多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No85.Lingering feelings

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 俺は静かに拳銃を取り出し、銃口を向け、口を開いた。

 「俺がお前の友達になる世界線なんて無い。」

 そう言って奴の注目を引きながら、“逃げろ”と書いた紙を葵の潜伏場所に送った。
 この時点で今回の任務は、“相当荒れる”と確信した。俺は言葉を続ける。

 「なぁ。お前の人生を変えた隊長はどんな奴なんだ。他意は無い。純粋に話がしたい。」

 「それが本当であると証明したけりゃ、その銃を降ろしな。」

 「……分かった。」

 素直に俺は銃を降ろした。どうせこいつは口を割らない忠誠心の強い奴だ。脅しが効くとは思えない。
 それに、こいつはどうも気に入らない。銃なんて無くても、ある程度は抗える。

 「君は知っているだろう。日本の犯罪率は年々過激かつ、増加傾向にある。そして、政府も歴代最悪と言われ、ましてや、国民でさえも頭のネジがぶっ飛んだ奴が増えた。まともな連中は精神崩壊を起こし、世紀末だ。日本の警察が何の躊躇いもなく発砲してる事からも伝わるはずだ。」

 「何となく読めたわ。お前、捨て子か。」

 「よくわかったな!この混沌とした社会情勢の中、社会復帰が出来る訳が無い。孤児院も環境劣悪だった。そんな私の前に現れたのが長だ。裏社会で多額の富を得て、私は勝ち組へと登り詰めた!だが、本当の勝ち組と誇りを持てない。だ・か・ら!……全部ぶっ壊す。君も含めな。」

 言い終えると、男はショットガンを潜伏場所に向け、発砲しようとした。
 先程紙は送ったが、抜口が無かったようだ。
 俺は考えるより先に身体を動かした。地面を蹴り、腕を伸ばし、葵を自分の方へ引き寄せた。




 「そうか。やっぱりそうか!……なぁお嬢さん。君のせいで被弾させちゃったねぇ。」

 「黙れェ!!」

 力強くそう叫び、葵をより強く抱いた。散弾に掠った程度だが、距離が近かったため、右腕から血が流れている。
 ただ、この程度なんてことない。“葵の命と天秤に賭けるなら”。

 「う……ごめんなさいごめんなさい!」

 そう泣きながら謝る葵の頭に左手を置き、俺は口を開いた。

 「お前のせいじゃない。気にするな。」

 優しくそう声を掛け、彼女を落ち着かせる。だが、俺の内心は冷静のれの字も無い。
 こいつ自体には勝てるだろうし、長が誰なのかは見当が着いた。ただ、銃を先程落とした。
 あれさえ拾えれば勝機はあるが、葵を庇いながらあれを拾うのは困難だ。

 「いつまでそのイチャつきを傍観しなければならない?まぁ……なんでも良いわ。二人仲良く死にな。」

 再びショットガンが向けられた。さて、どう動くべきか。無理矢理銃を取り、反撃するか、葵だけでも逃がすか。
 いや、どちらを選んでも死ぬ。そして、俺だけが生き残るのは、一番許されないし、許したくない。
 小数点の葛藤。希望の光が差し込まなければ、苦渋の選択を強制されたことだろう。

 “俺は、動かないという選択肢を取った。”

 「じゃあな。」

 ショットガンが発砲された。しかし、それは天井に向けてだった。一瞬だけ困惑した表情を見せ、温度が失われた。
 血を流し倒れるCosmos。その横に立っていたのは、実弾を使った慈穏だった。

 「慈穏……お前…。」

 俺は驚きを隠せなかった。暗殺者としては正解の動きだ。しかし、“こいつに限っては異例の事態”だ。
 その横顔からは、どんな凶悪犯相手でも捕縛で済ませていたあのお人好しで平和主義の慈穏とはかけ離れた。“狂気”が感じられた。
 彼は、死体に向かって言葉を零す。

 「クズ呼ばわりすんなよ……侮辱した罪。制裁で平等なんだ。」

 「慈穏………なのか?」

 「あれ?薔羨殺った?情報は聞き出したのか?」

 普段の雰囲気で振り向き、そう言葉を発してきた。もう訳が分からない。
 まさか無意識だとでも言うのか。彼は人格が変わったかのように、殺人をした。
 とりあえず、彼に引っ張られるように、俺達は本部へと戻って行った。







 彼が居ない時に、俺は別のメンバーに話を伺った。

 「ん?別に何とも無かったぞ。」

 「そうだよ。」
 
 愛沙と黄牙はそう言った。



 「そう?いつも通りだったけど…。」

 月歌もそう言っていた。だが、要は少し様子がおかしかった。

 「要?」

 「あ、ああすまない。……何か感じているなら、後で屋上に。」

 要のその呟きに軽く頷き、俺はその場を後にした。







 夜十時。街明かりがポツポツと失われていく頃、俺は屋上のベンチで拳銃を見つめて座っていた。
 すると、後ろから肩を叩かれ、声がした。

 「やぁ薔羨。」

 要だ。

 「教えてくれ。あいつに何が起こった。あの時のあいつは、何かに取り憑かれたようだった。」

 言葉を詰まらせながらも、要ははっきりと口にした。

 「一般人を……殺した。」

 「ッ!」

 「流れ弾だったし、顔も見られていない。ただ……彼にとってはショックそのものだっただろうね。薔羨の方がそれはよくわかるんじゃないかな。」

 そうだ。彼もなるべくして暗殺者になった者。俺は自分の命を第一にし、やむを得ない状況では、自分の弾丸でターゲットの心臓を貫いてきた。
 しかし、彼は違う。当時最強揃いの一族で生まれ育ち、そういった状況に直面してきても、電気弾ばかり使い、命を奪ってこなかった。
 抱擁の神はむしろ暗殺者の世界で、世間に良い影響ばかりを影で与えてきたのだ。
 それなのに、何の前触れも無く伝説は途絶えた。彼はその現実を直視できず、秘められていた“制裁の意識”が一時的に芽生えたのだろう。
 自分にこんな悪行を働かせる原因を作った主犯を、無意識に撃ち殺したのだろう。

 「はぁ……あいつは俺達の影響力者だったのに、俺はあいつを変えられるほどの力がないというのか……。」

 今回の任務の計画者は俺だ。どんな事情があろうが、人が死んだという事実は変わらない。
 あいつが今まで影で社会を救っていようが、知らない事実など、無いに等しい。自己中心的に地球、人生は回る。
 俺は、あいつには、ずっと誰かを支えてい続けて欲しい。

 「要……。頼んだぞ。相棒を。」

 「は……?あっ!ちょっと待っ!」

 彼の言葉で身体は止めず、一直線、無我夢中で慈穏がこの時間によくいる“灯台の麓”に向かった。
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