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ChapterⅦ:Candle

No103.Guardian

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 東京渋谷区。別動開始から数日経ち、前線拠点の設備が整った。
 本部と比べれば規模は十分の一にも満たないが、セキュリティが難攻であり、暗黒政府に見つかっても突破は困難だろう。
 
 「にしても、異質なメンツが揃ったものだ。」

 適当にテーブルに茶を注いでいると、撫戯がそう言った。確かにそうだ。兄上、Orderを除いた一線級の集まりだ。その中でも、奴らに警戒されている異端者なのだ。
 凍白姉弟は一族が衰退していないため実家があるし、愁もそれは同様。旋梨は羽崎のところを拠点にしているらしい。
 俺と撫戯は一人暮らしで家は持っているが、住宅街に位置するため、帰れない。事実上、俺達は行方不明という事になっているから。
 だが、要さんと月歌さんは分からない。彼らは元々暗殺者では無かったらしいが、色々あってEnterに入ったという事は兄上から聞いた。

 「ところで、要さん達はどうしてEnterに入ったんですか?」

 本人から直接聞いた方が早いと感じたのだ、聞いた。すると、要さんは答えた。

 「華隆慈穏と聖薇薔羨の生き様に惚れたってところ。また機会があれば話そう。……今はまだ…。」
  
 「そう……ですか。」

 きっと複雑な事情が絡んでいるのだろう。Enter自体が、かなり複雑な構成をしたチームでもあるし。
 
 「さてと、ちょっとツーリングしてくる。実情調査も兼ねてね。」

 「この一員に含まれるくらいに暗黒政府から警戒されているのに、そんなフラフラ出ていいんですか?」

 そう聞くと、ヘルメットを装着した要さんは振り返って言った。

 「返り討ちにすればいいだけじゃない?ここに居る事……そういう事じゃないかな。」

 「確かに……。気をつけて。」

 「ただでは帰らないよ。行くよ月歌。」

 「はーい!」

 要さんと月歌さんはバイクに乗り、基地から何処かへ走り去った。
 残された俺達は、とりあえず携帯を手に取った。そして、雑談をした。







 心地よい風に揺られ、東京を疾走する俺ら。長い事プレデスタンスの本部でじっと待機していたため、走らずにはいられない。
 
 「やはりいいな。都会を走るのは。」

 全て忘れて走ること。それこそが至高の時間だ。周りの音を遮断し、二人の世界を作ること。素晴らしい。

 「ん?……要あれ。」

 「……ぉお。ちょっと見て見ぬふり出来ないかなぁ。」

 ブレーキを掛けバイクを止め、俺は目にした地点へ向かった。




 「あ?口答えすんな!」

 「うぅ……だから、私じゃないんですって……。」

 四十代過ぎる良い大人が、十代前半くらいの少女に何やら罵声を挙げていた。空気を読んで声を掛ける。

 「すみません。少し道に迷ってしまったんですが……駅までって……」

 「は?誰だお前!部外者が!」

 「……駅までの道聞いただけなんですが……お嬢ちゃん。教えてくれる?」

 「だから!誰やねんおま……ッ!」

 「一回黙って。」

 この時点でこの人には話が通じない事を察したので、紙を口元に投げつけた。
 黄牙製のこの紙は、皮膚に纏わりつきやすいが、呼吸は出来るため、重宝している。

 「お嬢ちゃん。もし何か困っているなら、お兄さんに話してみて?」

 そう言って優しく目線を合わせると、少女はゆっくりと口を開いた。

 「お姉ちゃんがそこのおじさんに連れて行かれちゃったの……。それで…私は必死に止めようとしたけど……そしたら、私も手を出されそうになって………うぅ…。」

 「そっか。ありがとうね。」

 今にも泣き崩れそうな少女の頭を撫で、俺は男に鋭い視線を飛ばして、発言した。

 「どっかの店の者?今から、俺が聞く事に嘘偽りなく答えてみ。」

 すると俺の態度が気に入らなかったのか、男は問答無用で殴りかかってきた。しかし、俺はその拳を片手で受け止め、問答無用で投技を決める。

 「ぐはっ!」

 「答えてみ?……俺の意識が公正なうちに…ね?」

 怯えた様子で、男は口を開いた。

 「違法スカウトです……。多額の富のために動いてました……。」

 「おーけい。」

 俺は男に手を差し出して立ち上がらせ、麻酔を撃ち込んだ。
 そして、バイク横で待機している月歌に視線を向け、言葉を発した。

 「月歌!お嬢ちゃんを守ってて!少し席外す。心配しないで。」

 それだけ言い残して、俺は寝た男を担いで名刺に記載された店舗へと向かった。







 「はい、注目。……この人の同業者で間違いないかな?」

 そう言うと、店の中にいた人達は一斉に凶器を取り出し、襲ってきた。

 「一般人ならこんな事はしない。敵と見なしていいんだね?……相手が悪かったな。」

 腰から棒を取り出し、包丁を前に持ち飛びかかってきた人を屈んで避け、棒で思いっきり叩いた。すると、昏酔した。
 すると、相手の大半が戦慄したが、主犯と思われる男が、背後からバットを振り被ってきた。

 「死ねェェ!……かはっ!」

 しかし、右脚を軸にして冷静に方向転換し、肋骨辺りを突いた。そして、20Vの電気を流した。

 「ああああ!」

 そして、撃沈した。俺は戦慄した連中に視線を向け、口を開く。

 「利用されていたとは言え、違法に変わりはない。今回は見逃してあげるが、その代わり……一生この手のビジネスには手を出さないと誓え。」

 「「「は……はぃ…。」」」

 カウンターから部屋に入り、捕らわれていた人達を解放し、俺は月歌の元へ戻った。







 「お姉ちゃん!うぅ……無事で本当に良かった……!」

 「ごめんね……心配かけちゃって…。貴方が無事で本当に良かった!」

 お嬢ちゃんのところにお姉ちゃんを送り届け、俺は再開の光景を眺めていた。すると、妹ちゃんの方が寄ってきた。

 「お兄さん。ありがとうございました!」

 「いいえ。二人とも無事で良かった。」

 そう話していると、後ろから月歌に突かれたので、俺は手を振った。

 「またね。」

 バイクのエンジンを掛け、再び走り出した。







 「今日もかっこよかったよ!要!」

 「うん。ありがとう。」

 走行中、そう言って月歌が抱きついてきた。

 「店はどうだったの?」

 「あんまり良くないスカウト。思い出すなぁ最初の任務を。」

 「そうだね……。要、中身はやっぱり要のままだね。」

 「はは……何当たり前の事言っているんだ?」

 「ううん。深い意味は無いよ。」

 「そっか。」

 ここで会話は途切れた。深い意味?その意味はとっくに気づいている。何度も言われているから。
 今はまだ進展が無い。だけど、奴らが動き出したら、命に保障が無くなる。
 俺の果たすべき使命。出来るところまで進行させるしかない。
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