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ChapterⅧ:FinalZone
No144.Can't be replaced
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まだ、幸せだった頃。
Enterが事実上の完成を迎えてから数日後の夜、俺は葵と屋上に居た。
「今日は風が気持ちいいね。」
「これから冷え込む時期だ。一時の入れ替わりの期間だろう。」
それからしばらく沈黙が続いた。夜風に靡かれる。静かな日だった。
すると、彼女は口を開いた。
「確か新しいEnterの仲間は元一般人なんだよね?」
「ああ。」
「聞いたよ。君に憧れて暗殺者の道に進んだんだって。」
「そうなのか。まぁ、火災の中飛び込む覚悟のある奴だ。ここまで来られてもおかしくないか……。」
要。彼はポテンシャルは十分にあった。不屈の精神が彼の武器であり、見事その予想は的中した。
初回の任務から、敵を一人で片付けた姿には流石の俺でも驚いた。
そこから、また沈黙が続いた。しばらくすると、また彼女が口を開いた。
「……ありがとね。私に寄り添ってくれて。」
「……なんだ、急に改まって。」
「家族と離れ離れになって、拠り所のない私と一緒に居てくれたから。……あの日、もしも薔羨に拾われてなかったら、きっと私は今生きていない。」
「………。」
ビルを遠目に見る風景から目を離し彼女の方を見ると、彼女は頬を赤らめていた。
「無理して言ってないか?」
「え、え?…そ、そんな事……!」
彼女は、目を回して滅茶滅茶噛みながらそう言った。
「あはは。」
「何笑ってるの!」
「いや?反応が可愛くてつい!」
「………意地悪。でも、ありがと。」
そうそっぽを向きながら感謝する葵。絶対照れている。…その姿がまた愛おしい。
雰囲気的にはとても良かった。だからこそ、俺は覚悟を決めて言った。
「好きだよ。葵。」
「もぉ~そんな冗談は……」
「本気だ。」
「ッ!」
すると、彼女はパッとこちらに振り返り目を合わせた。頬はまだ赤い。
「そっか……。」
彼女は下を向いてそう口に零し、ゆっくりとこちらに前進してきた。
そして、耳元でこう言った。
「私も……だよ?」
「……知ってる。」
「やっぱり?……愛情って隠せないんだね。」
相思相愛。あれだけの時間を共有していたらそりゃ気づく。むしろ、時間がそうさせたとも言えるのではないか。
でも、俺は彼女と付き合う気はまだ無かった。いつ、何があるか分からない社会で生きているからこそ、学生時代にそんな苦痛を味わいたくなかったんだ。
そして、それは彼女もきっと分かっていたはずだ。
「あの……もし、大犯罪横行の時代が終わったら、私を迎えにきてくれるって約束してくれませんか…。」
考えるまでもない。答えは……
「ああ。約束する。だから、頑張ろう。混沌とした社会が終わるように……。」
とは言え、その日は一緒に寝た。本当にいつ何が起こるか分からないのが俺達の人生だ。後悔しないためにも、その日だけは……。
俺は暗殺者になる以外の道はなかった。聖薇という暗殺者の一族。それも、名門の家系だ。
従うだけの人生に嫌気が差して、俺は家出した。それなのに、今俺は暗殺者になっている。ただ、今はあの時とは違う。“自分の意思”で暗殺者になったのだ。
慈穏とサイレンスで出会ってしばらくした時、こんな会話をしたっけな。
「なぁ聖薇薔羨。」
「フルネームで呼ぶな。……今の俺は聖薇とは無関係だ。」
「……俺聞いたんだよね。家出した後も弟に顔見せてるんだって?」
「……お前は俺をからかって楽しいか?線引だけはしっかりしろよ。」
「あまり話さない方がよかった?……不快にさせたのならごめん。ただ、これだけは聞きたくてさ……。」
「……なんだ。」
「一族という重圧から開放されたのに、どうしてまだ暗殺者を続けてるのかなって。」
「悪いか?」
「そういう訳ではないけど、気になった。」
俺はしばらく間を置き、答えた。
「どこかで聞いたんだ。暗殺者は、犯罪者としての暗殺者以外にも、制裁の暗殺者が居ると。……ただ、残念ながらそのほとんどは悪となる。幼少期から叩き込まれた選ばし者にしか出来ない事がある。それで誰かを幸せに出来るなら……って思ってる。」
暗殺するという事は誰かが死ぬ。そして誰かが悲しむ。だけど、誰かは重圧から開放されたり、喜ぶ。何事においても、幸福の裏では絶望が必ず生まれる。その逆も然り。
力を持ち生まれたのなら、よりよい結果になるように尽力したい。力が無くて変えられない人の助けになりたい。
「いい考えだと思う。……俺も考えが改まったよ。」
慈穏はそう反応した。
「本当にそう思ってるならいいが、無理には合わせるなよ?人間思考が完璧に一致する事なんて稀だからな。」
「稀なパターン。引いたね。」
「そう…だな。」
俺は何人の運命を変えられただろうか。俺が居なかったら、社会はまた別の方向に向かっていたのだろうか。
命という平等に与えられた時間の中で、俺はどれだけ他人に影響を与えられただろうか。
どちらにせよ、俺の長いようで短い記憶は、代えの利かない物だった。何かが違えば全て変わる。そんな自分だけのストーリーだ。
Enterが事実上の完成を迎えてから数日後の夜、俺は葵と屋上に居た。
「今日は風が気持ちいいね。」
「これから冷え込む時期だ。一時の入れ替わりの期間だろう。」
それからしばらく沈黙が続いた。夜風に靡かれる。静かな日だった。
すると、彼女は口を開いた。
「確か新しいEnterの仲間は元一般人なんだよね?」
「ああ。」
「聞いたよ。君に憧れて暗殺者の道に進んだんだって。」
「そうなのか。まぁ、火災の中飛び込む覚悟のある奴だ。ここまで来られてもおかしくないか……。」
要。彼はポテンシャルは十分にあった。不屈の精神が彼の武器であり、見事その予想は的中した。
初回の任務から、敵を一人で片付けた姿には流石の俺でも驚いた。
そこから、また沈黙が続いた。しばらくすると、また彼女が口を開いた。
「……ありがとね。私に寄り添ってくれて。」
「……なんだ、急に改まって。」
「家族と離れ離れになって、拠り所のない私と一緒に居てくれたから。……あの日、もしも薔羨に拾われてなかったら、きっと私は今生きていない。」
「………。」
ビルを遠目に見る風景から目を離し彼女の方を見ると、彼女は頬を赤らめていた。
「無理して言ってないか?」
「え、え?…そ、そんな事……!」
彼女は、目を回して滅茶滅茶噛みながらそう言った。
「あはは。」
「何笑ってるの!」
「いや?反応が可愛くてつい!」
「………意地悪。でも、ありがと。」
そうそっぽを向きながら感謝する葵。絶対照れている。…その姿がまた愛おしい。
雰囲気的にはとても良かった。だからこそ、俺は覚悟を決めて言った。
「好きだよ。葵。」
「もぉ~そんな冗談は……」
「本気だ。」
「ッ!」
すると、彼女はパッとこちらに振り返り目を合わせた。頬はまだ赤い。
「そっか……。」
彼女は下を向いてそう口に零し、ゆっくりとこちらに前進してきた。
そして、耳元でこう言った。
「私も……だよ?」
「……知ってる。」
「やっぱり?……愛情って隠せないんだね。」
相思相愛。あれだけの時間を共有していたらそりゃ気づく。むしろ、時間がそうさせたとも言えるのではないか。
でも、俺は彼女と付き合う気はまだ無かった。いつ、何があるか分からない社会で生きているからこそ、学生時代にそんな苦痛を味わいたくなかったんだ。
そして、それは彼女もきっと分かっていたはずだ。
「あの……もし、大犯罪横行の時代が終わったら、私を迎えにきてくれるって約束してくれませんか…。」
考えるまでもない。答えは……
「ああ。約束する。だから、頑張ろう。混沌とした社会が終わるように……。」
とは言え、その日は一緒に寝た。本当にいつ何が起こるか分からないのが俺達の人生だ。後悔しないためにも、その日だけは……。
俺は暗殺者になる以外の道はなかった。聖薇という暗殺者の一族。それも、名門の家系だ。
従うだけの人生に嫌気が差して、俺は家出した。それなのに、今俺は暗殺者になっている。ただ、今はあの時とは違う。“自分の意思”で暗殺者になったのだ。
慈穏とサイレンスで出会ってしばらくした時、こんな会話をしたっけな。
「なぁ聖薇薔羨。」
「フルネームで呼ぶな。……今の俺は聖薇とは無関係だ。」
「……俺聞いたんだよね。家出した後も弟に顔見せてるんだって?」
「……お前は俺をからかって楽しいか?線引だけはしっかりしろよ。」
「あまり話さない方がよかった?……不快にさせたのならごめん。ただ、これだけは聞きたくてさ……。」
「……なんだ。」
「一族という重圧から開放されたのに、どうしてまだ暗殺者を続けてるのかなって。」
「悪いか?」
「そういう訳ではないけど、気になった。」
俺はしばらく間を置き、答えた。
「どこかで聞いたんだ。暗殺者は、犯罪者としての暗殺者以外にも、制裁の暗殺者が居ると。……ただ、残念ながらそのほとんどは悪となる。幼少期から叩き込まれた選ばし者にしか出来ない事がある。それで誰かを幸せに出来るなら……って思ってる。」
暗殺するという事は誰かが死ぬ。そして誰かが悲しむ。だけど、誰かは重圧から開放されたり、喜ぶ。何事においても、幸福の裏では絶望が必ず生まれる。その逆も然り。
力を持ち生まれたのなら、よりよい結果になるように尽力したい。力が無くて変えられない人の助けになりたい。
「いい考えだと思う。……俺も考えが改まったよ。」
慈穏はそう反応した。
「本当にそう思ってるならいいが、無理には合わせるなよ?人間思考が完璧に一致する事なんて稀だからな。」
「稀なパターン。引いたね。」
「そう…だな。」
俺は何人の運命を変えられただろうか。俺が居なかったら、社会はまた別の方向に向かっていたのだろうか。
命という平等に与えられた時間の中で、俺はどれだけ他人に影響を与えられただろうか。
どちらにせよ、俺の長いようで短い記憶は、代えの利かない物だった。何かが違えば全て変わる。そんな自分だけのストーリーだ。
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