多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Epilogue

No150.Desired future

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 俺は海と夕焼け空を見ていた。涼しい風が静かに吹き、髪が靡く。

 「……この自然美。日本に帰って来たって感じがするなぁ。早いものだ、“時間”ってものは……。」

 すると、携帯が鳴った為、俺は電話に出る。
 
 「旋梨?……あぁ今帰国したところだ。……明日な…了解。」

 そう電話を終え、俺は自動車に乗って自宅へと帰った。







 暗殺者……かつてはその道を生きていた。生命再起会との戦い。後に“人工シンギュラリティ”と語られていたっけな。
 あそこで俺の…俺達の人生は一つ区切りがついた。
 そして、それぞれの道を歩み始めた。振り出しに戻った人生を、俺は創り始めた。



 兄上の墓参りから帰宅した高校生のあの時、部屋を見渡すとある物が目に留まった。
 それがギターだ。旋梨に誘われて趣味として一時期はやっていた。匿名だがコンテストなどに応募してみたら、思いの外記録を出せたのだ。
 
 「また極め直してみようかな……。」

 音楽に打ち込んでる時は、全てを忘れて熱中出来ていた。あれだけの過去を背負いながらも。
 手始めに、作詞作曲を行った。約一ヶ月程度で完成し、レコーディングを始めた。その時の楽しさは、今でも覚えている。
 デート帰りで疲れた時であろうが、一日中試験を受けた日の夜だろうが、俺は作業に没頭していたと思う。
 そして、当然のように俺は音楽の道に進んだ。しばらく日本で活躍した後海外に留学して、更にその道を極めた。
 凛達に会えないのは辛かったが、俺達は電波で繋がっている。青春の舞台を共に出来なかったに過ぎないし、まだ何十年と時間はあるんだ。
 


 「一瞬なんだよな……五年間は。」

 成人式以降、ほとんどを海外で過ごしていた。彼らが今何をしているのかは知っているが、会うのは本当に久しぶりだ。元気にしているといいが……。







 「ただいま。凛。」

 「歪!」

 玄関の扉を開いて早々、凛は俺に飛びついて来た。そして彼女は見上げてこう言った。

 「遅いよ……何年待たせるの?」

 「ごめん……。」

 「気にしてないよ。一人で使うには少し部屋が広かったけどね……。」 

 そう、俺と凛は現在同棲している。とは言っても、長らく不在だったが……。遠距離恋愛も意外と悪くはなかった。

 「あっそうだ!明日の事ってもう話行ってる?」

 「ああ。帰りに旋梨から連絡があった。」

 「そっか。……じゃあもう寝よっか?」

 「そうだね。」

 時差で時間感覚が麻痺している。明日は早いため、俺達は寝た。







 翌朝、リビングに降りると朝食が食卓に並んでいた。

 「張り切ってるじゃんか。」

 「そりゃそうだよ~!私の手料理食べるの久しぶりでしょ?上達した味を早く楽しんでほしくてね!」

 台所に居た彼女は振り返って、そうニコッと笑った。本当に帰って来たって感じがする。
 彼女の笑顔を見られる事が、こんなにも幸せな事だとは思わなかった。慣れは怖いものだ。




 「ご馳走様。美味しかったよ。」

 「えへへ、それなら良かった!」

 朝食を取り終え、俺達は出掛ける支度を始めた。

 「久々に会うあいつらはどうなってるのだろうかね。」

 「きっと驚くと思うよ。有名人ばかりだから!」

 「あはは…。てかそれは凛もじゃん。」

 「あ、そうだったね!」

 そうまたしても笑顔を見せる彼女。本当に可愛過ぎて仕方がなかった。







 旧サイレンス本部。今は豪邸として再建されていた。駐車場に車を停め、俺達は門の方に向かった。
 すると、門の前でこの会の主催者が待っているのが目に入ったため、声を掛けた。

 「久しぶりだ。莉緒菜。」
  
 「お待ちしてましたよ。聖薇さん、夏咲さん。」

 「ああ。今日はよろしく。」

 Order唯一の生き残り柊莉緒菜。彼女は旧サイレンス本部が置かれていた土地を買い取り、パーティー会場になる豪邸を建設した。
 結婚式や晩餐会など用途は多種多様。どんな式典でも全力でサポートしてくれると評判だ。

 「さて、行こうか。」

 「うん。」

 「では、私が案内します。」

 そうして、莉緒菜に会場へと案内された。







 「こちらです。私は揃ったら合流しますね。」

 そう言って、莉緒菜は足早に去って行った。

 「なんか…緊張するね……。」

 隣でそう震えている凛。

 「大丈夫だよ。ほら、自然体でさ。」

 「そう…だよね……。」

 彼女はこのような雰囲気にあまり慣れていない様子だった。規模が大きいけど同窓会みたいなものだからそんなにガチガチになる必要はないんだがな……。
 
 「……時間がまだまだあるなぁ…。」

 少しでも彼女の緊張を和らげる為に独り言を言って辺りを見渡すと、懐かしい顔を目にした。
 すると、あちらもこちらの存在に気付いたようで近付いてきた。

 「お久しぶりです。聖薇先輩。」

 「元気だったか?夜空……と、そちらは……。」

 「紹介します。お付き合いしている明璃です。」

 「はい。四季明璃と申します!お二人の事はテレビなどで認知しています。」

 「そうか。でも一応自己紹介を……。聖薇歪。作曲家です。」

 「私は夏咲凛。同じく作曲家をしています。」

 「はい。全く異なる舞台で活動していますが、音楽に懸ける理念は大体一緒です。」

 「そうなんですか!会えて本当に光栄です!」

 「またお話ししましょう。夜空、四季さん。」
 
 「はい。……っあ、先程讐鈴さんを見かけました。」
  
 「本当か?ありがとう、挨拶しておくよ。」

 「きっと驚くと思いますよ。では、また後ほど……。」 

 そう言って、夜空達は去って行った。
 
 「ねぇ、なんでそんなにスムーズに話せるの?」  

 すると、凛がそう尋ねてきた。

 「向こうでもそれなりに有名になっちゃったからね。こういうのは慣れているんだ。」 

 「留学前の口下手な歪は何処へ……。」

 と、凛は言う。何せ五年も経っている。昔と違う所だって沢山あるだろう。

 「……ありがとう。会えなかった五年間もずっと好きでいてくれて。」

 「ッ!……もぉーそういうの反則だって!」

 不意のその言葉に、凛は照れながらそう応えた。
 
 「なぁにこんなところでいちゃついてんだ?そういうのは家でやれって。」

 すると、後ろからそう声を掛けられたため、振り返る。昨日電話で聞いた声の主だ。

 「旋梨!」

 「おお、俺だ。凛も高校以来だな。」

 「そうですね!…波瑠は一緒じゃないの?」

 「ああ……さっき真依と会ってさ…ちょっと話が盛り上がってなぁ……。凛も行ってきたらどうだ?そこの廊下突き当たった所に居るぞ。」

 そうすると、凛がこちらを見てきた。

 「そっちもお互い忙しいんだろ?会ってきなよ。」

 「分かった。じゃあまた合流しようね!」

 「ああ。」

 すると凛は足早に行ってしまった。俺はそれを見送って、旋梨に話を振った。
 
 「テレビで見たぞ。起業して成功するなんてやるじゃんか。」

 「歪こそな。今は巨匠映画の楽曲からオーケストラまで幅広く活躍してるんだよな?」

 「だな。お陰で忙し過ぎて自分で奏でる時間がない。」

 「贅沢な悩みだなぁ!」

 「お前もだろ。日本経済が爆発的に伸びたって海外で耳にした。少なからずお前の影響もあるだろ?」

 「まぁな。」

 二人とも今は変革者という身。常に仕事には追われるが、毎日が刺激的だ。
 
 「そういえば話変わるんだが……」

 話に区切りがつき少し間が開くと、彼は話を変えようとしてきた。

 「どうした?」

 「実は………結婚するんだよね。俺達。」

 「いいじゃん。」

 「反応薄いなぁ…歪は。」

 「いつかはそうなると予想できるし……。」

 何にせよ、おめでたい話だ。いや、まだプロポーズしたかも分からないが……。

 「お前は?」

 「春が過ぎたらまた大きい仕事がある。それを終えたらほどほどに活動しようかなと……。」

 「お前らしいな。」

 「旋梨からはあまり聞かない言葉だ。……てか愁を見てないな?」

 「あいつには断られた。また個人的に会いに来るって。因みに広告とか作ってるそうだ。」

 「愁も愁で忙しそうだな……。」

 また話が終わり時計を見ると、そろそろ開催の時間になっていた。

 「じゃ、俺はそろそろ波瑠のところに戻る。久しぶりの仲間との食事、楽しめよ!全額負担してやる!」

 「分かった。ご馳走様です。」

 そう言葉を交わし、俺は凛を連れてパーティーを楽しんだ。







 夕方、パーティーも終って徐々に人々が解散し始めた。旧サイレンスの加入者とその身内が多くいるだけあって、かなり人混みにも疲れた。
 何か金持ちが多かった印象が強い。皆第二の人生が成功していて心から良かったと感じる。
 
 「ねぇ歪。久々に会った友達はどうだった?」

 「強烈だった。あいつらの人生にリアルタイムで関われなかった事が悔やまれるな。」

 「あはは……だよね?現実より液晶越しでの方が目にするもん……。」

 そんな他愛ない会話をしながら駐車場へ向かっていると、あれ以来見てなかった人物がいた。
 その人は、兄上に次いで俺の人生をいい意味で変えてくれた人だ。

 「撫戯?」

 彼の名は讐鈴撫戯。ぱっと見誰か分からなかったが、感覚で分かった。すると撫戯は振り向いた。

 「よぉ…歪。」

 何処か得体の知れない雰囲気を纏う彼の指を見ると、煌めくある物が目に止まった。

 「撫戯……それって……。」

 「ああそうだ。………俺は叶えたぞ。非の打ち所がない程に、己を磨き上げた。……恋音と結婚しました。」 

 「「おめでとう。」」

 俺と凛はそう祝福した。すると、撫戯は頭を深々と下げてきた。

 「本当にありがとう。お前達が活躍する姿を見て、ここまでこられた。オーディション最上位成績だったぞ。」

 「俺は別に礼を言われるような事はしていないよ……。頭が上げて?」
 
 そう頭を上げる事を促して、俺は口を開いた。
 
 「俳優だったか?ネット記事で読んだ。それと……こちらこそ礼を言わせて欲しい。多分、お前が俺に世界を見せてくれなかったら、一生俺はあの世界に居たと思う。確かに、悪くはなかった。だけど、……俺らしくはなかったかな…?」

 「礼を言うなら俺じゃなくて黒薔……薔羨さんの方だぞ。」

 「兄上?」

 「そうだ。……あんまり話した事がなかったが、俺は結構Enterに世話になってんだ。薔羨さんは弟であるお前を置いてきた事を深く後悔して、記憶から抹消しようとした。まぁ、結果はこの通り消せるはずもないんだがな。……その話を聞いて、恩返しをしようと思った。あの人は人を頼れない性格だからさ。」

 「そうだったんだ……。」

 すると、撫戯は俺と凛の肩に手を置き、こう語った。

 「Enterは今でも仲良く暗殺者やってるよ。結局それが彼らの望む幸せな生活なんだって。……幸せの基準は人それぞれだ。現に、それぞれがそれぞれの道を歩んだ結果、今の日常を手にしている。これから何十年、特に二人のような芸術家には自分を否定してくる連中とも遭遇すると思う。だが、胸を張れ。そして支え合うんだ。そうすれば、壊れる事はないから……。」

 その時、華隆さんや兄上の姿が、撫戯と重なった。そうだ、いつだって彼らは教えてくれた。幸せの形を、未来を。
 今や亡き伝説となってしまったが、その意思が廃る事は絶対にない。こうやって継承されるうちは……。

 誰が予想しただろうか、敷かれたレールがこんなにも形を変えるなんて。
 もし、彼らが生きていたら、どう世界は変わっていたのだろうか?人間一人に、それだけ壮大で長い物語がある。
 
 撫戯が俺達から手を離し去ろうとした時、俺は言葉を返した。

 「俺達は相互に影響を及ぼし合っている。そう伝えたいのか。」

 すると、撫戯は振り向いて声も発さず微笑した。

 「分かった。……受け取った。その思念。」

 「……やっぱり聖薇の弟だ。」

 そう苦笑いしながら、撫戯はタクシーの方へ歩いていった。

 彼らの言う通り、きっと大丈夫だろう。人間には複数の顔がある。一つ砕けたからといって、死ぬ訳じゃない。別の顔で幸せになれればそれでいい。
 ただ、繋がりがなくなる訳ではない。暗殺者だった時間は、結果的に俺を様々な事に結びつけてくれた。
 そうする事でやっと辿り着けたのだ。“自分でも気付けない、望む未来へ”。
   
 「凛、帰ろっか。」

 「だね。」

 そうして車に乗って、帰路に着く。
 立ち止まらずに進むんだ。俺達の信じる道を………。



     ~thank you~
   I hope we can meet again

          Fin
 
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