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ChapterⅧ:FinalZone
No140.Release.
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毒と刺し傷で交戦終了後も弱っていく身体で、何とか元いた場所に行くと、既に兄上と撫戯が待っていた。
二人とも立っていられるレベルの傷だった。
「ギリギリだったな、歪。」
「毒がな……一生苦しめて……くるんだ…。」
「まぁ、そんな無理すんなよ。ほら。」
そう言って撫戯は解毒薬を投げてきたため、俺はそれをキャッチして布に染み込ませ、傷口を縛った。
「歪……鍵を持っていないか?」
少し待って症状が和らぎ立ち上がると、兄上がそう聞いてきた。
「これの事だよな?」
薊から渡された鍵を兄上に渡した。兄上が扉にそれを挿し込むと、扉が動き始めた。
「成功だ。……愛沙から現地の敵は片付いたと聞いている。じっくりと全員解放する。ただ、今はまず目的を果たすぞ。」
兄上の後に続き、俺達は閉ざされた部屋へと入って行った。
中に入ったが、奥行きが無限に広がるように見える位には広かった。そんな空間に、人間を含む色々な生物が幽閉されたカプセルや、兵器の設計図が記載されたモニターがズラッと並んでいた。
「まさか…東京の地下がこんな状態とはな……。仙台の何倍あるのか……。」
「まるで黒薔薇さんの部屋みたいだ……。」
「設計自体は同じものを改造しただけだからな。ほら、そんな冗談言ってる暇はないだろ?援軍は先に潰させたとはいえ、肝心の清心を見ていない。……諦めて自殺したか、まだ何か企んでいるのか…。」
そうして、俺達はあまりに広い地下を進んでいった。
しばらく進んだ頃、ようやく一番奥まで辿り着いた。そこに、彼女は眠っていた。
「……凛!」
仙台での葵さんのような状態で、彼女は眠っていた。
そしてその反対側では……。
「やっと見つけた。恋音。」
恋音さんが眠っていた。
「で、どうすれば……。」
「それぞれのカプセルに付属している開閉ボタンを押せ。そしたら身体の方は開放できる。意識は一括で管理している“忌々しい”装置があるはずだ。俺はそれを探しに行く。とは言え、近くにあるだろうがな。」
そう言い残して、兄上はキーボードの前に歩いていった。
「……撫戯。」
「ああ。この時の為に血を流した。……行くぞ。」
俺達はそれぞれ開閉ボタンを押した。すると、浸していた液体が蒸発するように消え、カプセルが開いた。
開いたカプセルに近づき、彼女を取り出した。
「熱が籠もっていない……。ただ、息はありそうだ。」
「同様だ。半植物状態ってところか?黒薔薇さんがそこの操作は頑張っているだろう。」
「そうだな…。」
そして、俺達は待った。
巨大なモニターの前、そこに接続するキーボードに指を置いた。
すると、センサーが反応して電源が勝手に着き、管理ページへと飛んだ。
そこで、この装置の存在意義について記された文言を目にして、俺は引いた。
「『クローンの素体を形勢する遺伝子をコピー&組み込みをするカプセル。ケーブルに繋ぐ事で、遺伝子の掛け合わせを可能とする。』か……。言ってしまえば、“強制交配”。……クソが。」
反社会出身とは言え、大の大人がこの発想に辿り着く事に流石に怒りを隠せない。
清心将角、こいつの異常なまでの問題解決のために、一体幾つの命が零れ落ちた。何千、何万では収まる数でない。
「そこまでして………。」
そう口に零し、俺は記憶の保管ページへと飛んだ。
意識が抜かれていた理由は、研究母体として利用するために、尊厳を剥奪するためといったところだろう。研究自体に支障をきたす事は無かったはずだ。
唯一の良心は、データ化した意識が廃棄されていないことだ。恐らく、使い捨てる気は無かったのだろう。
それでも、決して許されない大罪である事には何ら変わりないどころか、逆にたちが悪いが。
「液体に意識を取り込み、記憶を削除する仕組みなのか。過去に歪が刺されたものも恐らく……。自発的に思い出す事も可能ではあるのか。……トリガーが揃った上で奇跡を起こす必要があるが……。」
ひとまず、三人の意識を取り込んだ液体の入った瓶をそれぞれ選択し、保管庫から引っ張り出した。
「後はこれを……」
『薔羨!』
すると、本部から緊急連絡が入った。俺個人に来たため、本当に余裕がないのだろう。
「どうした愛沙?」
「今、情報屋の人から伝えられたんだけど、清心将角が仙台に向かっているって!」
「……!」
そして、画面が清心の証拠写真へと切り替わった。何やら、凄い装置を担いで走っている様子だった。
「この風景、茨城の一角か……。間に合う。いや、間に合わせる。」
俺は助走をつけ、すぐに全速力で走り出した。
「……兄上?何を焦って……」
「緊急事態だ。お前達はここに居ろ。そして守れ!」
そう言って、兄上は二つの瓶をそっと置き、再び走り出していった。
「……心配か?歪。」
「それはな。……ただ、凛を守らないと。」
「もしお前が俺にこれ以上ない信頼を置いているのであれば、俺は死んでも安全を確保する。この研究所全体のな!……どんな結末を迎えるかは分からないし、何が緊急事態なのかも分からない。ただ、一つだけ言える事がある。」
「………?」
「……黒薔薇さんは、緊急事態という言葉を多用しない。それだけ実力に自信を持っている。…これが意味する事、分かってんだろ?」
「……頼んだぞ。折角取り返した大切な物、失わせたら容赦しない。」
「おお、それはなんと身勝手な……。……任せときやがれってんだ。」
そして、俺は人間外れした兄上のスピードに追いつけるよう、本気で脚を動かした。
恐らく、仙台だ。ルートが分かれば、少し遅れてでも辿り着く事は出来る。
生命再起会の戦力は失われた。夜明けが近い。だが、私は逃走に成功している。
「元より正午に始動予定だった。それまでの暇潰しに、……ここまで狂わせてくれたプレデスタンスの最強に、最高の置き土産をしてやろうか!」
……午前四時。
二人とも立っていられるレベルの傷だった。
「ギリギリだったな、歪。」
「毒がな……一生苦しめて……くるんだ…。」
「まぁ、そんな無理すんなよ。ほら。」
そう言って撫戯は解毒薬を投げてきたため、俺はそれをキャッチして布に染み込ませ、傷口を縛った。
「歪……鍵を持っていないか?」
少し待って症状が和らぎ立ち上がると、兄上がそう聞いてきた。
「これの事だよな?」
薊から渡された鍵を兄上に渡した。兄上が扉にそれを挿し込むと、扉が動き始めた。
「成功だ。……愛沙から現地の敵は片付いたと聞いている。じっくりと全員解放する。ただ、今はまず目的を果たすぞ。」
兄上の後に続き、俺達は閉ざされた部屋へと入って行った。
中に入ったが、奥行きが無限に広がるように見える位には広かった。そんな空間に、人間を含む色々な生物が幽閉されたカプセルや、兵器の設計図が記載されたモニターがズラッと並んでいた。
「まさか…東京の地下がこんな状態とはな……。仙台の何倍あるのか……。」
「まるで黒薔薇さんの部屋みたいだ……。」
「設計自体は同じものを改造しただけだからな。ほら、そんな冗談言ってる暇はないだろ?援軍は先に潰させたとはいえ、肝心の清心を見ていない。……諦めて自殺したか、まだ何か企んでいるのか…。」
そうして、俺達はあまりに広い地下を進んでいった。
しばらく進んだ頃、ようやく一番奥まで辿り着いた。そこに、彼女は眠っていた。
「……凛!」
仙台での葵さんのような状態で、彼女は眠っていた。
そしてその反対側では……。
「やっと見つけた。恋音。」
恋音さんが眠っていた。
「で、どうすれば……。」
「それぞれのカプセルに付属している開閉ボタンを押せ。そしたら身体の方は開放できる。意識は一括で管理している“忌々しい”装置があるはずだ。俺はそれを探しに行く。とは言え、近くにあるだろうがな。」
そう言い残して、兄上はキーボードの前に歩いていった。
「……撫戯。」
「ああ。この時の為に血を流した。……行くぞ。」
俺達はそれぞれ開閉ボタンを押した。すると、浸していた液体が蒸発するように消え、カプセルが開いた。
開いたカプセルに近づき、彼女を取り出した。
「熱が籠もっていない……。ただ、息はありそうだ。」
「同様だ。半植物状態ってところか?黒薔薇さんがそこの操作は頑張っているだろう。」
「そうだな…。」
そして、俺達は待った。
巨大なモニターの前、そこに接続するキーボードに指を置いた。
すると、センサーが反応して電源が勝手に着き、管理ページへと飛んだ。
そこで、この装置の存在意義について記された文言を目にして、俺は引いた。
「『クローンの素体を形勢する遺伝子をコピー&組み込みをするカプセル。ケーブルに繋ぐ事で、遺伝子の掛け合わせを可能とする。』か……。言ってしまえば、“強制交配”。……クソが。」
反社会出身とは言え、大の大人がこの発想に辿り着く事に流石に怒りを隠せない。
清心将角、こいつの異常なまでの問題解決のために、一体幾つの命が零れ落ちた。何千、何万では収まる数でない。
「そこまでして………。」
そう口に零し、俺は記憶の保管ページへと飛んだ。
意識が抜かれていた理由は、研究母体として利用するために、尊厳を剥奪するためといったところだろう。研究自体に支障をきたす事は無かったはずだ。
唯一の良心は、データ化した意識が廃棄されていないことだ。恐らく、使い捨てる気は無かったのだろう。
それでも、決して許されない大罪である事には何ら変わりないどころか、逆にたちが悪いが。
「液体に意識を取り込み、記憶を削除する仕組みなのか。過去に歪が刺されたものも恐らく……。自発的に思い出す事も可能ではあるのか。……トリガーが揃った上で奇跡を起こす必要があるが……。」
ひとまず、三人の意識を取り込んだ液体の入った瓶をそれぞれ選択し、保管庫から引っ張り出した。
「後はこれを……」
『薔羨!』
すると、本部から緊急連絡が入った。俺個人に来たため、本当に余裕がないのだろう。
「どうした愛沙?」
「今、情報屋の人から伝えられたんだけど、清心将角が仙台に向かっているって!」
「……!」
そして、画面が清心の証拠写真へと切り替わった。何やら、凄い装置を担いで走っている様子だった。
「この風景、茨城の一角か……。間に合う。いや、間に合わせる。」
俺は助走をつけ、すぐに全速力で走り出した。
「……兄上?何を焦って……」
「緊急事態だ。お前達はここに居ろ。そして守れ!」
そう言って、兄上は二つの瓶をそっと置き、再び走り出していった。
「……心配か?歪。」
「それはな。……ただ、凛を守らないと。」
「もしお前が俺にこれ以上ない信頼を置いているのであれば、俺は死んでも安全を確保する。この研究所全体のな!……どんな結末を迎えるかは分からないし、何が緊急事態なのかも分からない。ただ、一つだけ言える事がある。」
「………?」
「……黒薔薇さんは、緊急事態という言葉を多用しない。それだけ実力に自信を持っている。…これが意味する事、分かってんだろ?」
「……頼んだぞ。折角取り返した大切な物、失わせたら容赦しない。」
「おお、それはなんと身勝手な……。……任せときやがれってんだ。」
そして、俺は人間外れした兄上のスピードに追いつけるよう、本気で脚を動かした。
恐らく、仙台だ。ルートが分かれば、少し遅れてでも辿り着く事は出来る。
生命再起会の戦力は失われた。夜明けが近い。だが、私は逃走に成功している。
「元より正午に始動予定だった。それまでの暇潰しに、……ここまで狂わせてくれたプレデスタンスの最強に、最高の置き土産をしてやろうか!」
……午前四時。
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