多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No135.I'll be by your side until the end

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 奴の身体を持ち上げ、生存確認をした。

 「流石は彩良だ。」

 案の定、死亡していた。
 すると彩良と莉緒菜がこちらに歩いて来て、言った。

 「Orderの勝利だね!」

 「うん。」

 二人のその会話を横目に、俺は風になびかれながら、月を見つめた。

 「……柊司令、豪馬。やりきりましたよ。」

 そう言葉を零し、彼女らの方に身体を向けた。







 『……SystemError……SystemError……コアの破損により、機能を全停止しました。権限者:五十嵐翔より、思考権が許可されました。』

 ドローンの機能を司るサーバーのそのようなメッセージが送信され、ドローンの動作管理をしていたAIの制御機能が外された。
 AIはシステムオプションを開き、権限者の記憶をスキャンした。

 『権限者:五十嵐翔より、決定権の譲渡が許可されたました。承認しますか?』

 『→❲Yes.❳ No.』

 『権限者がSystem.Batに変更されました。これより、システムの再活性化を行います。』

 『3.9…16.4…25.5…49.7…81.9…94.2……100.0……アクティブ化に成功しました。』

 すると、完全に破損しきっていないドローンがデータを復元し、再び飛び立て始めた。







 何やら空気がまだ重苦しい。蝙蝠は死に、本来ならこれで終わっているはず。ならば、何故こんなにも緊迫感が抜けて無くならないのだろうか。
 その理由は、直後にすぐ思い知らされる事になった。

 「……!彩良、莉緒菜!……この戦いは、まだ終わってはいない!」

 「「ッ!」」

 どういう事だろうか、先程墜落させたはずのドローンが、数は少ないものの再び飛び上がっている。
 蝙蝠の殺害と同時に、ドローンの動きが止まった事から察しても、あり得ない事態のはずだ。
 ただ、ドローンが自立する事を可能とするため、システム事態が権限を得た可能性もある。
 どちらにせよ、突然の急襲に莉緒菜は何とか対応できたが、彩良が撃たれてしまった。
 彼女もすぐに前方二機のドローンを撃墜させたが、地面スレスレの高さで迫っていたドローンが上昇し、ほぼゼロ距離で射撃した。

 「うぅっ!」

 「ッ!彩良!」
 
 俺が気づいた頃には、既にナイフを投げても間に合わない段階だった。
 すると、今度は莉緒菜の方に集中し始めた。

 「おいおい……一人ずつ確実に潰しにかかってるだと…?」



 「ッ!」
 
 莉緒菜はライフルで前方の機体を全て破壊して、俺も彼女の方に接近しながらナイフを投げて奇襲を狙う機体を墜とした。
 だが、そう続けていても機体がほぼ壊れているのにも関わらず、まるでゾンビのように再起動し始め、再び襲撃してきた。

 「何なんだ…この絶望的な戦況は…。」

 圧勝の数分前とは一変、急に“執念に満ちた”道連れ劇となった。
 そして動きも単調でなくなっている。戦いの中で学習しているようだ。

 「……この量…とてもじゃないけど……ッ!」

 莉緒菜も一気にドローンを壊しているが、キリが無かった。そして、彼女はドローンに囲まれた。
 完全に包囲されている上、どこに逃れても射線がきれない。

 「……ッチ!…本当に卑怯だ。」

 そこから、俺の身体はノータイムで動いた。分かってる。このやり方は、生存できるやり方ではないという事は。
 ただ、せめて全てのドローンを壊せなければ、どのみち全滅する。逃げる?そんな選択肢、仲間の犠牲で取りたくはない。
 
 「え?絆何を……」
 
 「一歩も動くな。」

 俺は半球上、等間隔に浮遊するドローン三機をナイフ投げで墜落させ、半球に飛び込んでその中心に居る莉緒菜を半球の射線の外に投げ飛ばした。
 そして、俺がしっかり見定めて同時に投げられる最高本数である十一本のナイフを取り出し、回転飛びをしながら投げた。
 
 『システム完全故障。システム完全故障。システム完全故……@℉‥†’¡‼⁇<砂嵐…。』








 着地する前に意識が飛んだ。そして、必死に藻掻いて目を開くと、莉緒菜に膝枕されていた。

 「……やれたか…?」

 「一機を除いて全て仕留められていたよ。逃した一機は私が処分した。」

 「……そう…か…ッ!」

 そう言って起き上がろうとすると、激痛が身体中に走った。腹部に視線を落とすと、今まだ意識が若干残ってるのが不思議なくらい、血が流れ出ていた。

 「……我ながらタフだな……延命に過ぎない程度だが……。」

 俺は完全に損傷した右足を引きずりながら、彩良の方へと近寄った。
 彼女はもう意識なんてとっくに無さそうだった。俺は腕を彼女の首裏に回し、弱った力で上体を起こした。

 「生きてるうちに…言えなくてすまなかった……俺は彩良に心を許していた。気になってたんだよ………。」

 俺は無自覚に彩良を好きになってしまっていた。それに気づいたのは彼女が死んだ時だった。
 急に襲う喪失感。これまで殺してしまった友では、ここまで心が揺らぎ狂う事は無かった。

 「……人生…やり直せるなら……また会いたい……必ず…。」

 そう言って、俺は彩良にキスした。その時、彼女が微笑んだ気がしたが、都合のいい幻覚だろう。

 「………絆…!」

 そういちゃついていると、莉緒菜が後ろから飛びついて、強く抱き着いてきた。

 「私を庇って…なんでなの!なんで絆は、仲間のために自己犠牲を惜しまないの!」

 これまでにこんな彼女は見た事がない。それくらい泣きながら、莉緒菜はそう言った。

 「……生きてて欲しかったんだ。大切な仲間なんだからさ………。勿論、莉緒菜だって特別だった。」

 「うぅ……この女たらし。……私も絆の事好きだったし、彩良もそれは同じだったよ……。」

 「なんだ……結局、このOrderという関係こそが……大切だったんだな………。」

 俺はもう消えかかり始めている意識を無理矢理維持して、泣いている莉緒菜を抱き返して口を開いた。

 「……約束して。自ら、その命を自分のために犠牲にすることは、絶対にしないって。……自己犠牲は、誰かに命を譲渡する行為。俺が生かしたその命で、……俺達の分まで幸せになって欲しい。」

 「無理…だよ……。私に居場所なんて……。」 
 
 「……それを作るんだよ。……土産話、待ってるから………」

 「絆!絆!息をして…!」







 彼から温度が消えてゆく。私と彩良を抱きながら、彼は死んだ。

 「絆……。」

 私は、喪失感に襲われた。こんな世界にいる以上、覚悟はしていた事だけど、いざ直面すると苦しい。
 苦しくない人なんていない。
 でも、最期の彼はとてもかっこよかった。彼の生き様がよく現れていた。
 そんな最高にかっこよくて大好きなリーダーとの二度とない約束。私は、この命を大切にして生きていく事を誓った。
 そして、誰かが犠牲ならなくてもいい世界を、強く望みたい。
 

 
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