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ChapterⅧ:FinalZone

No129.Advent

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 奴らが視界に飛び移ると同時に、俺は前方に片足を踏み出し、身体を傾けながら奴らの背後を捉えて射撃した。
 しかし、蝋燭には躱され、薊には当たったが掠り傷程度だった。
 俺は足を支柱に身体を起こし、臨戦体勢に戻った。

 「薊の言った通り、身体能力が異次元のようだ。」

 「気にする事ない。蝋燭ならすぐに適応できるはずだ。」

 「当然。」

 向こうが話し終わると、次は蝋燭が一人で仕掛けてきた。
 奴はグレネードを三発前方に投擲し、即座に俺の後ろに回り込んで来た。

 「クッ!」

 確実にどれかには被弾する。なら、被弾するなりダメージを抑える必要がある。
 この至近距離から散弾を喰らえば確実に死ぬ。俺は背後に対して回し蹴りを行いながら、二発のグレネードを撃ち落とした。
 爆発の威力がそこまでだったため、空中でこちらに届かず爆ぜた。だが、撃ち落とせなかったグレネードも巻き込んでくれたため、結果的にノーダメージで済んだ。
 
 「忘れてもらっては困るよ。俺の事も。」

 「ッチ!これは…!」

 しかし、死角から薊が距離を一気に詰め、恐らく毒を塗ったナイフを刺してきた。
 すぐに気付いて回避行動を取ったが、回し蹴りの直後で即座に動かなかった足に掠った。
 
 「はぁ……はぁ……これは…当たる位置によっては死んでたな……。」

 全身に一瞬で広がると同時に、視界がぼやける。掠っただけでこれなら、まともに喰らっていれば即死だっただろう。
 一対二はあまりにも分が悪過ぎる。それに、こちらは毒を盛られ身体がいつまで保つか怪しい状況なのに対し、奴らの実力はかなりのものだ。
 特に蝋燭がどんな奴か分かっていないため、まだ隠し持っている特技や技術があるかもしれない。
 ただ、それを考察する余裕すらなければ、こちらから攻めにいける戦況でもなくなった。

 「かはっ…!……おいおい、呆気なすぎるだろ……俺……!」

 回し蹴りで蝋燭を振り飛ばす際、奴は靴裏に入れていた刃物で俺の脇腹辺りを裂いていた。
 そこに薊はナイフで追撃したようだ。
 あまり深くダメージを負っていないし火器の対処を優先してスルーしたが、まさかこれが狙いだったのか。
 
 「白薔薇。君は俺が消した記憶を取り戻した。……それで何か変わったか?死んだ奴が生き返る事はない。復讐に刈られようが、別に直接的に関与する訳ではない。むしろ、綺麗さっぱり洗浄されて、二度と死地に出向かない方がある意味幸せだったはずだ。……そうすれば、こうやって殺される事もなく、君の望む“何気ない日常”を掴み取る事が出来たのに。」

 「………。」

 正直、返す言葉も出なかった。悔しいが、こいつの言っている事は正論だ。
 そして、あの頃は全く気付かなかったが、こいつ意外と歳が変わらないように見える。
 暗殺者としても若い芽の部類だろう。

 「はぁ………お前に正論言われると、説得力が増し過ぎる。……ただ、一つだけ否定させてもらう。」

 全身に痛みが走る中、俺は立ち上がり、二丁拳銃を薊に向けた。

 「こんな環境で育ったからこそ、当たり前のような日常に重みを感じられたんだ。……俺は、これまで培ってきた記憶ものがたりを捨ててまで、平和を望むことはないんだよ!」

 刹那、俺は痛みを堪えて地を蹴り、薊の方に接近するように見せかけてスライディングをしながら片方の拳銃で蝋燭を撃った。
 
 「警戒を怠る事はない。どんな時でもな。」

 「はは……ミスリードだ。」

 「ッ!」

 スライディングの勢いが切れ始めるタイミングを狙ってバク転し、おおよそ真上に位置していた薊の体勢を崩した。
 そして片方の拳銃で奴の尾骨辺りを撃ち抜いた。

 「ふぁっ!………クッ……こんなはずでは……。」

 「お前お得意のシミュレーションも、前例がなければそりゃできないよな!……俺の身体能力をあまり舐めるなよ。」

 奴の事だからミスリードにミスリードを重ねてくる事は想像できていただろうが、まさかバランスを崩す事だけに集中してくるとは思っていなかっただろう。
 あんなシビアな一瞬で、あの動きをするとなれば尚更だ。

 「あんなので誘えると思うな。」

 ただ、油断の隙もなく、蝋燭がこちらに突っ込んで来た。ショットガンの銃口をこちらに構え、引き金に指を掛けてきた。
 俺はそれを惹き付けてギリギリで回避してカウンターをするために、腰だけ下げて備えた。
 リスクは伴うが、ただでさえ時間制限付きの俺が長期戦に持ち込ませずこいつらに勝つには、これしかなかった。

 「そう、それでいい。」

 「ッ!」

 そんな不敵な言葉に危機感を感じた俺は、すぐに後退しようとした。だが、手遅れだった。
 奴は銃口を天井に向け、引き金を引いた。そして、ずっと集中していたため気づかなかったが、天井に何やらシールドが貼られていた。
 
 「グッ…!……お前達の技術力は一体何年進んでいる……!」

 すると、上に放たれた散弾が、俺の左肩に直撃した。恐らく、あの謎のシールドが弾を反射させたのだろう。
 クローンといい雷といい、やはりこいつらは日本…いや、世界で一番技術が進んでいる。もしかしたら公にしてないだけであって、他の国もこのレベルなのかもしれないが。
 戦争をする訳でもないのに、どうしてこんなものばかりが発達しているのだろうか。そしてそれを秘密裏にこんな広々とした地下で研究しているのも、怪しすぎる。

 と、そんな事を考えている暇はない。突然の被弾で受け身になれておらず、身体に激痛が走る中、銃口を突き付けてくる蝋燭と、復帰した薊がこちらに歩み寄ってくる。

 「君はよくやったよ。ただ、Asmodeusは君一人に壊滅させられるほど、軟ではない。」

 「……!」

 そして、蝋燭は銃口を額に押し当てきた。

 「死ね、反逆者。」







 これで終わりだと思った。リボルバーとは思えないほどのけたたましい音と共に血の滴が床に落ち、思わず奴は硬直していた。

 「やっとか……兄上!」

 「……!」

 俺のその発言と同時に、いつ何時でも落ち着いて奴らは、震え上がった。
 そうだ、この人が真の怪物最強だという事は、何処に行っても変わらない事実だった。

 「流石は俺の弟だ。こいつら相手にここまでやるとはな。」
 
 
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