多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No82.I want to protect, this smile

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 Enterは数多くの任務を遂行し、実績を残し続けた。だからこそ、Enterはサイレンスいや、業界一の暗殺部隊となれた。
 そんな俺達に、一時を騒がせていた巨大な悪党を壊すという大仕事が舞い込んで来た。







 「Enterの諸君に、新たな任務を与える。君達はこれまで、数多くの任務を成し遂げてきた。そこで、無視できないがずっと達成不可だった件を処理してほしい。」

 柊はそう言い、モニターにある映像を映し出した。
 どこかの監視カメラの映像らしく、無垢顔の仮面を着けた集団が親を鈍器で殴り、子供を攫っていた。

 「は……司令…これは。」

 「そうだ。一時期社会を震わせた犯罪組織「Cosmos」だ。」

 Cosmos。名は聞いたことがある。目的、構成員、正体全て不明の謎多き犯罪組織だ。
 隙を見せるのかすら分からない。腕の鳴る相手だ。

 「こいつらを潰すのは簡単じゃないだろうよ。なぁ司令。奴らの足掛かりは掴めているのか。」

 「いいや。最低限の情報しか無い。…暗殺には不十分だろう。」

 俺は立ち上がり、カップの中の紅茶に水紋が打たれる勢いで、机を叩いた。

 「あぁ……司令は何を考えている。実績は本物とは言え、確実性が無さすぎる。構成員不明の中、どうやってターゲットの隙に漬け込めと?……下手すりゃ返り討ちだぞ。」

 「落ち着け薔羨。」

 横で何も言わずに話を聞いていた慈穏が立ち上がって、俺の肩に手を置いて口を開いた。

 「今までだって困難を打ち破った。今回も名案を絞り出すんだ。薔羨、お前は機転が効く。そして、お前のミスは俺がカバーする。俺のミスはお前達がカバーする。」

 「そうね。このチームは個としては尖っているところもある。でも、足りないところを補い合っているから、化けている。」
  
 「愛沙の言う通りだ。一緒に戦おうぜ。相棒。」

 何に焦ってたのだろうか。最早それすらもどうでもよくなるくらい、心は平常化した。

 「……はぁ。そこまで言われたら断れないじゃないか。俺は承認する。」

 「ありがとう。お前達はどうだ?黄牙、要、月歌、葵。」

 彼がそう言って視線を向けると、全員頷いた。全会一致だ。
 確認が取れた慈穏は司令の前に立ち、印鑑を取り出した。

 「我々にお任せ下さい。情報収集から暗殺又は捕縛、被害者の状況確認まで全て熟してみせます。二言はありません。」

 彼がそう言うと、柊は少し困惑しながらも決行書を出し、彼はそこに印鑑を押した。

 「無理だけはしないでおくれよ。本部でもサポートできる事はいくらでもあるからな。」

 「お気遣いありがとうございます。」

 これにて臨時会は終わり、俺達は解散して帰路に着いた。







 適当に晩飯を購入し、俺は葵の用事に付き合っていた。所謂荷物持ちというものだ。
 彼女のチームでの立ち位置は遠距離支援。現場から離れたところで、全体の状況を把握しながら指示を出すのだ。
 いくら俺達がアドリブな対応に慣れているとはいえとも、奇襲を防ぐためには大切な役柄だ。

 「いつもごめんね?色々任せちゃって……。」

 「気にするな。俺が言い出した事でもあるんだしな。」

 「やっぱり優しいね。薔羨は。」

 その言葉を受け止めながらも受け流したフリをして、前を向いた。

 「あっ。照れてる。」

 「照れてない。」

 無意識にからかってくる彼女は唯一の癒しだった。思えば、葵の笑顔が好きで、俺は魂を燃やし続けているのかもしれない。







 家出の直後、俺は慈穏の父に拾われ、慈穏と知り合った。
 彼は見ず知らずの俺を受け入れ、兄弟のような仲だった。彼の父は病気で亡くなってしまったが、彼はあまり凹まずに、前を向こうとしていた。
 確か「後退するのは行き詰まって自分を見失った時だ。未練を残すためじゃない。」と言っていた。
 
 父の衰退によって華隆一族の経済状況は少し悪くなったため俺は一族を離れて元サイレンスの人に引き取られたが、彼との交流は続いていた。
 葵との出会いはその頃だっただろう。たまたま道で倒れている彼女を発見して、楽器店に送った。







 「う…うーん……ここは?」

 ベッドで横になっていた彼女が目を覚まし、本から視線を外した。

 「大体三時間くらいか…。目覚めて良かった。」

 「君は……誰?」

 「倒れていたから運んで応急措置をしておいた。腕に怪我を負っていたぞ。」

 「そう………ありがと。」

 彼女は素っ気なく感謝を伝え、起き上がろうとしたが、倒れ込みそうになったため、咄嗟に俺が支えた。

 「大丈夫か。」

 その時は何も感じなかったが、ほぼ密着に近い状態だったはずだ。

 「……逃げなきゃ。殺されちゃう。」

 そう言う彼女の呼吸は乱れており、何やら焦っている様子だったので、俺はそっと手を握ってあげた。
 慈穏はよくそれで平常心を保っていたらしい。
 すると、彼女は少しずつ落ち着きを取り戻した。

 「解決出来るかはわからないけど、もしよかったら聞かせてくれないか。」

 彼女は警戒している様子だったが、真っ直ぐに目を見つめてあげると、彼女は口を開いた。



 彼女は生まれ付き身体が弱いらしい。血族が大きな事件を起こしたか何かで人々が恐れ、一族を抹消することで名誉を得ようとする殺し屋が一族の命を狙っているらしい。
 その病弱な身体で逃げ回っている最中に、倒れてしまったらしい。
 途中で追手は見失ったそうだが、もし時間が経っていたら、見つかって殺されていたかもしれないという。


 「……そうか。でも大丈夫だ。ここに居れば守ってくれる人がいるから。」

 俺を引き取った元サイレンスの構成員である羽崎は、ブチギレて近所の無敵のヤンキーをサンドバッグにしたという噂がある。
 ボディーガードとしては頼れ過ぎる存在だ。







 しばらくの間葵は滞在していた。最初はやはり警戒心が強かったが、徐々に打ち解けていき、笑顔を見せるようになった。
 普段はおしとやかだけど時折見せる無邪気な表情。俺はそこに惹かれ、彼女のその表情を守り続ける事を決意した。







 昔を思い出しながら歩いていると、気が付けば葵の家の前に着いていた。
 今は一人暮らしをしている。

 「じゃあ、また明日ね。」

 「ああ。」

 別れの挨拶を軽く済まし、俺は自分の帰路に着いた。
 

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