多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No128.Take all precautions

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 俺は咄嗟に下である程度構えていたワイヤーを引き上げ、自身の身体を捻って回避した。
 だが、その逃れた位置に刃物が飛ばされてきたため、受ける覚悟でワイヤーを引き、威力を相殺した。
 微力ながらもズキズキとくる右腕に刺さった刃物の抜き捨て、袖を縛った。
 ただ、悪い事ばかりでもなかったようだ。

 「鋭い。こんな糸一本に指を切られるとは。戦闘において影響は少ないといえ、驚いた。」

 どうやらワイヤーが偶然奴を切り裂いていたようだ。

 「狭い通路での戦闘。俺が明らかに有利だってきづけねぇのか?もう気付いているだろうが、ライブジャックで大虐殺を行った男だぞ。」

 「理解しかねるな。あの行為を犯すほど恨んでいる女が攫われたとて、貴様に害は無いどころか、嬉しい事ではないか。」

 「……分かっちゃいねぇな。まぁいい。気兼ねなくお前を殺せる理由が一つ増えただけだ!」

 こいつは俺の禁忌に触れた。恋音を恨んでる?知った口を聞くな。むしろ、彼女を傷つけないためにした行動を蔑ろにした奴らに対する報復。
 俺を狂わせたある意味の元凶であり、そこまでして、全てが敵になろうが大切にしたかったやつなんだ。

 「……蜥蜴。準備体操やめな?こっちもやめてやるからよぉ!」

 「互いに様子見で被弾している。これはどうなるか想像も着かないな。ただ、孤高。覚えておけ。貴様は勝負にも勝ち、戦いにも勝たなければならないという事を!」

 「重々承知だわ……まさか、警戒を怠っちゃいねぇよな?」

 そう言って奴の死角に絡ませたワイヤーと一筋の線になっているワイヤーを作り、弾いたと同時に俺はサブマシンガンを構えて距離を詰めた。







 蝙蝠に対して壁に遮られる前に一撃喰らわせてやろうとナイフを投げたが、ドローンにキャッチされたようだ。
 そのドローンは彩良の方に対して、投げ返してきた。

 だが、近くに居た莉緒菜が受け止めた。

 「ありがと莉緒菜。」

 「どういたしまして。」

 と、二人が臨戦態勢に戻ろうとした寸前、スタンガンを搭載した二機のドローンが彼女達の方に突っ込んでいくのを察し、俺はすぐにそちらへ移動した。
 二機のドローンの突撃を回避し、下からナイフを持ち上げて動力源を破壊した。
 そして少し離れたところから狙撃しようとしてくるドローンの姿が目に写ったため、的確にナイフを投げて墜落させた。

 「ひとまず平気か?」

 「ごめん、私迷惑だよね……」

 そう言って顔を下に向ける彩良。

 「何言ってんだ。彩良は絶対狙撃においてはこれ以上ない強さを発揮する。必ず、彩良にしか出来ない事が必要になる瞬間が訪れるはずだ。誰も迷惑だなんて思ってはいない。」

 「絆の言う通り。それぞれの短所を埋め合っていけるのが、Orderの強みだから。」

 「絆、莉緒菜……ありがとう!励ましてくれて。」

 「それでこそいつもの彩良だ。」

 そう一件落着するが、どこの空間に行っても誰かしらの戦術が噛み合わなくなるのは事実。
  護りながら戦うのは少々難しいため、俺の予備の拳銃を彩良に預けた。

 「自分の身はなるべく自分でな。」

 「分かってる。」

 『話は過ぎましたかぁ?』

 スピーカー越しのそう蝙蝠の声が聞こえ振り返ると、先程とは比にならない、ざっと約五十機ほどのドローンが飛んでいた。
 しかも面倒な事に、蝙蝠自身は建物の上から見下ろすように、ライフルを構えていた。

 「あぁ……怠。正々堂々殺るのが礼儀っていうのは、暗殺者相手だし当然無いか。俺も特殊な状況じゃなければ不意打ちだけどな?」

 『なんと全てのドローンを集結させましたぁ!……袋叩きにされて瞬殺されて下さい。Orderぁ!』

 すると、全機一斉に射撃なり突撃なりを開始してきた。
 奴に隠れられる前に彩良が狙撃したが、ドローンが受けきってきた。

 「このスナイパーでも貫通できない強度…。大破は可能のようだけどね!」

 「彩良のスナイパーで壊せなければ、俺のナイフ如きじゃ壊せなかっただろ……。」
 
 「あ、それもそっか!」

 こいつはこんな状況でも本当にぶれない奴だ。……それでいい。変に緊張感持って無茶するよりは、この方が平常心を保ちやすい。

 「前方三十機。迎撃!」







 撫戯と蜥蜴が交戦開始した地点から随分離れ、明らかに重要そうな部屋に辿り着いた。
 その部屋はどうやらクローン生産工場のようで、広い空間に張り巡らされたパイプの中では、説明も出来ないような高度な技術で何かがされていた。

 「不気味な場所だ……。」

 そしてしばらく歩いていくと、金属扉で厳重に閉ざされた部屋を発見した。透過素材となっている壁から中の様子を伺うと、兄上の居た部屋で見たようなカプセルが、ズラッと並んでいた。
 奥行きがあり過ぎるため目視はできなかったが、恐らくこの中に凛や恋音さんなど捕われた人が眠っている可能性が高い。
 
 「何発撃てば壊れるか。」

 流れ弾がカプセルに当たらないよう注意を払いながら、俺は金属扉に拳銃を突きつける。

 「ッ!」

 しかし、ほんの直前までしなかった殺意の籠もった気配が突如現れたため、俺はもう片方の拳銃をすぐに向け、撃った。
 足音が兄上でないのは確認済み。手練れた敵襲で確定だ。

 「私の記録に泥を塗るとはいい度胸だ。」

 追撃を加えるのが不可能だと判断したか、こちらの弾が当たる前に、そいつはバックステップで距離を取ってきた。
 そいつの手に握られていたのはショットガンだったため、あの距離の段階で渋るのも無理はないだろう。

 「そう言うという事は、暗殺を失敗したことがない奴か。割とエリートの俺でさえも、手練れた野郎には何度も顔を見られ、普通に銃撃戦になってるのにな。」

 そいつの姿は見た事がない。本当に毎度一発で、姿を目撃される前に殺せているのだろう。

 「出てこいよ…!気付いてるから。薊!」

 すると、天井の照明の上から、明らかに暗殺を試みようとしていた薊が飛び降りて来た。
 どのみちバレていたからか、奴は着地後すぐに仕掛けてはこなかった。

 「まず、確認だ。この厳重に閉ざされた部屋に凛が居るのは間違いないな?」

 そう語気を強めて尋ねると、薊は首を縦に振った。正直、俺の中でも確信付いていたからか、奴も素直だ。

 「薊と誰だ?そいつは。」

 「私は Asmodeus蝋燭。一度もバレた事のない暗殺者だった。……ほんの数秒前まではな……!」

 「エリート二人にどこまで粘れるか……試してみようか、白薔薇!」

 すると、薊と蝋燭が早速仕掛けてきたため、俺も二丁拳銃を上げ、備えた。
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