐらいになったら一人前なんだよ。」
「俺が凄いと思う魔法を使えるようになったらだな。」
「そんなん感覚じゃないか……」
それに魔族にとって凄い魔法って相当だろうに。少なくともこんな子供に求めるラインでなければ、凡人に求めるレベルでもない。
「……ん?」
「どうしたの?」
「お迎えが来たぞアルス。今日は墓参りの日だろ。」
「あ、もうそんな時間か。」
恐らくはお母さんが来たのだろう。昼に出発すると聞いていたから、それまで魔法の練習をしていたのだが、仕方ない。
俺とお母さんは年に一度墓参りにいく。勿論だが父親のだ。恐らくは今日が命日なのだろう。いつも決まった日に行くし。
「さっさと行けクソガキ。」
ベルセルクは俺の服を左手で掴んで持ち上げる。そして逆の手で俺の本を持ってそのまま玄関まで歩いていく。
玄関に着いたところで俺を降ろし、本を俺に手渡す。そして玄関を開けた。
そこには今からノックしようとしていたのか、右手の人差し指を少し突き出して丸めた状態のお母さんが立っていた。
「ほら、連れていけ。」
「いっ!」
背中を叩かれて思わず俺は前に出る。
痛い。子供にやる一撃じゃねえ。あ、ちょっと涙出てきた。
俺は背中をさすりながら振り返る。
「相変わらず耳がいいですね、ベルセルクさん。」
「人と一緒にすんじゃねえ。人狼は大体こんなもんだ。」
「いえいえ、それでもです。私がノックする前に出てくるなんて人、この集落にはいませんよ。」
「おっさんは無駄に耳がいいからな。」
「無駄じゃねえよクソガキが。」
お母さんは薄く笑みを浮かべる。
お母さんの左手には一輪の花がある。白い花だ。いくつもの花弁があり、綺麗な花だというのは分かる。
しかし生涯独り身で、花を渡す相手もいなかった俺にその花がなんなのかは分からない。
そもそも生態系が違う可能性もあるのだから、それが地球にあるかさえも分からない。
「アルスのこと、いつもありがとうございます。」
「できれば勘弁してほしいがな。ラウロの女房の頼みときちゃあ俺も断れねえさ。あいつには短い間だが、確かな恩がある。」
「本当に我が儘を言ってすいません。それでも、私はここを離れたくなくて。」
お母さんはばつが悪そうに言った。
ここを離れたくない。一瞬その言葉の意味を理解できなかった。しかし直ぐに分かった。
ここは確かに危険だ。魔族しか住んでいないし、定期的に魔族同士の争いも起こる。普通に考えたら移り住んだ方がいい。
しかし移り住まないということは、ここからどうしても離れたくないという理由があるのだ。
「……そうかよ。ならさっさと行け。そこら辺にも警備はいるだろうが気をつけろよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って俺の手を取り、お母さんは歩き始めた。
少しの間、沈黙が響く。そして少したった後に、俺は口を開く。
「お父さん、ってさ。すごい魔法使いだったんだよね。」
「……そうよ。お父さんはすごい魔法使いだったの。」
少しずつ、俺は確かに魔法を使えるようにはなっている。だけど未だに初歩の域を出ることはない。
未だに、俺は魔法使いの入り口にすら立てていないのだ。
「俺も、そんな風になれるのかなあ。」
「……そうねえ。」
お母さんは少し空を見るように上を見て、そして俺を見た。
「ねえ、アルス。アルスはどんな魔法使いになりたいの?」
どんな、魔法使い。
「何で、魔法使いになりたいの?」
その言葉が俺の心に深く突き刺さる。
なんで、魔法使いになりたいのか。言われてみればそんなこと考えたこともなかった。
俺は人と違って魔力が多かった。だからなれるんじゃないか、って思ったからなんとなくなりたかっただけだった。
後は魔法を使えたらカッコいいかなって思ったぐらいで。
「カッコいいから、いや、だけど違う。」
口に出して違うなと気付いた。魔法に憧れたわけじゃないのだ。魔法は決して目的ではなく、手段に過ぎないのだと。
「魔法使いになるだけだったら簡単よ。いつかアルスならきっとなれる。」
「……そうかな?」
「なれるわよ。お父さんとお母さんの子供だもの。だから、その先で何がしたいかよ。」
自分の未来を思い浮かべた。そして様々な自分を想像する。
世界最強クラスの魔法使いとなる自分。
最先端の魔法を研究する自分。
戦いの中で魔法を使う自分。
英雄として魔法を使う自分。
どれもピンと来ない。それじゃないと、俺の体が囁いているようだ。どれも本能的に違うと分かる。
そして一つだけ、一つだけ心にストンと落ちたものがあった。
ああ、これなのだと。本能的に理解した。こういうものになりたかったのだと、俺は理解したのだ。
「お母さんを守る魔法使いになる。大切な人を守れるような、凄い魔法使いになりたい。」
「……そう。」
きっとそうだ。別に特別じゃなくていい。百凡の一人でいい。だって俺はどこまで行っても凡人だ。決して頂には立てはしない。
だから、それでいい。自分の大切なものを守れる魔法使いになれれば、それで。
前世には決して得られなかった家族との生活を守れるだけで、それは俺にとっては最も価値のある事だ。
「なら、それを絶対に忘れなければ、きっとアルスは凄い魔法使いにになれるわ。いつだって、夢を見れない人間は何も得られない。夢を見た人間だけが何かを得られる。」
お母さんは立ち止まり、俺もそれに合わせて立ち止まる。
集落の端の方、集合墓地の中の一つ。それがお父さんの墓だ。作りは石を彫ったような形で、形は決して綺麗とは言えないが見たら墓石と分かるような形をしている。
「アルスが何になっても私はいい。殺人鬼になっても、英雄になっても、普通の魔法使いになっても。ただ、後悔しないような人生を送りなさい。失敗はいくらしてもいい。だけど、後悔だけはしちゃいけないわ。」
その言葉は何故か、お母さんの言葉の中で一番重みがあった。
墓参りを終えて家に帰った後も、その言葉はずっと頭の中で繰り返されていた。絶対に忘れちゃいけない言葉なのだと、俺は思ったのだ。
魔法が少しは使えるようになってきた。というか動かし方に慣れてきた。毎日こねくり回していると自然と動くようにもなる。
「『点火』」
俺の指先に炎が灯る。本当に小さな炎だ。しかし最初はこれで十分だろう。これから少しずつ大きくしていけばいい。
これで前みたいな事件を起こしでもしたら最悪だからな。
「よしよし。」
俺は手元で簡単な魔法を次々と発動させていく。
この世界において適正属性というのは存在しない。全員が自分の好きな魔法を使える。
魔法はイメージに影響するから、想像しにくいものは習得が難しい。言ってしまえばそれが適正なのかもしれない。
「おっさん! 結構上手くなったでしょ!」
「はっ! その程度で自慢すんじゃねえよ。それぐらいの魔法なら誰だって使えるぜ。」
「魔族と一緒にしないでほしいね。人間にしてはよくできるって話だよ。」
「人間にしても低レベルだろうが。」
うん、知ってた。
まあショボいよなあ。そよ風を起こしたり、マッチ程度の火を起こしたり、少しだけ土を動かせる。
魔法と言えば魔法だけど簡単に再現できるものだからな
「じゃあさ、どれぐらいになったら一人前なんだよ。」
「俺が凄いと思う魔法を使えるようになったらだな。」
「そんなん感覚じゃないか……」
それに魔族にとって凄い魔法って相当だろうに。少なくともこんな子供に求めるラインでなければ、凡人に求めるレベルでもない。
「……ん?」
「どうしたの?」
「お迎えが来たぞアルス。今日は墓参りの日だろ。」
「あ、もうそんな時間か。」
恐らくはお母さんが来たのだろう。昼に出発すると聞いていたから、それまで魔法の練習をしていたのだが、仕方ない。
俺とお母さんは年に一度墓参りにいく。勿論だが父親のだ。恐らくは今日が命日なのだろう。いつも決まった日に行くし。
「さっさと行けクソガキ。」
ベルセルクは俺の服を左手で掴んで持ち上げる。そして逆の手で俺の本を持ってそのまま玄関まで歩いていく。
玄関に着いたところで俺を降ろし、本を俺に手渡す。そして玄関を開けた。
そこには今からノックしようとしていたのか、右手の人差し指を少し突き出して丸めた状態のお母さんが立っていた。
「ほら、連れていけ。」
「いっ!」
背中を叩かれて思わず俺は前に出る。
痛い。子供にやる一撃じゃねえ。あ、ちょっと涙出てきた。
俺は背中をさすりながら振り返る。
「相変わらず耳がいいですね、ベルセルクさん。」
「人と一緒にすんじゃねえ。人狼は大体こんなもんだ。」
「いえいえ、それでもです。私がノックする前に出てくるなんて人、この集落にはいませんよ。」
「おっさんは無駄に耳がいいからな。」
「無駄じゃねえよクソガキが。」
お母さんは薄く笑みを浮かべる。
お母さんの左手には一輪の花がある。白い花だ。いくつもの花弁があり、綺麗な花だというのは分かる。
しかし生涯独り身で、花を渡す相手もいなかった俺にその花がなんなのかは分からない。
そもそも生態系が違う可能性もあるのだから、それが地球にあるかさえも分からない。
「アルスのこと、いつもありがとうございます。」
「できれば勘弁してほしいがな。ラウロの女房の頼みときちゃあ俺も断れねえさ。あいつには短い間だが、確かな恩がある。」
「本当に我が儘を言ってすいません。それでも、私はここを離れたくなくて。」
お母さんはばつが悪そうに言った。
ここを離れたくない。一瞬その言葉の意味を理解できなかった。しかし直ぐに分かった。
ここは確かに危険だ。魔族しか住んでいないし、定期的に魔族同士の争いも起こる。普通に考えたら移り住んだ方がいい。
しかし移り住まないということは、ここからどうしても離れたくないという理由があるのだ。
「……そうかよ。ならさっさと行け。そこら辺にも警備はいるだろうが気をつけろよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って俺の手を取り、お母さんは歩き始めた。
少しの間、沈黙が響く。そして少したった後に、俺は口を開く。
「お父さん、ってさ。すごい魔法使いだったんだよね。」
「……そうよ。お父さんはすごい魔法使いだったの。」
少しずつ、俺は確かに魔法を使えるようにはなっている。だけど未だに初歩の域を出ることはない。
未だに、俺は魔法使いの入り口にすら立てていないのだ。
「俺も、そんな風になれるのかなあ。」
「……そうねえ。」
お母さんは少し空を見るように上を見て、そして俺を見た。
「ねえ、アルス。アルスはどんな魔法使いになりたいの?」
どんな、魔法使い。
「何で、魔法使いになりたいの?」
その言葉が俺の心に深く突き刺さる。
なんで、魔法使いになりたいのか。言われてみればそんなこと考えたこともなかった。
俺は人と違って魔力が多かった。だからなれるんじゃないか、って思ったからなんとなくなりたかっただけだった。
後は魔法を使えたらカッコいいかなって思ったぐらいで。
「カッコいいから、いや、だけど違う。」
口に出して違うなと気付いた。魔法に憧れたわけじゃないのだ。魔法は決して目的ではなく、手段に過ぎないのだと。
「魔法使いになるだけだったら簡単よ。いつかアルスならきっとなれる。」
「……そうかな?」
「なれるわよ。お父さんとお母さんの子供だもの。だから、その先で何がしたいかよ。」
自分の未来を思い浮かべた。そして様々な自分を想像する。
世界最強クラスの魔法使いとなる自分。
最先端の魔法を研究する自分。
戦いの中で魔法を使う自分。
英雄として魔法を使う自分。
どれもピンと来ない。それじゃないと、俺の体が囁いているようだ。どれも本能的に違うと分かる。
そして一つだけ、一つだけ心にストンと落ちたものがあった。
ああ、これなのだと。本能的に理解した。こういうものになりたかったのだと、俺は理解したのだ。
「お母さんを守る魔法使いになる。大切な人を守れるような、凄い魔法使いになりたい。」
「……そう。」
きっとそうだ。別に特別じゃなくていい。百凡の一人でいい。だって俺はどこまで行っても凡人だ。決して頂には立てはしない。
だから、それでいい。自分の大切なものを守れる魔法使いになれれば、それで。
前世には決して得られなかった家族との生活を守れるだけで、それは俺にとっては最も価値のある事だ。
「なら、それを絶対に忘れなければ、きっとアルスは凄い魔法使いにになれるわ。いつだって、夢を見れない人間は何も得られない。夢を見た人間だけが何かを得られる。」
お母さんは立ち止まり、俺もそれに合わせて立ち止まる。
集落の端の方、集合墓地の中の一つ。それがお父さんの墓だ。作りは石を彫ったような形で、形は決して綺麗とは言えないが見たら墓石と分かるような形をしている。
「アルスが何になっても私はいい。殺人鬼になっても、英雄になっても、普通の魔法使いになっても。ただ、後悔しないような人生を送りなさい。失敗はいくらしてもいい。だけど、後悔だけはしちゃいけないわ。」
その言葉は何故か、お母さんの言葉の中で一番重みがあった。
墓参りを終えて家に帰った後も、その言葉はずっと頭の中で繰り返されていた。絶対に忘れちゃいけない言葉なのだと、俺は思ったのだ。
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