多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No97.Not necessarily correct

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 サイレンスは当時から猛威を奮っていた。サイレンス以外に猛者チームを聞いた事ないほどには。そう、あいつに負けるまでは。
 元々裏社会の人間ではあったが、何かルートを定められていたわけじゃぁない。俺の兄弟も皆バラバラで、無責任な親だった。
 俺はギャングの奴隷として一生働かされていた。勿論飯は人が最低限餓死しない量。一体、俺が何したんだって思っていた。
 その地獄から解放してくれたのがあのUroborosだった。
 どうやらうちのギャングは表社会でも暴れていたらしく、サイレンスによる粛清が成されたようだ。
 反抗出来なかったあのクズ共を簡単に黙らせる姿を見て、俺は暗殺者に憧れて、サイレンスに加入した。







 Kerberosというチームに属し、同期の怪物Enterと張り合うように、俺達は功績を出した。絶好調だったさ。
 だが、その好調は長く続かなかった。
 サイレンス所属直後から付き合っていた女が事故に巻き込まれて死んだ。この事を耳にした俺は、気分が転落し、徐々に任務に支障をきたしていった。そう、無理して任務に出過ぎた。
 そんな最悪のコンディションの中、あの悪魔に遭遇したのだ。
 
 ある任務の帰り、敵意と殺気を感じた俺は、すぐに銃を構えた。

 「誰だ。」

 すると、そいつは姿を現して、こちらに鋭い視線を向けてきた。本能的に恐れた俺は、思わず銃を手放してしまった。

 「Kerberosの真ん中の首って君だよね。天守閣だったか。」

 そいつは、俺より全然幼い。それなのに、圧力も貫禄も一流だった。ひたすらに奇妙。悪魔を彷彿とさせた。

 「君の両首、訳あって預かっている。倫理感の欠片も無い奴が管理してるから言動には気をつけた方が良い。」

 「なら、どうしろと。用があるならはっきりと言え。」

 「近々、Enterを潰しにかかる。その過程で、君達Kerberosが邪魔になる可能性が高い。リーダーである君はかなり強いと聞いている。……生命再起会、Hadesは絶賛人員募集中だ。」

 「生憎、俺はサイレンスを裏切るつもりは………ッ!……おい。」

 奴は手を投げてきた。あぁ見覚えがある。彼女が着けていた指輪だし、手の輪郭がまんま同じだ。
 怒りが絶頂に達した俺は、斧を取り出して、奴に襲いかかった。しかし…。

 「ぐはぁっ!……ッチ。」

 一瞬の間に棒立ちだった奴の背後を取ったはずだが、斧が振り被る頃には、奴はそこに居らず、俺の腹部が刺されていた。おまけに、何か塗られている。
 
 「Asmodeus薊。……逆らわせない事においては一流だ。もう薄々気づいてると思うが、君の両首はただの人質だ。君達全員死ぬか、君だけ生き残るかの二択だよ。燈花の辞書に「躊躇」という文字は無い。見捨てるか、仲間を。」

 「………ッチ。分かった……。」

 Asmodeusの強引な圧力に負け、俺は生命再起会Hadesの一員として、働かされた。







 まるでギャングの奴隷だったあの頃に戻ったようだ。国家の味方なのか敵なのかも分からない連中の掲げた理想を追い求め、人質として取られた仲間を死なせない一心で努力という名の監獄に囚われた。
 そこでも、拷問拷問の毎日。特にヤバいのは Asmodeus燈花。薊の言った通り、倫理感の欠片もないサイコパスの極限形だった。
 俺は爆弾を隊服に仕込まれ、おまけに火炎瓶で火葬まで行わせようとしてくる始末。脅しでも不利で、捨て駒としても有能過ぎる。
 最早、俺は Asmodeusにとって都合の良い操り人形と化していた。







 とある任務を与えられ、一般人に紛れて町に偵察に行った日、俺は旋梨と波瑠を見かけた。真っ先にこう思ったさ。
“俺は苦労しても、何も得られないというのに、何故あいつは上手くいくのか”って。
 ぶつけようの無い怒りを、彼女と同じ事故に遭って生きている佐久間波瑠に、全てぶつけた。AIの力を借り、迷惑誹謗中傷メールを量産し、自殺を促した。
 丁度、Mythologyの潜入疑惑が出て、痕跡探しに駆り出された俺は、真っ先に旋梨…音階を標的にし、さらなる苦しみを与えようと思った。







 「これが経緯だ。」

 彼が言い終わってすぐ、俺は銃口を突き付けた。

 「途中までならまだ同情してやれた。…後半何?本気で殺されたいか?」

 「今冷静に考えて、俺も反省している。そんな事したって何の意味も無いし、むしろ、あの悪魔をなぞった行動だと自覚している。だから、悔しい。」

 こいつが人質を殺せなかったのはそういう事か。燈花と呼ばれる男と同じ道筋を辿りたく無かった。
 だが、間接的に殺そうとするなど、更にたちが悪い。こいつの生い立ちから考えても、狂って仕方が無いとは思えない。
 その後が違えど、捨てられたという始まりは俺と変わらないから。
 
 「……俺は毎日拷問を受ける。成果を挙げない限りは。もうここで終わったっていい。俺を殺せ。」

 怒りの衝動に刈られて、すぐにでも引き金を引きたくなるが、今こそ冷静にならなければいけない。
 こいつは、波瑠に謝罪もしていないし、話を聞く限り、こいつが死んだらKerberosの人質も殺されるだろう。しかし、こいつは奴らの特攻爆弾でもある。
 暗殺者として、標的が死ぬ事は覚悟の上だが、それ以外にも干渉する死となると、慎重にジャッジしなくてはならない。
 無神経だったら良かった。境遇を殺すなど、躊躇いがないはずがない。

 「早くしろ……Asmodeusに気づかれれば、起爆されるぞ。」

 引き金に指を掛け、引こうとするが、見えないストッパーに阻まれている感覚だ。
 だが、覚悟を決めようとしたその時、銃声と共に血を吹いて岳は倒れた。

 「ごめんなさい。波瑠さん。Kerberosの皆……。」

 そう言い残し、息を引き取った。銃声のした方向を見ると、愁が苦しむような様子で、銃を降ろしていた。

 「旋梨。人に優しくする事は、必ずしも正しいとは限らない。」

 「あぁ……もしお前が居なかったら、俺も死んでいただろうな。」

 「………帰ろう。疲れた。」

 重苦しい雰囲気の中、俺達はその場を後にした。
 ……俺は強く思い知った。まだ、“精神が適正に追いついてない”と。







 「金屋の生命信号が途絶えたか。……さようなら、地獄の番犬。」

 そう言って燈花が装置を起動させると、吊るされていたKerberosは、火の中にダイブさせられた。
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