多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No121.Because it sucks, there's no going back

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 先日、兄上から連絡が入った。

 『近々、奴らと総力戦でぶつかる。いつでも動ける体勢だけ整えておけ。』との事だ。
 それと同時に、計画内容が送られてきている。こちらが先手を取り、一気に形勢を逆転させるように練られていた。

 「中々にハードルが高いな……。リスク無しでは終えられない任務になるだろう。」 
 
 「歪、忘れてはないだろうな?俺達がどのような人生を歩いてきたか。」

 「…!……そうだな。今こうして居られる事自体が凄いくらいには、窮地に陥った人生だったな!これはその先端に過ぎないと……。」

 そう言うと、撫戯は頷いた。
 まだ全くどうなるかは読めていない。敵う相手なのか、計画自体が見透かされているのかすら。
 ただ、俺達は誇りを持って暗黒政府の陰謀を破壊しなければならない。平和のためとか、人々のためとかそんな綺麗事を言うつもりは一切ない。
 自分自身が後悔しない選択をするため、報復のため、それぞれ想う事は違うが、その本質は同じなのだ。







 「即興にしては生活に困りそうにない設備が揃っているな。流石と言ったところだ。」

 プレデスタンス東京拠点への移動が終わった。最低限のモニターとサーバーがあり、倉庫としても非常に優秀。地下に射撃演習場も完備されている。
 正直、最低限寝泊まり出来ればそれで良かったのだが、設備がいいに越した事は無い。
 
 「それで、サイレンスとは連絡が着いているのか?」

 コンピュータの初期設定を行っていると、黄牙がそう尋ねてきた。

 「ああ。歪達精鋭部隊にはしばらく待機してもらう気だ。Orderも同様に。」

 「じゃあ誰が何をする気だ。お前が初手から動くとは思えないが……。」

 「月歌を精鋭部隊から外した。精鋭部隊は奴らと真っ向でやり合う事を想定した部隊に変更した。それに、この奇襲は月歌にしか出来ない事なんだ…。」

 「なるほどな…。薔羨のしたい事は良く分かった。」

 「時間が経つほど不利になるからな俺達。彼女がノルマを達成したらすぐ、総動員で便乗するぞ。」







 私は都内のマンションに居た。暗殺実行の際、共同拠点では出来ない事のため、わざわざ借りたんだ。







 この前の出来事。

 「月歌、お前に一つ任務を与えても良いか?これはお前にしか出来ない事だ。」

 「……何をして欲しいの?」

 「奴らとの決戦のスタートコールとなる暗殺だ。対象は要を殺したと推定される男、天災の嫁だ。」

 薔羨がそう言った時、私は驚いた。彼が直接の関係性が無い人を殺す事は、一度も無かったから。

 「その天災?を直接殺せば済む話じゃない?」

 「奴は遠距離から射抜くスタイルというのは知っているだろう。他に意識が向いている時じゃなければ、確実性が無い。奴にとっての大切が奪われれば、奴に邪念が生まれる。そこに誰かしらをぶつけて、隙だらけのところをお前が刺す。」

 「そんなに上手くいく?」

 「やる価値は十分だろ。」

 「へぇーなんか意外!薔羨が自ら奴らのしていた悪行を私にさせようとする事が!」

 「……俺は大罪を既に幾度となく犯している。今更手段を選ばない事に、抵抗は無い。それに、………お前の大切な人を殺されたんだ。お前がその元凶の大切な人を殺しても、釣り合ってしまうんだよ……。」

 「そうかも!……要の望む事では無いかもしれないけど、もう我慢できないや!」 







 吹き込まれた事でそう考えた訳ではなかった。最初から復讐に飢えてはいたけど、薔羨が最高の機会を与えてくれた。
 彼から受けた情報を元に、私は暗殺対象へ接触する方法は絞り出した。
 そして遂に、彼女との接触に成功。共通の趣味を持つ人を演じて、近づけた。

 明日、丁度会う約束が取り付けてある。楽しみで仕方が無い。







 そして、約束の日がやってきた。
 彼女を玄関に入れるや否や、隠し持っていたナイフで腹部を刺し、殺した。

 「月歌……ちゃん?どう……して……。」

 大量の血を流して、彼女は倒れた。

 「ごめんね、君は悪くないからね。悪いのは君が愛し愛された人だから。」

 そう呟きながら証拠写真を撮って、薔羨に送った。

 「簡単な任務だったよ!一般人刺すくらいはね!」

 歪んでいるなんて分かっている。要はこんな事しても嬉しいとは思ってくれるはずがない。
 だけど、今私の中にあるのは偶像としての要だけ。本物の温かさには勝らない、概念としてのものだけなんだ。
 私が行いを正当化するためにある、都合のいい偶像。

 「ごめんね……こんな私を愛してくれたのに……君ばかりだったよね………約束を守ってくれたのは。笑って許してくれたのは……。」

 私は愛をある意味知らなかった。私は彼にとっての何かになれたのか自信が無い。
 むしろ、私が負担ばかり掛けてしまっていたかもしれない。それでも冷めなかった彼に依存していたかもしれない。
 そう思うと、涙が零れてきた。

 「……私、最低だよ…。だから最低らしく、……目的を果たすんだ……!」

 決意を固めて、私は薔羨と黄牙が常駐している倉庫へと歩み始めた。







 この時はまだ、確かに先手を取れたと思っていた。まさか、嵌められていただなんて、誰一人思ってもいなかった。

 「黒薔薇、読みが外れて悔しいか。…追い打ちの時間だ。絶望心の脆さを味わいな。」

 その夜、あるマンションに雷が落ちた。
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