多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅦ:Candle

No117.Bearish, weak

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 数日前、生命再起会本部にて。

 「Asmodeusが欠けた。燈花だ。ここからどうプロジェクトを進める気ですか。会長。」

 「精鋭戦力である Asmodeusが一人欠けたところで、稼げる時間が減るだけではないか!開発は順調に進んでいる。コードネーム:薊一人で十分だろう。」

 「では、今回の件はノータッチで良いのですか?」

 「いや、プレデスタンスに主導権を渡してはいけない。」

 「……と、言いますと…。」

 「誰か一人を戦闘不能にしろ。永遠に。」

 「確かに燈花は消息不明だ。だが、まだ生死は……」

 「どのみちもう必要ない。彼の処分に関しては、Zeusの判断に委ねる。」

 「ラジャー。」







 冷たい夜風を切り裂くように放たれた閃光。その光は、運命を破壊した。
 Enterでまた死者が現れてしまった。また、俺の手が届かないところで。 

 「クソッ!まさか劣勢を装い奇襲を仕掛けてくるなんてな……。」

 俺はネットや情報屋から買った画像を照らし合わせ、捜索を急いだ。

 「なぁ、薔羨。」

 「あ?何かあったか?」

 黄牙が部屋に入って来たため、俺は扉の方を向いた。すると、彼の手に何やら銃の模型が握られているのが目に入った。

 「その銃がどうかしたのか。」

 すると、少し間が空き、黄牙は躊躇いながらも口を開いた。

 「……要を貫いた閃光の正体は……こいつの完全版だ…!」

 「………詳しく聞かせろ。」

 「俺が研究開発者の一族の出というのはお前も知っての通りだよな。」

 「ああ。お前を理不尽な理由で追放した連中だったな。」

 マッドサイエンティストの息子。黄牙とは廃ガレージで出会い、その場所にお互いよく通っていたら仲良くなっていた。
 しかし、こいつの素性はほとんど知らない。本人が口を閉ざしていたから。

 「この銃のモデルは「anti-life.45:電磁スナイパーライフル」。電磁誘導を誘発し、強力な電気を弾と共に飛ばす対万能ライフルだ。あの閃光と着弾点を見れば分かるだろう。こいつのやばさが……。」

 「索敵能力が並以上にある要でさえも、ジャスト回避出来なかった辺り、相当早いという事だけは感じてる。それで、そいつがお前の出自とどう関係している。」

 「この現在の技術を逸脱したスナイパーは、勿論一般に出回っているはずがないし、設計図も極秘。存在自体が今のところは定義として無い。」

 「……察した。お前は誰だと感じている。」

 「技術を売った可能性も考えられるが、もし幼い時から一切の性格や価値観が変わっていないのであれば、思い当たる奴は一人だ。」

 「………この件を、お前に一任してもいいか?俺達は自称執念深いチームだからな。今ばかりは、組織のトップでは無く、Enterの一員として、命令を下したい。」

 「ありがたく引き受ける。薔羨も、心の休息が必要なんじゃないか。」

 「………そう……だな。」

 「邪魔しちゃ悪い。俺は自室に戻るとする。」

 そう言って、黄牙は部屋を去って行った。俺は椅子から立ち上がり、葵の前に立った。

 「……分かっている。俺は慰められる資格すら無いなんて事は。……情けないな……伝説と呼ばれた男の…“相棒”というのに。」

 彼女の前で本当は弱音なんて吐きたくは無い。反応する訳でも無いのに、一体何に縋っているのだろうか。
 弟や仲間が命を懸けて戦っている中、総監督としてただ報告を受けて悶絶する日々。国家レベルを支配する生命再起会に抗う者として、覚悟が足りていない。
 正直、見た目以上にプレデスタンス、サイレンスは劣勢だ。このままダラダラ先延ばししたところで、情報量、数、技術において負けているし、差は開く一方だろう。
 今、俺はこの選択に対処しなければならない。自ら可能性の芽を摘む事は、何があっても許されてはいけない。

 「……馬鹿野郎、まだ俺には、やるべき事があるだろ……!」

 そう口に零し、俺はモニターの電源を切って銃をポケットに入れた。






 「あれ、薔羨出かけるの?」

 「ああ。しばらく留守にする。愛沙と黄牙の二人で頼んだぞ。」

 「了解。」

 そう愛沙に見送られ、俺は自動車に乗って東京に向かった。







 先日、要さんが暗殺された。本当に突然の出来事で、頭が真っ白になった。凍白とも連絡が着かない状況が続いているし、何より……。

 「先日のヘル・スクール事件はご苦労様。」

 すると、まさかの兄上が訪問してきた。

 「黒薔薇さん……。」

 「撫戯、俺の心配は無用だ。」

 「…はい。」

 「歪、……彼女の状態は。」

 「……昨日から顔を見ていない。自室の前の廊下にガラスの破片が散乱している。十中八九大丈夫では無いかと……。」

 「まぁ……そうなるか…。」

 そう溜め息を着いて、兄上は月歌さんの部屋がある方に向かって行った。

 「兄上も、何処となく気力が無かったよな……。」

 「……滲襲先輩から聞いた。Enterは、繊細なメンバーばかりなんだ。実力主義に見えて、一番人間味があるチームだって。」

 人間味、それは感傷の事だろうか。我々の命は有限であり、それを価値ある物と見なしている。暗殺機構サイレンスは、彼らを筆頭に功績を遺したと改めて実感した。







 ガラスの破片は散乱し、そこらの壁にはナイフが突き刺さっている。正直、予想はしていたが、その度合いは予想外だった。
 彼女を制御していた要の凄さを、とても強く感じざるおえない。

 「月歌、入るぞ。」

 ノックして、俺は扉を開いた。するとそこには、恐らく裸で布団に包まり寝ている月歌の姿があった。
 全く気持ち良さそうじゃない。悲壮感と絶望感に襲われているような寝顔だ。

 「はぁ………ん?」

 散らかった部屋を見渡すと、ふと視界に入った物があった。要の武器一式だ。そしてよく見ると、月歌の胸の上に要のバイクの鍵が乗っていた。

 「……慈穏、要。これがEnterだ。何か起こる度に、それぞれがそれぞれの形で狂人化する。」

 とりあえず、このままでは埒が明かないため、月歌の頬をつねった。

 「うぅ……何?ッ!……薔羨。」

 「やっと起きたか。」

 「脱がした?」

 「最初からだな。」

 「……そう。」

 しばらく沈黙が流れた。そんな状況がしばらく続いていると、月歌が掛け布団を放り投げた。

 「いい歳した女がマジで何やってんだ。」

 「そっちこそでしょ!ずっっと様子見ばかりで頼りが無い!」

 「はぁ……まぁお互い様だよな………。俺では要のようにお前に寄り添う事も出来なければ、慈穏のようなありのままを話したくさせる抱擁力も無い。ただ、Enterの一員として、俺にしか出来ない事だってある。」

 「責任を感じる事とでも言うつもり?だけど、私の欲求はちゃんと理解していそうな雰囲気だね。」

 「仲間を理解する事。それだけなら誰にも負けない。」

 すると、また沈黙が流れた。月歌は服を羽織って、また布団に包まった。そして、涙を零した。

 「要……私の代わりに……。」
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