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ChapterⅧ:FinalZone

No141.Run

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 送られてきた写真には、清心が装置以外の何かを持っている様子はなかった。
護衛が全員持っていかれたのだろう。
 とはいえ、現地にいる Silverと愛沙だけでどれだけ抗えるかは分からない。現役暗殺者三人の力があったとしても、奴のそこまで自信のある隠し玉に対抗できるかは未知数。
 先程得た情報と照らし合わせてみても、ロクな事にはならなそうだ。

 「……数分……数分でいいから時間を稼いでくれよ………!」

 全力疾走。今出来る事はそれだけだ。







 通知を確認すると、管理ページにアクセスされた痕跡が見つかった。それも、誰に掛けても音信不通だ。
 
 「HadesもZeusも終わりか!……まだ焦る時間ではない。今、気付かれたとしても既に二時間は走っている。途中までは電車も利用した。仙台のシステムが止められていようが、もう直繋ぎで構わない。」

 奴は二十三歳。だが、まだ心は過去に囚われっぱなしのはず。一番いい素体が、まだあの研究所に残っている。
 
 「許せ。これも未来の為なのだ!」

 ……午前五時。







 道中、俺の横スレスレで自動車が止まった。そして、その自動車の窓が開閉され、久しい顔が姿を現した。

 「薔羨。」

 「お前は……優翔?」

 彼の名は八城優翔。Silverと同じで慈穏の弟子だ。まぁ、今彼は暗殺者ではないらしいのだが。

 「何故……骨折して暗殺者を辞めたはずじゃ……。」

 「全部愛沙さんから聞きましたよ。今は亡き師匠の友人が必死に戦っているのに、何のサポートも出来ないのは嫌ですから!……ドライバーの本気、見せてあげましょう。」

 俺は彼の車に乗り、シートベルトをした。

 「仙台に入ったら降ろせ。そこからは自分の足で行く。」

 「承知しました!……酔わないで下さいね!」

 刹那、アクセルが踏み込まれ、不安定なハイスピードなのにも関わらず、全く衝突の素振りを見せない走行が開始された。

 「運転荒っ。」

 「普段はもっと安全運転ですよ~。…一度愛沙さんと連絡を取ってみては?」

 「それもそうだな。」

 彼にそう促され、俺は本部と繋げた。

 

 「聞こえるか?愛沙。」

 『はい。……情報屋によると、清心が仙台に入ったようです。』

 「囲め。中枢室だけは絶対死守だ。」

 『はい。』

 奴の計画なんて既に見透かしている。俺が彼女の記憶を望んだだけであって、奴らにとっては身体さえあれば利用できる。
 あの実験で人が死ぬとは限らない。だが、俺はあいつのやり方には全身全霊を持って反対する。
 ゴミだ。あんなのは。

 ……午前5時半。







 プレデスタンス本部。そこでは Silverを先頭に、プレデスタンス加入者の三割の人間が、列を成していた。
 スピーカーから、愛沙の声が鳴り響いた。

 『緊急任務。南部から生命再起会清心と思わしき人物が侵入しました。拘束及び防衛を!』

 正面玄関から堂々と清心は姿を現し、総勢三百人ほどの団員が、一斉に射撃した。
 しかし、清心は背負っている装置を起動して、バリアを展開した。そのバリアは大量の弾を全て受けても、割れる気配がしなかった。

 「「「え……」」」

 そして、清心は謎の球体を上空に投げた。その球体は上空で破裂し、物凄い風圧を地上に与えた。







 風が鳴り止むと、約十名を除くほぼ全ての団員が、血を流して倒れていた。
 まるで、漂流でもしたかのように。

 「生命再起会の技術力があれば、こんなそよ風を人為的に起こす事も可能なのだ!……困るなぁ、それでも生き残る連中が居て!」

 すると、清心はロケットランチャーを背負っている装置から取り出し、Silverを含む生き残りに向けて放った。
 そのあまりの着弾の速さに避けきれず、一般団員は全滅した。
 
 だが、回避してそのまま雨雲は清心のふところに入り込み、発砲した。しかし……。

 「嘘……効いて…いない…?……うっ!」

 「雨雲!」

 清心は雨雲を片腕で振り払い、壁に殴打された。大蛇はすぐに駆け寄って心拍数を確認した。

 「死ん……でる…?」

 彼女は、恐怖と困惑を覚えた。雨雲は確かに至近距離で発砲したはず。それなのに、清心には全く通用しなかった。
 それに加え、いくら成人男性といえともレスラー顔負けの力で振り払った。その形相はまさに……“人間を逸脱”していた。

 「スパイだった少女達。その程度か?」

 そう言って、拳を固めて大蛇に接近する清心。

 「嫌だ!来ないで!来ない……ッ!」

 そんな叫びも一切届かず、清心は何の迷いもなく、暗殺者という事以外は普通の女子中学生を殴り殺した。

 「これで全部か。…チョロいなプレデスタンス!それとも私が強くなったからか!」

 血を拭き取り、清心は研究所内へ入って行った。







 中枢室。彼は真っ先にその場に辿り着き、辺りを見渡した。

 「元々こんなにモニターの枚数は多く無かった。……どんな趣味しているんだ。」 

 そう感想を口に零すが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに、カプセルの中を覗いた。
 そして、彼は目を輝かせた。

 「美しい……。新人類の始祖。恵密!…その血統の強さを、今すぐにでも見せびらかしてやりたいところだ。」

 彼が目を奪われている最中、愛沙はこっそり連絡室から中枢室に移動し、ライフルで奇襲する。だが、彼は全く見向きもしていなければ、効いてもいなかった。

 「何で……。」

 「邪魔者は不要だ。失せろ。」

 刹那、清心は潜伏していた愛沙の背後を一瞬で取り、拳を迫らせた。



 「……テメェがな。」

 「ッ!」

 しかし、清心の拳が撃ち落とされた。断面からは、金属とケーブルが露呈していた。
 寸前で拳が落ちて生き残った愛沙は、発砲音のした方に目を向けた。すると、無意識に言葉が出た。

 「薔羨…!」







 道中で無数の死体は確認済み。装置一つ以外何も持っていない事に違和感を抱いていたが、案の定だった。
 転がる拳を手に取り見回してから、清心の方を見て言った。

 「お前、身体を改造したんだな。」

 「だいぶ前からだ。……最強とはいえ、ただの人間に太刀打ちできるとで……」 

 「そっちこそ舐めるなよ。……伝説の片割れを!」

 俺達は顔を見合わせた。緊張感のある沈黙が流れる。
 この戦いで、負けは認められない。負ければ、大切なものも、俺自身も、未来ある若者の命さえも……きっと失われてしまうだろうから。
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