多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No94.Trainer

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 中央区。二人の男が徘徊していた。

 「そろそろ活動域を広げるべく誰かしら派遣しようと考えているんだが。薊はどう思う?」

 「既に手は打ってある。人の心は素直だ。………揺さぶりを掛ける時間とする。」

 そう言って薊が微かに笑みを浮かべると、もう一人の男が立ち止まった。

 「本当にお前が敵じゃなくてよかった。こんな内の読めない怪物、手を合わせたくないなぁ。」

 「君も大概だろう。燈花。」

 「そうだけども……。まぁ何でも良いか。清心の意向にさえ従っておけば、理想郷の完成だからな!」

 燈花はそう言って大爆笑し、薊は冷たい眼でそれを見ている。
 
 「……彼岸を殺したあの化け物。あいつさえ消せば。」







 次の日の放課後、俺は店でいつものように練習に付き合っていた。
 
 「よし。一旦休憩にするぞ。」

 そうして俺が床に座ると、二人は隣に座ってきた。

 「私、出会った時より上手になったよね?」

 「お、おう……。そうだな…。」

 前かがみになってそう言う波瑠には、やはり慣れない。嫌…って訳ではないが、どうも違和感がある。
 
 「どうしたの旋梨君?何か元気無さそうに見えるけど……。」

 「全然平気だ。……ちょっと顔洗ってくる。」

 そう言い残して、俺は逃げるようにその場を去った。
 やはり、放っておく訳にもいかなそうだ。彼女の意識を変えた人が、俺を狙っている可能性があるなら尚更だ。
 これが自分の意思で変わったならまだしも、誰かのために無理をしているのなら、そこまでする必要は無いと思う。
 ただ、まだ断定は出来ないため、しばらくの間は様子を伺うしかない。特に、俺が居なくなった前後には注意を払いたい。







 彼が部屋を去り、私は彼に貰ったピックを見つめた。
 ……私は誰かに助けられてばかりだ。それなのに、私は誰かのためになれていない。
 あの日、ネックレスの男性に言われた事は、否定できない。そう思ってるから、誰かの支えになれるように生きていかなければならない。
 私はあの女性に生かされ、私は旋梨君のお陰で人生を狂わされずに済んだから。たとえ無理をしてでも……。







 その後も練習をして、解散した。俺は夕食を食べながら、羽崎さんに一連の話を共有する。

 「黄金のネックレスで事故死した彼女持ちの男ねぇ……いや、そんな訳無いか。」

 「…羽崎さん?」

 「ああ、すまないね。確かに、波瑠ちゃんは一人で練習に来る時、何処か物悲しそうな顔をしていたよ。」

 “物悲しそう”ってのが引っかかる。恐らくだが、彼女が変わった理由は例の男だけじゃない。様々な要因が重なり合った結果だと考えられる。
 生命再起会の行方も全く掴めていないというのに、やはり放置できるものでは無さそうだ。
 彼女には自分で人生を選択してもらいたい。今は、何故そうなったのかを探る必要がある。

 「俺は当分の間探偵かぁ……。」 

 「清心は自ら積極的に指揮する奴では無い。する事だけ提示し、過程は他人任せな奴だ。何も気にせず普通に過ごしてれば良いんだよ。何かあったら俺が薔羨に連絡を入れるから。」

 「分かりました。…今は、波瑠に向き合おうと思います。」

 「晴れるといいな。疑問。」

 夕食を食べ終わり、食器を片付け、俺はスマホを見た。何件か溜まった連絡を見た。すると、割と重要かもしれない事が書かれていた。

 『今日、明らかに怪しい連中を目撃した。密かに後をつけてみると、黄金のネックレスを着けた男が旋梨の名前を口にしていたよ。』

 愁からのそのメッセージを見て、俺はすぐに彼に電話を掛けた。

 『虚霧。』

 「メッセージ読んだ。その後どうなった?」

 『バレそうになったから逃走した。……火炎瓶を隠し持っていたから、下手に仕掛けられない。』

 「お前がそう言うって事は、住宅街のど真ん中とかか?」

 『そんなところ。』

 「分かった。ありがとう。」

 そして電話を切った。間違いない。男は俺を探している。火炎瓶を持っているということは、一般人では無いだろう。
 もしかすると、暗黒政府が絡んでいるかもだ。それに思い返してみれば、面識が無いのに波瑠の名前を知っていたらしい。

 「……動き出す予感だな。同時に。」







 住宅街。黒服が路地に集まり、円陣を組んでいた。その真ん中には、黄金のネックレスの男が居た。
 
 「この学区に住んでいるのは確かなはずなのに。何故、見つからない?こっちは総勢三十人で嗅ぎ回ってるんだぞ?」

 そう嘆く男の背後から現れた燈花が、声を掛けた。

 「なら、学校を割り出せばよくね?」

 その声を聞いた黒服や男はすぐに直立し、恐れるような標準を見せた。

 「特定できれば、炙りだせる。」

 「だが、そうは言っても……」

 「誰が割り込みを許可した?あれ?あ、そういえば言ってなかったっけ。今日からお前の教官になったから。薊はもっと上の計画に持っていかれたよ。だから、しっかりいうこと聞いてね。」

 男達は緊張を露わにした。燈花。その捻じ曲がった思考回路は、他とは訳が違う。最悪の上司だ。

 「まず、お前らにはさっさと音階を潰してほしいわけ。今朝、俺の奴隷が虚霧を目撃した。流石に単独で来るのは無いじゃん?……明日以降、見つけられなかった日の夜は調教だからよろ。」

 言いたい事だけ言って、燈花はその場を後にした。男は震えるほどの緊張感を解き、黒服達に言った。

 「失敗は許されなくなるぞ……。あらゆる手段を駆使し、何が何でもいち早く、Mythologyの誰かを献上するぞ。」

 張り詰めた様子で、男はその場を去って行った。
 
 
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