多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No99.A love that is insensitive and close

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 苦しい。ただただ苦しい。私はもう疲れてしまった。あの日以来、私に休息の場所は無かった。
 外では視線とナンパ?と戦い、家にいても心無い非通知の雨嵐。生きている心地なんて、全く無かった。

 「………そろそろ時間だ……。」

 私は靴を履き、外へ出た。もう、傷付きたくない。もう、“これ以上は、傷つけられない”。







 波瑠の家に到着した。しかし、彼女は居なかった。彼女の母親は、何処かに出掛けたと言った。
 そんなのはありえない。現在の時刻は午後九時。正直、嫌な予感しかしないし、母親も何か違和感を感じているようだ。
 俺は、見当のつく場所に走って向かった。いや、俺の中では、“確実”にそこに行かざるおえない。







 懐かしい。濁してしまったけど、ここで一度告白したんだっけ。
 思えば、彼に私の人生は変えられた。何度も、何度も壊れかけたけど、彼が防いでくれた。
 救われた命なのに、自ら終わりを告げるなんて、本当に私は我儘で無責任だと思うよ。
 でも、……もう決心した事だから。

 
 前に立ち、下を見下げる。暗闇に包まれた水は、まるで底なしに見えた。

 「………ごめんなさい。生かされた命、無責任に扱って……」

 そう言って、前に体重を掛ける。もう、後戻りは出来ない。二度と開く事の無い目を閉じ、感覚が消えるのをじっと待つ。
 
 「……ひゃっ!な、何?」

 だけど、急に後ろに倒れ込んでしまった。目を瞑っていたので、状況が把握出来なかった。

 「そんな悲しい事言うなよ……。」

 「ッ!……旋梨…君…?」

 すると、耳元でそんな旋梨君の声がそっと聞こえてきた。







 危機一髪だった。俺がこの公園に到着した時には、既に彼女はフェンスと重なっていた。
 身投げ自殺。これを察した俺は、思考より身体が先に動いた。結果的に、後小数点何秒でも遅れていたら、助けられなかっただろう。
 
 「……辛い事があるなら、言って。全部、分かってるから。」

 今の体勢は、先程倒れた時の構図から変わっていない。俺が下敷きで彼女を抱いる形だ。
 がっつり外だが、周りの世界なんて今はどうだっていい。真摯に向き合う事、それが“愛す人の責務”だ。

 「……誹謗中傷、周りの目、もう……辛い。何処に居ても苦しかった。……私はいつもそうだよ。不幸に見舞われる、辛い思いをする。……こんな人生、続けたくないの…。」

 「……そっか。それは辛かったよね。……世界ってやっぱり公平じゃない。君が今日も苦しむ中、幸せな日々を過ごす人も居る。その人が悪いという訳ではないけど、収束されないものだよね。」

 「……何で……辛さを理解しているのに止めたの?私は……もう傷付きたくないんだって!」

 泣きながら、そう声を挙げる波瑠。対応を間違えれば、全て歪む。そんな状況だ。
 相手は何を求めているのか。それは模範解答なんてものでは無い。そんなものを知っても、変わらないから。
 俺だって歪んだ人生を歩んだ身。一番分かってあげられるはず。

 「……これは綺麗事でも何でも無い。無責任な愛情は人を傷つけるだけ。それは、波瑠も理解している。」

 「……うん。」

 「俺は、波瑠にこの人生をまだ終えてほしく無い。だから、止めた。」

 「……綺麗事じゃん……口にする事って、誰でもできちゃうじゃん……!」

 そうまた感情が高ぶった時、俺は抱きしめる手を、少し強くした。そして、口を開いた。

 「……好きだ。……それ以外に、理由がいる?」

 すると、しばらく沈黙が続いた。それを波瑠が打ち破る。

 「……旋梨君、素直に言って。カッコつけなくていいから……。」

 「俺は、何があっても、波瑠だけは守る。二度と、傷付かせたくない。山城から君を救った時、俺は恋に落ちた。あぁ……守りたいって。」

 カッコをつけたつもりは無いが、自分でもそう聞こえてしまう。ただ、これは全て本心だ。

 「それ、本心かどうか疑ってしまうよ………でも知ってる、旋梨君はそういう正義感のある人だって。」

 「……ずっと側にいてほしい。手放したく無いし、他の人にも渡したくない。……俺は、責任を覚悟している。」

 またしばらく沈黙が流れると、波瑠は俺の手を振り解こうとしたので、俺は優しく手を離した。
 すると、彼女は不意打ちにキスをした。

 「……ふぁ、ファーストキス……わ、わわ忘れないでね。……ありがとう…生涯寄り添うと誓ってくれて。……す、好きだよ…私も……。」

 「あぁ……。もう、傷つかせないし、生きて良かったと思わせられる努力をするよ。何があっても……。」

 こうして、俺と波瑠は付き合った。らしくない事を多く言ってしまったが、そんなのはいい。
 無神経で責任感のある俺だからこそ、失敗はしない。失敗をさせない。
 華隆先輩も本質は違えど、きっとそういう人だったから、仲間に寄り添えたのだと、少し感じた。


Episode:Melody  Fin
    
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