多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No98.Mutually

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 金屋岳を殺害し、俺達は一旦羽崎の店に戻った。仲間に共有するのは、一旦後回しだ。
 血が固まる前に洗い流し、俺達は鍵を掛けて緊急会議を始めた。

 「まさか、金屋がそんな状況に陥っていたとはな……。先輩として気づいてやれなかった事に後悔している。」

 「羽崎さんが謝る事ではありませんよ。……暗黒政府所属に捕らえられていた以上、情報も漏れにくいし、奪還は難しかったかと。」

 羽崎さんの言う事もその通りだ。何だかんだ言って、あいつと交戦はしていなかった。内心、早くあの囚われの身から解放されたかったのだろう。
 しかし、自殺しようものなら、捕らわれたKerberosのメンバーの処刑も執行される。この任務の前に俺に喧嘩を売る事で、さっさと殺されようとしたとすれば、納得がいく。
 ただ、全くあちらの情報を抜けなかった。分かった事は一つ。Asmodeusは暗黒政府内で高い権力を保有している事だ。
 歪によれば、AsmodeusはHadesの特殊部隊らしいので、蝙蝠と呼ばれる奴も特殊な立ち位置なはずだ。
 
 「にしても、今回は愁に助けられた。ありがとう。」

 そう俺は改めて感謝を伝えた。金屋は爆弾でもある。あの至近距離で躊躇うのは、強制道連れに持っていかれるケースも考えられた。
 彼の話には、燈花と呼ばれる躊躇無い奴がいたようだし、極めて危険だっただろう。

 「礼はいい。……旋梨、もう人間を辞めた人が勝つ段階に突入している。華隆さんの意思を継いだ歪でさえも、殺しに対する抵抗が薄くなってきた。当たり前に血を流す戦い、慈悲が現れた一瞬の隙が、自身の心臓を貫かれる一手にされる。」

 「……あぁ承知している。悪いな、多く語らせてしまって。」

 そう言うと、愁は無言で横に首を振った。
 
 「明日、また会おう。」

 「了。」

 簡素すぎる返答をして、彼は何処かへ帰って行った。







 彼が帰った後、夕食の準備を済ませ、羽崎さんと第二フェーズという名の相談会を実施した。
 
 「俺、やっぱり甘いですよね。」

 「時には甘さも大事さ。それでも最強に君臨した男がいるからな。」

 「……仮にも想い人を自殺に追い込ませようとした人ですよ?壮絶な過去を持っていたし、ある意味同胞とも言える。……ただ、波瑠は全くの無関係だ。彼女は暗黒政府に干渉される理由も無ければ、プレデスタンス、サイレンスも無関係だ。」

 「だったら、凛ちゃんや百合ちゃんは何でああなったのかい。」

 「……それは………」

 「暗殺者と関係を持つという事は、そういう事だ。これは暗殺者に限った話でもないが。……お互いに覚悟が必要だ。危険に犯されるリスクがある覚悟、何があっても守り抜く覚悟。歪は、凛ちゃんを攫われた今でも、奪還に向けて動いているし、兄である薔羨も、執念で暗黒政府にとってのイレギュラーに登り詰めた。聖薇兄弟は、強さと執念を兼ね備えている。君にとっての相棒は誰だい?」

 そんなの決まっている。Mythologyの全員信用しているが、誰を背中に預ければ一番安心出来るかといったら、彼しかいない。

 「歪…。」

 「だろ?……正直、慈穏も危なっかしい時は結構あった。それでも、愁のように、代わりになってくれる人がいた。押されている時に、颯爽と現れて無慈悲に瞬殺する人も居た。結局、彼が最強だった理由も、仲間のお陰があってこそだ。その中でも、一番苦楽を共にしてきた薔羨が一番の支えだった。逆に、慈穏のお陰で病みかけた精神が戻った仲間がいる。相互に支え合っているのだよ。つまり、君の甘さが役に立つ時もくるはずだ。勿論、愁の主張もその通りだ。結局は、時と場合による。」

 あの日を堺に、皆新たな時代に突入した。葉桜さんには少し幼さが出たり、愁もライブジャック以降かなり口数が増えた。逆に、夜空は一気に冷たくなったし、半ば過去に縛られていた歪も魂に火が灯った。
 百八十度、意識が変わっているのだ。それは俺も同じだ。これまでに、ここまで思考を巡らせて冷静に悩んだ事は無かった。
 そんなこんな考えていると、羽崎さんは口を開いた。

 「波瑠ちゃん、無責任な告白ラッシュで悩んでいるみたい。それに加え、金屋が仕込んだ事、視線とかも疲労の原因らしい。……大体の事は真依ちゃんが何とかしてくれるらしいからさ、君はやるべき事、あるんじゃないの?」

 「待て、真依に話したのか?」

 「旋梨が追っている時、真依も同じように追っていたそうだ。二人揃ってストーカーか?」

 「うるさいなぁ!解決すれば過程なんていいじゃん!」

 「いつもの旋梨らしくなったな……ほら、早く行ってきな!」

 まさか真依も同じ事をしていたことには驚きが隠せないが、そんなのは今いい。
 もう夕暮れだが、幸い彼女の家は知っている。場所なんて選ばないさ。“確信してから行動に移しているから”。
 何より、早く会いたい。もう、暴走寸前だから。もう、絶対に傷つかせないために、ずっと側にいてほしいから。
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