幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

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序章~魔法使いになるために~

3.暴走

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 さて、これまで色々あったし、状況を整理してみよう。

 一、現代日本で生まれたくせして俺は魔力を生まれながらにして持っていて、後輩を助けたら何故か異世界に転生してしまっていた。
 理由は分からない。神様ってのがいるのかもしれないが、俺は会ってないから、正直言って信憑性もない。

 二、母であるフィリナ・ウァクラートの息子として生まれた。名前はアルス・ウァクラート。現在は五歳児で魔法使いを夢見るしがない人間である。

 三、ここは魔族しかいない集落である。人狼(ウェアウルフ)を中心に、鳥人とかがいる。どっちかというと動物系が多い感じだ。
 ちなみに魔族ってのは人間とは別の種族で、大体は魔力が多い奴のことをまとめてそういうらしい。
 説明があやふやなのはお母さんがそうとしか言わなかったからだ。これが正しいかも分からない。

 これが現在の状況となる。
 そして逆に今知りたいことは世界はどういう風になっているのか、それと何で俺が転生したか。この二つだ。二つ目は当分分かりそうにもないから、分かる時に調べるとしよう。

 だが一つ目は重要だ。
 特に世界地図は欲しい。どんな国があるのかも知りたい。家にある絵本には普通に国が出てきてたし、まさか国が存在しないほど文明が発展してないってことはないだろう。
 流石に異世界に転生しといてこの集落で一生を終えるのは中々に辛いものだしな。折角だから冒険はしてみたい。

「……よし。」

 俺は魔力を体に巡らせ、大きく息を吐いた後に遂に決心して魔力を動かす。
 何故俺が人より何倍も多い魔力量を持っていながら魔法を使えなかったのか。そして、何故この世界ではここまで魔法文明が広がっているのか。
 その理由には大気に満ちる魔力、即ちは体外魔力が大きく関係する。

 魔力にはとある特性があり、体内魔力は体外魔力に大きく干渉できる。体の中の魔力と体の外の魔力。この二つを両方使うのが魔法。
 そして、体内魔力は体外魔力に大きく影響を与えられる。
 魔力を一つの原子だと仮定した時、一つで体外魔力の一億ぐらい動かせると言った方が分かりやすいだろうか。
 要は体外魔力を利用しなきゃ、まともな魔法は使えないってこった。なんせ単純計算で通常の一億倍の魔力が必要になるわけだから。

「『不定の魔力シンプル』」

 俺は魔法名を言って体外魔力を動かした。
 魔力は使用者のイメージで動く。魔法名を言えばそれだけイメージしやすくなる。
 何か心理的なダメージを受けた時でも、言えば使えるという確信が心の中にあれば発動がしやすいらしい。
 それと仲間と連携を取りやすくなるから魔物と戦うならそっちの方がいいんだとか。

 まあ、それはさておき。俺の周辺の魔力が動く。不規則に動いていたはずの魔力が俺の思い通りにだ。
 しかしそれも長く続かず、少し動かしたところで制御し切れず霧散することとなった。

「よっしゃあ!」

 マジでこの程度で三日かかったぞ。魔力操作には自信あったつもりなんだけど、粉々に打ち砕かれた気分だよマジで。
 そして更に問題なのはここからだ。ここから更に魔法に属性を持たせなければならない。

 魔力は万能物質だ。原理や理由は分からないが、使用者のイメージによって九つの属性に変化させることができる。
 無、火、水、木、風、雷、土、光、闇。俺がさっき使ったのは属性を持たせない、つまりは無属性ってわけだ。
 だから無属性を属性と考えるには、ちょっと違う気もするがそれはそれ。

「とりあえず、まずはこれをマスターしてからだな。」

 しっかりとした魔法を使えるようにするにも、基礎は大切だ。
 一流になればなるほど、基礎を大切にしているものだ。奥義とか必殺技ってのはその後に勝手についてくるものだろう。

「おいクソガキ、もうそろそろ帰れ。そろそろ日が沈むぞ。」
「ああ、うん。ちょっと待って。」

 ベルセルクは俺にそう言う。
 ここはベルセルクの家の庭だ。ここら一帯で一番大きな家なだけあって庭も広い。そう、庭が広い。
 ならば試してみたくはないだろうか。
 正直言ってさっきのは派手さに欠ける。魔法という感覚も薄い。取り敢えず一回やってみればいい。できなければまた練習してやればいいし。

「発動したい魔法をしっかりとイメージして……」

 俺が思い浮かべるのは水。
 一応精神年齢的には分別のある大人だ。もしも失敗しても大丈夫そうにしておくのが一番いい。
 深く、深くイメージをしていく。強大な水。全てを流し込む水。その水を自分の手のひらに生み出すイメージでだ。
 思ったよりそれは難しく、直ぐには発動することはなかった。
 しかし時間がたつと俺の上を向けた手のひらの上に、小さな水の玉が生まれる。

「やった!!」

 俺は大きな声を出して喜ぶ。そしてその水の玉はどんどん大きくなり、次第に俺の頭よりも大きい水の玉になる。

「……え?」

 
 その水は回転を加えながらどんどんとその大きさを増していき、俺の制御から外れていく。
 ヤバイ。間違いなくダメなやつだ。
 動揺し、慌てた俺はそれに適切に対処することができなかった。

「おいクソガキ! なにしてやがる! さっさと魔力を流すのを止めろ!」
「え、いや、でも、どうやって」

 魔力がその水の玉に吸い込まれていく。それは少しずつ球体の形を保てなくなっていき、崩れた形になっていく。
 ベルセルクは姿勢を低くして即座に俺の側にきて、魔法を生む俺の右腕を掴んだ。

「ぁ」

 感覚的に分かった。もう制御できない。弾けてここを飲み込むと。
 俺の脳裏に浮かぶのは津波に飲み込まれる家屋。
 日本で見た最悪の厄災が、ここに魔法で再現されようとしているのだ。
 何でこんなことに。簡単な魔法を使うつもりだったのに。そんな後悔と自責の念が俺を追いやる。
 俺の魔力は全てその水の玉に吸い取られ、目蓋が一気に重くなり、睡魔に襲われる。

「チッ、アルス! めんどくさいことしてくれたなァ!」

 ベルセルクの声を最後に、俺は意識を失った。





 ベルセルクは人狼ウェアウルフである。その真価は身体能力にあり、魔法は得意としていない。
 しかしそれでも、魔族は人より根本的に優れた種族。多少の魔力操作ならできる。
 ベルセルクはアルスの手首をしっかりと掴み、魔法の操作権を奪い取る。

「マジで、馬鹿げた魔力だな。」

 本来なら、こんな事故は起こりえない。暴走しても簡単な魔法が暴発して、それで気を失うだけ。
 しかしアルスは違った。
 人間であるにも関わらず、ベルセルクよりも多い魔力量。それほどの魔力があるならば、その暴走は馬鹿にならない。

「……チッ。」

 舌打ちをしながら時間かけて巨大な水を少しずつ霧散させ、最後には手で握り潰す。
 五歳でこれだ。まだアルスには伸び代がある。アルスの魔力量は、既に量だけなら一流の魔法使いを凌駕しているのだ。
 確実にもっと優れた魔法使い、もしくは世界最高位の魔法使いである『賢神』にさえも届くかもしれない。

「めんどくせえなあ。」

 そう言いながらアルスを右肩に担ぎ、左手にアルスの本を持ってベルセルクは歩き始める。
 行くのはアルスの家である。ついでにフィリナに小言を言いにいくつもりなのであろう。

「……やっぱり、アイツのガキってわけか。」

 どこか諦めたようにベルセルクは歩いていった。
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