多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No93.Cause

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 「そうね……これは丁度旋梨の言っている日の出来事。」







 最悪のシナリオが展開された数日間の間に、それは起こった。
 内気な波瑠は土砂降りの日、家でベースの練習を熱心にしていた。私と波瑠で練習をしている時の事だ。

 「それそろ休憩にしましょ。」

 「分かった。」

 そう言って、彼女は冷蔵庫を開ける。

 「あ……飲み物あまりない。」

 「そう。なら、買い物にでもいきましょうか。」

 こうして、近くのお店に買い物に出掛けることになった。







 道中、雨が降りつける中、私達は立ち止まった。理由は、道路を塞ぐように黄金のネックレスを着けた男性が立っていたからだ。
 その周りには、黒服の人達がずらりと並んでいた。
 恐れた波瑠は、少し後退ると水溜りで足を滑らし、転んでしまった。

 「きゃっ。」

 「大丈夫?波瑠。」

 「う……うん。」

 私は手を差し伸べ、波瑠を立ち上がらせた。すると。

 「お嬢さん、音階って男とデートしてたよな。」

 我ここに有らずといった様子だった男性が、そう声を掛けてきた。
 私達がキョトンとしていると、黒服が男性の耳元で何かを囁き、男性は「そっかそっか。」と反応した。

 「聞き方が悪かったね。“紫藤旋梨”って奴。知ってるっしょ?」

 この時ある程度状況を理解した。多分、この人達に旋梨の情報を与えるのは、まずいのだと。

 「私達は何も知らない。ね?波瑠。」
 
 「え、あ……うん…。」

 「あ?マジ?人違いでしたすみませんね……。」

 そう言って男性は足を進めたが、何か危害を加えてきそうな様子は無かった。
 私達も何事も無かったかのように進行路に足を進める。
 すれ違う瞬間、男性から睨まれるような視線を感じたが、気のせいという事にした。







 そのすれ違いの後から、妙に視線と気配を感じた。ひとまず買い物を終え、すぐに帰ろうとする波瑠を引き留め、寄り道をすることにした。
 家が特定されたら、彼女が何されるか分からないから。

 「波瑠……大丈夫?」

 「……?何が?」

 「スカート……捲れてるよ。」

 「え……きゃっ。」

 そう指摘すると、彼女はすぐにスカートを直した。それと、何かさっきから様子がおかしい。気づかないフリをしているけど、明らかに周りを気にしている。

 「……何か怖い事無い?」

 「え?ううん…全然大丈夫だよ…。」

 そうぎこちなく作ったような笑顔を見せて、彼女は帰路に着こうとした。

 「本当は怖くて仕方がないのに、強がって気にしないフリ?可愛いな。」

 木陰からそう声が聞こえ、先程の男性が現れた。
 
 「貴方……さっきからなんなの!」

 少し怒鳴りつけるように、私はそう言った。この距離にもなればストーカーだという事はすぐに分かる。

 「とある組織の一員さ。お嬢さん達のよく知る野郎に用事があるんだ。ついでに、そこのスカート捲れのお嬢さんにも用がある。」

 旋梨とどんな関係性なのかは分からないけど、決してよい関係では無いということは、すぐに分かる。
 すると、男性は波瑠に近づいて、見下ろした状態で、口を開いた。

 「忘れたとは言わせないけど。佐久間波瑠。」

 「ッ!……何で私の名前を…。」

 「全国の戸籍知ってますから。……お前のせいで俺の彼女は死んだ。それがあいつの望んだ未来だったとしても、俺はお前を許さない。俺を差し置いて幸せになる資格なんて無いのだ。」

 男性は今度は目を合わせずに横切り、呟いた。

 「自分を守る事しか考えられない内気ちゃんが、誰かを支える存在になれるか?」

 それだけ言い残して、男性は去って行った。波瑠は、少し落ち込んだ様子だった。
 
 「波瑠………あんなどこの誰かも分からない人の話…鵜呑みにしなく……」

 「ううん。結果論であっても、今私の心臓が動いているのは、あの女性がいたからだから。」

 聞いたことがある。彼女は今より幼い頃、倒壊事故に巻き込まれた。
 でも、一人の女性が助けてくれたという。だけど、その女性は死んでしまったらしい。体調が優れていない中、救助隊が来るまでの間、圧死しないようにと下敷きになった波瑠を助け出そうとしたから。
 男性の言う人は、きっとその女性の事だろう。

 「そうだよ…。私は人に生かしてもらった命で生きてるんだ。せめて……無駄に消費しないようにしないと……。」







 「その出来事があった次の日、今のような明るい雰囲気になった。普通逆になると思うけどね。きっと、その女性をなぞっているんだと思う。それと、貴方の癒やしになりたい気持ちもあるのかもね。どちらだったにしても、瞳の奥からそれが本当の想いには感じない。」

 きっとプレッシャーを感じて、無理して笑顔を作っているのかもしれない。
 それに、その男性とやらは俺にも用事がある。どうやら、他人事では無さそうだ。

 「話してくれてこちらこそありがとう。気を遣ってみるとするよ。」
 
 日も沈みかけているため、今日はここで解散した。こちらに来ても音沙汰無かったが、一つ解決すべき問題は出来た。







 千代田区某所、黄金のネックレスの男が、銃口を突きつけられていた。

 「もう一週間が経過している。そろそろ向こうも仕掛けてくるかもだし、……警戒しといてね。もしも面倒事にしたら、君は即刻処分だから。」

 「分かっている。」

 生命再起会も、何か動こうとしている。
 
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